6 地域協力・地域間協力
アジア太平洋地域は世界の成長センターの一つであり、平和で繁栄した同地域の実現は日本外交の最重要課題の一つである。こうした観点から、日米同盟を基軸としながらも日ASEAN、日・メコン協力、ASEAN+3、東アジア首脳会議(EAS)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、アジア太平洋経済協力(APEC)などの多様な地域協力枠組みを通じ、国際法にのっとったルールを基盤とする平和で安定した地域社会、そして自由かつ開放的で繁栄した地域経済を近隣の国々と共に作ることを重視している。
(1)東南アジア諸国連合(ASEAN)情勢全般
2015年11月のASEAN関連首脳会議(マレーシア・クアラルンプール)では、「政治・安全保障」、「経済」及び「社会・文化」の三つの共同体によって構成されるASEAN共同体が同年内に設立されることが宣言され(ASEAN共同体設立に関するクアラルンプール宣言)、加えてASEAN共同体の2016年から2025年までの10年間の方向性を示す「ASEAN2025:Forging Ahead Together(共に前進する)」が採択された。ASEAN設立50周年の節目の年である2017年には、ASEAN共同体の発展へのコミットメントが再確認された。
また、ASEANは、東アジアにおける地域協力の中心として重要な役割を担っており、ASEAN+3、EAS、ARFなどASEANを中心に多層的な地域協力枠組みが機能しており、政治・安全保障・経済を含む広範な協力関係が構築されている。特に経済面では、ASEAN自由貿易地域(AFTA)を締結するとともに、日本、中国、韓国、インド等と経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)を締結するなど、ASEANを中心としたFTA網作りを進めている。2013年に交渉が開始された東アジア地域包括的経済連携(RCEP)については、物品貿易、サービス貿易、投資、知的財産、電子商取引等の分野について、質の高い協定の妥結を目指して交渉を進めている。
地政学的要衝に位置しており、重要なシーレーンを有しているASEANの安定と繁栄は、東アジア地域のみならず、国際社会の安定と繁栄にも大きく関わることから、ASEANが法の支配などの価値に沿った統合を進めることは国際社会全体にとって重要である。
南シナ海では、中国による大規模かつ急速な拠点構築及びその軍事目的での利用等、現状を変更し緊張を高める一方的な行動、さらにはその既成事実化の試みが一段と進められており、日本を含む多くの国から懸念が表明されている。日本は、これまで一貫して南シナ海における法の支配の貫徹を支持してきており、南シナ海をめぐる問題の全ての当事者が、国際法に基づく紛争の平和的解決に向け努力することの重要性を強調してきている。また、南シナ海問題に関する中国とASEANとの間の対話について、日本政府は、これを歓迎し、そのような前向きな取組による緊張の緩和を非軍事化につなげるべきとの立場である。
フィリピン政府が開始した南シナ海をめぐる同国と中国との間の紛争に関する国連海洋法条約に基づく仲裁手続については、2016年7月12日に、仲裁裁判所から最終的な仲裁判断が示された。日本は、同日外務大臣談話を発出し、国連海洋法条約の規定に基づき、仲裁判断は最終的であり紛争当事国を法的に拘束するので、当事国は今回の仲裁判断に従う必要があり、これによって、今後、南シナ海における紛争の平和的解決につながっていくことを強く期待するとの立場を表明してきている。
南シナ海をめぐる問題は、資源やエネルギーの多くを海上輸送に依存し、航行及び上空飛行の自由並びにシーレーンの安全確保を重視する日本にとっても、重要な関心事項である。「開かれ安定した海洋」の維持・発展に向け、国際社会が連携していくことが求められている(1-1(2)、2-1-2(1)及び3-1-3(4)参照)。
(2)日ASEAN関係
アジア太平洋地域に存在する多様な国家をまとめる様々な地域協力の中心であり、原動力であるASEANがより安定し繁栄することは、地域全体の安定と繁栄にとって極めて重要である。このような認識の下、日本は、2013年の日ASEAN特別首脳会議(東京)で採択された「日ASEAN友好協力に関するビジョン・ステートメント」及び「共同声明」を着実に実行しつつ、ASEAN共同体設立以降も「ASEAN共同体ビジョン2025」に基づきASEANの更なる統合努力を全面的に支援していくことを表明している。
