外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

3 グローバルな安全保障

(1)地域安全保障

アジア太平洋地域では、グローバルなパワーバランスの変化等に伴って安全保障環境が厳しさを増している一方、各国の政治・経済・社会体制が多様であるため、地域における安全保障面の協力の枠組みが十分に制度化されているとは言い難い。そのため、日本は、日米同盟の強化に加え、二国間及び多国間の安全保障協力を重層的に組み合わせることで、地域における安全保障環境を日本にとって望ましいものとしていく取組を進めている。また、日本は、アジア太平洋からインド洋を経て中東・アフリカに至るまでの地域を一体として捉え、インド太平洋の自由で開かれた海洋秩序を確保することにより、この広大な地域全体の安定と繁栄を促進するとの観点から、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて取り組んでいる。

日本は、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化するとともに、米国以外にも様々な国々と安全保障分野における協力関係強化に取り組んでいる。ASEAN諸国との間では、巡視船の供与等を通じて、フィリピン、マレーシア、ベトナム、インドネシア等の海上安保能力向上に向けた支援を継続して実施している。インドとの間では、10月のモディ・インド首相訪日の際に発出された日印ビジョンステートメントの中で両首脳が、「自由で開かれたインド太平洋」に向けて協働していくという揺るぎない決意を述べるとともに、首脳会談において、物品役務相互提供協定(ACSA)の正式交渉を開始することで一致した。オーストラリアと、10月の第8回日豪外務・防衛閣僚協議(「2+2」)において、地域の安定とは繁栄に積極的に貢献する意思と能力を有する日本とオーストラリアが、安全保障・防衛協力を一層強化していくことで一致した。また、11月の首脳会談において、両国が「自由で開かれたインド太平洋」のビジョンを共有していることを確認し、地域の安定と繁栄のために連携していくことで一致した。英国とは、2019年1月の日英首脳会談で、日英安保協力は大きく進展し新たな幕開けを迎えており、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け協力を更に具体化させていくことで一致した。フランスとは、7月にACSAに署名し、10月の日仏首脳会談において、防衛協力の基盤となるACSAの署名を歓迎しつつ、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、日仏間の具体的協力を更に積み重ねていくことで一致した。カナダとは、4月にACSAに署名したほか、11月の日加首脳会談において安保防衛協力を含む日加間の戦略的関係を深めていくことで一致し、12月には4回目となる次官級「2+2」対話を開催した。韓国とは、北朝鮮問題についての連携が重要であるとの認識の下、日韓首脳会談(2月、5月及び9月)、日韓外相会談(3月、4月、6月、7月、8月及び9月(2回))、日米韓外相会合(1月、6月及び7月)等を行い、日韓・日米韓で緊密に連携していくことを確認している。

このような二国間の協力関係強化に加え、日本は、日米印首脳会合(11月)、日米韓外相会合(1月、6月及び7月)、日米豪閣僚級戦略対話(8月)、日米豪印協議(6月及び11月)等を通じて様々な枠組みでの協力の推進を通じ、地域の平和と繁栄のためのネットワーク作りを進めている。

また、日本を取り巻く安全保障環境の安定のためには、中国やロシアとの間の信頼関係の増進も重要である。日中関係は、最も重要な二国間関係の一つであり、「戦略的互恵関係」の下、大局的な観点から友好協力関係の安定的な発展に努めている。中国の軍事的動向は日本にとって極めて重大な関心事項であることから、日中安保対話等の安保分野の対話や交流のチャネルの重層的な構築に努めており、政策面での意思疎通を図るとともに、透明性向上を働きかけている。相互理解及び相互信頼の増進や不測の衝突の回避という面では、5月に署名された日中防衛当局間の海空連絡メカニズムは大きな意義を有している。同時に、首脳、外相等のハイレベルの対話も通じ、相互信頼関係の増進に努めている。日露関係については、2018年には首脳会談及び外相会談を4回ずつ行うなど、様々なレベルでの政治対話を積み重ねながら、領土問題を解決して平和条約を締結すべく、ロシアとの交渉に精力的に取り組んでいる。安全保障分野では、7月に日露「2+2」及び安全保障協議を実施した。また、10月には河野統合幕僚長が訪露するなどして、防衛・安全保障に関する率直な意見交換を行っている。

さらに、外務・防衛当局間(PM)協議については、イスラエル(10月)との間で初めて協議を開催したほか、パキスタンとの間で4月に第6回目の協議を、タイとの間で9月に第14回目の協議を、フランスとの間では12月に21回目となる協議をそれぞれ実施した。また、安全保障対話をカタール(3月、第3回)及び韓国(3月、第11回)との間で実施したほか、安全保障協議をトルコ(1月)及びウクライナ(10月)との間で初めて開催した。

これらに加え、日本は、東アジア首脳会議(EAS)ASEAN地域フォーラム(ARF)、拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)など、地域における多国間の枠組みに積極的に参加・貢献し、地域の安全保障面での協力強化に取り組んでいる。政治・安全保障問題に関する対話と協力を通じたアジア太平洋地域の安全保障環境の向上を目的とし、北朝鮮やEUといった多様な主体が参加する重要な安全保障対話の枠組みであり、また、各種取組を通じた信頼醸成に重点を置いている観点からも重要なフォーラムであるARFについては、8月に25回目となるARF閣僚会合が開催され、北朝鮮問題、南シナ海問題などの地域・国際情勢を中心に率直な意見交換を行った。また、日本がマレーシア及びシンガポールと共に立ち上げたサイバーセキュリティに関するARF会期間会合に関し、日本の提案を含む手続的事項及び信頼醸成措置(CBMs)案が採択された。また、日本は、これまで2度にわたり海上安全保障ISMの共同議長国を務めるなど、積極的な貢献を行っている。

