外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

3 朝鮮半島

(1)北朝鮮(拉致問題含む。)

日本は、2002年9月の日朝平壌(ピョンヤン)宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化を図ることを基本方針として、引き続き様々な取組を進めている。北朝鮮は、2024年、大陸間弾道ミサイル(ICBM)級弾道ミサイルの発射や衛星打ち上げを目的とする弾道ミサイル技術を使用した発射を含め、高い頻度かつ様々な態様で、弾道ミサイルなどの発射を繰り返し行った。一連の北朝鮮の行動は、日本の安全保障にとって重大かつ差し迫った脅威であるとともに、地域及び国際社会に対する明白かつ深刻な挑戦であり、断じて容認できない。日本としては、引き続き、米国や韓国を始めとする国際社会とも協力しながら、関連する国連安保理決議の完全な履行を進め、北朝鮮による核・弾道ミサイル計画の完全な廃棄を求めていく。時間的制約のある拉致問題は、ひとときもゆるがせにできない人道問題であるとともに、その本質は国家主権の侵害である。北朝鮮に対して2014年5月の日朝政府間協議における合意(ストックホルム合意)(14)の履行を求めつつ、米国及び韓国を始めとする国際社会とも緊密に連携し、全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現するため、引き続き、全力を尽くしていく。

ア 北朝鮮の核・ミサイル問題
(ア)北朝鮮の核・ミサイル問題をめぐる最近の動向

北朝鮮は、累次の国連安保理決議に従った、全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄を依然として行っていない。

2024年、北朝鮮は、11回、少なくとも22発の弾道ミサイルの発射などを行った。1月14日に、弾道ミサイルを発射し、3月18日にも「超大型放射砲」と称する弾道ミサイルを発射した。その後、4月2日には「極超音速滑空飛行弾頭を装着した新型の中長距離固体弾道ミサイル」と称する弾道ミサイルを、同月22日には、「核模擬弾頭を搭載した超大型放射砲」と称する弾道ミサイルを、それぞれ発射した。

5月27日、北朝鮮は、同日から6月4日の間に衛星を打ち上げると通報し、その日のうちに、弾道ミサイル技術を使用した発射を強行した。その上で、5月27日付で、「軍事偵察衛星「万里鏡1-1」号の打ち上げ」を行ったが「第一段階の飛行中に空中爆発したため打ち上げは失敗した」と発表した。さらに、5月30日にも「超大型放射砲」と称する弾道ミサイルを発射した。

北朝鮮は、6月26日にも弾道ミサイルを発射し、「個別機動弾頭の分離及び誘導制御試験を成功裏に実施した」と発表した。また、9月12日及び9月18日にも弾道ミサイルを発射した。

北朝鮮は、10月31日、平壌近郊から、ICBM級弾道ミサイルを発射した。同ミサイルの飛翔時間は約86分、最高高度は約7,000キロメートルを超え、過去最長の飛翔時間かつ過去最高の飛翔高度であったと推定される。北朝鮮は、発射した弾道ミサイルを「最新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星砲19」」と呼称し、この発射現場において、金正恩(キムジョンウン)国務委員長が、核武力強化路線を絶対に変えないことを断言したと報じられた。さらに、11月5日にも少なくとも7発の弾道ミサイルを発射した。

安保理決議に違反するこれら一連の発射を受け、日本は2023年から2024年にかけての安保理理事国として、米国、韓国を始めとする関係国と連携しつつ、累次にわたり会合を開催するなど安保理において毅然とした対応をとるべく尽力したが、一部の国々の消極的な姿勢により、安保理は一致した対応がとれていない。3月28日には、北朝鮮制裁委員会専門家パネルの活動に関する安保理決議案が、ロシアの拒否権行使により否決された。これにより、2009年に国連安保理決議第1874号に基づいて設置されて以来、毎年安保理において全会一致でその権限が更新され、関連安保理決議の実効性を向上させるための重要な役割を果たしてきた同専門家パネルは、4月末に活動を終了した。この専門家パネルの活動終了を受け、10月16日、日米韓を始めとした同志国は共同声明を発出し、多国間制裁監視チーム(MSMT)(15)を立ち上げた。MSMTは、関連安保理決議に基づく制裁の違反及び回避に関する情報を参加国間で共有し、また国際社会に向けて発信していくことで、関連安保理決議の完全な履行に貢献することが期待される。

また、日本政府は、対北朝鮮措置として、これまで合計で144団体・133個人を資産凍結などの対象に指定している。

北朝鮮の核活動について、北朝鮮は、9月13日に金正恩国務委員長による「核兵器研究所」及びウラン濃縮施設を含む「兵器級核物質生産基地」の視察を公表し、金正恩国務委員長が「兵器級核物質の生産を増やすための長期計画に関する重要課題」を提示したと発表した。また、1月に開催された最高人民会議14期第10回会議では、金正恩国務委員長が「もし敵が戦争の火花を散らすなら、共和国は核兵器が含まれる自らの手中の全ての軍事力を総動員して我々の敵を断固として懲罰するであろう」と述べたと報じられた。

さらに、北朝鮮は、核・ミサイル計画の資金源と見られる、不正なサイバー関連活動を継続している。国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネルは、これまでの国連安保理決議に基づく対北朝鮮措置に関する報告書において、北朝鮮のサイバー攻撃グループが、引き続き暗号資産関連企業及び取引所などを標的にしていることや、北朝鮮が外国に派遣しているIT労働者が身分を偽って仕事を受注することで収入を得ており、これらが北朝鮮の核・ミサイル開発の資金源として利用されていることを指摘している。

(イ)日本の取組及び国際社会との連携

北朝鮮による度重なる弾道ミサイルなどの発射は、日本のみならず、国際社会に対する深刻な挑戦であり、断じて容認できない。北朝鮮による全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄に向け、国際社会が一致結束して、安保理決議を完全に履行することが重要である。日本は、これらの点を、各国首脳・外相との会談などにおいて確認してきている。11月5日には、北朝鮮による大陸間弾道ミサイル発射に関するG7外相声明が発出された。