2013年の特別首脳会議を経て新たな高みへと引き上げられた日ASEAN関係は、2017年8月の日ASEAN外相会議(フィリピン・マニラ)、11月の第20回日ASEAN首脳会議(フィリピン・マニラ)などを通じて、ASEANの統合強化、持続的経済成長、国民生活の向上及び地域・国際社会の平和と安全の確保など、広範な分野で協力関係が一層強化された。同首脳会議で、安倍総理大臣は、ASEAN設立50周年を祝うとともに、これからの50年、日本とASEANが法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を発展させるため、世界を共にリードしていくことに期待を示した。
安全保障分野では、「積極的平和主義」による日本の地域・国際社会への貢献への支持・評価や、テロ、暴力的過激主義や国境を越える犯罪対策に関する協力、海洋安全保障分野での協力についてASEANの国々から言及があったほか、地域の平和、安全及び安定を損ない得る南シナ海問題に関し、航行及び上空飛行の自由の維持・促進、国連海洋法条約等の国際法に従った紛争の平和的解決、緊張を高め得る全ての活動の自制、非軍事化の重要性等を共有した。また、北朝鮮については、ASEAN側から、北朝鮮のミサイル開発に対する重大な懸念、国連安保理決議遵守の重要性や拉致問題を含む日本の懸念を共有するとの発言があった。
経済分野では、日本は政府開発援助(ODA)や日ASEAN統合基金(JAIF)を通じ、ASEAN連結性強化や域内格差の是正支援など、様々な分野でASEANの更なる統合の深化を支援していく。11月の第20回日ASEAN首脳会議(フィリピン・マニラ)では、今後の日ASEAN協力の方向性について、日本は2013年の日ASEAN特別首脳会議で発表した「4つのパートナーシップ」の下での取組を強化し、アジア開発銀行(ADB)等あらゆるツールを活用し、より統合された共同体の実現に協力していくと発言した。「平和と安定のためのパートナー」においては、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を発展させるための海上法執行能力強化や能力構築支援、マラウィ復興支援等を、また、「繁栄のためのパートナー」では、TPP協定の早期発効と質の高いRCEPの追求、「質の高いインフラ投資」の推進等を表明した。また、「より良い暮らしのためのパートナー」では、「アジア健康構想」を通じた「健康で」長生きできる社会の実現や「日ASEAN環境イニシアティブ」による循環型社会構築のための協力、「心と心のパートナー」では、JENESYSや「文化のWAプロジェクト」による交流促進、スポーツ支援等を実施していくことを強調した。これに対し、ASEAN側の多くの国から、これまでの日本から協力に対する評価に加え、日本とのパートナーシップを更に強化していきたい、また、質の高いインフラ整備や人材育成分野等における日本の各種イニシアティブを評価する発言があった。
その他の分野では、健康増進、病気の予防及び医療水準の向上に向けた人材育成支援として「日ASEAN健康イニシアティブ」やASEAN防災人道支援調整(AHA)センターを通じた「日ASEAN防災協力強化パッケージ」を推進している。
(3)日メコン首脳会議(参加国:カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム及び日本)
メコン地域(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ及びベトナム)は、陸上・海上輸送の要衝に位置し、力強い経済成果を遂げつつある将来性豊かな成長のパートナーである。メコン地域の平和と繁栄は、ASEAN域内の格差是正や地域統合にも資するものであり、日本を含むアジア全体にとって極めて重要である。メコン地域では、近年ハード面のインフラ整備が進み、進出日系企業数や日本からの直接投資も順調に推移するなど、今後の更なる経済活動の活発化が期待される。
2017年11月にフィリピン・マニラで開催された第9回日本・メコン首脳会議では、2015年7月に東京で開催された第7回日・メコン首脳会議で発表された3年間で7,500億円のODAによる支援の3分の2以上が実施されるなど同じく同首脳会議で採択された「新東京戦略2015」に基づく協力が順調に進捗していることへの評価及び日本の貢献への謝意がメコン諸国から示された。今後も日本は、メコン地域の信頼のおけるパートナーとして、同地域の繁栄及び発展に貢献していく。
(4)東アジア首脳会議(EAS)(参加国:ASEAN 10か国+日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド、米国及びロシア)
