外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

第2節 アジア・大洋州

1 概観

〈全般〉

アジア・大洋州地域は、先進国や新興国を含む様々な発展段階の国・地域が存在し、多種多様な文化や人種が入り交じり、相互に影響を与え合うダイナミックな地域である。同地域は、豊富な人材に支えられ、世界経済を牽(けん)引し、存在感を増している。世界の約81億人の人口のうち、米国及びロシアを除く東アジア首脳会議(EAS)(1)参加国(2)には約38億人が居住しており、世界全体の約46%を占めている(3)。名目国内総生産(GDP)の合計は33.0兆ドル(2023年)であり、世界全体の30%以上を占める(4)。緊密な経済関係を構築し、今後も成長が見込まれるこの地域の力強い成長は、日本に豊かさと活力をもたらすことにもつながる。

一方この地域では、北朝鮮の核・ミサイル開発、地域諸国による透明性を欠いた形での軍事力の強化・近代化、法の支配や開放性に逆行する力による現状変更の試み、海洋をめぐる問題における関係国・地域間の緊張の高まりなど、安全保障環境は厳しさを増している。また、整備途上の経済・金融システム、環境汚染、気候変動、不安定な食料・資源需給、頻発する自然災害、テロリズム、少子高齢化など、この地域の安定した成長を阻む要因も抱えている。

その中で、日本は、この地域で首脳・外相レベルも含め積極的な外交を展開し、近隣諸国との良好な関係を維持・発展させている。4月、岸田総理大臣は国賓待遇での米国公式訪問の際、ワシントンD.C.において、初開催となる日米比首脳会合に臨んだ。3か国の首脳は、航行・上空飛行の自由への揺るぎないコミットメントを強調し、経済的威圧への対応、サプライチェーン強靱(じん)化を含め連携を強化していくことで一致した。

5月、岸田総理大臣は、韓国において約4年半ぶりに開催された日中韓サミットに出席し、日中韓プロセスの再活性化を歓迎し、未来志向の実務協力を推進していくことで一致した。7月にワシントンD.C.で開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会合に出席した際には、日豪NZ(ニュージーランド)韓(IP4)首脳会議を行うとともに、IP4とバイデン大統領との懇談IP4+ウクライナ首脳会合を行った。同月、岸田総理大臣は、ブラウン・クック諸島首相の共同議長の下、東京で第10回太平洋・島サミット(PALM10)を開催し、日本と太平洋島嶼(しょ)国・地域が共通の課題に取り組みながら、未来に向けて「共に歩む」関係を確認し、議論の成果として首脳宣言及び共同行動計画を採択した。

9月、岸田総理大臣は、韓国を訪問し、尹錫悦(ユンソンニョル)韓国大統領と12回目となる首脳会談を行った。また、同月、米国で行われた日米豪印首脳会合に出席し、日米豪印の4か国が「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」という共通のビジョンへの強固なコミットメントを国際社会に示し続けていくことで一致した。また、同地でオーストラリアインドと首脳会談を行い、ニューヨークにおいて、パラオモンゴルと首脳会談を行った。

10月、石破総理大臣が、総理大臣就任後初の外国訪問として、ASEAN関連首脳会議に出席するためラオスを訪問した。石破総理大臣からは、半世紀にわたる日本とASEANの信頼関係を更に強固なものとするとの強い決意を伝達した。また、韓国中国インドフィリピンラオスベトナムオーストラリアタイの首脳と会談・立ち話を行った。

11月、アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議に出席するため訪問したペルーでは、マレーシア中国ベトナムインドネシア韓国の首脳と会談・懇談を行ったほか、日米韓首脳会合に出席し、日米韓調整事務局を立ち上げ、これを活用しつつ、引き続き、北朝鮮への対応を含む様々な分野で緊密に連携することで一致した。

上川外務大臣は、2月、サモアを訪問するとともに、フィジーで開催された太平洋・島サミット(PALM)第5回中間閣僚会合に出席し、10か国などと個別に会談を行った。同月、G20外相会合参加のため訪問していたブラジルで日韓外相会談を行い、日米韓外相会合に出席し、日米韓協力のモメンタムを加速していくことと、北朝鮮の完全な非核化に向け、引き続き緊密に連携することを再確認した。

上川外務大臣は、5月、経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会(MCM)に出席した際、サルムサイ・ラオス副首相兼外相と会談を行った。また、5月にスリランカ及びネパール7月にカンボジア及びフィリピンを訪問し、それぞれ首脳表敬、外相会談などを行ったほか、フィリピンでは外務・防衛閣僚会合(「2+2」)の開催日比部隊間協力円滑化協定(RAA)の署名なども行った。また、7月、ラオスで開催されたASEAN関連外相会議に出席し、共同ビジョン・ステートメントの三つの柱に沿って、幅広い協力が着実に進展していることを説明した。また、日・メコン外相会議を開催し、ラオス中国韓国インドネシアシンガポール東ティモールと外相会談を行った。同月、上川外務大臣は、東京で日米豪印外相会合を開催し、ルールに基づく海洋秩序のための国際法の遵守の重要性を強調し、力又は威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対することを再確認した。また、8月には、インドを訪問し、外務・防衛閣僚会合(「2+2」)を実施したほか、首相表敬外相会談などを行った。