さらに、日本は、安全保障政策の発信や意見交換の場として、政府間協議(トラック1)のみならず政府関係者と民間有識者双方が出席する枠組み(トラック1.5)も活用している。アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)(シンガポール)といった会合に参加しているほか、10月のマナーマ対話(バーレーン)及び2019年2月のミュンヘン安全保障会議(ドイツ)には河野外務大臣が出席するなど、日本の安全保障政策に対する各国の理解促進を図るとともに、地域における協力促進や信頼醸成に取り組んでいる。

(2)平和維持・平和構築

ア 現場における取組
(ア)国連平和維持活動(国連PKO)

国連PKOは、伝統的には、国連が紛争当事者の間に立って、停戦や軍の撤退の監視などを行うことにより事態の鎮静化や紛争の再発防止を図り、当事者間の対話を通じた紛争解決を支援することを目的とした活動である。しかし、冷戦終結以降は、内戦の増加などによる国際環境の変化に伴い、停戦監視などの伝統的な任務に加え、元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)、治安部門改革、選挙、人権、法の支配などの分野における支援、政治プロセスの促進、文民の保護など、多くの任務を与えられている。2018年10月末時点で、14の国連PKOミッションが中東・アフリカ地域を中心に活動しており、ミッションに従事する軍事・警察・文民要員の総数は10万人を超えている。任務の複雑化・大規模化とそれに伴う人員、装備・機材、財源などの不足という事態を受け、国連を中心に様々な場で、国連PKOのより効果的・効率的な実施に関する議論が行われている。

日本は、「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」(PKO法)に基づき、1992年以来、計27の国連PKOミッションなどに延べ約1万2,500人の要員を派遣してきた。最近では、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に対し、2011年から司令部要員を、2012年からは施設部隊を派遣してきた。施設部隊は、南スーダンの首都ジュバ及びその周辺において、道路などのインフラ整備や給水活動などの避難民支援や敷地造成などの活動を実施し、2017年5月をもって活動を終了した。一方、UNMISS司令部においては現在も4名の自衛官が活躍しており、日本は今後も様々な形で、南スーダンの平和と安定に貢献していく。日本は、今後とも、「積極的平和主義」の旗の下、これまでのPKO活動の実績の上に立ち、日本の強みを活かして能力構築支援の強化、部隊及び個人派遣など、国際平和協力分野においてより一層積極的に貢献していく。

(イ)平和構築に向けたODAなどによる協力

日本の国際協力において、平和構築は重要であり、開発協力大綱においても重点課題の一つとして位置付けている。

また、人道危機への対応においても、人道支援と開発協力の連携に、平和構築を組み合わせることが効果的である。紛争発生後の対応のみならず、人道危機の要因である紛争の発生・再発予防にも重点を置き、平時からの国造り、社会安定化といった、紛争の根本原因への対処を抜本的に強化することが重要であり、日本は、このような「人道と開発と平和の連携」の考え方を重視し、特に以下の国、地域において平和構築支援を進めている。

a 中東

日本は、中東の平和と安定のための包括的支援を実施しており、例えば、紛争の影響を受けているシリア及び周辺国、イエメン、アフガニスタン等に対し、国際機関とも連携し、食料援助や難民支援等を実施しているほか、国造りを担う人材の育成を支援している。2018年には、アフガニスタンから、同国の復興のため農業・農村開発やインフラ開発分野等への貢献を期待される行政官等を25人受け入れた。シリアからは、シリア危機によって就学機会を奪われた若者に教育の機会を提供するため、29人を留学生として受け入れた。また、2月には、アフガニスタンにおける選挙を公正かつ平和裏に実施するための支援を決定した。

また、人道と開発の連携の観点から、例えばヨルダンでは、シリア難民が居住するザアタリ難民キャンプにおいて、電力分野の技術指導等を通じて、就業を支援するとともに、技術指導を受けた人材による近隣シェルター(避難所)の電力設備のメンテナンス等を通じて、キャンプ内の生活環境改善に貢献した。

b アフリカ

日本は、2016年8月の第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)において優先分野とされた「繁栄の共有のための社会安定化促進」に関する支援を推進するなど、アフリカにおける平和と安定の実現に向けた基礎作りに貢献してきた。

例えば、日本は、フランス語圏アフリカ8か国の警察官、検察官及び判事等に対し、2014年から刑事司法研修を行い、捜査機関及び司法機関の能力強化を通じたサヘル地域の安定化を支援してきた。また、2018年夏のジンバブエ総選挙(大統領、上下院及び地方選挙)に向けた有権者登録等を支援するなど、公正な選挙の実施を通じた平和の定着に貢献した。さらに、頻発するテロや越境犯罪等に対する治安維持能力の向上のため、2018年には、ブルキナファソ、マリ等に対し、治安対策機材の供与を決定した。

2018年には、コートジボワールの反政府軍旧戦闘員を再雇用する消防等災害緊急支援センターにおいて能力向上・施設整備支援を実施したほか、中央アフリカ共和国では、帰還民、元武装勢力戦闘員を対象に含む職業訓練、生計向上支援等を行うなど、内戦後の国々の平和、治安、和解促進に貢献している。

日本は、アフリカ諸国が運営するPKO訓練センターを支援しており、2008年から2018年までに計13か国のセンターに総額5,200万米ドルを拠出し、アフリカの平和維持活動能力の向上に寄与している。

イ 国連における取組(平和構築)

地域紛争や内戦は終結後に再燃することが多いため、事後に適切な支援を行うことが極めて重要であるとの認識の下、2005年、紛争解決から復旧・社会復帰・復興まで一貫した支援に関する助言を行うことを目的として「平和構築委員会(PBC)」が設立された。PBCは議題国1における優先課題の特定や平和構築戦略の策定に関する議論を行っており、日本は設立時から組織委員会のメンバーを務め、PBCの活動に貢献してきた。