EASは、地域及び国際社会の重要な問題について首脳間で率直に対話を行うとともに、首脳主導で政治・安全保障・経済上の具体的協力を進展させることを目的として、2005年に発足した地域の重要な首脳フォーラムである。また、EASには多くの民主主義国が参加しており、域内における民主主義や法の支配などの基本的価値の共有や貿易・投資などに関する国際的な規範の強化に貢献することが期待されている。
ア 第7回EAS参加国外相会議
8月に開催された第7回EAS参加国外相会議(フィリピン・マニラ)には、日本から河野外務大臣が出席し、EAS協力のレビューと将来の方向性及び北朝鮮や南シナ海などの地域・国際情勢について議論が行われた。河野外務大臣は、北朝鮮や南シナ海についての日本の立場を述べ、テロ・暴力的過激主義対策、EAS強化、海洋協力及び東アジアの持続可能な経済発展の各分野における日本の取組や考え方について説明した。
北朝鮮問題について、河野外務大臣から、北朝鮮による2度の大陸間弾道ミサイル(ICBM)級弾道ミサイルの発射は、北朝鮮が国際社会として対処すべき課題の最優先事項であることを改めて示すものであるとともに、地域及び国際社会にとって重大かつ現実の脅威であると述べた。その上で、EAS参加国の対応レベルも一段と高める必要があり、北朝鮮への実効的な圧力を一層強化する必要があると訴えるとともに、国連安保理決議の厳格かつ全面的な履行を訴えた。また、北朝鮮の人権・人道問題、特に拉致問題について強いメッセージを発出すべきことを訴えた。
河野外務大臣からは、また、南シナ海において急進的かつ大規模な拠点構築が継続していることにつき深い懸念を表明した上で、武力による威嚇や武力の行使等を含め、力を背景に現状変更を試みるあらゆる一方的な行動に対して強く反対すると強調した。さらに、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序によって平和と安定を確保するために国際社会が連携していくことの重要性を訴えた。
イ 第12回EAS
11月に開催された第12回EAS(フィリピン・マニラ)では、EAS内の協力に対するレビューと将来の方向性及び地域・国際情勢について議論が行われた。安倍総理大臣は、「自由で開かれたインド太平洋戦略」の下、航行の自由・法の支配などの基本的価値の定着を図り、「質の高いインフラ」の整備などにより連結性を強化するとともに、海上法執行能力の構築支援や人道支援・災害救援などの協力を進めていく考えを表明し、参加国とこのような取組を推進していくことの重要性を共有した。また、「テロに屈しない強靱(きょうじん)なアジア」に向けて、フィリピン南部及びスールー海・セレベス海の治安改善のため、2年間で150億円規模の支援を行うことを述べるとともに、「積極的平和主義」を一層推進するため、海上安全、人道支援・災害救援及びPKOの三分野で、人材育成、物資供与、知的貢献を拡充していく方針を表明した。

北朝鮮問題について、安倍総理大臣は、北朝鮮が核実験を強行し日本上空を通過する弾道ミサイルを2回発射するなど核・ミサイル開発を着実に継続しており、半島の非核化なくして地域の平和はあり得ないと強調した。また、国際社会が北朝鮮に対する圧力を最大限まで高める必要があり、EASとして、北朝鮮に対する圧力強化の明確なメッセージを示すことが重要と訴えた。加えて、北朝鮮の拉致問題の解決は安倍内閣の最重要課題であり、その早期解決のためにも、北朝鮮への圧力を高めることが重要であると訴えた。
南シナ海の問題について、安倍総理大臣は、日本が常にASEANの中心性を支持しており、海洋安全保障の基本原則をうたった「ASEAN外相共同声明」を支持すると強調するとともに従来から主張してきた「海における法の支配の三原則」により、紛争は、力ではなく国際法に基づき平和的に解決されるべきであると述べた。さらに、南シナ海の状況については引き続き懸念を表明する一方、南シナ海行動規範(COC)策定に向けた対話など、中国とASEANとの前向きな取組の進展に対して歓迎を表明した上で、実効的なCOCの早期策定に期待を示し、このような取組による緊張の緩和を非軍事化につなげていくべきであると述べた。
ミャンマー・ラカイン州情勢に関して、安倍総理大臣は、法の支配と人権に配慮した治安回復、人道アクセスの拡大、避難民の帰還・再定住に向けた当事者間の協議進展が重要であると訴え、ASEAN防災人道支援調整(AHA)センターなどを通じて、ミャンマー政府を後押ししていくことを表明した。
(5)ASEAN+3
ASEAN+3は、1997年のアジア通貨危機を契機として、ASEANに日中韓の3か国が加わる形で発足し、金融や食料安全保障などの分野を中心に発展してきた。現在では、金融、農業・食料、教育、文化、観光、保健、エネルギー、環境など24の協力分野が存在し、2017年には協力20周年を迎えた。8月に「ASEAN+3協力作業計画(2018-2022)」が採択され、各分野で更なる協力が進展している。
