3 グローバルな安全保障
(1)地域安全保障
アジア太平洋地域では、グローバルなパワーバランスの変化等に伴って安全保障環境が厳しさを増している一方、各国の政治・経済・社会体制が多様であるため、地域における安全保障面の協力の枠組みが十分に制度化されているとは言い難い。そのため、日本は、日米同盟の強化に加え、アジア太平洋地域を中心に、二国間及び多国間の安全保障協力を重層的に組み合わせることで、地域における安全保障環境を日本にとって望ましいものとしていく取組を進めている。また、日本は、アジア太平洋からインド洋を経て中東・アフリカに至るまでの地域を一体として捉え、インド太平洋の自由で開かれた海洋秩序を確保することにより、この広大な地域全体の安定と繁栄を促進するとの観点から、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を打ち出している。
日本は、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化するとともに、米国以外にも様々な国々と安全保障分野における協力関係強化に取り組んでいる。韓国とは、北朝鮮の脅威が増大する中、日韓の更なる緊密な連携が不可欠との認識の下、弾道ミサイル情報共有訓練及び対潜戦訓練を日米韓で実施した。また、首脳・外相間で頻繁に会談を行い、日韓・日米韓が緊密に連携していくことを確認している。オーストラリアとは、4月の第7回日豪外務・防衛閣僚協議(「2+2」)において、日本とオーストラリアの間の安全保障・防衛協力を一層強化するとともに、地域が直面する諸課題に対処する上での連携を強化することで一致した。また、1月、11月及び2018年1月の首脳会談において、インド太平洋地域の平和と安定に向けて協力していくことを確認した。インドとの間では、3月の日・インド次官級「2+2」対話及び7月、9月及び11月の日印首脳会談で、日本の「自由で開かれたインド太平洋戦略」とインドの「アクト・イースト」政策を連携させ、自由で開かれ安定した海洋、地域の安定と繁栄という共通目標の実現に共に取り組むことで一致した。英国とは、8月の日英首脳会談及び12月の第3回日英「2+2」で、日英安保協力を次の段階へ引き上げることにコミットし、自由で開かれたインド太平洋地域の実現に向け、協力を具体化していくことで一致した。フランスとは、5月のフランス海軍の演習「ジャンヌ・ダルク2017」の一環でのフランス海軍艦隊の訪日時に日仏英米による共同訓練を実施したほか、2018年1月には第4回日仏「2+2」を開催し、ACSAの大枠合意に至った。ASEAN諸国との間では、巡視船の供与等を通じて、フィリピン、マレーシア、ベトナム、インドネシア等の海洋能力向上に向けた支援を継続して実施している。
このような二国間の協力関係強化に加え、日本は、日豪印次官協議(4月及び12月)、日米韓首脳会談(7月及び9月)、日米韓外相会合(2月、4月、8月及び2018年1月)、日米豪閣僚級戦略対話(8月)、日米印外相会合(9月)、日米豪首脳会談(11月)、日米豪印の外交当局局長級協議(11月)等の枠組みでの協力の推進を通じ、地域の平和と繁栄のためのネットワーク作りを進めている。
また、日本を取り巻く安全保障環境の安定のためには、中国やロシアとの間の信頼関係の増進も重要である。日中関係は、最も重要な二国間関係の一つであり、「戦略的互恵関係」の下、大局的な観点から友好協力関係の安定的な発展に努めている。中国の軍事的動向は、日本にとって極めて重大な関心事項であることから、中国との間では、10月に開催した日中安保対話を始め、安保分野の対話や交流のチャネルの重層的な構築に努めており、政策面での意思疎通を図るとともに、透明性向上を働きかけている。同時に、首脳、外相等のハイレベルの対話も通じ、相互信頼関係の増進に努めている。日露関係については、2017年には4回の首脳会談及び5回の外相会談を行うなど、様々なレベルでの政治対話を積み重ねながら、北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結すべく、ロシアとの交渉に精力的に取り組んでいる。安全保障分野では、3月に日露「2+2」を実施したほか、9月及び12月に安全保障当局間で協議を行った。また、11月にはサリュコフ地上軍総司令官が、12月にはゲラシモフ参謀総長が訪日するなどして、防衛・安全保障に関する率直な意見交換を行っている。
さらに、外務・防衛当局間(PM)協議を、カンボジア(7月、第4回)、インドネシア(7月、第3回)、英国(11月、第16回)、カナダ(12月、第10回)及びフランス(12月、第20回)との間で開催した。また、安全保障対話をラオス(7月、第2回)及び中国(10月、第15回)との間で実施したほか、モンゴルとの間では外交・防衛・安全保障当局間協議(8月、第4回)を、北大西洋条約機構(NATO)との間では高級事務レベル協議(5月、第15回)をそれぞれ開催した。
これらに加え、日本は、東アジア首脳会議(EAS)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)など、地域における多国間の枠組みに積極的に参加・貢献し、地域の安全保障面での協力強化に取り組んでいる。このうちARFは、政治・安全保障問題に関する対話と協力を通じたアジア太平洋地域の安全保障環境の向上を目的としており、北朝鮮やEUといった多様な主体が参加する重要な安全保障対話の枠組みである。また、各種取組を通じた信頼醸成に重点を置いている観点からも、安全保障協力を進める上で重要なフォーラムである。8月に24回目となるARF閣僚会合が開催され、南シナ海、北朝鮮などの地域・国際情勢を中心に率直な意見交換を行った。世界中でサイバー攻撃が多発し、サイバーセキュリティの重要性が一層高まる中、ARFの枠組みでも、より一層組織的に取り組む必要があるとの観点から、マレーシア及びシンガポールと共にサイバーセキュリティに関するARF会期間会合(ISM)の立ち上げを提案し、全会一致で承認された。また、日本は、海上安全保障ISM(2014年夏から2017年夏)の共同議長国を務め、2月に第9回海上安全保障ISMを東京で開催するなど、積極的な貢献を行っている。