2016年4月に採択されたPBCを含む国連平和構築アーキテクチャー・レビュー(制度の再確認)に関する総会決議(A/RES/70/262)及び安保理決議第2282号は、PBCの効率性・柔軟性の向上、PBCと国連安保理やその他機関との連携の強化等を推奨した。同総会決議に基づき、2018年2月、事務総長は平和構築及び平和の持続に関する事務総長報告書(A/72/707-S/2018/43)を発出し、平和構築のための資金調達の強化、PBCの活動及び政策の一貫性の向上、国連のリーダーシップ・説明責任及び能力の強化並びに国際機関や市民社会とのパートナーシップの強化等を目的とした様々な提案を行った。

同報告書を踏まえ4月に開催された平和構築及び平和の持続に関するハイレベル会合では、日本は平和構築分野における事務総長の取組を支持すると表明した。また、同会合では、事務総長に対し、提案に関する中間報告書の国連総会第73回会期中の提出を要請することを含む総会決議(A/72/276)が採択された(同内容の安保理決議第2413号も採択)。

日本は、2006年に設立された平和構築基金(PBF)に創設以来積極的に貢献しており、2016年9月、当面1,000万米ドル規模の拠出を目指すことを表明するなど、現在までに総額5,050万米ドル(2018年には200万米ドル)の拠出を実施し、第6位の主要ドナー国となっている(2018年12月現在)。

ウ 人材育成
(ア)平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業

紛争後の平和構築では、高い能力と専門性を備えた文民専門家の役割が拡大する一方、担い手の数は十分ではなく、人材の育成が大きな課題となっている。日本は、平和構築・開発の現場で活躍できる文民専門家を育成すべく、人材育成事業を実施してきており、2018年度末までに育成した人材は約750人に上る。事業修了生は、南スーダンやアフガニスタンなど世界各地の平和構築・開発の現場で活躍しており、諸外国や国連などから高い評価を得ている。

2018年度事業では、若手人材向けの研修コース、平和構築・開発分野での経験を持つ中堅層の実務家を対象とする研修コースに加え、同分野で活用できる一定の実務経験を有する者に対して新たに国際機関での経歴形成を支援するコースを追加実施した。

(イ)各国平和維持要員の訓練

日本は、国連PKOに参加する各国の平和維持要員の能力向上を支援してきており、2015年から2018年にかけて、国連PKOへ施設部隊を派遣する意思を表明したアフリカの8か国211人の施設要員に対し、自衛官等延べ125人を教官として派遣し、重機操作の訓練を実施している(国連PKO支援部隊早期展開プロジェクト(RDEC))。グテーレス国連事務総長は、2018年8月に訪日した際、本プロジェクトでの日本の支援を高く評価したほか、同年9月PKOのための行動(Action for Peacekeeping:A4P)に関するハイレベル会合において、本プロジェクトがPKO要員の能力向上という喫緊の課題への革新的アプローチであると発言している。また、プロジェクトの対象をアジア及び同周辺地域へ拡大することとなり、11月から12月にかけてベトナムで試行訓練を行った。さらに、アジア・アフリカ諸国のPKO訓練センターに対する講師などの人材派遣や財政支援も行っている。

国連ミッションへの軍事要員・警察要員・司令部要員の派遣状況
国連ミッションへの軍事要員・警察要員・司令部要員の派遣状況
「国連PKO支援部隊早期展開プロジェクト(RDEC)・アジア及び同周辺地域」試行訓練)
「国連PKO支援部隊早期展開プロジェクト(RDEC)・アジア及び同周辺地域」試行訓練)

また、日本は、国連PKOミッション等において紛争に関連した性的暴力の防止・対応に取り組む女性保護アドバイザーの能力向上のための訓練コースを日本で国連と共催するなどしている。

(3)治安上の脅威に対する取組

ア テロ及び暴力的過激主義対策

イラク及びシリアにおける「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」掃討作戦の結果、ISILの支配領域は縮小したものの、ISILの影響下にあった外国人テロ戦闘員(FTF)の母国への帰還や第三国への移動により、テロ及び暴力的過激主義の脅威はアジアも含め世界中に拡散している。2018年5月には、スラバヤ市(インドネシア)の教会に対する爆弾テロ事件が発生し、犯人6人を含む13人以上が死亡、40人以上が負傷し、ISILが犯行声明を発出した。

日本は、2016年のG7伊勢志摩サミットで取りまとめた、「テロ及び暴力的過激主義対策に関するG7行動計画」の中で、①国際刑事警察機構(インターポール)のデータベースや乗客予約記録(PNR)の活用を始めとする具体的なテロ対策、②暴力的過激主義を防止するための対話を通じた寛容の促進及び③開発途上国への能力構築支援の重要性を掲げ、2018年のG7シャルルボワ・サミットでも、テロに対抗するためにG7が引き続き協働することが確認された。①については、ISIL支配地域から母国へ帰還・第三国へ移動するFTF対策として、航空会社が保有する事前旅客情報(API)、PNR及び生体データを活用することを含むものであるが、2017年12月には国連安保理においてこれらの情報の活用や共有について一部義務化する決議第2396号が採択された。日本も共同提案国として同決議の採択に貢献した。②のテロの根本原因である暴力的過激主義対策においては、異なる価値を排除せず、これを受け入れる寛容な社会の構築が重要との観点から、日本は異文化間・異宗教間の対話促進、また、女性・若者のエンパワーメント(能力・地位の向上)を通じたコミュニティ支援などを重点的に実施している。

