外交青書・白書
第2章 地球儀を俯瞰する外交

5 大洋州

(1)オーストラリア

ア 概要・総論

オーストラリアでは、ターンブル政権が発足3年目に入った。2017年11月、オーストラリア政府は、14年ぶりに外交白書を発表した。今後のオーストラリア外交の指針として、開かれた、包摂的で、繁栄したインド太平洋地域の推進、保護主義への対抗、国際ルールの推進・保護等を掲げるとともに、日本を始めとするパートナーとの協力強化を打ち出した。

地域が様々な課題に直面する中、基本的価値と戦略的利益を共有する日本とオーストラリアの「特別な戦略的パートナーシップ」の重要性はこれまで以上に高まっている。インド太平洋地域における法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けた両国の戦略的ビジョンは広い範囲で一致しており、首脳の相互訪問や外相間の緊密な関係を基盤とし、国際社会の安定と繁栄に向けて、政治・安全保障面での協力・連携を一層深化させている。

両国は、経済面において、TPP協定を始めとする自由貿易の推進に関してリーダーシップを発揮している。日本にとってオーストラリアは第6の貿易相手国、オーストラリアにとって日本は第2の貿易相手国であり、両国は、日豪EPAに基づき、相互補完的な経済関係を更に発展させている。さらに、日米豪、日豪印、日米豪印といった多国間での連携及びパートナーシップも着実に強化されている。

2017年1月、安倍総理大臣は、首脳間の相互訪問の一環でシドニーを訪問し、安全保障・防衛協力の深化、経済分野や人的交流など幅広い分野での「特別な戦略的パートナーシップ」の深化を確認するとともに、首脳間の個人的な関係を強化した。2018年1月にはターンブル首相が訪日し、安倍総理大臣との間で首脳会談を行うとともに、国家安全保障会議(四大臣会合)特別会合に出席した。両首脳は「特別な戦略的パートナーシップ」を一層強化することで一致し、インド太平洋地域に関するビジョンを実現するため、協調と協力を強化することを確認した。さらに、両首脳は北朝鮮情勢を始めとする地域情勢に関する緊密な連携を確認するとともに、安全保障・防衛協力、TPP協定を始めとする経済や人的交流を含む幅広い分野での協力を強化することで一致した。また、外相間では、2017年4月の日豪外務・防衛閣僚協議(「2+2」)を始め、9月の国連総会や11月のAPEC閣僚会合(ベトナム・ダナン)の機会に会談を行い、厳しさを増す地域情勢に対する認識を共有するとともに、地域の平和と安定に向けて緊密に連携していくことを確認した。

国家安全保障会議(四大臣会合)特別会合(1月18日、東京 写真提供:内閣広報室)
国家安全保障会議(四大臣会合)特別会合(1月18日、東京 写真提供:内閣広報室)
陸上自衛隊習志野駐屯地を訪問する両首脳(1月18日、写真提供:内閣広報室(首相官邸Twitter))
陸上自衛隊習志野駐屯地を訪問する両首脳(1月18日、写真提供:内閣広報室(首相官邸Twitter))
イ 安全保障分野での協力

インド太平洋地域の平和と繁栄の確保に向け、日本とオーストラリアは引き続き安全保障分野の協力を着実に強化・拡大させている。2017年は、2007年の「安全保障に関する日豪共同宣言」から10年の節目の年に当たる。1月、両国首脳はシドニーで新しい日豪物品役務相互提供協定(ACSA)の署名に立ち会うとともに(協定は9月に発効)、日本の自衛隊とオーストラリア国防軍の間の共同運用と訓練を円滑にするために、行政的、政策的及び法的な手続を相互に改善する協定の早期妥結に期待を表明した。

4月に行われた第7回「2+2」では、法の支配に基づく自由で開かれた地域・国際秩序を維持・強化するために日本とオーストラリアの安全保障・防衛協力を一層強化することで一致するとともに、北朝鮮、南シナ海・東シナ海を含む海洋安全保障、太平洋地域に関して連携を強化することを確認した。