金融分野では、2016年2月には「ASEAN+3マクロ経済調査事務局(AMRO)設立協定」が発効し、同月、シンガポールにおいてAMROが開所した。
8月に開催された第18回ASEAN+3外相会議(フィリピン・マニラ)では、河野外務大臣から、日本の取組を中心に、ASEAN+3協力のレビューと将来の方向性について説明した。また、北朝鮮による拉致・核・ミサイル開発やアジアにおけるテロへの懸念、日中韓協力など地域・国際情勢についても説明した。

11月に開催された第20回ASEAN+3首脳会議(フィリピン・マニラ)で、安倍総理大臣は、ASEAN+3設立20周年を機に、「ASEAN+3協力20周年に係るマニラ宣言」及び「食料安全保障協力に関するASEAN+3声明」が採択され、ASEAN+3における実務協力が強化されることを評価し、ASEAN+3協力に関し、「自由で開かれたインド太平洋戦略」、「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」、RCEP交渉の早期妥結及び持続可能な経済成長のため地域のエネルギー安全保障強化について言及した。また、人と人との連結性向上について、安倍総理大臣は、2017年から開始した「イノベーティブ・アジア事業」で、日本とASEANの間で高度人材育成に取り組むと述べた。また、「ASEAN+3高等教育の流動性・質保証に関するワーキング・グループ」等により、高等教育分野でもASEAN+3の連携を主導していくことを表明するとともに、「2017京都宣言」を踏まえ、東アジア文化都市とASEAN文化都市との連携も推進すると述べた。
北朝鮮について、安倍総理大臣は、日本から北朝鮮に対する圧力を最大限まで高める必要があると訴えるとともに、日中韓とASEANで国連安保理決議の完全な履行に向けて連携していきたいと述べた。これに対し、多くの国から、核実験、弾道ミサイル発射等の北朝鮮の動向に懸念が示された。
(6)日中韓協力
日中韓協力は、地理的な近接性と歴史的な深いつながりを有している日中韓3か国間の交流や相互理解を促進するという点から引き続き重要である。また、世界経済で大きな役割を果たし、東アジア地域の繁栄を牽引(けんいん)する原動力である日中韓3か国が協力して、国際社会の様々な課題に取り組む観点からも、大きな潜在性を秘めた協力分野の一つである。
2016年8月には、日中韓外相会議(東京)が開催され、岸田外務大臣が議長を務めた。3か国の外相は、防災、環境、青少年交流、テロ対策、中東、アフリカ等の幅広い分野・地域での協力を一層進めていくことで一致した。また、北朝鮮を始めとする北東アジア情勢や東アジア地域協力といった地域の課題について忌憚(きたん)のない意見交換を行った。日中韓サミットについては、2017年に日程調整がつかなかったことから、引き続き日本の議長下で、2018年に、日本で開催すべく調整中である。
(7)アジア太平洋経済協力(APEC)
APECは、アジア・大洋州地域にある21の国・地域(エコノミー)で構成されており、各エコノミーの自発的な意思によって、地域経済統合と域内協力の推進を図っている。「世界の成長センター」と位置付けられるアジア太平洋地域の経済面における協力と信頼関係を強化していくことは、日本の一層の発展を目指す上で極めて重要である。
2017年ベトナムAPECダナン首脳会議では、地域経済統合の深化、デジタル時代における零細・中小企業の競争力・イノベーションの強化、持続可能で、革新的かつ包摂的な成長の促進など幅広い議論が行われた。安倍総理大臣は、自由で公正な通商ルール形成に向けた日本の積極的姿勢や、「生産性革命」、「人づくり革命」、「デジタル貿易」等の取組を発信した(3-3-1(3)参照)。
(8)南アジア地域協力連合(SAARC)
SAARCは、南アジア諸国民の福祉の増進、経済社会開発及び文化面での協力、協調などを目的として、1985年に正式発足した。2016年現在、加盟国は8か国、オブザーバーは日本を含む9か国・機関で、首脳会議や閣僚理事会(外相会合)などを通じて、経済、社会、文化などの分野を中心に協力を行っている。比較的穏やかな地域協力の枠組みであるが、地域連結性の観点からその意義と重要性が見直されている。日本は、民主化・平和構築、インフラ、エネルギー、防災、児童福祉など多岐にわたる分野での協力を通じて関係強化に努めている。また、日・SAARC間の青少年交流の一環として、これまで約3,000人を招へいした(うち2017年度は240人)。