また、日米韓3か国の連携は北朝鮮への対応を超えて地域の平和と安定にとっても不可欠であるとの認識の下、3か国の間では、首脳会合、外相会合、次官協議などの開催を通じ、重層的かつ安定的に協力を進めてきている。首脳レベルでは、11月15日、リマ(ペルー)におけるAPEC首脳会議の機会に日米韓首脳会合が開催された。同会合後には、日米韓首脳共同声明を発出した。外相レベルでは、2月22日、リオデジャネイロ(ブラジル)におけるG20外相会合の機会に、また、9月23日、ニューヨーク(米国)において、日米韓外相会合が開催された。10月31日には日米韓外相電話会談を実施し、ICBM級弾道ミサイルの発射を強く非難した。次官レベルでも、5月31日にワシントンD.C.(米国)近郊において、また、10月17日にソウル(韓国)において日米韓次官協議が開催され、いずれの協議の後にも、日米韓次官共同声明を発出した。さらに、11月の日米韓首脳会合の際には日米韓調整事務局の立ち上げを発表し、同月20日にその初会合を実施して、3か国で幅広い分野での日米韓連携の進展を確認した上で、このモメンタムを更に強化するため、日米韓調整事務局を通じた3か国の連携を推進していくことで一致した。12月9日には東京において北朝鮮に関する日米韓協議を対面で実施し、様々な情勢が複雑化する中にあっても、日米韓が緊密な連携を確保し続けていることの重要性を再確認した。また、2025年2月7日に石破総理大臣とトランプ米国大統領の間で行われた日米首脳会談の際に発出した、首脳共同声明において、北朝鮮に対応し、地域の平和と繁栄を堅持する上での日米韓の三か国パートナーシップの重要性を確認した。その後、同月15日には日米韓外相会合を実施した。

また、日本は、自衛隊による警戒監視活動の一環及び海上保安庁による哨(しょう)戒活動として、安保理決議違反が疑われる船舶の情報収集を行っている。安保理決議で禁止されている北朝鮮船舶との「瀬取り」(16)を実施しているなど、違反が強く疑われる行動が確認された場合には、国連安保理北朝鮮制裁委員会等への通報、関係国への関心表明、対外公表などの措置をとってきている。「瀬取り」を含む違法な海上活動に対して、米国に加え、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド及びフランスが、国連軍地位協定に基づき、在日米軍施設・区域を使用し、航空機による警戒監視活動を行った。また、米国海軍及び韓国海軍の艦艇、英国海軍哨戒艦「スペイ」、オーストラリア海軍駆逐艦「ホバート」及び「シドニー」、オランダ海軍フリゲート「トロンプ」、カナダ海軍フリゲート「モントリオール」、「バンクーバー」及び「オタワ」、イタリア海軍哨戒艦「モンテクッコリ」、ドイツ海軍フリゲート「バーデン・ヴュルテンベルク」及び補給艦「フランクフルト・アム・マイン」、ニュージーランド海軍補給艦「アオテアロア」、フランス海軍フリゲート「プレリアル」が、日本周辺海域において、警戒監視活動を行った。このように、安保理決議の完全な履行及び実効性の確保のため、関係国の間での情報共有及び調整が行われていることは、多国間の連携を一層深めるという観点から、意義あるものと考えている。

また、北朝鮮によるサイバー関連活動に対処し、サイバー関連活動によって可能となる制裁回避を阻止するため、2023年12月7日、2024年3月29日、2024年9月6日に北朝鮮サイバー脅威に関する日米韓外交当局間作業部会を実施した。2024年3月26日には、警察庁、財務省及び経済産業省と共に、「北朝鮮IT労働者に関する企業等に対する注意喚起」を発出した。

イ 拉致問題・日朝関係
(ア)拉致問題に関する基本姿勢

現在、日本政府が認定している日本人拉致事案は、12件17人であり、そのうち12人がいまだ帰国していない。北朝鮮は、12人のうち、8人は死亡し、4人は入境を確認できないと主張しているが、そのような主張について納得のいく説明がなされていない以上、日本としては、安否不明の拉致被害者は全て生存しているとの前提で、問題解決に向けて取り組んでいる。北朝鮮による拉致は、日本の主権や国民の生命と安全に関わる重大な問題であると同時に、基本的人権の侵害という国際社会全体の普遍的問題である。また、拉致問題は、被害者のみならず、その御家族も御高齢となる中、時間的制約のある人道問題であり、「決して諦めない」との思いを胸にこの問題の解決に向けた取組を続けている。日本は、拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はあり得ないとの基本認識の下、その解決を最重要課題と位置付け、拉致被害者としての認定の有無にかかわらず、全ての拉致被害者の安全の確保と即時帰国、拉致に関する真相究明、拉致実行犯の引渡しを北朝鮮側に対し強く要求している。2025年1月には、石破総理大臣が施政方針演説で、「拉致問題は、単なる誘拐事件ではなく、その本質は国家主権の侵害です。拉致被害者や御家族が御高齢となる中で、時間的制約のある、ひとときもゆるがせにできない人道問題であり、政権の最重要課題です。日朝平壌宣言の原点に立ち返り、すべての拉致被害者の一日も早い御帰国、北朝鮮との諸問題の解決に向け、断固たる決意の下、総力を挙げて取り組んでまいります。」と表明した。

(イ)日本の取組

北朝鮮による2016年1月の核実験及び2月の「人工衛星」と称する弾道ミサイル発射を受け、同月に日本が独自の対北朝鮮措置の実施を発表したことに対し、北朝鮮は全ての日本人拉致被害者に関する包括的調査を全面中止し、特別調査委員会を解体すると一方的に宣言した。日本は北朝鮮に対し厳重に抗議し、ストックホルム合意を破棄する考えはないこと、北朝鮮が同合意に基づき、一日も早く全ての拉致被害者を帰国させるべきことについて、強く要求した。

(ウ)日朝関係

1月には、能登半島地震を受けて金正恩国務委員長から岸田総理大臣宛てにお見舞いメッセージが寄せられた。2025年1月、石破総理大臣は、施政方針演説において、「日朝平壌宣言の原点に立ち返り、すべての拉致被害者の一日も早い御帰国、北朝鮮との諸問題の解決に向け、断固たる決意の下、総力を挙げて取り組んでまいります。」と表明した。