③については、日本のテロ対策支援では、特にアジアを重視しており、総合的なテロ対策の強化策として、2016年、日・ASEAN首脳会議において今後3年間で450億円の支援、2,000人規模の人材育成を行っていくことを発表した。日本はこの2年間で既に目標を大きく上回る800億円規模の支援及び約2,600人のテロ対策人材の育成を達成した。具体的事例として、2018年にインドネシアで開催された「第18回アジア競技大会」のテロ対策強化のため、同大会のメインスタジアムに対し日本製のテロ対策機材(顔認証システム等)を供与し、さらに9月には、顔認証等の生体データ活用促進を図るため、同機材を利用してASEAN諸国の実務者を対象としたワークショップを実施した。

また、15年間にわたり継続して行っている取組としては、イスラム学校の教師を招へいし、宗教間の対話、日本の文化や教育の現場の視察等を行う交流事業がある。異なる価値を受け入れる寛容な社会・穏健主義拡大への貢献として、今後もこうした取組を続けていく。

国際機関を通じたテロ対策も実施しており、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)や「コミュニティの働きかけ及び強靱(きょうじん)性に関するグローバル基金(GCERF)」などの国際機関や基金に約6,600万米ドル拠出し(2017年度補正予算)、これらの機関によるテロ及び暴力的過激主義対策の個別プロジェクトを支援している。

このほか、テロ情勢に関する情報交換や連携の強化等を確認するために実施している二国間テロ対策協議は、2018年は英国、チュニジア、ロシア、中国及びトルコとの間で実施した。

日本政府はこれまで、関係国や関係機関と協力してテロ対策を推進するとともに、テロ対策の要諦は情報収集であるとの認識に基づき、2015年12月、国際テロ情報収集ユニット(CTU-J)を設置し、政府一体となった情報収集を官邸の司令塔の下に行ってきている。シリアで3年以上にわたり拘束されていた邦人が2018年10月に無事解放されたことは、CTU-Jを中心に関係国にも協力を依頼し、また、情報網を駆使して対応に努めた結果であった。海外における邦人の安全確保という重要な責務を全うするため、領事局とCTU-Jとが互いの役割を理解し、両者が緊密に連携してきたことの意義も大きい。今回の経験をふまえ、今後ともCTU-Jを通じた情報収集を更に強化し、テロ対策及び海外における邦人の安全確保に万全を期していく。

イ 刑事司法分野の取組

国連の犯罪防止刑事司法会議(通称「コングレス」)及び犯罪防止刑事司法委員会は犯罪防止及び刑事司法分野における国際社会の政策形成を担っている。2020年4月には京都で第14回国連犯罪防止刑事司法会議(「京都コングレス」(巻頭特集「2019~2020年を見据えて」11ページ参照))が開催されることから、関係各国、機関、省庁等と連携し、開催準備を進めている。また、京都コングレスでは、全体テーマ「2030アジェンダの達成に向けた犯罪防止、刑事司法及び法の支配の推進」の下で、犯罪防止・刑事司法分野の対策や国際協力の在り方に関する政治宣言を採択する予定であることから、同宣言に盛り込むべき内容等について議論を進めている。

また、UNODCへの資金拠出や日・ASEAN統合基金(JAIF)からの資金拠出を通じて、東南アジア諸国の法執行機関の訴追能力向上やサイバー犯罪対策に係る能力強化を支援している。

日本は2017年7月、テロを含む国際的な組織犯罪を一層効果的に防止し、これと戦うための協力を促進する国際的な法的枠組みを創設する国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を締結し、同条約に基づく捜査共助等による国際協力を推進している。

ウ 腐敗対策

日本は、贈収賄、公務員による財産の横領などの腐敗行為に対処するための措置や国際協力を規定した国連腐敗防止条約(UNCAC)の締約国として、締約国会議等において、腐敗の防止・撲滅のための国際協力の強化に向けた議論に積極的に参加している。また、日本は従来、UNODCへの拠出を通じて、開発途上国の腐敗対策当局による捜査・訴追能力の強化を目的とした研修などを実施している。2018年は、各締約国におけるUNCACの実施状況を検証するUNCAC実施レビューメカニズム(評価の仕組み)の運営などを支援するため、UNODCに約12万米ドルを拠出した。

G20の枠組みでは、日本は、次期G20議長国として腐敗対策作業部会の活動に積極的に参加し、国有企業の清廉性向上に関するハイレベル原則などの策定に貢献した。

経済協力開発機構(OECD)贈賄作業部会は「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」の各締約国による履行状況の検証を通じて、外国公務員贈賄の防止に取り組んでおり、日本も積極的に参加している。さらに日本はアジア開発銀行(ADB)とOECDが共同で推進する「ADB・OECDアジア太平洋腐敗対策イニシアティブ」を支援しており、同地域での腐敗対策向上にも貢献している。

エ マネーロンダリング(資金洗浄)・テロ資金供与対策

マネーロンダリングやテロ資金供与対策については、国際的な枠組みである金融活動作業部会(FATF)が、各国が実施すべき国際基準を策定し、その履行状況について相互審査を行っている。日本は、設立時からのメンバー国として、これらの議論に積極的に参加している。近年、FATFは、大量破壊兵器の拡散につながる資金供与の防止対策にも取り組んでおり、北朝鮮による不正な金融活動の根絶を求めるFATF声明を発出している。

さらに、日本は、マネーロンダリングやテロ資金の流れを遮断するための国際的な取組を支援するため、UNODCと連携し、イランやASEAN諸国等に対して法整備支援等の能力構築支援を行っている。