さらに、日本は、安全保障政策の発信や意見交換の場として、政府間協議(トラック1)のみならず政府関係者と民間有識者双方が出席する枠組み(トラック1.5)も活用している。アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)(シンガポール)といった会合に参加しているほか、12月のマナーマ対話(バーレーン)及び2018年2月のミュンヘン安全保障会議(ドイツ)には河野外務大臣が出席するなど、日本の安全保障政策に対する各国の理解促進を図るとともに、地域における協力促進や信頼醸成に取り組んでいる。
(2)平和維持・平和構築
ア 現場における取組
(ア)国連平和維持活動(国連PKO)
国連PKOは、伝統的には、国連が紛争当事者間に立って、停戦や軍の撤退の監視などを行うことにより事態の鎮静化や紛争の再発防止を図り、当事者間の対話を通じた紛争解決を支援することを目的とした活動である。しかし、冷戦終結以降は、内戦の増加などによる国際環境の変化に伴い、停戦監視などの伝統的な任務に加え、元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)、治安部門改革、選挙、人権、法の支配などの分野における支援、政治プロセスの促進、文民の保護など、多くの任務を与えられている。2017年12月末時点で、15の国連PKOミッションが中東・アフリカ地域を中心に活動しており、ミッションに従事する軍事・警察・文民要員の総数は10万人を超えている。任務の複雑化・大規模化とそれに伴う人員、装備・機材、財源などの不足という事態を受け、国連を中心に様々な場で、国連PKOのより効果的・効率的な実施に関する議論が行われている。
日本は、「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」(PKO法)に基づき、1992年以来、国連PKOを始め、計27のミッションに延べ約1万2,500人の要員を派遣してきた。最近では、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に対し、2011年から司令部要員を、2012年からは施設部隊を派遣してきた。施設部隊は、南スーダンの首都ジュバ及びその周辺において、道路などのインフラ整備や給水活動などの避難民支援や敷地造成などの活動を実施し、2017年5月をもって活動は終了した。一方、UNMISS司令部では現在も4人の自衛官が活躍している。日本は今後も様々な形で、南スーダンの平和と安定に貢献していく。日本は、今後とも、「積極的平和主義」の旗の下、これまでのPKO活動の実績の上に立ち、我が国の強みを生かして能力構築支援の強化、部隊及び個人派遣など、国際平和協力分野でより一層積極的に貢献していく。


2017年は、「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」(PKO法)が成立してから25周年の節目の年に当たります。日本は、同法の下、国連平和維持活動、人道的な国際救援活動、国際的な選挙監視活動において人的・物的両面での貢献を積み重ね、国際社会から高い評価を得てきました。
具体的には、日本はこの25年間、カンボジア、東ティモール、ゴラン高原、ハイチなど27のミッションに対し、延べ1万2,500人余りの要員を派遣し、厳しい環境の中で規律を保ちつつ、高い技術力などを活かし世界の平和と安定のために、積極的に取り組んできました。
最近では、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)への自衛隊施設部隊派遣を通じて同国の国造りに貢献してきました。UNMISSに派遣されていた自衛隊施設部隊は、2017年5月末をもって5年以上に及ぶ活動を終えましたが、道路補修、国内避難民向けの施設整備を始めとする活動は、これまでの日本のPKOにおける施設活動の中で、最大規模の実績となりました。また、最後に派遣された第11次要員に、平和安全法制で新たに認められた、いわゆる「駆けつけ警護」の任務を付与し、宿営地の共同防護を行わせることとするなど、日本のPKOにおける歴史の中でも大きな意義を持つものになりました。現在も、自衛官4人は、司令部要員としてUNMISSの活動に貢献しています。

また、日本は国連アフリカ施設部隊早期展開プロジェクト(ARDEC)及びアジア・アフリカ諸国のPKO訓練センターへの資金拠出や講師派遣等を通じ、PKOに派遣される各国要員の能力構築を支援しています。

さらに、平和構築の現場で活躍できる文民専門家を育成する事業にも協力しており、過去10年間で643人の人材が研修を終えた後、平和の担い手として世界各地で活躍しています。
人の派遣や人材の育成に加え、日本は、国連PKO要員等による性的搾取・虐待(SEA)を防止するためのオンライン教材の開発支援やSEA被害者支援のための信託基金への拠出など、国連による平和構築への取組を支援しており、今後も国際平和に向けたより一層の努力をしていきます。
今や、世界は、どの国も一国だけで平和を守ることができない時代です。世界では様々な紛争が発生しており、テロ、難民、貧困といった国境を越えた課題は深刻さを増しています。こうした中、日本は、国際社会の責任あるメンバーとして、世界の平和と安定のために、その能力と責任にふさわしい貢献を続けていきます。
(イ)平和構築に向けたODAなどによる協力