(エ)国際社会との連携

拉致問題の解決のためには、日本が主体的に北朝鮮側に対して強く働きかけることはもちろん、拉致問題解決の重要性について諸外国からの理解と支持を得ることが不可欠である。日本は、各国首脳・外相との会談、G7サミットを含む国際会議などの外交上のあらゆる機会を捉え、拉致問題を提起している。5月の第9回日中韓サミットでは、岸田総理大臣から拉致問題の即時解決に向けた両首脳の引き続きの支援を求め、理解を得た。6月のG7プーリア・サミットではG7首脳との間で、拉致問題を含む北朝鮮への対応において引き続き緊密に連携していくことを確認した。また、9月の日米豪印首脳会合の機会にも、拉致問題の即時解決の必要性を再確認した。さらに、11月の日米韓首脳会合では、石破総理大臣から、バイデン米国大統領及び尹錫悦韓国大統領の拉致問題への一貫した支持に改めて謝意を表明したほか、会合終了後に発出された「日米韓首脳共同声明」でも、北朝鮮に対し拉致問題の即時解決を求めた。

米国については、4月の日米首脳会談において、岸田総理大臣から拉致問題の即時解決に向けた米国の引き続きの理解と協力を求め、バイデン大統領から改めて力強い支持を得たほか、9月の日米首脳会談でも、両首脳は拉致問題を含む北朝鮮をめぐる最新の情勢について率直な意見交換を行った。石破総理大臣とバイデン大統領の間で行われた11月の日米首脳会談においても、拉致問題を含む北朝鮮情勢への対応について、引き続き日米で緊密に連携していくことで一致した。また、2025年2月に石破総理大臣とトランプ大統領の間で行われた日米首脳会談においても、拉致問題の即時解決について、石破総理大臣から引き続きの理解と協力を求め、トランプ大統領から全面的な支持を得た。

中国についても、11月の日中首脳会談において、両首脳は、拉致問題を含む北朝鮮情勢について意見交換を行ったほか、5月に行った日中韓サミットでも岸田総理大臣から、拉致問題の即時解決に向けた両首脳の引き続きの支援を求め、理解を得た。

韓国も、2018年4月の南北首脳会談を始めとする累次の機会において、北朝鮮に対して拉致問題を提起している。9月日韓首脳会談においては、拉致問題の即時解決に向け、尹大統領から改めて支持を得たほか、10月及び11月の日韓首脳会談でも、拉致問題について尹大統領から改めて支持を得た。

6月12日には、拉致問題を含む北朝鮮の人権状況を協議するための国連安保理公開会合が開催され、会合後の同志国57か国及び欧州連合(EU)によるプレス向け共同発言では拉致問題が言及された。また、4月には国連人権理事会において、12月には国連総会本会議において、EUが提出し、日本が共同提案国となった北朝鮮人権状況決議案が無投票で採択された。日本は、今後とも、米国を始めとする関係国と緊密に連携、協力しつつ、拉致問題の即時解決に向けて全力を尽くしていく。

ウ 北朝鮮の対外関係など
(ア)米朝関係

2018年から2019年にかけて、トランプ大統領と金正恩国務委員長の間で2回の首脳会談及び板門店での米朝首脳の面会が行われ、2019年10月にストックホルム(スウェーデン)において米朝実務者協議が行われたが、その後、米朝間の対話に具体的な進展は見られていない。

2022年10月、バイデン政権は、新たな「国家安全保障戦略(NSS)」を公表し、朝鮮半島の完全な非核化に向けて持続的な外交を追求し、また、北朝鮮の大量破壊兵器及びミサイルの脅威に直面する中で拡大抑止を強化することを示した。同時に、米国は、様々な機会において、北朝鮮に対して敵対的な意図を抱いておらず、北朝鮮側と前提条件なしに対話を再開する用意があると発信してきている。

一方、8月、金正恩国務委員長は、「新型戦術弾道ミサイル武器システム」引渡し記念式において、米朝関係について、「対話も対決も選択肢になり得るが、我々がより徹底的に準備すべきは対決であることが、我々が30年余りの朝米関係を通じて下した総括及び結論、一貫して堅持している対米政策基調である」と述べたと報じられた。

米国は、北朝鮮による弾道ミサイル発射などを含めた一連の挑発行為や北朝鮮からロシアへの違法な武器移転などへの対応として、2024年に入り、1月、3月、5月、7月、9月及び12月に、それぞれ個人や団体を北朝鮮に対する制裁の対象に追加する措置を決定した。

(イ)南北関係

尹錫悦大統領は、8月には自由と人権を基調とした統一構想「8.15ドクトリン」を発表するなど、北朝鮮に対して、抑止や圧力を維持しつつも対話を進め、統一を追求する姿勢を打ち出してきた。一方で、北朝鮮は、2023年12月の朝鮮労働党中央委員会第8期第9回全員会議で、金正恩国務委員長が、南北関係について、「もはや同族関係、同質関係ではない、敵対的な二つの国家の関係、戦争中にある二つの交戦国の関係」と述べたと公表し、南北統一という目標の放棄を表明した。また、2024年1月の最高人民会議で、金正恩国務委員長は、「憲法にある「北半部」「自主、平和統一、民族大団結」という表現は今や削除されるべき」であるとし、「憲法が改正されるべきであり、次回の最高人民会議で審議する」と述べたと報じられた。

また、2023年11月、韓国は、北朝鮮による「軍事偵察衛星」の発射などを受け、2018年に南北間で合意した「歴史的な「板門店宣言」履行のための軍事分野合意書」の一部効力停止を発表し、これを受けて北朝鮮は、同合意に一切拘束されないと表明した。さらに、北朝鮮は、韓国からのビラ飛来への対応として、5月以降、ごみやビラなどをつるした大型風船を韓国に向けて断続的に散布し、韓国は、これらの北朝鮮側による挑発への対応として、6月に同合意の全面効力停止を決定した。また、2023年末以降、北朝鮮による韓国との陸路断絶に向けた動向が報じられ、10月、北朝鮮は、南北間の鉄道・道路の北朝鮮側一部区域を爆破・封鎖したと明らかにした。さらに同月、北朝鮮は、韓国から平壌に無人機が侵入してビラが散布されたとして、この「主権侵害挑発行為」の「主犯」が韓国軍であると発表し、再度同様の挑発行為が確認された場合には強力に報復すると繰り返し警告した。