オ 人身取引対策

日本は、手口が一層巧妙化・潜在化する人身取引犯罪に効果的に対処するため、「人身取引対策行動計画2014」に基づき、国内体制を強化するとともに、開発途上国への支援も積極的に実施している。例えば、2018年、JICAを通じ、日本を含むアジア各国の関係者の人身取引対策(特に、予防、被害者保護・自立支援)に関する取組の相互理解及びより効果的な地域連携の促進を目的とする研修事業等を新たに開始した。国際機関との連携としては、国際移住機関(IOM)への拠出を通じて2018年も継続して、日本で保護された外国人人身取引被害者の母国への安全な帰国支援及び帰国後に再度被害に遭うことを防ぐための社会復帰支援事業を行うとともに、UNODCが実施する東南アジア諸国向けのプロジェクトに拠出し、法執行当局に対する研修などを実施した。

また、日本は、人身取引議定書の締約国として、人身取引撲滅に向けた諸外国との連携を一層深化させている。

カ 不正薬物対策

日本は、UNODCと協力して、アジア太平洋地域における覚醒剤や危険ドラッグなどの合成薬物の調査・分析、空港や港湾での取締当局の貨物検査能力の向上支援を行い、国境を越えて拡散する不正薬物対策に取り組んでいる。また、世界最大の違法ケシ栽培地であるアフガニスタンに関しては、国境管理の強化や代替作物開発の促進及び周辺国と合同の麻薬取締官の能力強化のために、UNODCに対して500万米ドルを拠出している。また、2018年3月に開かれた第61会期国連麻薬委員会(CND)では、ロシア、中央アジア諸国、UNODCと共に、西・中央アジアにおける麻薬対策のための法執行機関の能力強化に係るサイドイベントを開催し、日本、ロシア、UNODCが連携して実施している「ドモジェドヴォ・プロジェクト」(コラム「アフガニスタン産麻薬との戦い ~日本・ロシア・国連と共に麻薬探知犬チームを立ち上げる~」155ページ参照)を始めとした当該地域への日本の積極的な支援をアピールした。

COLUMN
アフガニスタン産麻薬との戦い
~日本・ロシア・国連と共に麻薬探知犬チームを立ち上げる~
国連薬物・犯罪事務所(UNODC)事業局欧州・西中央アジア地域課プログラム調整官 保坂英輝

アフガニスタンでは、悪化する治安と貧困を背景に、違法な麻薬原料(ケシ)の生産が拡大しています。ケシは世界中で乱用されるアヘンやヘロインの原料となるもので、現在、違法なケシのおよそ9割はアフガニスタンで生産されているともいわれます。麻薬問題への対処はアフガニスタンとその周辺地域の安定にとって大きな課題の一つであり、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)は、国際社会と協力しながら、ケシ栽培の実態調査、麻薬取締機関の能力強化、刑事司法制度の改善、代替作物の開発、薬物依存の予防と治療、依存者の社会復帰支援などを行ってきました。

そういった活動の一つとして、UNODCは、日本・ロシアと連携し、2012年9月から「ドモジェドヴォ・プロジェクト」を実施しています。これは、日本の拠出金を基に、アフガニスタンと中央アジア5か国の麻薬警察の捜査官をモスクワ郊外のドモジェドヴォに招へいし、ロシア内務省の職業訓練学校である「ドモジェドヴォ訓練センター」で研修を行うというプロジェクトです。日本は、予算面での負担だけではなく、毎回の研修に厚生労働省麻薬取締部の専門家を派遣するという形で、顔の見える支援を行っています。

アフガニスタン産麻薬との戦い・写真

「ドモジェドヴォ・プロジェクト」は、アフガニスタン及び中央アジア諸国政府とも協力して、過去7年間で195人の捜査官を訓練し、各国の捜査活動の強化に貢献してきました。これは、日本・ロシア・国連の三者が連携し、アフガニスタンと周辺地域における麻薬違法取引対策を支援するというユニークな協力のフォーマットで、2016年国連麻薬特別総会の成果文書に謳(うた)われた、国際社会の「共有された責任」(Shared Responsibility)を果たすための試みの一環であるといってもよいでしょう。

2018年10月、この「三者協力」の更なる発展として、アフガニスタン政府の支持の下、アフガニスタン内務省に麻薬探知犬チームを創設するプロジェクトが発足しました。麻薬探知犬は、薬物の密輸と違法取引を取り締まるための強力なアシスタントとして、日本を始め世界各国の警察や税関当局で採用されています。アフガニスタンにおいてはこれが初の試みとなりますが、ロシアが有する探知犬とハンドラー育成のノウハウ、日本の拠出金と技術支援を有効にいかし、段階を踏みながら、チームの育成に取り組んでいきます。その第一歩として、2018年10月、将来のチームの中核となるマネジャー・主要ハンドラー等に対する1か月の研修がロシア南部のロストフ・ナ・ドヌーで行われました。

アフガニスタン産麻薬との戦い・写真

2018年11月には、ウィーンにて日本・ロシア・アフガニスタン・UNODCの代表者が、これまでの協力の成果や麻薬犬プロジェクトの立上げを踏まえ、今後の更なる協力を確認する共同文書に署名しました。今後もこの四者の持ち味をいかした協力が続いていくことが期待されます。

* 本稿の文責は筆者にあり、本文の記述は、国連及び日本外務省の立場を必ずしも表していないことを申し添えます。

(4)海洋

日本は、海上貿易と海洋資源の開発を通じて経済発展を遂げ、「自由で開かれ安定した海洋」を追求してきた海洋国家である。日本にとって、航行・上空飛行の自由や海洋資源の開発等の経済的存立の基盤となる海洋権益は、平和と安定及び繁栄を確保する上で重要である。こうした海洋権益を長期的かつ安定的に確保するため、海洋秩序の維持・強化及び海上交通の安全確保は不可欠である。

さらに、力ではなく、法とルールが支配する海洋秩序に支えられた「自由で開かれ安定した海洋」は、日本だけではなく国際社会全体の平和と繁栄に不可欠であり、これを維持・発展させていくために、日本は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、海洋秩序の維持・強化及び海上交通の安全確保に積極的に貢献している。