日本の国際協力において、平和構築は重要であり、開発協力大綱でも重点課題の一つとして位置付けられている。
また、人道危機への対応でも、人道支援と開発協力の連携に、平和構築を組み合わせることが効果的である。紛争発生後の対応のみならず、人道危機の要因である紛争の発生・再発予防にも重点を置き、平時からの国造り、社会安定化といった、紛争の根本原因への対処を抜本的に強化することが重要である。日本は、このような「人道と開発と平和の連携」の考え方を重視し、特に以下の国・地域で平和構築支援を進めている。
2017年9月に発表された「河野四箇条」及び5つの新たなイニシアティブを受け、同年12月、河野外務大臣は第13回マナーマ対話において、ISIL等との闘いの影響を受けた国々での支援を継続するとして、シリア国内及び周辺国について、新たに約2,100万米ドルの人道支援の実施を発表した。
日本は、TICAD Ⅵのナイロビ宣言における優先分野の一つとして「繁栄の共有に向けた社会安定化」を掲げるなど、暴力的過激主義を生み出さない平和で安定したアフリカの実現に向けた取組を実施してきた。2017年9月の国連総会の際に安倍総理大臣は、アフリカの平和と安定に対する諸課題に関し、2016年以降、1万6,000人以上への職業訓練を含む、約233億円の社会安定化の取組を実施していることを発表した。国連総会に同席したアフリカ側首脳は、日本の支援への謝意を示した。
例えば、日本は2014年から、フランス語圏アフリカ地域8か国の刑事司法分野の人材に対する研修を実施し、対象国の人材育成や能力強化に貢献している。また2017年9月、日本はリベリアの大統領選挙及び下院議員選挙の公正・公平な実現を目的として、同国国家警察の治安維持体制の強化の支援を実施した。
さらに、アフリカ各国が運営しているPKO訓練センターに対する支援を2007年から実施しており、計13か国の施設に対する2017年までの日本の支援は計4,500万米ドル以上に達する。

イ 国連における取組
地域紛争や内戦は終結後に再燃することが多いため、事後に適切な支援を行うことが極めて重要である。この認識の下、2005年、紛争解決から復旧・社会復帰・復興まで一貫した支援に関する助言を行うことを目的として「平和構築委員会(PBC)」が設置された。日本は設立時からメンバーを務め、2006年から2008年は議長国として、また、2011年から2015年まではPBC教訓作業部会の議長として、PBCの活動に貢献してきた。
2016年4月に採択されたPBCを含む国連平和構築アーキテクチャー・レビューに関する総会決議(A/RES/70/262)及び国連安保理決議第2282号は、PBCの効率性・柔軟性の向上、PBCと国連安保理やその他機関との連携の強化等を推奨した。これを受け、2017年、PBCは同決議の実施のための新たな取組を開始し、従来の議題国5か国6における優先課題の特定や平和構築戦略の策定に関する議論も継続して行った。
新たな取組の一つとして、PBCにおいて五つのテーマ別の議論(制度構築、若者、ジェンダー、平和構築のための資金調達及び国家のオーナーシップ)を主導するためフォーカルポイント(担当国)が指名された。このうち日本は制度構築のフォーカルポイントに就任し、テーマ別の議論に加えて、議題国以外の国や地域に関する会合を開催し、PBCの柔軟性や効率性の向上にも貢献している。また、PBCにおいては、世界銀行(世銀)やアフリカ連合(AU)との協力関係の強化のための取組等も行われている。
また、日本は、2016年9月、当面1,000万米ドル規模の拠出を目指すことを表明し、平和構築基金(PBF)に積極的に貢献している。日本は、現在までに総額4,850万米ドル(2017年には250万ドル)の拠出を実施しており、第6位の主要ドナー国である(2017年12月現在)。
ウ 人材育成
(ア)平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業
紛争後の平和構築では、高い能力と専門性を備えた文民専門家の役割が拡大する一方、担い手の数は十分ではなく、人材の育成が大きな課題となっている。日本は、平和構築・開発の現場で活躍できる文民専門家を育成すべく、人材育成事業を実施してきており、2017年度末までに育成した人材は約730人に上る。事業修了生は、南スーダンやアフガニスタンなど世界各地の平和構築・開発の現場で活躍しており、諸外国や国連などから高い評価を得ている。
2017年度事業では、若手人材向けの研修コースに加え、中堅層の実務家を対象とする研修コースやマンツーマン方式のキャリア構築支援も実施した。
(イ)平和維持要員の訓練
日本は、国連PKOに参加する各国の平和維持要員の能力向上を支援してきており、2015年から、国連PKOへ施設部隊を派遣する意思を表明した東アフリカ5か国の約130人の施設要員に対し、自衛官等延べ83人を教官として派遣し、本格的な運用の訓練も含め、重機操作の訓練を実施した(国連アフリカ施設部隊早期展開プロジェクト(ARDEC))。また、アフリカに展開する国連PKOの通信部隊の効果的な訓練の実施のため、国連通信学校に支援を行った。さらに、アジア・アフリカ諸国のPKO訓練センターに対する講師などの人材派遣や財政支援も行っている。
(3)治安上の脅威に対する取組
ア テロ及び暴力的過激主義対策
2017年は、イスタンブールでのナイトクラブ銃撃テロ(1月)、マンチェスターでの爆弾テロ事件(5月)、バルセロナでの車両突入事件(8月)、エジプト・シナイ半島でのテロ事件(11月)等、世界各地でテロ事件が発生した。
また、イラク及びシリアにおける「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」掃討作戦の結果、ISILの支配領域は縮小したものの、外国人テロ戦闘員の母国への帰還や第三国への移動により、テロの脅威が拡散しており、特に、アジアにおけるテロの脅威が高まっている。