韓国は、北朝鮮による弾道ミサイル発射などを含めた一連の挑発行為などへの対応として、3月、4月、5月、7月及び11月にそれぞれ個人や団体を北朝鮮に対する制裁の対象に追加する措置を決定した。

(ウ)中朝関係

2024年は、中朝間の外交関係樹立75周年の年であった。双方は、2024年を中朝間の「親善の年」と定め、4月に趙楽際(ちょうらくさい)中国全人代常務委員会委員長が訪朝して「親善の年」開幕式に出席したと報じられた。

北朝鮮の対外貿易の9割以上を占めるとされる中朝間の貿易は、新型コロナの世界的な感染拡大を受けた往来の制限のため、感染拡大前と比較して規模が大幅に縮小していた。その後、中朝貿易額は、2023年には新型コロナ以前に近い水準に回復したものの、2024年はこれを下回った。

(エ)露朝関係

2023年9月の露朝首脳会談において、露朝間の戦略的・戦術的協力に合意した後、6月には、プーチン大統領が約24年ぶりに北朝鮮を訪問して金正恩国務委員長と首脳会談を行い、両者は「包括的戦略的パートナーシップ条約」に署名した。会談後の共同記者発表において、金正恩国務委員長は、露朝関係が同盟関係に達したと述べた。12月には、モスクワで同条約の批准書が交換され、同条約は発効した。

この間、1月には、ロシアによる北朝鮮製ミサイルのウクライナに対する使用、また、北朝鮮による弾道ミサイルの輸出及びロシアによるこれらの調達が確認されたことを受けて、日本は米国を始めとする有志国と共に露朝間のミサイル移転に関する外相共同声明を発出し、可能な限り最も強い言葉で非難した。6月28日、12月18日には、日米韓などの要請により、露朝軍事協力などに関する国連安保理公開会合を開催し、6月28日の会合に先立っては、日米韓を含む同志国48か国とEUでプレス向け共同発表を実施した。また、10月31日に実施された日米韓外相電話会談では、ロシアへの継続的な違法な武器移転及び北朝鮮の部隊のロシアへの派遣を含む、北朝鮮とロシアの間の軍事協力の深化を最も強い言葉で非難した。その後、11月5日及び12月16日にG7及び韓国、ニュージーランド、オーストラリアにより露朝軍事協力を非難する外相共同声明を発出したほか、11月26日に実施されたG7外相会合に際して発出されたG7外相声明においても、北朝鮮の部隊のロシアへの派遣及びウクライナに対する戦場での使用への深刻な懸念を表明した。こうした露朝軍事協力の進展の動きは、ウクライナ情勢の更なる悪化を招くのみならず、日本を取り巻く地域の安全保障に与える影響の観点からも、深刻に憂慮すべきものである。

(オ)その他

2024年、日本海沿岸では、北朝鮮からのものと見られる漂流・漂着木造船などが計13件確認されており(2023年は22件)、日本政府として、関連の動向について重大な関心を持って情報収集・分析に努めている。また、2020年9月には、日本海の大和堆西方の日本の排他的経済水域(EEZ)において北朝鮮公船が確認されており、外務省は、このような事案が発生した際には、北朝鮮に対して日本の立場を申し入れてきている。引き続き、関係省庁の緊密な連携の下、適切に対応していく。

エ 内政・経済
(ア)内政

北朝鮮では、2021年1月の第8回党大会で提示されたと報じられた「国防科学発展及び武器体系開発5か年計画」及び「国防力発展五大重点目標」に基づき、核・ミサイル開発などの軍事力の強化が進められている。金正恩国務委員長は、9月に軍事関連施設を視察した際、「5か年計画の期間内での武装装備の生産目標を、確信を持って達成できる」と述べ、11月に開催された武装装備展示会において、2024年の成果に関し、「第8回党大会の提示した国防建設目標を達成する上で決定的な前進を達成することとなった」と述べたと報じられた。また、北朝鮮メディアは7月末、記録的な豪雨に伴う洪水により、平安北道新義州市及び義州郡で5,000人余りの住民が孤立したと報じた。中国やロシアなどからの人道支援の提供表明に対し、金正恩国務委員長は、8月に被災地を訪問した際、各国及び国際機関からの人道支援の提供の意向に謝意を表しつつ、被害復旧において党と政府が頼るのは「我が国の潜在力」であると述べたと報じられた。金正恩国務委員長は、洪水発生後、複数回にわたり復旧事業の現場状況を視察しつつ、被害地域における現代的な住宅の建設などの復旧事業を指示したと報じられた。また、約1万3,000人の被災住民を一時的に平壌に居住させていたが、12月には、住宅などが新たに建設又は補修されたとして、被災住民は故郷に戻ったと報じられた。

(イ)経済

1月の最高人民会議第14期10回会議において、金正恩国務委員長は、2024年を自力更生などを核とする「国家経済発展5か年計画」(2021年から2025年)の「完遂の実践的保証を確定する」年とし、現代的な地方工業工場を毎年20市・郡ずつ、10年以内に全ての市・郡に建設する「地方発展20×10政策」の強力な推進を掲げたと報じられた。9月の北朝鮮創建76周年に際する演説において、金正恩国務委員長は、依然として困難が折り重なる中、経済の全般的な成長推移を堅持し、2024年に達成すべき目標を着実に推進していることは成果であるとし、「地方発展20×10政策」の建築工事は90%の段階に至っており、年末には必ず完工を実現すべきであると述べたと報じられた。

オ その他の問題

北朝鮮からの脱北者は、滞在国当局の取締りや北朝鮮への強制送還などを逃れるため潜伏生活を送っている。日本政府としては、こうした脱北者の保護や支援について、北朝鮮人権侵害対処法の趣旨を踏まえ、人道上の配慮、関係者の安全、脱北者の滞在国との関係などを総合的に勘案しつつ対応している。なお、日本国内に受け入れた脱北者については、関係省庁間の緊密な連携の下、定着支援のための施策を推進している。