しかし、近年、資源の確保や安全保障の観点から各国の利害が衝突する事例が増えている。特に、アジアの海では、国家間の摩擦から緊張が高まる事例が増えており、国際社会も重大な関心を持って注視している。このような中、2014年5月の第13回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)(シンガポール)においては、安倍総理大臣が、「海における法の支配の三原則」(6(2)179ページ参照)を徹底していく必要があるとの認識を表明した。2018年4月にトロントで開催された、G7外相会合においては、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序の重要性、東シナ海及び南シナ海の状況の懸念、海賊行為等違法な海洋活動への対応や海洋状況把握(MDA)を含む能力構築支援といった課題への対応と協力推進へのコミットメントを表明した。さらに、G7以外でもASEAN地域フォーラム(ARF)海上安全保障会期間会合ASEAN海洋フォーラム拡大会合(EAMF)を含む東アジア首脳会議(EAS)関連会合等の場を活用し、「自由で開かれ安定した海洋」の重要性や海洋安全保障に関する日本の考え方及び取組について積極的に発信している。

また、日本は、外務省、防衛省・自衛隊及び海上保安庁による能力構築支援、装備・技術協力、海洋状況把握(MDA)等の様々な支援を組み合わせ、主にアジア及びアフリカの沿岸国に対して、巡視船の供与、技術協力、人材育成等を通じた海上法執行能力の向上に向けた切れ目のない支援を行っており、海における法の支配の確立・促進に貢献してきている。

ア 海洋の秩序
(ア)国連海洋法条約と日本の取組

海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約:UNCLOS)は、「海の憲法」とも呼ばれ、法の支配に基づく海洋秩序の根幹を成す条約である。日本にとって、同条約を根幹とした海洋秩序は、日本の海洋権益を確保し、海洋に係る活動を円滑に行うための礎となるものである。このため、日本は、同条約の更なる普遍化と適切な実施の確保のために、締約国会議などでの議論や関連国際機関の活動に積極的に貢献している(6(2)179ページ参照)。

(イ)海洋秩序に対する挑戦と日本及び国際社会の対応(第1章1(2)14ページ、第2章1節3(1)46ページ及び第2章1節7(2)65ページ参照)
a 東シナ海をめぐる情勢

東シナ海では、尖閣諸島周辺海域における中国公船による領海侵入事案が2018年も続いており、また中国軍艦艇・航空機による活発な活動も確認されている。加えて、排他的経済水域(EEZ)及び大陸棚の境界画定がいまだ行われていない海域では、中国による一方的な資源開発が継続している。さらに、近年、東シナ海を始めとする日本周辺海域において日本の同意を得ない調査活動や同意内容と異なる調査活動が多数確認されている。このように東シナ海における中国の一方的な現状変更の試みが継続していることを踏まえ、日本としては日本の周辺海空域における動向を十分注視しながら、主張すべきは主張しつつ、引き続き、毅然(きぜん)かつ冷静に対応していくと同時に、東シナ海の平和と安定のため、米国を始めとする関係国との連携を進めていく。

尖閣諸島魚釣島
尖閣諸島魚釣島
写真提供:内閣官房領土・主権対策企画調整室
b 南シナ海をめぐる問題

南シナ海では、中国による大規模かつ急速な拠点構築及びその軍事目的での利用等、現状を変更し緊張を高める一方的な行動、さらにはその既成事実化の試みが一段と進められており、日本を含む国際社会は深刻な懸念を表明している。日本は、これまで一貫して南シナ海における法の支配の貫徹を支持してきており、南シナ海をめぐる問題の全ての当事者が、国際法に基づく紛争の平和的解決に向け努力することの重要性を強調してきている。また、南シナ海問題に関する中国とASEANとの間の対話について、日本は、そのような取組による緊張の緩和を現場の非軍事化、そして平和で開かれた南シナ海につなげるべきとの立場である。

中国による南シナ海における大規模かつ急速な拠点構築
中国による南シナ海における大規模かつ急速な拠点構築

フィリピン政府が開始した南シナ海をめぐる同国と中国との間の紛争に関する国連海洋法条約に基づく仲裁手続については、2016年7月12日に、仲裁裁判所から最終的な仲裁判断が示された。日本は、同日外務大臣談話を発出し、国連海洋法条約の規定に基づき、仲裁判断は最終的であり紛争当事国を法的に拘束するので、当事国は今回の仲裁判断に従う必要があり、今後、南シナ海での紛争の平和的解決につながっていくことを強く期待するとの立場を表明した。

南シナ海をめぐる問題は、地域の平和と安定に直結し、国際社会の正当な関心事項であるとともに、資源やエネルギーの多くを海上輸送に依存し、航行・上空飛行の自由及びシーレーンの安全確保を重視する日本にとっても、重要な関心事項である。「自由で開かれ安定した海洋」の維持・発展に向け、国際社会の連携が重要である。この観点から、日本は、米国の「航行の自由」作戦を支持する立場をとっている。

イ 海上交通の安全確保

日本は、アジアやアフリカでの海賊対策などの取組や各国との緊密な連携・協力を通じて、航行・上空飛行の自由や海上交通の安全確保に積極的に貢献している。

(ア)アジアにおける海賊対策

日本は、アジアの海賊等事案対策における地域協力の促進のため、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)の策定を主導し、同協定は2006年に発効した。各締約国は、同協定に基づき、シンガポールに設置された情報共有センター(ReCAAP-ISC)を通じて、マラッカ・シンガポール海峡等における海賊等事案に関する情報共有及び協力をしており、日本は人的貢献(事務局長や事務局長補の派遣)及び財政的貢献によりReCAAP-ISCの活動を支援してきている。5月19日から25日にかけて、地域連携、協力関係の更なる強化のため、ReCAAP-ISCの協力の下、全締約国を対象とした「第2回海賊等対策に係る海上法執行能力向上研修プログラム」を東京、神奈川において開催した。加えて、日本はアジアにおいて、沿岸国の海上法執行能力向上支援、監視能力向上支援といった取組を進めており、国際的にも高く評価されている。