日本は、2016年のG7伊勢志摩サミットで、「テロ及び暴力的過激主義対策に関するG7行動計画」作成を主導し、この中で、①インターポールのデータベースや乗客予約記録(PNR)の活用を始めとする具体的なテロ対策、②暴力的過激主義を防止するための対話を通じた寛容の促進及び③開発途上国への能力構築支援の重要性を掲げた。2017年のG7タオルミーナ・サミットでは、同行動計画を完全に実施することが確認され、日本はこれを着実に進めている。具体的には、空港等の保安分野を含む国境警備の能力強化、治安関係者の捜査・訴追能力等の向上、マネーロンダリングや組織犯罪を含むテロ資金対策といった分野について、法執行機関等の研修・訓練や機材供与を実施している。また、暴力的過激主義対策においては、日本は特に異文化間・異宗教間の対話促進、女性・若者のエンパワーメント等草の根レベルでのコミュニティ支援など、テロの根本原因である暴力的過激主義への対処を重点的に実施している。地域的にはアジアを重視しており、特にアジア地域における総合的なテロ対策の強化策として、2016年、日・ASEAN首脳会議において今後3年間で450億円の支援、2,000人規模の人材育成を行っていくことを発表しており、日本はこれを着実に実施している。
2017年は、ASEAN、米国、オーストラリア、インド及びパキスタンとの間でテロ対策協議を実施し、テロ情勢に関する情報交換や連携の強化等を確認した。
また、アジア諸国の治安対策及び矯正政策の担当省庁関係者並びに国際機関関係者を招へいしてワークショップを開催した。このワークショップでは、日本と各国のテロ及び暴力的過激主義対策の効果的な支援や協力の在り方について、活発な議論が行われた。あわせて、日本の民間企業の関連技術の視察も行い、日本の知見を通じた貢献を積極的に行った。10年来継続して行っている取組としては、イスラム寄宿塾の教師を招へいし、宗教間の対話、日本の文化や教育の現場の視察等を行う交流事業がある。穏健主義拡大への貢献として、今後もこうした取組を続けていく。
国際機関を通じた取組の実施としては、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)や「コミュニティの働きかけ及び強靱性に関するグローバル基金(GCERF)」などの国際機関や基金に約4,600万米ドル拠出し(2016年度補正予算)、これらの機関によるテロ及び暴力的過激主義対策の個別プロジェクトを支援している。
イ 刑事司法分野の取組
国連の犯罪防止刑事司法会議及び犯罪防止刑事司法委員会は、犯罪防止及び刑事司法分野における国際社会の政策形成の中心機関である。5月に開催された第26会期犯罪防止刑事司法委員会では、2020年4月に日本で開催される第14回犯罪防止刑事司法会議の全体テーマを「2030アジェンダの達成に向けた犯罪防止、刑事司法及び法の支配の推進」とすることにつき合意した。また、同会議を京都で開催することについて閣議了解した。このほか、UNODCの犯罪防止刑事司法基金への拠出を通じて、東南アジア諸国における訴追能力向上を実施している。サイバー犯罪対策では、日・ASEAN統合基金(JAIF)からの資金拠出やUNODCとの協力を通じて、ASEAN諸国の法執行機関を対象とする能力強化ワークショップなどの実施を支援している。
また、日本は7月、テロを含む国際的な組織犯罪を一層効果的に防止し、これと戦うための協力を促進するための国際的な法的枠組みを創設する条約である国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を締結した(特集「国際組織犯罪防止条約(TOC条約)の締結」146ページ参照)。
ウ 腐敗対策
7月、日本は、贈収賄、公務員による財産の横領などの腐敗行為に対処するための措置や国際協力を規定した国連腐敗防止条約(UNCAC)を締結した。日本は従来から、UNODCへの拠出を通じ、UNCACの実施促進を目的として、開発途上国当局の腐敗事案の捜査・訴追能力強化を図る研修などを実施している。締約国におけるUNCACの実施状況をモニタリングするUNCAC実施レビューメカニズムの運営に対し、日本はUNODCを通じて、約9万米ドルを拠出している。
G20の枠組みでは、日本は、G20腐敗対策作業部会の活動を通じ、腐敗犯罪での法人の責任に関するハイレベル原則などの策定に参画した。
経済協力開発機構(OECD)贈賄作業部会は「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」のモニタリングを通じて、外国公務員贈賄の防止に取り組んでおり、日本も積極的に参加している。さらに日本はアジア開発銀行(ADB)とOECDが共同で推進する「ADB・OECDアジア太平洋腐敗対策イニシアティブ」を支援しており、同地域での腐敗対策向上にも貢献している。
エ マネーロンダリング(資金洗浄)・テロ資金供与対策
マネーロンダリングやテロ資金供与対策については、国際的な枠組みである金融活動作業部会(FATF)が、各国が実施すべき国際的基準や新たな視点からの対策について議論を進めている。日本は、設立時からのメンバー国として、これらの議論に積極的に参加している。近年、FATFは、大量破壊兵器の拡散につながる資金供与の防止対策についても一定の役割を果たしており、11月には、北朝鮮による累次の核実験及びミサイル発射を受け、北朝鮮による不正な金融活動の根絶を求めるFATF声明を加盟国の全会一致で採択した。
さらに、日本は、マネーロンダリングやテロ資金の流れを遮断するための国際的な取組を支援するため、UNODCと連携し、イランやASEAN諸国、サヘル地域諸国等に対して法整備支援等の能力構築支援を行っている。