(2)韓国

ア 韓国情勢
(ア)内政

2022年5月に成立した尹錫悦(ユンソンニョル)政権は、年金、医療、教育、労働の4大改革を掲げ、各種政策の推進を図った。うち、医療改革については、医学部の定員増をめぐって医療界と激しく対立し、医療従事者はストライキの実施などで対抗した。

4月に行われた総選挙では、与党「国民の力」が引き続き少数与党となり、最大野党「共に民主党」が単独過半数を占めた。この中で野党が単独で予算案や様々な法案、政府などの高官の弾劾訴追案を可決させ、大統領がそれに対して再議要求権(拒否権)を行使する状況が繰り返された。

尹大統領は、12月3日夜、野党により行政が麻痺(ひ)していることなどを理由に、44年ぶりとなる非常戒厳令を発布した。しかし、12月4日未明、議会で「非常戒厳解除要求決議案」が可決され、尹大統領は非常戒厳令を解除した。議会では、非常戒厳令の発布が憲法違反であるとして尹大統領に対する弾劾訴追案が提出され、12月14日、これが可決された。これに伴い、尹大統領の職務権限は停止し、韓悳洙(ハンドクス)国務総理が大統領代行になり、憲法裁判所において尹大統領の弾劾の是非が審理されることとなった。

その後、野党は、非常戒厳令決定時の国務会議に出席したことが内乱行為への加担に当たることなどを理由に韓悳洙国務総理に対する弾劾訴追案を提出し、12月27日にこれが可決された。その結果、韓悳洙国務総理の職務権限も停止され崔相穆(チェサンモク)経済副総理兼企画財政部長官が大統領代行になった。

一方、12月9日、警察などで構成される合同捜査本部は、度重なる出頭要請に応じなかったとして尹大統領への逮捕令状を請求し、尹大統領は、2025年1月15日に現職大統領として初めて逮捕、拘束された。その後、検察は、内乱罪の被疑者として尹大統領を拘束起訴した。

(イ)外政

尹錫悦大統領は、「自由・平和・繁栄に寄与するグローバル中枢国家(GPS:Global Pivotal State)」となることを掲げ、外国訪問を含め積極的な首脳外交を展開した。尹大統領は、就任以降2024年8月末までの時点で、113か国との間で197回の首脳会談を実施したとしている。

対米関係については、2月に趙兌烈(チョテヨル)外交部長官が訪米し、ブリンケン国務長官と長官就任後初となる韓米外相会談を行ったほか、3月にソウルで行われた第3回民主主義サミットに出席するためにブリンケン国務長官が訪韓した際にも韓米外相会談を行った。また、尹大統領は7月にワシントンD.C.で開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会合に出席した際、バイデン大統領と韓米首脳会談を実施し、2023年4月に尹大統領が国賓訪問した際に韓米両首脳が発表した「ワシントン宣言」を再確認し、北朝鮮の核による挑発に強力に対応することを骨子とした「韓米朝鮮半島核抑止核作戦指針に関する共同声明」を採択した。

中国との関係では、趙兌烈外交部長官が5月に訪中し、王毅外交部長と長官就任後初の韓中外相会談を行った。その約2週間後にソウルで開かれた日中韓サミットに李強国務院総理が出席したことを契機として、尹大統領は李強総理と会談した。その後も、韓中間では多国間会議の際における外相会談が行われているほか、外交安保対話や外務次官戦略対話といったハイレベル交流が継続している。

(ウ)経済

2024年、韓国のGDP成長率は2.0%と、前年の1.4%から増加した。総輸出額は、前年比8.1%増の約6,837億ドルで、総輸入額は、前年比1.6%減の約6,321億ドルとなり貿易収支は約516億ドルの黒字と、2022年から続いた赤字から脱却し2018年以来の黒字額を達成した(韓国産業通商資源部統計)。

尹錫悦政権は、2022年5月の発足時、経済政策の方向性として、「民間中心の力強い経済」、「体質改善で飛躍する経済」、「未来に備える経済」及び「共に進む幸福の経済」を掲げ、四つの方向性を主軸として経済政策を進めていくとした。同年中に「新政権のエネルギー政策の方向性」や「半導体超強大国の実現戦略」を発表した。12月、非常戒厳令の発布以降、政治状況をめぐる不安が高まり、韓国の同月の消費者心理指数(CCSI)は88.4に低下し、コロナ禍以降で最大の下落幅となった(韓国銀行消費者動向調査)。また、第4四半期(10月から12月)の実質GDP成長率(速報値)は、非常戒厳令の発布などに伴う消費や建設投資の不振を主な原因として、韓国銀行予測値(0.5%増)を下回る前期比0.1%増にとどまった。

なお、韓国では近年急速に少子高齢化が進んでおり、2024年の合計特殊出生率は0.75人を記録し、少子化問題が依然深刻となっている。

イ 日韓関係
(ア)二国間関係総論

韓国は、国際社会における様々な課題への対応にパートナーとして協力していくべき重要な隣国である。両国首脳のリーダーシップにより日韓関係が大きく進展した2023年に続き、2024年も首脳間・外相間を含め、両国間で緊密な意思疎通が行われ、様々な分野における協力が更に拡大した。

5月26日、岸田総理大臣は、日中韓サミット出席のため韓国を訪問した。尹大統領との首脳会談(17)では、前年から続く「シャトル外交」や緊密な二国間の対話を継続していくことで一致した。また、水素・アンモニア、量子の協力の進展、産業脱炭素や重要鉱物分野での協力の検討といった動きを加速していくことで一致した。両首脳は、日米韓3か国の協力を一層強化していくことでも一致した。7月に米国・ワシントンD.C.で開催されたNATO首脳会合の際の日韓首脳会談では、欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分であるとの認識を共有し、NATOとインド太平洋パートナーとの連携を深めていくことで一致した。

