経済協力開発機構(OECD)

令和6年5月24日
OECD閣僚理事会における集合写真 (写真提供:内閣広報室)
OECD閣僚理事会開会式で議長国基調演説を行う岸田総理 (写真提供:内閣広報室)

 5月2日(木曜日)から3日(金曜日)にかけて、パリのOECD本部において、我が国議長下でOECD閣僚理事会が開催された。我が国からは、岸田総理大臣、上川外務大臣、新藤内閣府特命担当大臣(経済財政政策)、齋藤経済産業大臣、松本総務大臣、河野デジタル大臣及び森屋内閣官房副長官他が出席した。今次閣僚理事会には、OECD加盟国38か国に加え、加盟候補国(アルゼンチン、ブラジル、ブルガリア、クロアチア、ペルー、ルーマニア及びインドネシア)、キー・パートナー諸国(中国、インド、インドネシア(再掲)、ブラジル(再掲)及び南アフリカ)、非加盟国・地域としてウクライナ、香港及び東南アジア諸国の閣僚並びにASEAN事務総長を含む国際機関関係者等が参加した。
 3日、閣僚理事会の閉会セッションにおいて、「閣僚声明(仮訳(PDF)別ウィンドウで開く英文(PDF)別ウィンドウで開く」が採択された。

【今次OECD閣僚理事会のポイント】
  • OECD加盟60周年にあたる2024年に、日本は10年ぶりにOECD閣僚理事会の議長国を務め、岸田総理大臣が議長国基調演説を行うとともに、OECD東南アジア地域プログラム(SEARP)10周年記念式典に出席した。また、上川外務大臣、新藤経済財政政策担当大臣、齋藤経済産業大臣、松本総務大臣、河野デジタル大臣が各議題での議長を務めた。
  • 「変化の流れの共創:持続可能で包摂的な成長に向けた客観的で高い信頼性に裏付けられたグローバルな議論の先導」のテーマの下、マクロ経済、自由で公正な貿易・投資、経済的強靱性、OECDによる非加盟国へのアウトリーチ、環境問題・気候変動、持続可能な開発、AI・信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)を含むデジタル等のトピックについて、日本が議長国として議論を主導した。
  • 議長国基調演説では、岸田総理大臣から、国際経済がインフレ、エネルギーや食料の供給途絶、サプライチェーン分断等のリスクに直面する中、「変化の流れの共創」の精神の下に結束し、国際社会が直面する危機を乗り越える重要性を強調した。また、日本のOECD加盟から60年が経ち、国際社会が多極化や分断と紛争に直面する中、「共通の価値」を持つ加盟国で構成されるOECDが、東南アジア地域をはじめ、世界の様々な地域の非加盟国にアウトリーチしていく重要性を指摘した。さらに、日本は数少ないアジアの加盟国として、OECDとアジア地域の架け橋となり、OECDが将来に亘って世界経済を主導するための貢献を果たしていく考えを発信した。
  • OECD東南アジア地域プログラム(SEARP)10周年記念式典では、東南アジア諸国の閣僚及びASEAN事務総長の出席の下、前回日本が閣僚理事会の議長国を務めた2014年に立ち上げられた同プログラムの着実な進展が歓迎された。同式典でのスピーチでは、岸田総理大臣から、信頼できるデータと分析というOECDの強みを東南アジアの持続可能な成長に繋げるため、「日本OECD・ASEANパートナーシップ・プログラム(JOAPP)」の立ち上げを発表した。
  • 閣僚理事会初日(5月2日)夜の議長国主催レセプションの機会を活用し、日本食及び日本文化の魅力をPRした。

1 結論

 今次閣僚理事会は、「変化の流れの共創:持続可能で包摂的な成長に向けた客観的で高い信頼性に裏付けられたグローバルな議論の先導」をメインテーマとし、マクロ経済、自由で公正な貿易・投資、経済的強靱性、OECDによるアウトリーチ、環境問題・気候変動、持続可能な開発、AI・DFFTを含むデジタル等のトピックについて議論された。

5月2日(木曜日)