オ 人身取引対策
日本は、手口がますます巧妙化・潜在化する人身取引犯罪に効果的に対処するため、「人身取引対策行動計画2014」に基づき、人身取引対策に係る国内体制を強化し、開発途上国への支援も積極的に実施している。7月には、人身取引を防止し、これと戦い、被害者保護のための国際協力を強化することを目的とする人身取引議定書の締約国となり、人身取引撲滅に向けた諸外国政府との連携を一層深化させた。また、近年では、テロ組織の資金源や戦闘員獲得の手段として人身取引が行われていることを受け、11月には国連安保理において、「紛争下の人身取引」に関する決議第2388号が全会一致で採択され、日本もこれらの新たな脅威に対抗するため、国際社会との強い連帯を表明した。
国際機関との連携としては、2017年も継続して、日本で保護された外国人人身取引被害者の母国への帰国・社会復帰支援事業を、国際移住機関(IOM)への拠出を通じて行うとともに、UNODCが実施する東南アジア諸国向けのプロジェクトに拠出し、法執行当局に対する研修などを実施した。
カ 不正薬物対策
3月に開かれた第60会期国連麻薬委員会(CND)で、日本は、2009年に策定された世界的な薬物問題に関する政治宣言及び行動計画の達成目標年である2019年に閣僚級ハイレベル会合を開催することを支持した。また、2016年4月の国連麻薬総会(UNGASS)のフォローアップとして薬物の需要削減や供給削減に向けた取組を紹介した。国際協力分野では、UNODCと協力して、アジア太平洋地域における覚醒剤や危険ドラッグなどの合成薬物の調査・分析、空港や港湾での取締当局の貨物検査能力の向上支援を行い、国境を越えて拡散する不正薬物対策に取り組んでいる。また、世界最大の違法ケシ栽培地であるアフガニスタンに対しては、国境管理の強化や代替作物開発の促進及び周辺国と合同の麻薬取締官の能力強化のために、UNODCに対して500万米ドルを拠出し、当該地域諸国の取組を積極的に支援している。

7月11日、日本は、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(国際組織犯罪防止条約)を締結しました。

国際組織犯罪防止条約は、国際的な組織犯罪が急速に複雑化し、深刻化してきたことを背景として、これに効果的に対処するためには、それぞれの国が自国の刑事司法制度を強化するのみならず、国際社会全体が協力して取り組むことが不可欠であるとの認識が高まったことを受け、2000年11月に国連総会で採択されました。
この条約は、テロを含む国際的な組織犯罪を一層効果的に防止し、これと戦うための協力を促進するための国際的な法的枠組みを創設することを目的としたものです。
日本は、2000年12月にイタリアのパレルモで開催された署名会議において、本条約に署名し、2003年5月にその締結について国会の承認を得ました。しかし、本条約の国内担保法が整備できなかったため、長らく本条約の締結に至っていませんでした。
その間、世界のほとんどの国・地域が本条約を締結し、本条約に基づく国際協力を実施するとともに、未締結国に対しては、関連する国連の諸決議やG7/G8サミットで、繰り返し本条約の締結が要請されてきました。
そのような国際的な情勢に加え、日本は2019年にラグビーワールドカップ、2020年に東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を控えています。このため、日本がテロを含む国際組織犯罪対策の抜け穴とならないよう、6月に本条約の国内担保法である「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律」、いわゆる「テロ等準備罪処罰法」が国会で可決され、同法の施行を受けて、7月に日本は本条約を締結し、本条約の188番目の締約国となりました(なお、12月現在の締約国・地域の数は189)。
本条約の締結により、本条約の締約国との間での捜査共助や犯罪人引渡しがより迅速で充実したものとなり、情報収集を含め、より一層効果的に、国際社会と協力して、テロを含む国際的な組織犯罪に対処することが可能となりました。日本としては、本条約の締結を契機に、国際社会と緊密に連携し、犯罪対策の更なる強化に努めていきます。
(4)海洋
日本は、海上貿易と海洋資源の開発を通じ経済発展を遂げ、「自由で開かれ安定した海洋」を追求してきた海洋国家である。日本にとって、航行・上空飛行の自由や海洋資源の開発等の経済的存立の基盤となる海洋権益は、平和と安全を確保する上で重要である。こうした海洋権益を長期的かつ安定的に確保するため、海洋秩序の維持及び海上交通の安全確保は不可欠である。
さらに、力ではなく、法とルールが支配する海洋秩序に支えられた「自由で開かれ安定した海洋」は、日本だけではなく国際社会全体の平和と繁栄に不可欠であり、これを維持・発展させていくために、日本は、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を提唱し、海洋秩序の維持・強化及び海上交通の安全確保に積極的に貢献している。
