外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

各論

1 安全保障に関する取組

(1)国際協調主義に基づく「積極的平和主義」

日本を取り巻く安全保障環境は、戦後、最も厳しいといっても過言ではない。北朝鮮は、国際社会の平和的解決への強い思いを踏みにじり挑発行動を継続している。2016年以降3回の核実験を強行するとともに、2回連続で、日本上空を通過した弾道ミサイルを含め40発もの弾道ミサイルを発射するなど、その脅威はこれまでにない、重大かつ差し迫ったものとなっている。また、中国は、公表されているだけで、国防費を過去29年間で約49倍に増加させる一方で、その細部内訳を明らかにせず、透明性を欠いたまま広範かつ急速に軍事力を強化している。東シナ海・南シナ海の海空域において、既存の国際秩序とは相いれない独自の主張に基づく力を背景とした一方的な現状変更の試みを継続している。さらに、大量破壊兵器等の拡散やテロの脅威の深刻化、サイバー空間や宇宙空間などの新たな領域における課題の顕在化等グローバルな安全保障上の課題は多様化している。このような安全保障環境の下、世界のどの地域で脅威が出現しても、日本の安全保障に影響を及ぼし得るとともに、どの国も、一国のみで自らの安全を守ることはできない状況となっている。

2017年11月29日に北朝鮮が発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の弾道ミサイル
2017年11月29日に北朝鮮が発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の弾道ミサイル
中国公船等による尖閣諸島周辺の接続水域内入域及び領海侵入隻数(海上保安庁ホームページより)
中国公船等による尖閣諸島周辺の接続水域内入域及び領海侵入隻数(海上保安庁ホームページより)

日本は、戦後一貫して日本国憲法の下で平和国家として歩み、国際社会や国連を始めとする国際機関と連携し、国際社会の平和と繁栄に積極的に寄与してきた。このような日本の姿勢は、国際社会で高い評価と信頼を勝ち得てきており、国際社会は、日本がその国力にふさわしい形で国際社会の平和と安全のため一層積極的な役割を果たすことを期待している。

今後とも、日本は、平和国家としての歩みを引き続き堅持し、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から力強い外交を推進し、国際社会の平和と安定に一層積極的に貢献していく。

南シナ海において埋立て・軍事化が進むファイアリークロス礁 上:2014年8月14日 下:2017年11月19日(赤塗り部分:2017年に構築された拠点)
南シナ海において埋立て・軍事化が進むファイアリークロス礁
上:2014年8月14日
下:2017年11月19日(赤塗り部分:2017年に構築された拠点)

(2)「平和安全法制」の施行及び法制に基づく取組

日本を取り巻く安全保障環境の変化に対応し、国民の命と平和な暮らしを守るためには、力強い外交を推進し、安定し、かつ、見通しがつきやすい国際環境を創出していくことが重要である。その上で、あらゆる事態に対し切れ目のない対応を可能とするとともに、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の下、国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献することが重要であり、そのための「平和安全法制」が、2016年3月に施行された。

この法制は、専守防衛を始めとする日本の平和国家としての歩みをより確固としたものにしていくためのものである。また、これにより、日米同盟を強化し、日本の抑止力を向上させ、紛争を未然に防ぐとともに、国際社会へのより一層の貢献が可能となった。そして、「平和安全法制」により、自衛隊により実施可能な物品・役務の提供が拡大されたことも踏まえ、米国(4月)及びオーストラリア(9月)との間で新たな物品役務相互提供協定(ACSA)が発効するとともに、英国(8月)との間でもACSAが発効した。また、カナダとの間ではACSAの交渉が実質合意に、フランスとの間では大枠合意に至った。

「平和安全法制」については、様々な機会を捉えて、諸外国に対し、その内容を丁寧に説明してきている。これに対し、米国はもとより、オーストラリア、ASEAN諸国、ヨーロッパ諸国、中南米諸国、国連を始め多くの国・機関から、理解と支持が表明されている。これは、「平和安全法制」が、世界の平和と安全に貢献する法律であることの何よりの証である。

(3)領土保全

領土保全は、政府にとって基本的な責務である。日本の領土・領空・領海は断固として守り抜くとの方針は不変であり、引き続き毅然(きぜん)かつ冷静に対応する考えであり、政府関係機関が緊密に協力し、いかなる不法行為に対しても切れ目のない十分な対応を確保するための取組を推進している。同時に、在外公館の人脈や知見をいかしつつ、領土保全に関する日本の主張を積極的に国際社会に発信している。

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