(1)炭素緩和アプローチに関する包摂的フォーラム(IFCMA)閣僚対話

  • MCM開会式に先立ち、日本とOECD事務局の共催によりIFCMA閣僚対話が開かれ、参加した各国は、ネット・ゼロという共通の目標の実現のための方途について活発な議論を行った。
  • 岸田総理大臣からは、これまでの非加盟国をも巻き込んだIFCMAの取組に、日本が設立当初から賛同していることを紹介し、今般の閣僚対話の新たな立ち上げへの支持を表明した。
  • また、GX推進など我が国の取組を紹介した上で、全ての国が気候変動問題に共に取り組んでいく必要性を呼びかけた。
  • コーマンOECD事務総長からは、日本のIFCMAへのコミットメントに対し謝意が述べられるとともに、今後もデータ・情報共有、分析、対話や炭素集約度の分析等を通じて、各国の気候変動対策の加速に貢献していく旨述べた。

(2)生成AIに関するサイドイベント「安全、安心で信頼できるAIに向けて:包摂的なグローバルAIガバナンスの促進」

  • 開会式前に開催された生成AIに関するサイドイベントでは、昨年我が国がG7議長国として主導した広島AIプロセスに関する動画に続き、岸田総理大臣から、広島AIプロセスの取組を説明しつつ、OECDにおいてもAI原則の改定という具体的な成果が生み出されることを歓迎した。
  • また、岸田総理大臣から、49か国・地域の参加を得て、広島AIプロセスの精神に賛同する国々の自発的な枠組みである「広島AIプロセスフレンズグループ」を立ち上げ、同グループのメンバーと共に、国際指針等の実践に取り組み、世界中の人々が安全、安心で信頼できるAIを利用できるよう協力を進めていく旨述べた。
  • コーマンOECD事務総長、フレンズグループ参加国であるメキシコ及びシンガポール並びにアルトマンOpenAI社CEOから、広島AIプロセスを主導する日本の取組を評価するとともに、フレンズグループへの期待を述べた。

(3)OECD閣僚理事会開会式

  • 開会式には、岸田総理大臣、上川外務大臣、新藤経済財政政策担当大臣及び森屋内閣官房副長官が日本を代表して出席した。コーマンOECD事務総長の挨拶に続き、岸田総理大臣より、「変化の流れの共創」をテーマに議長国基調演説を行った。
  • 岸田総理大臣からは、国際経済がインフレ、エネルギーや食料の供給途絶、サプライチェーン分断等のリスクに直面する中、「変化の流れの共創」の精神の下に結束し、国際社会が直面する危機を乗り超える重要性を強調した。
  • また、日本のOECD加盟から60年が経ち、国際社会が多極化や分断と紛争に直面する中、「共通の価値」を持つOECDが、東南アジア地域をはじめ、世界の様々な地域の非加盟国へアウトリーチしていく重要性を指摘した。
  • この文脈において、価値観の一方的な押しつけではなく、OECDが成長・発展に向けた「伴走者」となるべく、「共創」の考えに基づき相手に寄り添うことが重要であると述べた。
  • さらに、日本は数少ないアジアの加盟国として、OECDとアジア地域の架け橋となり、OECDが将来に亘って世界経済を主導するための貢献を果たしていく考えを発信した。

(4)OECD東南アジア地域プログラム(SEARP)10周年記念式典

  • SEARP10周年記念式典では、前回日本が閣僚理事会の議長国を務めた2014年に立ち上げられた同プログラムの着実な進展が歓迎された。我が国からは、岸田総理大臣、上川外務大臣、新藤経済財政政策担当大臣及び森屋内閣官房副長官が出席した。
  • 式典では、冒頭岸田総理大臣から、「持続可能な未来の共創」をテーマにスピーチを行った。同スピーチにおいて、信頼できるデータと分析というOECDの強みを東南アジアの持続可能な成長に繋げるため、「日本OECD・ASEANパートナーシップ・プログラム(JOAPP)」(注)の立ち上げを発表した。
  • コーマンOECD事務総長や東南アジアからの参加国からは、日本のこれまでのSEARP進展への貢献に謝意が示されるとともに、OECDと東南アジア地域の一層の関係強化への期待が表明された。

(注)民間投資、連結性、持続可能性、デジタルといった分野で専門家派遣、調査・分析・研修を実施。2024年3年間で800万ユーロ(約14億円)規模の資金を動員。

(5)議題1:持続可能で包摂的な経済社会の実現

  • 持続可能で包摂的な経済社会の実現のための経済政策に関するセッションでは、新藤経済財政政策担当大臣が議長を務め、人口動態の変化や気候変動・環境などの様々な社会課題の解決を新たな「成長のエンジン」に転換するというコンセプトの下、各国が取るべき経済政策等について意見が交わされた。
  • 議論の中では、このコンセプトが重要であることが確認され、生産性の向上や科学技術・イノベーションの促進、経済のフロンティアの拡大等の重要性が指摘された。また、そのための手段として、人への投資・研究開発投資の促進、包摂的な教育や労働市場の実現、デジタルやグリーンの分野における技術開発や新技術の広範な活用、スタートアップの育成や中小企業の支援などの政策が必要との意見が出された。