しかし、近年、資源の確保や安全保障の観点から各国の利害が衝突する事例が増えている。特に、アジアの海では、国家間の摩擦から緊張が高まる事例が増えており、国際社会も重大な関心を持って注視している。このような中、2014年5月の第13回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)(シンガポール)で安倍総理大臣が提唱した「海における法の支配の三原則」(3-3-6(2)参照)を徹底していく必要があるとの認識の下、2017年5月にはG7タオルミーナ・サミット(イタリア)で、国際法の諸原則に基づく、ルールを基礎とした海洋秩序の維持等、海洋安全保障面における国際社会への強いメッセージを含む首脳コミュニケが発出された。また、11月にローマで開催された「第3回海洋安全保障に関するG7ハイレベル会合」では、インド太平洋地域における法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序の維持・強化等を含む海洋安全保障に関する日本の取組について発信した。さらに、G7以外でもASEAN地域フォーラム(ARF)海上安全保障会期間会合やASEAN海洋フォーラム拡大会合(EAMF)を含む東アジア首脳会議(EAS)関連会合等の場を活用し、「自由で開かれ安定した海洋」の重要性や海洋安全保障に関する日本の考え方及び取組について積極的に発信している。
また、日本は、外務省(ODA)、防衛省・自衛隊及び海上保安庁による能力構築支援、装備・技術協力、海洋状況把握(MDA)等の様々な支援を組み合わせ、主にアジア及びアフリカの沿岸国に対して、巡視船の供与、技術協力、人材育成等を通じた海上法執行能力の向上に向けた切れ目のない支援を行っており、海における法の支配の確立・促進に貢献してきている。
ア 海洋の秩序
(ア)国連海洋法条約と日本の取組
海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約:UNCLOS)は、「海の憲法」とも呼ばれ、法の支配に基づく海洋秩序の根幹を成す条約である。同条約は、公海での航行・上空飛行の自由を始めとする海洋の利用に関する諸原則や海洋の資源の開発やその規制などに関する国際法上の権利義務関係を包括的に規定している。さらに、同条約に基づき、国際海洋法裁判所(ITLOS)、大陸棚限界委員会(CLCS)及び国際海底機構(ISA)という国際機関が設立された。同条約は、日本を含む167の国(日本が承認していないものも含む。)及びEUが締結している。主要な海洋国家である日本にとって、同条約が根幹を成す海洋秩序は、日本の海洋権益を確保し、海洋に係る活動を円滑に行うための礎となるものである。このため、日本は、同条約の更なる普遍化と適切な実施の確保のために、締約国会議などでの議論や関連国際機関の活動に積極的に貢献している。さらに、国内外の著名な国際法学者を招いて、海洋法に関する国際シンポジウムを開催するなど、国連海洋法条約の下での海洋秩序の構築、維持及び強化に尽力している(3-3-6参照)。
(イ)海洋秩序に対する挑戦と日本及び国際社会の対応(1-1(2)、2-1-2(1)及び2-2-6参照)
東シナ海では、尖閣諸島周辺海域における中国公船による領海侵入事案が2017年も続いており、また中国軍艦艇・航空機による活発な活動も確認されている。加えて、排他的経済水域及び大陸棚の境界画定がいまだ行われていない海域では、中国による一方的な資源開発が継続している。さらに、近年、東シナ海を始めとする日本周辺海域において日本の同意を得ない調査活動や同意内容と異なる調査活動が多数確認されている。このように東シナ海における中国の一方的な現状変更の試みが継続していることを踏まえ、日本としては日本の周辺海空域における動向を十分注視しながら、主張すべきは主張しつつ、引き続き、毅然(きぜん)かつ冷静に対応していくと同時に、東シナ海の平和と安定のため、米国を始めとする関係国との連携を進めていく。



南シナ海では、中国による大規模かつ急速な拠点構築及びその軍事目的での利用等、現状を変更し緊張を高める一方的な行動、さらにはその既成事実化の試みが一段と進められており、日本を含む多くの国から懸念が表明されている。日本は、これまで一貫して南シナ海における法の支配の貫徹を支持してきており、南シナ海をめぐる問題の全ての当事者が、国際法に基づく紛争の平和的解決に向け努力することの重要性を強調してきている。また、南シナ海問題に関する中国とASEANとの間の対話について、日本は、そのような前向きな取組による緊張の緩和を非軍事化につなげるべきとの立場である。
フィリピン政府が開始した南シナ海をめぐる同国と中国との間の紛争に関する国連海洋法条約に基づく仲裁手続については、2016年7月12日に、仲裁裁判所から最終的な仲裁判断が示された。日本は、同日外務大臣談話を発出し、国連海洋法条約の規定に基づき、仲裁判断は最終的であり紛争当事国を法的に拘束するので、当事国は今回の仲裁判断に従う必要があり、今後、南シナ海での紛争の平和的解決につながっていくことを強く期待するとの立場を表明した。
南シナ海をめぐる問題は、資源やエネルギーの多くを海上輸送に依存し、航行・上空飛行の自由及びシーレーンの安全確保を重視する日本にとっても、重要な関心事項である。「自由で開かれ安定した海洋」の維持・発展に向け、国際社会の連携が重要である。この観点から、日本は、米国の「航行の自由」作戦を支持する立場を採っている。

イ 海上交通の安全確保
日本は、アジアやアフリカでの海賊対策などの取組や各国との緊密な連携・協力を通じて、航行・上空飛行の自由や海上交通の安全確保に積極的に貢献している。
(ア)ソマリア沖・アデン湾における海賊対策
国際商業会議所(ICC)国際海事局(IMB)の発表によれば、ソマリア沖・アデン湾での海賊・武装強盗事案(以下「海賊等事案」)の発生件数は、ピーク時の2011年(237件)以降減少傾向にあり、2015年には0件、2016年には2件、2017年には9件と低い水準で推移している。引き続き各国海軍などによる海上取締活動、各国商船による自衛措置の実施などの取組が行われているが、ソマリア沖海賊を生み出す根本的原因はいまだ解決しておらず、ソマリア沖海賊は依然として海賊行為を行う意図と能力を維持しており、予断を許さない状況である。