国際商業会議所(ICC)国際海事局(IMB)の発表によれば、東南アジア海域における海賊等事案の発生件数は、2017年は76件、2018年は60件となっている。近年、東南アジアのスールー海及びセレベス海において船員誘拐事案が発生し、同海域を航行する船舶の脅威となっている。こうした状況にかんがみ、日本は、11月の東アジア首脳会議(EAS)では、「テロに屈しない強靱(きょうじん)なアジア」に向けて、現下の状況を踏まえ、フィリピン南部、スールー海及びセレベス海の治安改善のため包括的な取組によって2年間で150億円規模の支援を着実に実施することを表明した。日本は、このような支援表明に基づき、今後も海上保安能力の構築支援を引き続き積極的に行っていく。

(イ)ソマリア沖・アデン湾における海賊対策
a 海賊・武装強盗事案の現状

IMBの発表によれば、ソマリア沖・アデン湾での海賊・武装強盗事案(以下「海賊等事案」)の発生件数は、ピーク時の2011年(237件)以降減少傾向にあり、2015年には0件、2016年には2件、2017年には9件、2018年には3件と低い水準で推移している。引き続き各国海軍などによる海上取締活動、各国商船による自衛措置の実施などの取組が行われているが、ソマリア沖海賊を生み出す根本的原因はいまだ解決しておらず、また、ソマリア沖海賊は依然として海賊行為を行う意図と能力を維持しており、予断を許さない状況である。

b 海賊対処行動の延長と護衛実績

日本は、2009年から一度も中断することなくソマリア沖・アデン湾に海上自衛隊の護衛艦(海上保安官が同乗)やP-3C哨戒(しょうかい)機を派遣し、海賊対処行動を実施している。2018年11月9日、日本政府は、海賊対処法に基づく海賊対処行動を更に1年間延長することを閣議決定した。派遣された護衛艦は、2018年1月から12月まで29回の護衛活動で38隻の商船を護衛し、P-3C哨戒機は、237回の任務飛行を行い、警戒監視や情報収集、他国艦艇への情報提供を行った。

c 海賊対策における国際協力の推進

日本は、ソマリア沖海賊を生み出す根本的原因の解決に向けて、ソマリアや周辺国の海上保安能力の向上やソマリアの安定に向けた支援といった多層的な取組を行っている。日本は、国際海事機関(IMO)の設置した基金に1,510万米ドルを拠出し、イエメン、ケニアやタンザニアへの情報共有センターの設置や、ジブチにおける地域訓練センター(DRTC)の建設を支援した。このDRTCにおいては、2017年10月に、日仏共催で海洋安全保障に関するセミナーを開催したほか、海上法執行機関等の能力向上を目的としたセミナーの開催も支援している。また、国連開発計画(UNDP)が管理する国際信託基金に450万米ドルを拠出し、ソマリアや周辺国の法廷などの整備や法曹関係者の訓練・研修のほか、セーシェル等のソマリア周辺国で有罪判決を受けた海賊のソマリアへの移送などを支援している。そのほか、JICAの技術協力を通じて能力拡充を支援しているジブチ沿岸警備隊に対し、2015年12月、巡視艇2隻を供与し、2018年2月には海上監視のための船舶等の供与に係る書簡の交換を行った。また、ソマリアの安定に向けて、日本は、2007年以降、基礎サービス改善支援、警察支援等による治安向上への支援、職業訓練及び雇用創出等による国内経済活性化の支援のため、総額4億6,800万米ドルを拠出している。

(5)サイバー

サイバー空間が人々の経済社会の活動基盤として欠かせないものとなる一方で、サイバー攻撃の規模や影響は年々拡大しており、2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を控え、サイバーセキュリティは喫緊の課題である。

また、サイバー攻撃は、匿名性が高く、攻撃側が有利であり、地理的な制約を受けることが少なく容易に国境を越えるという特性がある。そのため、サイバーセキュリティは、一国のみで対応することが困難な国際社会共通の課題であり、国際社会との連携や協力が不可欠である。

こうした状況を背景に、日本は、2018年7月に改定された「サイバーセキュリティ戦略」を踏まえ、「法の支配の推進」、「信頼醸成措置の推進」及び「能力構築支援」を三本柱としてサイバー外交を推し進めてきている。

「法の支配の推進」について、日本は、サイバー空間を利用した行為に対しても既存の国際法が適用されるとの立場から、国連における政府専門家会合(GGE)等への参加を通じ、国際社会における議論に積極的に取り組んでいる。12月の国連総会では、米国が提出し、日本も原共同提案国となった第6会期目のGGEの立上げに係る決議案が、賛成多数により採択された(賛成138、反対12、棄権16)。

また、悪意のあるサイバー行為に対しては、他の有志国と協働し、抑止のための取組を行っている。12月には、中国を拠点とするAPT10と呼ばれるサイバー攻撃グループを断固非難する声明を発出し、中国を含むG20メンバー国に、国際社会の一員として責任ある対応を求めた。

さらに、サイバー犯罪対策について、サイバー空間の利用に関する唯一の多数国間条約である「サイバー犯罪条約」(ブダペスト条約)のアジア地域初の締約国として、サイバー犯罪条約関連会合等に積極的に参加するとともに、特にアジア地域での条約締約国の拡大に努めている。