(6)議題2:自由で公正な貿易と投資促進を通じた健全な経済成長を加速

  • 上川外務大臣が議長を務めた貿易と投資促進に関するセッションでは、自由で公正な貿易と投資の促進が世界経済の安定的な成長に不可欠であり、その基礎となるルールに基づく自由で公正な経済秩序の維持・強化が重要であること、また、WTOを中核とする多角的貿易体制の維持・強化に取り組む必要があることが改めて加盟国で共有された。また、貿易と持続可能性、貿易と包摂性、貿易と産業政策などの今日的課題への対処におけるOECDの役割について意見が交わされた。
  • 上川大臣からは、国際社会の中で分断と対立が進む中、OECDが世界最大のシンクタンクとして冷静な議論の場を提供することは、貿易分野での各国間の連携を進める上で極めて重要である旨指摘した。
  • 日本代表として出席した齋藤経済産業大臣からは、過度な貿易障壁となる措置の回避やグローバルに公平な競争条件を確保する観点から、OECDの専門性やそのスタンダード・セッターとしての役割をさらに活用し、OECDにおける議論により多くの非加盟国を巻き込んでいくことが重要である旨述べた。

(7)議題3:経済的強靱性に関するファクト・ベースの課題抽出と議論

  • 齋藤経済産業大臣が議長を務めた経済的強靱性に関するセッションでは、サプライチェーンの強靱化、経済的威圧への対処、非市場的政策及び慣行への対応などの経済的強靱性及び経済安全保障に関する取組における加盟国間の連携やOECDが果たし得る役割について議論が行われた。
  • 齋藤大臣からは、近年のパンデミックや地政学的リスクの高まりの中、一部の国に過度に重要物資の供給を依存するリスクや、経済的依存関係を武器化する動きが顕在化していることを指摘した上で、各国が過度な保護主義に陥ることなくこうした動きに対応するために、加盟国間の連携の在り方やOECDが果たすべき役割について議論したい旨を述べた。
  • 日本代表として出席した上川外務大臣からは、(1)経済的威圧への深刻な懸念と威圧を許容しないとの強い決意の表明が重要であり、経済的威圧が合理性のない形で経済活動に影響を及ぼすことがOECDの調査で明確となったこと、(2)信頼できるパートナーとの間でサプライチェーンの強靭化を図ることが重要であること、また、重要鉱物の採掘・加工への投資における高い環境・社会・ガバナンス(ESG)基準を世界標準とすることが重要であること、(3)経済的依存の温床である非市場的政策・慣行を行う主体である政府の管理下にある幅広い組織を対象に含めたOECDガイドライン改訂は重要な一歩であること、(4)いずれも優先的に取り組むべき課題であることなどを指摘した。

(8)議長国主催レセプション

  • 閣僚理事会初日を締めくくる議長国主催レセプションが実施され、上川外務大臣が議長国を代表して挨拶を行い、日本産品のプロモーションのため、日本の食材を使った和食や日本酒を提供した。

【5月3日(金曜日)】

(1)議題4:信頼性のある政策提言とグローバルアウトリーチ

  • 上川外務大臣が議長を務めた非加盟国との関係強化・加盟拡大に関するセッションでは、国際社会が多様化・複雑化する中で、OECDがその実効性・妥当性を維持する上でどのように非加盟国に関与していくべきか、また、加盟拡大というアウトリーチのツールをどのように活用していくべきか等について、議論が行われた。
  • 上川外務大臣からは、客観的なデータに基づく信頼のおける分析と課題解決能力というOECDの強みを活かして非加盟国に関与していくことが、OECDが非加盟国にとって信頼できる機関であり続ける上で重要である点を強調した。
  • 議論の中では、多くの国がインドネシアとタイの加盟申請をはじめ東南アジアとの関係の進展を支持・歓迎したほか、ウクライナを中長期的に支えていくこと、また、中南米やアフリカとの関係も強化していくことがOECDにとって優先課題であることが確認された。