日本は、2009年から一度も中断することなくソマリア沖・アデン湾に海上自衛隊の護衛艦(海上保安官が同乗)やP-3C哨戒機を派遣し、海賊対処行動を実施している。2017年11月2日、日本政府は、海賊対処法に基づく海賊対処行動を更に1年間継続することを閣議決定した。派遣された護衛艦は、2017年1月から12月まで43回の護衛活動で72隻の商船を護衛し、P-3C哨戒機は、243回の任務飛行を行い、警戒監視や情報収集、他国艦艇への情報提供を行った。
日本は、ソマリア沖海賊を生み出す根本的原因の解決に向けて、ソマリアや周辺国の海上保安能力の向上やソマリアの安定に向けた支援といった多層的な取組を行っている。日本は、国際海事機関(IMO)の設置した基金に1,460万米ドルを拠出し、イエメン、ケニアやタンザニアへの情報共有センターの設置や、ジブチにおいて、地域における能力構築のための訓練センター(DRTC)の建設を支援した。また、国連開発計画(UNDP)が管理する国際信託基金に450万米ドルを拠出し、ソマリアや周辺国の法廷などの整備や法曹関係者の訓練・研修のほか、セーシェル等のソマリア周辺国で有罪判決を受けた海賊のソマリアへの移送などを支援している。そのほか、国際協力機構(JICA)の技術協力で能力拡充を支援してきているジブチ沿岸警備隊に対し、2015年12月、巡視艇2隻を供与した。2017年10月には、DRTCにおいて、日仏共催で海洋安全保障に関するセミナーを開催した。また、ソマリアの安定に向けて、日本は、2007年以降、基礎サービス改善支援、警察支援等による治安向上への支援、職業訓練及び雇用創出等による国内経済活性化の支援のため、総額4億5,630万米ドルを拠出している。
(イ)アジアにおける海賊対策
日本は、アジアの海賊等事案対策における地域協力の促進のため、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)の策定を主導し、同協定は2006年に発効した。各締約国は、同協定に基づきシンガポールに設置された情報共有センター(ReCAAP-ISC)を通じ、マラッカ・シンガポール海峡等における海賊等事案に関する情報共有及び協力を実施しており、日本は人的貢献(事務局長や事務局長補の派遣)及び財政的貢献によりReCAAP-ISCの活動を支援してきている。また、9月30日から10月7日にかけて、ReCAAP-ISCの協力の下、ASEAN10か国を対象とした「海賊等対策に係る海上法執行能力向上研修プログラム」を東京、神奈川及び広島において開催した。加えて、沿岸国の海上法執行能力向上支援、監視能力向上支援といった日本のアジアにおける海賊対策のための取組は、国際的にも高く評価されている。
IMBの発表によれば、東南アジア海域における海賊等事案の発生件数は、2017年は76件となっている。近年、東南アジアのスールー海及びセレベス海において船員誘拐事案が発生し、同海域を航行する船舶の脅威となっている。こうした状況にかんがみ、11月の東アジア首脳会議(EAS)では、「テロに屈しない強靱なアジア」に向けて、現下の状況を踏まえ、フィリピン南部、スールー海及びセレベス海の治安改善のため包括的なアプローチによって2年間で150億円規模の支援を着実に実施することを表明した。日本は、このような支援表明に基づき、今後も海上保安能力の構築支援を引き続き積極的に行っていく。
(5)サイバー
サイバー空間が人々の経済社会の活動基盤として欠かせないものとなる一方で、サイバー攻撃の規模や影響は年々拡大している。特に近年、分散型サービス拒否攻撃(DDoS攻撃)の規模がこれまでにない大きさとなっているほか、重要インフラが攻撃の対象となるなど、サイバー攻撃の脅威は深刻さを増している。
日本も例外ではなく、2015年に日本年金機構がサイバー攻撃を受け、約125万件に上る個人情報が窃取されるなど、サイバー攻撃の脅威にさらされている。また、2017年5月には、日本を含む約150か国・地域に対して、身代金要求型の不正プログラム「WannaCry」による大規模なサイバー攻撃が行われた。日本は、2020年に東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を控えており、サイバーセキュリティは喫緊の課題である。
サイバー攻撃は、匿名性が高く、攻撃側が有利であり、地理的な制約を受けることが少なく容易に国境を越えるという特性がある。そのため、サイバーセキュリティは、一国のみで対応することが困難な国際社会共通の課題であり、国際社会との連携や協力が不可欠である。
こうした状況を背景に、日本は、2015年9月に閣議決定された「サイバーセキュリティ戦略」に基づき、国際的なルール作り、各国との協力・信頼醸成措置の促進、サイバー犯罪対策、能力構築支援等の取組を進めている。
国際的なルール作りについて、日本は、サイバー空間を利用した行為に対しても従来の国際法が適用されるとの立場から、国連でのサイバーに関する政府専門家会合(GGE)等への参加を通じ、国際社会における議論に積極的に取り組んでいる。
各国との協力・信頼醸成措置の促進については、これまで米国を始め、英国、フランス、オーストラリア、イスラエル、エストニア、インド、ロシア、日中韓、EU、ASEAN等との間で協議・対話を実施してきた。また、8月には、ASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚級会合(フィリピン・マニラ)において、マレーシア及びシンガポールと共にサイバーセキュリティに関する会期間会合の立ち上げを提案し、承認された。こうした協議等を通じて、サイバー分野における政策及び取組について情報交換し、相互理解を深め、協力強化や信頼醸成措置の促進に努めている。さらに、11月のサイバー空間に関するニューデリー会議(インド)に堀井学外務大臣政務官が出席し、日本のサイバー外交についてスピーチを行った。