また、米国の同盟国である両国は、日米豪の連携の更なる強化に引き続き取り組んでいる。8月には、米国トランプ政権発足後初となる日米豪閣僚級戦略対話(TSD)を開催し、北朝鮮、南シナ海・東シナ海、暴力的過激主義対策といった地域の諸課題に関して意見交換を行うとともに、これらの課題を含め、日米豪3か国で緊密に連携・協力していくことで一致した。また、11月には、日米豪首脳会談が行われ、北朝鮮情勢を中心に議論を行い、地域の平和と繁栄の確保を主導するため、日米豪の揺るぎない結束を確認した。

日米豪首脳会談 (11月13日、フィリピン・マニラ 写真提供:内閣広報室)
日米豪首脳会談 (11月13日、フィリピン・マニラ 写真提供:内閣広報室)
ウ 経済関係

日本とオーストラリアは、TPP協定及び東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を含む地域の自由貿易体制の推進について緊密に連携しリーダーシップを発揮している。11月の首脳会談(フィリピン・マニラ)及び外相ワーキングディナー(ベトナム・ダナン)では、TPP11の早期発効に向けて連携することで一致した。日本とオーストラリアの間では、主に自動車などの工業品をオーストラリアへ輸出し、また、主に石炭や天然ガスなどのエネルギー資源や牛肉などの農産物をオーストラリアから輸入するという相互補完的な経済関係が、長年にわたり着実に発展してきている。2017年は日豪通商協定締結60周年であり、記念行事が各地で盛大に開催された。日本はオーストラリアへの第2の投資国であり、2015年1月の日豪EPA発効以降、日豪間のモノや資金、人の移動は活発化している。さらに、日豪交流促進会議の下、イノベーション主導の産業構造転換と地方主導の関係緊密化を二本柱として、日・オーストラリア間の経済関係を更に発展させるための取組が行われている。

日豪外相ワーキングディナー(11月7日、ベトナム・ダナン)
日豪外相ワーキングディナー(11月7日、ベトナム・ダナン)
エ 文化・人的交流

オーストラリアには約36万人に上る日本語学習者(人口比では世界第1位)や100件を超える姉妹都市など長年培われた親日的な土壌が存在する。青少年を含む人的交流事業であるJENESYS2017及び新コロンボ計画による日本とオーストラリア間の相互理解の促進、オーストラリア人元戦争捕虜(POW)の招へいを通じた和解の促進、若手政治家交流など両国関係の基盤強化のための各種取組が行われた。特に、昨今、訪日できる元POWの方々が少なくなってきたことを踏まえ、12月に元POW招へいの成果を振り返る記念事業を開催した。

オ 国際社会における協力

両国は、国際社会の平和と安定に積極的に貢献するため、幅広い分野での協力を強化してきている。特に、海洋安全保障、北朝鮮の核・ミサイル開発や拉致問題といったインド太平洋地域が直面する諸課題に関して協力を深めてきている。そのほか、オーストラリアが重要な役割を担う太平洋島嶼国に関しても緊密に連携している。12月には、第2回日豪太平洋政策対話(東京)を行い、地域情勢に関して意見交換を行うとともに、2018年5月の第8回太平洋・島サミット(PALM8)に向けて連携していくことを確認した。また、国連平和維持活動、軍縮・不拡散、気候変動対策、国連安保理改革などのグローバルな課題についても重要なパートナーとして協働している。

(2)ニュージーランド

ア 概要・総論

ニュージーランドでは、9月、議会選挙が実施され、与党国民党の獲得議席が単独過半数に達せず、各党間で連立交渉が行われた結果、10月に労働党・NZファースト党連立政権が発足し、2008年以来9年ぶりに政権が交代した。日本とニュージーランドは、民主主義、市場経済などの基本的価値を共有し、長年良好な関係を維持している。近年は、「戦略的協力パートナーシップ」の下、経済、安全保障・防衛協力、人物交流を含む二国間協力の強化に加え、地域や国際社会の課題についても協力関係を強化している。

