外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

第1節 日本と国際社会の平和と安定に向けた取組

総論
〈安全保障〉

日本を取り巻く安全保障環境は、戦後、最も厳しいといっても過言ではない。北朝鮮は2016年以降、3回の核実験を強行するとともに、2回連続での日本上空を通過した弾道ミサイルの発射を含め、40発もの弾道ミサイルを発射するなど、その脅威はこれまでにない、重大かつ差し迫ったものとなっている。また、中国による透明性を欠いた軍事費の拡大や、東シナ海、南シナ海等の海空域における力を背景とした一方的な現状変更の試みは、国際社会共通の懸念事項となっている。さらに、テロの拡散・多様化、サイバー攻撃等のリスクも深刻化している。

このような安全保障環境の下、日本の安全及び地域の平和と安定を実現するためには、従来以上に日本自身が責任と役割を果たすことが重要となっている。こうした観点から、日本は、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から力強い外交を推進するとともに「平和安全法制」の下、日本の安全確保に努め、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に貢献していくための具体的な取組を進めている。

また、日本を含む、アジア太平洋地域の平和と安定を確保していく上で、米国の存在と役割が重要であることはいうまでもない。こうした観点から、日米両国は、日米安全保障体制の下での米軍の前方展開を確保するとともに、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化するため、新たな日米防衛協力のための指針(ガイドライン)及び平和安全法制の下での取組も含め、弾道ミサイル防衛、サイバー、宇宙、海洋安全保障などの幅広い分野における協力を拡大・強化している。在日米軍再編については、日米両政府として、普天間(ふてんま)飛行場の辺野古(へのこ)移設を始め、現行の日米合意を着実に実施していくことにより、抑止力を維持しつつ、沖縄を始めとする地元の負担軽減を図っていく方針である。

日米同盟の強化に加え、アジア太平洋地域内外のパートナーとの信頼・協力関係を強化し、多層的な安全保障協力関係を築いていく必要がある。オーストラリア、インド、英国やフランスを始めとする欧州諸国、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国などの戦略的利益を共有する各国との間でも安全保障分野における協力を促進している。

さらに、アジア太平洋地域の安全保障面での地域協力の枠組みの制度化を進めていくことも重要である。東アジア首脳会議(EAS)や、ASEAN地域フォーラム(ARF)といった多国間の重層的な地域協力の枠組みや、日米韓、日米豪、日米印、日豪印といった3か国協力及び日米豪印の4か国間協力の枠組みを通じた連携・協力も推進している。

〈平和維持・平和構築〉

日本の安全と繁栄は、日本周辺の安全保障環境の改善のみで達成されるものではなく、国際社会の平和と安定という基盤の上に成り立っている。この考えの下、日本は世界の様々な問題の解決に積極的に取り組んでいる。特に、紛争の予防・再発防止や持続的な平和の実現に向けて取り組む平和構築は、日本の主要な外交課題の一つであり、日本は、平和維持、人道支援、和平プロセスの促進、治安の確保、復興・開発などの一連の活動に総合的に取り組んでいる。具体的には、国連平和維持活動(PKO)や国連平和構築委員会(PBC)などへの積極的な協力、政府開発援助(ODA)を活用した社会基盤整備や人材育成などを実施してきている。

〈治安上の脅威〉

イラク・シリアにおける「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」の支配領域は縮小したが、ISILの影響下にあった外国人テロ戦闘員の母国への帰還や第三国への移動により、テロの脅威は拡散し、アジアにも、その脅威が高まっている。2017年5月、「ISIL東アジア」を自称するグループがフィリピン・マラウィ市の一部を占拠した。掃討作戦は完了したが、同市を含むミンダナオ島における情勢には引き続き注視が必要である。

2016年、日本はG7伊勢志摩サミットで「テロ及び暴力的過激主義対策に関するG7行動計画」を取りまとめ、また、同年の日・ASEAN首脳会議においては、①テロ対処能力向上、②テロの根本原因である暴力的過激主義対策及び③穏健な社会構築を下支えする社会経済開発のための取組から成る総合的なテロ対策強化策を表明した。これらに従い、日本は、テロ及び暴力的過激主義対策における国際協力を着実に推進している。

〈軍縮・不拡散・原子力の平和的利用〉

日本は、唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界の実現に向け、軍縮・不拡散に積極的に取り組んでいる。核軍縮を進めるためには、核兵器国と非核兵器国双方の協力を得て、現実的かつ実践的な取組を積み重ねていくことが必要である。こうした考えに基づき、5月には、2020年核兵器不拡散条約(NPT)1運用検討会議第1回準備委員会に岸田外務大臣が出席し、日本の核廃絶に向けた道筋を表明した。9月には、河野外務大臣が第10回包括的核実験禁止条約(CTBT)2発効促進会議に出席し、CTBT早期発効に向けた国際社会の努力を引き続き主導する決意を述べるとともに、第9回軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)3外相会合をドイツと共催し、2020年NPT運用検討会議に向けて、NPDIとして連携していくことを確認し、北朝鮮の核実験・ミサイル発射を強く非難する声明を発出した。