サイバー犯罪対策については、サイバー空間の利用に関する唯一の多数国間条約である「サイバー犯罪条約」(ブダペスト条約)のアジア地域初の締約国として、サイバー犯罪条約関連会合等に積極的に参加するとともに、特にアジア地域での条約締約国の拡大に努めている。
サイバー空間の性質上、一部の国や地域における対処能力の不足が世界全体にとってのリスク要因となることから、開発途上国等への能力構築支援は日本の安全を確保する上でも重要である。日本は、ASEAN諸国を中心にCSIRT7や関係行政機関の能力強化等の支援を行っている。2016年10月に策定した政府横断的な「サイバーセキュリティ分野での開発途上国に対する能力構築支援(基本方針)」に基づき、今後もオールジャパンで戦略的かつ効率的な支援の取組を進めていく。
(6)宇宙
近年、宇宙利用の多様化及び活動国の増加に伴って宇宙空間の混雑化が進むとともに、衛星破壊(ASAT)実験や人工衛星同士の衝突等による宇宙ゴミ(スペースデブリ)の増加の問題が発生し、持続的かつ安定的な宇宙利用に関するリスクが増大している。
そのような状況に対応するため、日本は宇宙空間での一層の法の支配の確立を目指し、国際的な規範作りに関する議論に積極的に参画するとともに、各国との間で宇宙に関する対話・協議を促進し、宇宙空間における安全の確保に向けた取組に貢献している。
また、国際的に宇宙空間の利活用に関する新技術の開発やサービスの普及が進展する中で、国際宇宙ステーション(ISS)を始めとする宇宙科学・探査、日本の宇宙産業の海外展開、宇宙技術を活用した地球規模課題の解決、開発途上国の宇宙分野での能力向上支援等にも積極的に取り組んでいる。
ア 宇宙空間における法の支配の確立
宇宙空間をめぐる環境の変化を踏まえ、国際社会では、宇宙空間での新たなルールの必要性が様々な形で活発に議論されており、日本としても宇宙空間での法の支配を確立するため、こうした議論に積極的に関与し、貢献してきている。特にASAT実験のようなスペースデブリを発生させる行為を規制するとともに、各国の宇宙活動に関する情報共有を促進する透明性・信頼醸成措置(TCBM)に関するルールを整備することが重要である。そのような観点から、日本はEUが主導する「宇宙活動に関する国際行動規範(ICOC)」の策定に関する議論や国連宇宙空間平和利用委員会(UNCOPUOS)における「宇宙活動の長期的持続可能性に関するガイドライン」の作成を始めとする宇宙空間の平和利用に関する議論に積極的に貢献している。なお、UNCOPUOSの傘下にある科学技術小委員会では、1月から、日本人初の女性宇宙飛行士である向井千秋氏が議長を務めた。
イ 各国との宇宙対話・協議の実施
国際社会における宇宙に関する関心の高まりを反映し、幅広い分野における情報共有や国際協力を目的とした様々な二国間・多国間の宇宙対話・協議等が増加している。日本としても、宇宙主要国やアジア太平洋地域を中心に、安全保障や科学・産業分野での対話を推進している。
3月には、第2回日仏包括的宇宙対話(東京)を開催し、安全保障及び民生の両分野において、情報交換及び協力可能性等に関する議論を実施するとともに、対話の成果文書として「日本国の権限のある当局とフランス共和国首相府国防国家安全保障事務総局との間の包括的宇宙パートナーシップ意図表明文書」及び「日本国の権限のある当局とフランス共和国国防大臣との間の宇宙状況把握に係る情報共有に関する技術取決め」に署名した。そのほか、5月には宇宙に関する包括的日米対話第4回会合、第11回日米衛星測位システム全体会合及び第7回日米宇宙政策協議(民生・商業利用)(米国・ワシントンDC)を、10月には第3回日EU宇宙政策対話(東京)を実施した。また、多国間会合として、12月には衛星航法システム(GNSS)に関する国際委員会(ICG)第12回会合をホスト国として京都で開催した。
ウ 宇宙科学・探査、日本の宇宙産業の海外展開及び地球規模課題解決に向けた支援
平和目的の宇宙空間の探査及び利用の進歩は、全人類の共同の利益であり、外交的にも重要な意義を持つものである。中でもISSは、15か国が参加する壮大なプロジェクトであり、宇宙に関する国際協力の象徴とも言える。12月からは、金井宣茂(のりしげ)宇宙飛行士が第54次/第55次長期滞在クルーとして、約6か月間のISS滞在を開始した。また、「きぼう」日本実験棟は、超小型衛星の放出機能を有しており、宇宙分野における能力構築支援を目的として、数多くの新興国・開発途上国の衛星の放出にも利用されている。
また、国際的に増大する人工衛星や打ち上げサービス等の需要を獲得することは、日本の宇宙産業にとって重要な課題となっており、トップセールスや在外公館の活用等を通じ、日本の宇宙産業の海外展開に取り組んでいる。さらには、宇宙技術を活用した開発協力の実施により、気候変動、防災、森林保全、資源・エネルギーなどの地球規模課題への取組に貢献するとともに、開発途上国の宇宙分野での能力構築支援に取り組んでいる。例えば、インドネシアについては、3月に宇宙協力及び衛星データを活用した海洋協力に関する文書にそれぞれ署名し、11月から具体的な事業化に向けた調査を開始した。また、タイについては、衛星測位技術を活用した電子基準点網の整備協力に関する文書に署名するとともに、建機・農機の自動運転等の衛星測位サービスの実証試験をタイで行った。
6 ブルンジ、シエラレオネ、ギニアビサウ、中央アフリカ及びリベリアの5か国。ギニア国別会合に関しては、近年、会合は開催されておらず、7月に、ギニア国別会合を終了することがPBCによって決定された。
7 コンピュータセキュリティインシデントに対処するための組織の総称。コンピュータセキュリティインシデントによる被害の最小化を図るため、インシデント関連情報、脆弱(ぜいじゃく)性情報、攻撃の予兆情報等を収集・分析し、解決策や対応方針の策定、インシデント対応等を行う。