9月、上川外務大臣は、オーストラリアを訪問し、外務・防衛閣僚協議(「2+2」)に出席するとともに、日豪外相ワーキング・ディナーを行った。また、国連総会出席のため訪問したニューヨーク(米国)日中外相会談を行うとともに、日米韓外相会合を行い、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序が試練を迎える中、日米韓で一層緊密に連携していくことで一致した。

11月、岩屋外務大臣は、ペルーで開催されたAPEC閣僚会議に出席した際、タイマレーシアインドネシアベトナムニュージーランドの外相との懇談を行ったほか、日韓外相会談を行った。また、12月には中国を訪問し、外相会談第2回日中ハイレベル人的・文化交流対話の実施などを行った。

〈日米同盟とインド太平洋地域〉

日米同盟は日本の外交・安全保障の基軸であり、インド太平洋地域、そして国際社会の平和と繁栄の基盤である。地域の安全保障環境が一層厳しさを増す中、日米同盟の重要性はこれまでになく高まっている。かつてなく強固な日米の協力関係の下、米国とは、2021年1月のバイデン政権発足以降、電話会談を含め23回の首脳会談及び36回の外相会談(2024年12月時点)を行うなど、首脳及び外相間を始めとするあらゆるレベルで常時意思疎通し、連携して地域と国際社会の平和と安定を堅持するため尽力している。日米両国はFOIPの実現に向けた協力を進め、また、中国や北朝鮮、ロシア・ウクライナ情勢及び中東情勢を含む地域の諸課題への対応に当たり連携を深めている。

4月、岸田総理大臣は、日本の総理大臣として9年ぶりに国賓待遇で米国を公式訪問し、バイデン大統領と日米首脳会談を行った。岸田総理大臣から、日米両国は深い信頼と重層的な友好関係で結ばれており、このかつてなく強固な友好・信頼関係に基づき、日米両国が二国間や地域にとどまらず、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を共に維持・強化するグローバル・パートナーとなっていると述べた。両首脳は、地域情勢について意見交換を行い、力又は威圧による一方的な現状変更の試みは、世界のいかなる場所であれ、断じて許容できず、同盟国・同志国と連携し、引き続き毅(き)然として対応することを再確認した。会談の成果として発出された日米共同声明において、「自由で開かれたインド太平洋及び世界」を実現するために、日米両国が共に、そして他のパートナーと共に、絶え間ない努力を続けることを誓うことが確認された。また、米国連邦議会上下両院合同会議における演説においても、岸田総理大臣は同志国と共に「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指すと述べた。

7月には、ブリンケン国務長官及びオースティン国防長官が訪日し、日米安全保障協議委員会(日米「2+2」)を行った。日本側から、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を揺るがす動きが続いており、日米両国の今日の決定が将来を決定付ける重要な局面にある、既存の国際秩序を守り抜くために、同盟を絶え間なく強化し、抑止力を高めていかなくてはならないと伝達した。米国側は、自由で開かれたインド太平洋地域を維持する両国の能力を支える同盟の役割、任務及び能力の強化における並外れた進展を祝福した。

10月に発足した石破政権でも、日米同盟の強化は、政権の外交・安全保障政策上の最優先事項と位置付けられている。石破総理大臣は11月にペルーでバイデン大統領と日米首脳会談を行い、日米同盟の強化や、日米韓などの同志国ネットワークの更なる発展に向け、今後も引き続き協力していくことや、核・ミサイル問題及び拉致問題を含む北朝鮮情勢への対応について引き続き日米で緊密に連携していくことで一致した。また、岩屋外務大臣もブリンケン国務長官との間で日米外相会談を行い、中国をめぐる諸課題や核・ミサイル問題及び拉致問題を含む北朝鮮への対応、ウクライナ情勢といった地域情勢について意見交換を行い、日米同盟の抑止力・対処力の一層の強化に向けた協力や同志国連携を進めていくことで一致した。

12月に訪日したオースティン国防長官は石破総理大臣への表敬を行い、一層厳しさを増す地域の安全保障環境を念頭に、同盟の抑止力・対処力強化に向けた日米間の安全保障・防衛協力について意見交換を行うとともに、同盟の指揮・統制の向上、防衛装備・技術協力の推進、更には同志国ネットワークの強化などを継続していくことで一致した。

〈慰安婦問題についての日本の取組〉

(日韓間の慰安婦問題については、57ページ 3(2)イ(ウ)参照)