また、核軍縮の進め方をめぐって各国の立場の違いが顕在化する中、全ての国々の信頼関係を再構築し、立場の異なる国の橋渡しを行うべく、共通の基盤の提供を目指して日本が国連総会に提出した核兵器廃絶決議案は様々な立場の国から幅広い支持を得て採択された。さらに、11月には、核軍縮に関し様々な立場を採る国々の間の協力と信頼関係を再構築し、核軍縮の実質的な進展に資する提言を得るべく「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」の第1回会合を広島で開催した。

日本は、大量破壊兵器などの不拡散体制の強化にも力を入れている。代表的なものとして、国際的な核不拡散体制の中核である国際原子力機関(IAEA)4の保障措置5の強化・効率化に向けた取組を行っている。また、兵器及び関連汎用品・技術の適切な輸出管理のための枠組みである輸出管理レジームに参加している。

地域における核拡散の問題については、EU3(英仏独及び欧州連合(EU))+3(米中露)とイランとの間の核合意の履行が継続しており、IAEAは、イランが核合意に基づく自らのコミットメントを遵守していると報告してきている。

一方、北朝鮮の核・ミサイル問題は、東アジアのみならず国際社会にとって新たな段階の脅威となっている。日本は、こうした状況を踏まえ、各国と核問題や核不拡散について協議を継続するとともに、特にアジアの開発途上国を中心に、IAEAの保障措置や輸出管理等の不拡散分野に係る能力構築を行っている。

また、核物質などがテロリストやその他の犯罪者の手に渡ることを防ぐための取組である「核セキュリティ」についても、東京で関連会合を開催するなど、積極的に取り組んでいる。

日本は、核不拡散を確保しつつ、NPTの三本柱の一つである原子力の平和的利用を促進していくことを基本としている。二国間原子力協定の締結などによる原子力の平和的利用の促進など、その取組は多岐にわたっており、開発途上国における原子力の平和的利用の促進と開発課題への貢献も重視している。また、国際社会の理解と支援を得ながら東京電力福島第一原子力発電所事故対応と復興を進めるとともに、事故の経験を国際社会に共有することで、国際的な原子力安全の強化に貢献している。

〈海洋・サイバー・宇宙〉

力ではなく、法とルールが支配する海洋秩序に支えられた「自由で開かれ安定した海洋」は、日本だけではなく国際社会全体の平和と繁栄に不可欠である。海洋秩序の維持・強化に貢献していくという観点から、日本は、「自由で開かれたインド太平洋戦略」の下、海賊対策を始め様々な取組や各国との連携・支援を通じて、航行・上空飛行の自由や海上交通の安全確保に尽力している。特に、四方を海に囲まれた海洋国家である日本にとって、海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約:UNCLOS)が根幹を成す海洋秩序は、海洋権益の確保や海洋に関する活動を円滑に行うために不可欠なものである。

サイバーについて、日本は、自由、公正かつ安全なサイバー空間の創出に向け、民間企業、専門家等の幅広い関係者と協力しつつ、サイバー空間における法の支配の推進を含むサイバー安全保障に関する国際的な議論に積極的に貢献している。また、各国とサイバー分野に関する対話・協議を行い、具体的な協力や信頼醸成措置を進めるとともに、開発途上国等の能力構築のために支援を行っている。

宇宙分野では、宇宙利用の多様化や活動国の増加に伴うリスクの増大に対応するため、日本は、各国との宇宙に関する対話・協議を通じて宇宙空間における法の支配の確立に向けて取り組むとともに、宇宙科学・探査における国際協力の促進、日本の宇宙産業の海外展開支援等に取り組んでいる。

2016年1月から2017年までの2年間、日本は加盟国中最多の11回目となる国連安全保障理事会(国連安保理)の非常任理事国を務めた(特集「最多11回目の安保理非常任理事国(任期を終えた総括)」168ページ参照)。任期中、国際の平和と安全のために主導的な役割を果たすべく、北朝鮮を始め、アフリカや中東などの課題をめぐる議論に積極的に貢献してきた。

また、今日の課題に国連安保理がより効果的に対処していくためには、21世紀の国際社会の現実を踏まえた形での国連安保理の改革が急務であるとの考えから、日本の常任理事国入りを含む安保理改革にも力を入れている。さらに、日本が常任理事国入りするまでの間も、国際社会の平和と安全の維持に貢献し続けるために、可能な限り頻繁に理事国となるべく、2022年国連安保理非常任理事国選挙に立候補した。