イ 要人往来

日本からは、2月に岸外務副大臣がニュージーランドを訪問し、マカリー外相と会談したほか、クライストチャーチ地震6周年追悼式典へ出席し、政府要人と会談を行った。

ニュージーランドからは、5月にイングリッシュ首相が訪日し、安倍総理大臣と二国間会談を行った。両国は、法の支配に基づく地域の平和と安定及びルールに基づく自由貿易・投資を推進するとともに、両国のパートナーシップを力強く発展させることについて一致した。

また、11月のAPEC首脳会議(ベトナム・ダナン)の際、安倍総理大臣はアーデーン首相との間で、政権交代後初となる首脳会談を行った。また、首脳会談直前のAPEC閣僚会議の際に河野外務大臣はピーターズ副首相兼外相と外相会談を行い、日・ニュージーランド関係を強化していくことで一致した。

アーデーン首相と握手を交わす安倍総理大臣(11月10日、ベトナム・ダナン 写真提供:内閣広報室)
アーデーン首相と握手を交わす安倍総理大臣(11月10日、ベトナム・ダナン 写真提供:内閣広報室)
日・ニュージーランド外相会談(11月8日、ベトナム・ダナン)
日・ニュージーランド外相会談(11月8日、ベトナム・ダナン)
エイボンヘッド墓地で献花する岸外務副大臣(2月22日、ニュージーランド・クライストチャーチ)
エイボンヘッド墓地で献花する岸外務副大臣(2月22日、ニュージーランド・クライストチャーチ)
ウ 経済関係

両国は、相互補完的な経済関係を有しており、11月の首脳会談の際にも、TPP協定の重要性について確認し、早期発効に向けて連携することで一致した。また、食料・農業分野においては、2014年に開始した日本の酪農の収益性を向上させる方法の特定を目的とする「ニュージーランド・北海道酪農協力プロジェクト」が2年間のパイロット・プロジェクトを経て2016年6月に2年間の延長が決定され、実施されている。

エ 文化・人的交流

2017年度は、JENESYS2017の一環として、ニュージーランドから20人の大学生が訪日した。日・ニュージーランド間の青少年等の人的交流は、累計で1,100人を超えた。

また、青少年間の相互理解促進を目的とした姉妹都市間のネットワーク化が進んでいる。さらに、ワールドカップ連覇のラグビーを通じて日本の学生の英語教育を支援するニュージーランド政府主催事業「Game on English」が行われており、2017年にはこの事業により日本から24人の学生がニュージーランドを訪問した。

オ 国際社会における協力

両国は、国連の場を含む国際場裏にて国際社会の平和と安定のために緊密に協力している。また、東アジア首脳会議(EAS)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、アジア太平洋経済協力(APEC)などの地域協力枠組みにおける協力を行うなど、地域の安定と発展のために積極的な役割を果たしている。また、太平洋島嶼国地域については、太平洋・島サミット(PALM)などを通じて協力を行っている。

(3)太平洋島嶼(とうしょ)国

ア 概要・総論

太平洋島嶼国は、日本と太平洋によって結ばれ、歴史的なつながりも深く、国際場裏での協力や水産資源・天然資源の供給において重要なパートナーである。また、太平洋の中心に位置することから、地政学的な観点でもその重要性が高まっている。日本は、1997年から3年に1度、太平洋・島サミット(PALM)を開催しており、2018年5月には第8回太平洋・島サミット(PALM8)が開催される。また、2010年以降は、おおむね3年ごとに太平洋・島サミット中間閣僚会合を実施してきており、2014年以降は9月にニューヨークで行われる国連総会の機会を利用して日本・太平洋島嶼国首脳会合を毎年開催している。ほかにも、1989年に太平洋諸島フォーラム(PIF)が域外国対話を開始して以降、日本は継続してハイレベルが出席している。こうした国際会議の機会も活用した各レベルでの要人往来やODA、活発な人的交流などを通じて、太平洋島嶼国との関係を一層強化してきている。

イ 太平洋・島サミット(PALM)