(2)議題5:複合的危機の下での持続可能で包摂的な成長に向けた信頼できる道筋

  • 議題5では、環境問題・気候変動や持続可能な開発などの複合的な危機への対処の上でOECDが果たすべき役割について、2つの分科会に分かれて議論が行われた。
  • ネット・ゼロで、循環型かつネイチャーポジティブな経済への移行について扱った分科会1では、日本代表として出席した松澤環境省地球環境審議官から、気候変動、生物多様性の損失、環境汚染という3つの地球的危機に取り組むにあたって、シナジーを強化し、トレードオフを阻止していくことが重要である旨述べた。
  • 持続可能な開発について取り上げた分科会2では、日本代表として出席した上川外務大臣から、途上国の開発資金ニーズに応えるため、ODAを触媒とした民間資金の動員の重要性を指摘したほか、発展に必要な資金を安定的・持続的に確保できるよう、日本としてMDBs改革にも積極的に貢献している旨述べた。また、OECDは持続可能な開発のために「共創」の考えの下、専門的知見や人材を総動員していくべき旨強調した。

(3)議題6:新興課題に対する解決志向型アプローチ

  • デジタル分野をはじめとする新興課題への対処に関するセッションでは、松本総務大臣、河野デジタル大臣がそれぞれ議題の前半・後半の議長を務め、生成AIや信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)について議論を行った。
  • 生成AIに関する議論では、議長を務めた松本総務大臣より、これまでの広島AIプロセスの議論に対するOECDの協力について感謝を述べ、OECD・AI原則の今般の見直しにおいて、広島AIプロセスの議論を反映する方向であることを歓迎するとともに、AIのガバナンスに関する国際的な相互運用性の確保に向けたOECDへの期待を発信した。会合の中では、広島AIプロセスなど他のフォーラムにおける生成AIに関する議論にOECDがいかに貢献していくべきかについて意見が交わされた。
  • 河野デジタル大臣が議長を務めたDFFTに関する議論では、デジタル政策に関する多国間協力やデータ・ガバナンスの強化のためにOECDに求められている役割について議論が行われた。河野デジタル大臣からは、加盟国、非加盟国、関連国際機関の間で、拡大する越境データに係る課題に対処する上で、OECDの下に設置されたIAP(DFFT具体化のための国際枠組み)等を活用していく重要性を指摘した。

(4)閉会セッション

  • 閣僚理事会の締めくくりとなる閉会セッションでは、議長国を代表して上川外務大臣が2日間の議論の総括を行い、世界が分断傾向にある今、信頼できるデータと分析に基づいて冷静な議論の場を提供するOECDの重要性が一層高まっており、また、その役割を強化していく上で非加盟国との協力関係の強化が不可欠である点を指摘した。
  • 閉会セッションの最後には、閣僚理事会の成果として、閣僚声明が採択された(ページ冒頭にリンクあり)。

(5)共同記者会見

 閣僚理事会終了後、上川外務大臣は、コーマンOECD事務総長と共同記者会見を行い、上川外務大臣から概要以下を述べた。

  • 岸田総理のリーダーシップの下、日本は、「変化の流れの共創」のテーマの下、国際社会の分断と対立が広がる中、より良い未来の共創のためにOECDが果たす役割について、議長国として議論を主導したと述べた。
  • 第一に、国際社会に大きな変化が生じている中、OECDも自らを変革していくことの重要性を指摘し、「共通の価値」を維持しつつ、非加盟国へのアウトリーチを行っていくことが一層重要であると述べた。その際、相手の声にも耳を傾けながら、成長・発展に向けた解決策を共に創り出していく、こうした「伴走者」としてのアプローチの重要性を指摘した。また、10年前に日本議長国の下で蒔いたOECD東南アジア地域プログラム(SEARP)の種が、インドネシアとタイの加盟への動きという形で大きく成長したことに言及し、このモデルを世界の他の地域にも拡大していく必要があると述べた。
  • 次に、OECDが、新たな時代の要請に応じて、世界が直面する課題に、先頭に立って向き合い続ける重要性を指摘し、気候変動、経済的威圧、デジタル・AIといった人類共通の課題に対処するために、高い専門性を活かし、効果的で持続可能な政策の提言が求められていると述べた。
  • さらに、OECDが誰からも信頼される機関であり続けるべきであり、オープンで信頼できるデータに基づく分析を提供し、冷静かつ客観的で、透明性の高い議論の場を提供することができる、このことがOECDの強みであると指摘した。これを活かし、感情論や偽情報を排して、広く受け入れられるルール・スタンダードを提示しながら、世界をよりよい方向へ向けていくために努力を続ける必要があると強調した。
  • 最後に、我々の眼前には、多くの困難な課題が山積しているが、より良い未来の共創のため、叡智を結集して乗り越えていきたいとの決意を述べた。

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