9月6日、岸田総理大臣は再び韓国を訪問した。通算12回目となる尹大統領との対面での会談では、日韓関係のこれまでの進展を総覧しつつ、2025年の日韓国交正常化60周年を見据え、日韓間の協力と交流を持続的に強化していくことを確認した。両首脳は、第三国における自国民の保護についての協力に関する覚書が外交当局間で署名されたことを、両国関係の裾野の拡大を象徴するものとして歓迎した。また、2025年には日本で大阪・関西万博が、韓国ではアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が開催されることを受け、これらの大型行事の成功に向けて日韓で協力していくことも確認した。

石破総理大臣が就任した直後の10月2日には、日韓首脳電話会談が行われ、引き続き両政府間で緊密に意思疎通していくこと、核・ミサイル問題を含む北朝鮮への対応を始め、深刻に懸念すべき現下の情勢に対して日韓、日米韓で一層緊密に連携することで一致し、拉致問題については尹大統領から改めて支持を得た。それから約1週間後の10月10日には、ラオス・ビエンチャンでのASEAN関連首脳会議の機会に石破総理大臣と尹大統領との間の初の対面の会談が行われた。11月にペルー・リマで開催されたAPEC首脳会議の際の日韓首脳会談では、政治・安全保障、経済、文化、社会保障などの分野で日韓関係を包括的に進めていくことで一致した。

12月、尹大統領による非常戒厳令の発布をきっかけとして韓国国内情勢が流動的になった後、2度の日韓外相電話会談、石破総理大臣と韓悳洙大統領権限代行兼国務総理との電話会談などを通じて、現下の戦略環境の下、日韓関係の重要性は変わらないこと、両政府間で緊密な意思疎通を継続していくことを確認した。2025年1月13日には、岩屋外務大臣が韓国を訪問し、趙兌烈外交部長官との会談を含む一連の日程を通じて、現下の戦略環境の下、北朝鮮への対応を含め、引き続き日韓、日米韓で緊密に連携していくことの重要性を改めて確認した。

日韓外相会談(2025年1月13日、韓国・ソウル)
日韓外相会談(2025年1月13日、韓国・ソウル)

こうしたハイレベルの交流に加え、この1年間で、日韓次官戦略対話日韓安全保障対話日韓ハイレベル経済協議といった事務レベルでの意思疎通も活発に行われた。

(イ)旧朝鮮半島出身労働者問題

日本政府は、1965年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の基盤に基づき日韓関係を発展させていく必要があり、そのためにも2018年の大法院判決を受けた旧朝鮮半島出身労働者問題の解決が必要であるとの考えの下、2022年5月の尹錫悦政権発足以降、この問題について、両国の外相間を始めとする外交当局間で緊密な意思疎通を行ってきた。

2023年3月6日、韓国政府は旧朝鮮半島出身労働者問題に関する自らの立場を発表し、韓国の財団が、2018年の大法院の確定判決の原告に対して判決金及び遅延利息を支給するなどとした。

これを受け、同日、日本政府は、韓国政府により発表された措置を、2018年の大法院判決により非常に厳しい状態にあった日韓関係を健全な関係に戻すためのものとして評価する旨の立場を表明した(18)

一方、韓国大法院は、2023年12月及び2024年1月、同種の複数の訴訟について、2018年の判決に続き、日本企業に損害賠償の支払などを命じる判決を確定させた。これらの判決及び、2024年2月に日本企業が韓国裁判所に納付していた供託金が原告側に引き渡された事案については、日本政府として、極めて遺憾であり、断じて受け入れられないとして抗議を行った。韓国政府は、2023年3月6日に行われた措置の発表の中で、旧朝鮮半島出身労働者に関して現在(注:発表当時)係属中であるほかの訴訟が原告勝訴として確定する場合の判決金及び遅延利息は、韓国の財団が支給する予定であると表明している。

2024年12月時点で、原告側の元労働者21名について韓国の財団による支払が行われた。韓国政府は今後も原告の理解を得るため努力をしていくとしており、日本政府としては、引き続き韓国側と緊密に意思疎通を行っていく。

旧朝鮮半島出身労働者問題に関する外務省ホームページの掲載箇所はこちら

https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_004516.html

外務省ホームページの掲載箇所QRコード
(ウ)慰安婦問題

慰安婦問題は、1990年代以降、日韓間で大きな外交問題となってきたが、日本はこれに真摯に取り組んできた。日韓間の財産及び請求権の問題は、1965年の日韓請求権・経済協力協定で「完全かつ最終的に」解決済みであるが、その上で、元慰安婦の方々の現実的な救済を図るとの観点から、1995年、日本国民と日本政府が協力してアジア女性基金を設立し、韓国を含むアジア各国などの元慰安婦の方々に対し、医療・福祉支援事業及び「償い金」の支給を行うとともに、歴代総理大臣からの「おわびの手紙」を届けるなど、最大限の努力をしてきた。

さらに、日韓両国は、多大なる外交努力の末に、2015年12月の日韓外相会談における合意によって、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した。また、同外相会談の直後に、日韓両首脳間においても、この合意を両首脳が責任を持って実施すること、また、今後、様々な問題に対し、この合意の精神に基づき対応することを確認し、韓国政府としての確約を取り付けた。この合意については、潘基文(パンギムン)国連事務総長(当時)を始め、米国政府を含む国際社会も歓迎している。この合意に基づき、2016年8月、日本政府は韓国政府が設立した「和解・癒やし財団」に対し、10億円の支出を行った。この基金から、2023年12月末日までの間に、合意時点で御存命の方々47人のうち35人に対し、また、お亡くなりになっていた方々199人のうち65人の御遺族に対し、資金が支給されており、多くの元慰安婦の方々の評価を得ている。

しかしながら、2016年12月、在釜山(プサン)日本国総領事館に面する歩道に慰安婦像(19)が設置された。その後、2017年5月に文在寅(ムンジェイン)政権が発足し、外交部長官直属の「慰安婦合意検討タスクフォース」による検討結果を受け、(1)日本に対し再協議は要求しない、(2)被害者の意思をしっかりと反映しなかった2015年の合意では真の問題解決とならないなどとする韓国政府の立場を発表した。また、2018年11月には、女性家族部は、「和解・癒やし財団」の解散を推進すると発表し、その後解散の手続が進んだ。財団の解散に向けた動きは、日韓合意に照らして問題であり、日本として到底受け入れられるものではない。