慰安婦問題を含め、先の大戦に関する賠償並びに財産及び請求権の問題について、日本政府は、米国、英国、フランスなど45か国との間で締結したサンフランシスコ平和条約及びその他二国間の条約などに従って誠実に対応してきており、これらの条約などの当事国との間では、個人の請求権の問題も含め、法的に解決済みである。

その上で、日本政府は、元慰安婦の方々の名誉回復と救済措置を積極的に講じてきた。1995年には、日本国民と日本政府の協力の下、元慰安婦の方々に対する償いや救済事業などを行うことを目的として、財団法人「女性のためのアジア平和国民基金」(略称:「アジア女性基金」)が設立された。アジア女性基金には、日本政府が約48億円を拠出し、また、日本人一般市民から約6億円の募金が寄せられた。日本政府は、元慰安婦の方々の現実的な救済を図るため、元慰安婦の方々への「償い金」や医療・福祉支援事業の支給などを行うアジア女性基金の事業に対し、最大限の協力を行ってきた。アジア女性基金の事業では、元慰安婦の方々285人(フィリピン211人、韓国61人、台湾13人)に対し、国民の募金を原資とする「償い金」(一人当たり200万円)が支払われた。また、アジア女性基金は、これらの国・地域において、日本政府からの拠出金を原資とする医療・福祉支援事業として一人当たり300万円(韓国・台湾)、120万円(フィリピン)を支給した(合計金額は、一人当たり500万円(韓国・台湾)、320万円(フィリピン))。さらに、アジア女性基金は、日本政府からの拠出金を原資として、インドネシアにおいて、高齢者用の福祉施設を整備する事業を支援し、また、オランダにおいて、元慰安婦の方々の生活状況の改善を支援する事業を支援した。

個々の慰安婦の方々に対して「償い金」及び医療・福祉支援が提供された際、その当時の内閣総理大臣(橋本龍太郎内閣総理大臣、小渕恵三内閣総理大臣、森喜朗内閣総理大臣及び小泉純一郎内閣総理大臣)は、自筆の署名を付したお詫(わ)びと反省を表明した手紙をそれぞれ元慰安婦の方々に直接送った。

2015年の内閣総理大臣談話に述べられているとおり、日本としては、20世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去を胸に刻み続け、21世紀こそ女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、リードしていく決意である。

このような日本政府の真摯な取組にもかかわらず、「強制連行」や「性奴隷」といった表現のほか、慰安婦の数を「20万人」又は「数十万人」と表現するなど、史実に基づくとは言いがたい主張も見られる。

これらの点に関する日本政府の立場は次のとおりである。

●「強制連行」

これまでに日本政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった。

●「性奴隷」

「性奴隷」という表現は、事実に反するので使用すべきでない。この点は、2015年12月の日韓合意の際に韓国側とも確認しており、同合意においても一切使われていない。

●慰安婦の数に関する「20万人」といった表現

「20万人」という数字は、具体的な裏付けがない数字である。慰安婦の総数については、1993年8月4日の政府調査結果の報告書で述べられているとおり、発見された資料には慰安婦の総数を示すものはなく、また、これを推認させるに足りる資料もないので、慰安婦の総数を確定することは困難である。

日本政府は、これまで日本政府がとってきた真摯な取組や日本政府の立場について、国際的な場において明確に説明する取組を続けている。具体的には、日本政府は、国連の場において、2016年2月の女子差別撤廃条約に基づく第7回及び第8回政府報告審査(5)2021年9月提出の同条約の実施状況に関する第9回政府報告、2024年10月の第9回政府報告審査及び2022年10月の市民的及び政治的権利に関する国際規約に基づく第7回政府報告審査(6)を始めとする累次の機会を捉え、日本の立場を説明してきている。

また、韓国のほか、一部の国・地域でも慰安婦像(7)などが設置されており、このような動きは日本政府の立場と相容(い)れない、極めて残念なものである。日本政府としては、引き続き、様々な関係者にアプローチし、日本の立場について説明する取組を続けていく。

慰安婦問題についての日本の取組に関する外務省ホームページの掲載箇所はこちら

https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/rp/page25_001910.html

外務省ホームページ掲載箇所QRコード

(1) EAS:East Asia Summit

(2) 東南アジア諸国連合(ASEAN)(加盟国:ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ及びベトナム)、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア及びニュージーランド

(3) 出典:国連人口基金

(4) 出典:世界銀行

(5) 詳細は外務省ホームページ参照:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/rp/page24_000733.html

外務省ホームページQRコード

(6) 規約第40条(b)に基づく第7回報告(自由権規約委員会からの事前質問票に対する回答)(2020年3月)はこちら:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100045760.pdf

規約第40条(b)に基づく第7回報告QRコード

(7) 分かりやすさの観点から、便宜上、「慰安婦像」との呼称を用いるが、この呼称は、これらの像に係る元慰安婦についての描写が正しいとの認識を示すものでは決してない。

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