今日、国際社会は、紛争やテロ、難民、貧困、気候変動、感染症など、国境を越えた様々な課題に直面しており、国連が果たすべき役割は更に大きくなっている。日本は、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の下、国連を通じ、一層積極的にこれらの諸課題に取り組んでいく。また、国連が国際社会が直面する諸課題により効果的に対応できるよう、国連安保理を始めとする国連改革にも引き続き積極的に取り組んでいく。

〈法の支配〉

「法の支配」とは、全ての権力に対する法の優越を認める考え方であり、国内において公正で公平な社会に不可欠な基礎であると同時に、友好的で平等な国家間関係から成る国際秩序の基盤となっている。また、法の支配は国家間の紛争の平和的解決を図るとともに、各国内における「良い統治」(グッド・ガバナンス)を促進する上で重要な要素でもある。このような考え方の下、日本は安全保障、経済・社会分野、刑事分野など様々な分野において二国間・多国間でのルール作りとその適切な実施を推進している。さらに、紛争の平和的解決や法秩序の維持を促進するため、日本は国際司法裁判所(ICJ)、国際海洋法裁判所(ITLOS)、国際刑事裁判所(ICC)を始めとする国際司法機関の機能強化に人材面・財政面からも積極的に協力している。また、法制度整備支援のほか、国際会議への参画、各国との意見交換や国際法関連の行事の開催を通じて、アジア諸国を始めとする国際社会における法の支配の強化に努めてきている。

〈人権〉

人権や自由、民主主義は基本的価値である。その保護・促進は全ての国家の基本的な責務であると同時に、国際社会全体の正当な関心事項である。これらが各国で十分に保障されることは、日本国内の平和と繁栄のみならず、国際社会に平和と安定の礎を築いていくために必要である。そのため、日本は人権分野に積極的に取り組んでいる。具体的には、対話と協力の姿勢に基づき、世界の人権状況改善に向けた貢献や二国間での対話、国連など多数国間のフォーラムへの積極的参画、国際人権メカニズムとの建設的な対話を行ってきている。

〈女性〉

日本は、国内外で「女性が輝く社会」を実現するために、国際社会の先頭に立ってジェンダー平等と女性のエンパワーメント推進に向けた取組を進めている。その一環として、国際女性会議WAW!等を通じて世界における女性の活躍を促進するための議論を主導している。また、国際協力分野では、開発途上国の女性たちの活躍を推進するため、女性の社会進出と能力の更なる強化に向けた「女性の活躍推進のための開発戦略」に基づき、2018年までに総額約30億米ドル以上の支援を行うことを表明し、着実に実施している。

1 1968年に署名開放され、1970年に発効。締約国は191か国(非締約国はインド、パキスタン、イスラエル、南スーダン)。(1)核不拡散:米国、ロシア、英国、フランス、中国の5か国を「核兵器国」と定め、「核兵器国」以外への核兵器の拡散を防止、(2)核軍縮:各締約国による誠実に核軍縮交渉を行う義務を規定(第6条)、(3)原子力の平和的利用:原子力の平和的利用は締約国の「奪い得ない権利」と規定するとともに(第4条1)、原子力の平和的利用の軍事技術への転用を防止するため、非核兵器国が国際原子力機関(IAEA)の保障措置を受諾する義務を規定(第3条)

2 宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる場所における核兵器の実験的爆発及び核爆発を禁止。1996年に署名開放されたが、2017年12月現在、条約発効のために批准が必要な国(発効要件国)全44か国のうち、中国、エジプト、イラン、イスラエル及び米国が未批准、インド、北朝鮮及びパキスタンが未署名のために未発効となっている。なお、過去2年間では2016年9月にミャンマー及びスワジランドが批准し、現在タイが批准に向けて国内手続中である。

3 2010年に日本及びオーストラリアが主導して立ち上げた地域横断的な非核兵器国のグループ。カナダ、チリ、ドイツ、ポーランド、メキシコ、オランダ、トルコ、アラブ首長国連邦、フィリピン及びナイジェリアの計12か国が参加

4 IAEAは、原子力の平和的利用を促進するとともに、原子力が平和的利用から軍事的利用に転用されることを防止することを目的とし、1957年に設立された。事務局はウィーンに設置されている。最高意思決定機関は全加盟国で構成され年1回開催される総会である。総会に対して責任を負うことを条件に、35か国で構成される理事会がIAEAの任務を遂行する機関として機能している。2017年2月現在、168か国が加盟

5 IAEAが各国と個別に締結した保障措置協定に基づき、査察などの手段により、核物質が平和的目的だけに利用され、核兵器などに転用されないことを担保するために行われる検認活動(査察、各国の計量管理(核物質の在庫量の管理)記録のチェックなど)。NPT締約国である非核兵器国は、NPT第3条に基づき、IAEAとの間で保障措置協定を締結し、国内の全ての核物質について保障措置(包括的保障措置)を受け入れることが求められている。

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