さらに、2021年1月8日、元慰安婦などが日本国政府に対して提起した訴訟において、韓国ソウル中央地方裁判所が、国際法上の主権免除の原則の適用を否定し、日本国政府に対し、原告への損害賠償の支払などを命じる判決を出し、同月23日、同判決が確定した(20)。同年4月21日、類似の慰安婦訴訟において、ソウル中央地方裁判所は、国際法上の主権免除の原則を踏まえ、原告の訴えを却下したが、2023年11月23日、本件控訴審において、ソウル高等裁判所は、国際法上の主権免除の原則の適用を否定し、原告の訴えを認める判決を出した。日本としては、国際法上の主権免除の原則から、これらの慰安婦訴訟について日本政府が韓国の裁判権に服することは認められず、本件訴訟は却下されなければならないとの立場を累次にわたり表明してきている。前述のとおり、慰安婦問題を含め、日韓間の財産・請求権の問題は、1965年の日韓請求権・経済協力協定で「完全かつ最終的に解決」されており、また、2015年12月の日韓外相会談における合意によって、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」が確認されている。したがって、これらの判決は、国際法及び日韓両国間の合意に明らかに反するものであり、極めて遺憾であり、断じて受け入れることはできない。日本としては、韓国に対し、国家として自らの責任で直ちに国際法違反の状態を是正するために適切な措置を講ずることを強く求めてきている。

日韓合意は国と国との約束であり、これを守ることは国家間の関係の基本である。日韓合意の着実な実施は、国際社会に対する責務でもある。日本は、前述のとおり、日韓合意の下で約束した措置を全て実施してきている。韓国政府もこの合意が両国政府の公式合意と認めており、日本政府としては、引き続き、韓国側に日韓合意の着実な実施を強く求めていく方針に変わりはない(国際社会における慰安婦問題の取扱いについては32ページ参照)。

慰安婦問題についての日本の取組に関する外務省ホームページの掲載箇所はこちら:

https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/rp/page25_001910.html

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(エ)竹島問題

日韓間には竹島の領有権をめぐる問題があるが、竹島は歴史的事実に照らしても国際法上も明らかに日本固有の領土である。しかしながら韓国は、警備隊を常駐させるなど、国際法上何ら根拠がないまま、竹島を不法占拠し続けてきている。日本は、竹島問題に関し、様々な媒体で日本の立場を対外的に周知するとともに(21)、韓国国会議員などの竹島上陸、韓国による竹島やその周辺での軍事訓練や海洋調査などについては、韓国に対し、その都度強く抗議を行ってきている。2024年は竹島やその周辺での軍事訓練や韓国国会議員の竹島上陸が行われ、これらにつき、日本政府として、日本の立場に鑑み受け入れられないとして強く抗議を行った(22)。引き続き、竹島に関する日本の基本的な立場に基づき、毅然と対応していく。

竹島問題の平和的手段による解決を図るため、1954年、1962年及び2012年に韓国政府に対し国際司法裁判所への付託などを提案してきているが、韓国政府はこの提案を全て拒否している。日本は、竹島問題に関し、国際法にのっとり、平和的に解決するため、今後も粘り強い外交努力を行っていく方針である。

(オ)交流・往来

両国間の往来について、2020年初旬以降、新型コロナウイルス感染症拡大に係る水際対策の強化により、2021年に往来者数が約3万人に大幅に減少したが、2022年10月に水際対策の緩和と、羽田-金浦(キンポ)線を始めとする日韓航空路線の運航が再開したことを受け、旅行件数が増加し、2022年の両国間の往来者数は約131万人に増加した。2023年は水際対策の措置が終了し、日韓航空線の運行再開が新型コロナ前の水準まで回復したことを受け、両国の往来者数が約927万人まで大幅に増加した。2024年においては、往来者数が好調に増加し、2018年以来の往来者数1,000万人を超え、過去最多の1,204万人を達成した。

日本では若年層を中心に「K-POP」や関連のコンテンツが広く受け入れられており、韓国のドラマや映画は世代を問わず幅広い人気を集めている。また、日韓間の最大の草の根交流行事である「日韓交流おまつり」は、2024年は東京とソウルで開催され、両国合わせて約10万5,000人が参加した。日本政府は、「対日理解促進交流プログラム(JENESYS2024)」の実施を通じ、日韓の青少年を中心とした相互理解の促進、未来に向けた友好・協力関係を後押ししている。2023年、日韓両政府は、新型コロナウイルス感染症が拡大する中でオンライン形式での実施が続いていた交流事業の対面形式での全面再開と、交流人数の前年度比倍増を決定した。2024年においても、日韓両政府は、交流人数を900名規模まで更に拡大する意向を表明するなど、両国の未来を担う青少年世代の交流の活性化を図っている。

(カ)その他の問題

日韓両国は、2016年11月、安全保障分野における日韓間の協力と連携を強化し、地域の平和と安定に寄与するため、日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)を締結し、同協定は、それ以降2017年及び2018年に自動的に延長されてきた。しかし、韓国政府は、2019年8月22日、日本による輸出管理の運用見直しと関連付け、GSOMIAの終了の決定を発表し、翌23日、終了通告がなされた。その後、日韓間でのやり取りを経て、同年11月22日、韓国政府は8月23日の終了通告の効力を停止することを発表した。尹大統領の訪日直後の2023年3月21日、韓国政府から2019年8月の日韓GSOMIAの終了通告を取り下げるとの正式通報があった。現下の地域の安全保障環境を踏まえれば、同協定が引き続き安定的に運用されていくことが重要である。

日本海は、国際的に確立した唯一の呼称であり、国連や米国を始めとする主要国政府も日本海の呼称を正式に使用している。韓国などが日本海の呼称に異議を唱え始めたのは1992年からである。また、それ以降、韓国などは国連地名専門家グループ(UNGEGN)会議(23)や国際水路機関(IHO)を始めとする国際機関の場などにおいても日本海の呼称に異議を唱えてきたが、この主張に根拠はなく、日本はその都度断固とした反論を行ってきている(24)