太平洋・島サミット(PALM)は2017年に20周年の節目を迎えた。2018年5月18日及び19日には、第8回太平洋・島サミット(PALM8)が福島県いわき市において開催される。共同議長となるサモアを含む、太平洋島嶼国14か国の首脳、オーストラリア及びニュージーランドの閣僚レベルの出席が予定されている。

これに先立つ2017年1月には、東京で太平洋・島サミット第3回中間閣僚会合を開催し、岸田外務大臣はロバート・ミクロネシア連邦外相と共同議長を務め、第7回太平洋・島サミット(PALM7)のフォローアップやPALM8に向けた方向性に関して意見交換を行い、PALM8の成功に向けて緊密に協力していくことで一致した。また、9月、米国・ニューヨークを訪問した安倍総理大臣は、国連総会の機会に第4回日本・太平洋島嶼国首脳会合を開催し、北朝鮮情勢に関する連携を確認するとともに、PALM8に向け、気候変動、環境、防災、貿易・投資・観光といった分野を含めた自立的かつ持続的な発展、人的交流の活性化、海洋に係る諸課題等に関して意見交換を行った。各国からは、日本がPALM等を通じて行ってきた貢献に謝意が表されるとともに、PALM8の成功に向けた準備を加速していくことを確認した。

第4回日本・太平洋島嶼国首脳会合(9月19日、米国・ニューヨーク 写真提供:内閣広報室)
第4回日本・太平洋島嶼国首脳会合(9月19日、米国・ニューヨーク 写真提供:内閣広報室)
ウ 要人往来

1月、小田原外務大臣政務官がパラオ共和国大統領就任式に出席するためパラオを訪問し、レメンゲサウ大統領等と会談を行った。9月には、レメンゲサウ大統領が訪日し、河野外務大臣と会談を行った。10月、クリスチャン・ミクロネシア大統領が訪日し、安倍総理大臣や河野外務大臣と会談を行い、二国間関係の強化、PALM8に向けた協力、北朝鮮情勢を始めとする地域情勢、国連安保理改革を含む国際場裏での協力等について意見交換を行った。11月、堀井巌外務大臣政務官は、官民合同経済ミッションの団長としてマーシャルを訪問し、貿易投資セミナーへ出席したほか、ハイネ大統領等と会談した。同月、オイロー・パラオ副大統領兼司法相が閣僚級招へいで訪日し河野外務大臣と、アファマサガ・サモア通信・情報技術相及びウルセマル・ミクロネシア元大統領が堀井巌外務大臣政務官と会談を行った。

クリスチャン・ミクロネシア大統領の訪問(10月25日、東京 写真提供:内閣広報室)
クリスチャン・ミクロネシア大統領の訪問(10月25日、東京 写真提供:内閣広報室)
エ 太平洋諸島フォーラム(PIF)などとの関係

9月、サモアでPIF総会が開催され、総理特使として堀井巌外務大臣政務官が出席した。日本は、自由で開かれたルールに基づく海洋秩序の維持並びに海洋資源の持続可能な活用及び海洋環境の維持保全を地域における政策の優先事項として扱い、太平洋島嶼国と協力していくことを表明した。また、堀井外務大臣政務官は、トゥイラエパ・サモア首相と会談したほか、出席した太平洋島嶼国各国要人と会談した。

オ 文化・人的交流

2015年のPALM7の「3年間で4,000人の人づくり」の強化の一環として、JENESYSを通じた大学生等との人的交流を実施した。また、2016年度から太平洋島嶼国の若手行政官を対象とした太平洋島嶼国リーダー教育支援プログラム(Pacific-LEADS)を開始し、2017年度は41人を受け入れた。

カ 在バヌアツ兼勤駐在官事務所の設立

バヌアツは南太平洋のメラネシア地域に位置する島国であり、これまでも国連安保理改革や国際機関選挙等において日本の立場を支持するなど日本にとって重要な国である。これを踏まえ、日本は2018年1月にバヌアツに兼勤駐在官事務所を設置した。

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