また、盗難被害に遭い韓国に持ち出され、日本政府として早期の返還を韓国政府に働きかけてきた文化財(25)については、2025年1月24日、韓国政府側から所有者である日本の寺院に返還された。大田(テジョン)地方検察庁から当該文化財を引き渡された観音寺は、100日法要を行うために当該文化財を貸与してほしいという韓国側寺院の希望を踏まえ、現在当該文化財を同寺院に一時的に貸し出しており、100日法要が終了すれば速やかに対馬(つしま)に移送されることとなっている。

そのほか、在サハリン「韓国人」への対応(26)、在韓被爆者問題への対応(27)、在韓ハンセン病療養所入所者への対応(28)など多岐にわたる分野で、日本は、人道的観点から、可能な限りの支援や施策を進めてきている。

ウ 日韓経済関係

2024年の日韓間の貿易総額は、約11兆7,863億円であり、韓国にとって日本は第4位、日本にとって韓国は第3位の貿易相手国である。なお、韓国の対日貿易赤字は、前年比2.2%増の約2兆2,693億円(財務省貿易統計)となった。また、日本からの対韓直接投資額は約61.2億ドル(前年比375.6%増)(韓国産業通商資源部統計)と、大幅に増加した。

また、日韓は、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定締約国のメンバーとして協力しているほか、世界貿易機関(WTO)、アジア太平洋経済協力(APEC)、経済協力開発機構(OECD)、インド太平洋経済枠組み(IPEF)など各種の経済的枠組みにおいても、連携を図っている。12月には、二国間の経済関係や国際経済情勢などを幅広く議論する日韓ハイレベル経済協議(29)第16回会合が開催され日韓経済協力の更なる拡大に向けた議論が実施された。

韓国政府による日本産食品に対する輸入規制については、日本は、様々な機会を捉えて韓国側に対して早期の規制撤廃を働きかけている。

(14) 2014年5月にストックホルムで開催された日朝政府間協議において、北朝鮮側は、拉致被害者を含む全ての日本人に関する包括的かつ全面的な調査の実施を約束した。

(15) MSMT:Multilateral Sanctions Monitoring Team(230ページ 特集参照)
MSMTの設立に関する共同声明については、外務省ホームページを参照:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/pressit_000001_01273.html

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(16) ここでの「瀬取り」は、2017年9月に採択された国連安保理決議第2375号が国連加盟国に関与などを禁止している、北朝鮮籍船舶に対する又は北朝鮮籍船舶からの洋上での船舶間の物資の積替えのこと

(17) https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/pageit_000001_00677.html

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(18) 資料編:旧朝鮮半島出身労働者問題 参考資料 参照

(19) 分かりやすさの観点から、便宜上、「慰安婦像」との呼称を用いるが、この呼称は、これらの像に係る元慰安婦についての描写が正しいとの認識を示すものでは決してない。

(20) 資料編:慰安婦問題 参考資料 参照

(21) 2008年2月、外務省は「竹島 竹島問題を理解するための10のポイント」と題するパンフレットを作成。現在、日本語、英語、韓国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、アラビア語、ロシア語、中国語及びイタリア語の11言語版が外務省ホームページで閲覧可能。また、2013年10月以降、外務省ホームページにおいて、竹島に関する動画やフライヤーを公開し、現在は上記11言語での閲覧が可能になっている。加えて、竹島問題を啓発するスマートフォンアプリをダウンロード配布するといった取組を行っている。外務省ホームページ掲載箇所はこちら:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/takeshima/index.html

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(22) 4月、金炳旭(キムビョンウク)、閔炳德(ミンビョンドク)、白惠蓮(ペクへリョン)「共に民主党」議員が上陸。5月、曺国(チョグク)「祖国革新党」代表が上陸。また、8月及び12月、韓国軍が竹島に関する軍事訓練を実施した。日本は、直ちに、竹島の領有権に関する日本の立場に照らし受け入れられず、極めて遺憾であることを韓国政府に伝え、厳重に抗議した。

(23) 各国の地名や地理空間情報などの専門家らが、地名に関する用語の定義や地名の表記方法などについて技術的観点から議論を行う国連の会議。2017年、これまで5年ごとに開催されていた国連地名標準化会議と2年ごとに開催されていた国連地名専門家グループが統合され、国連地名専門家グループ(UNGEGN)会議となった。

(24) 日本海呼称問題に関する外務省ホームページの掲載箇所はこちら:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nihonkai_k/index.html

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(25) 2012年に長崎県対馬市で盗難され韓国に搬出された後、韓国政府が回収し保管している「観世音菩薩(ぼさつ)坐像」について、所有権を主張する韓国の寺院が韓国政府に対して引渡しを求める訴訟を提起した。2017年1月、第1審の大田地方裁判所は原告(韓国寺院)勝訴の判決を出したが、2023年2月、第2審の大田高等裁判所は一審判決を取り消し、原告の請求を棄却する判決を出した。原告側は上告したが、同年10月、大法院は上告を棄却する判決を出した。

(26) 第二次世界大戦終戦前、様々な経緯で南樺太(からふと)に渡り、終戦後、ソ連による事実上の支配の下、韓国への引揚げの機会が与えられないまま、長期間にわたり、サハリンに残留することを余儀なくされた朝鮮半島出身者に対し、日本政府は、一時帰国支援、サハリン再訪問支援などを行ってきている。

(27) 第二次世界大戦時に広島又は長崎にいて原爆に被爆した後、日本国外に居住している方々に対する支援の問題。これまで日本は、被爆者援護法に基づく手当や被爆者健康手帳などに関連する支援を行ってきている。

(28) 2006年2月、「ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律」が改正され、第二次世界大戦終戦前に日本が設置した日本国外のハンセン病療養所の元入所者も国内療養所の元入所者と同様に補償金の支給対象となった。また、2019年11月、「ハンセン病元患者家族に対する補償金の支給等に関する法律」が制定され、ハンセン病元患者の家族も補償対象となった。

(29) 12月20日の第16回日韓ハイレベル経済協議の開催については、外務省ホームページ参照:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/pressit_000001_01563.html

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