「信頼醸成措置の推進」について、サイバー活動を発端とした不測の事態を防ぐためには、お互いの考え方について理解を深め、相互に信頼性を高めることが必要である。日本はこれまで米国を始め、英国、フランス、オーストラリア等14の国・地域との間で協議・対話を実施してきた。また、4月には、ASEAN地域フォーラム(ARF)の枠組みにおいて、マレーシア及びシンガポールと共に第1回目となるサイバーセキュリティに関する会期間会合(クアラルンプール(マレーシア))の共同議長を務めた。こうした協議等を通じて、サイバー分野における政策及び取組について情報交換し、相互理解を深め、信頼醸成措置の促進に努めている。

「能力構築支援」について、サイバー空間の性質上、一部の国や地域における対処能力の不足が世界全体にとってのリスク要因となることから、開発途上国等への能力構築支援は日本の安全を確保する上でも重要である。日本は、ASEAN諸国を中心にCSIRT2や関係行政機関の能力強化等の支援を行っている。2016年10月に策定した政府横断的な「サイバーセキュリティ分野での開発途上国に対する能力構築支援(基本方針)」に基づき、今後もオールジャパンで戦略的かつ効率的な支援の取組を進めていく。

(6)宇宙

近年、宇宙利用の多様化及び活動国の増加に伴って宇宙空間の混雑化が進むとともに、衛星破壊(ASAT)実験や人工衛星同士の衝突等による宇宙ゴミ(スペースデブリ)の増加の問題が生じ、持続的かつ安定的な宇宙利用に関するリスクが増大している。

日本は、そのような状況に対応するため、宇宙システムの機能保証等に取り組み、国際協力、とりわけ同盟国たる米国との協力による取組も含め、宇宙空間の安定的利用を確保する施策を実施している。

ア 宇宙空間における法の支配の実現・強化

宇宙空間をめぐる環境の変化を踏まえ、国際社会では、宇宙空間での新たなルールの必要性が様々な形で活発に議論されており、日本としても宇宙空間での法の支配を確立するため、こうした議論に積極的に関与している。例えば、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)における「宇宙活動の長期的持続可能性に関するガイドライン」の作成を始めとした国際会議等の議論に積極的に参加・貢献し、国際社会におけるルール作りに一層大きな役割を果たしている。COPUOS法律小委員会では、2020年及び2021年に青木節子慶應義塾大学大学院法務研究科教授が議長を務めることとなった。2018年6月のCOPUOS本委員会では、宇宙の平和利用のための国際協力の将来について検討する機会として「第1回国連宇宙会議」開催50周年記念会合(UNISPACE+50)のシンポジウム及びハイレベル・セグメント(各国の主要な代表者による会合)が開催され、宇宙の平和利用のための国際協力の将来及び持続可能な開発の推進力としての宇宙の役割について確認された。10月の国連総会ではUNISPACE+50に関する決議が採択された。宇宙空間における軍備競争の防止(PAROS)に関し、2017年の国連総会決議に基づいて、政府専門家会合が立ち上げられ、2018年1月に第1回会合が開催された(日本を含む25か国の専門家が参加)。

イ 各国との宇宙対話・協議の実施

国際社会における宇宙に関する関心の高まりを反映し、幅広い分野における情報共有や国際協力を目的とした様々な二国間・多国間の宇宙対話・協議等が増加している。日本としても、宇宙主要国やアジア太平洋地域を中心に、安全保障や科学・産業分野での対話を推進している。

7月には宇宙に関する包括的日米対話第5回会合(東京)を実施し、民生分野及び安全保障分野の両面における幅広いテーマについて、宇宙協力に関する包括的な意見交換を行い、その成果として共同声明が発出された。11月には、安倍総理大臣とペンス米国副大統領が、ホステッド・ペイロード(人工衛星への機材の相乗り)や月近傍有人拠点に関する協力の具体的検討を含め、安全保障・探査・産業の各面での宇宙協力の強化を確認した。また、10月に、安倍総理大臣とモディ・インド首相は宇宙活動の長期的な持続可能性を促進するとのコミットメントを改めて表明し、宇宙に関する二国間協力を強化するために年次の宇宙対話を立ち上げることを決定した。多国間会合としては、11月に文部科学省及び国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)等の共催により、「第25回アジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF-25)」(シンガポール)が開催され、アジア・太平洋地域における宇宙協力の枠組みの一層の強化を図った。

ウ 宇宙科学・探査、日本の宇宙産業の海外展開及び地球規模課題解決に向けた支援

平和目的の宇宙空間の探査及び利用の進歩は、全人類の共同の利益であり、外交的にも重要な意義を持つものである。中でも国際宇宙ステーション(ISS)は、15か国が参加する壮大なプロジェクトであり、宇宙に関する国際協力の象徴とも言える。また、日本実験棟「きぼう」は、超小型衛星の放出機能を有しており、宇宙分野における能力構築支援を目的として、数多くの新興国・開発途上国の衛星の放出にも利用されている。例えば、「きぼう」からの超小型衛星放出の機会を提供するJAXAと国連の連携プログラム(KiboCUBE)を通じて、ケニアとして初の超小型衛星が5月に放出された。また、3月に、日本は第2回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)を開催した。ISEF2では、林文部科学大臣が議長を務め、45の国・国際機関から閣僚や宇宙機関長が参加し、宇宙探査の重要性や、国際協力によって進めることの意義、今後の協力の在り方等について議論が展開されるとともに、国際宇宙探査を円滑に進める基盤となる「国際宇宙探査に関する東京原則」などの成果文書が取りまとめられた。

また、新興国を中心に拡大する宇宙開発利用市場の成長を取り込んでいくことは日本の宇宙産業にとって重要な課題であり、トップセールスや在外公館の活用に加え、11月に運用を開始した日本の準天頂衛星システム「みちびき」を活用した農機の自動走行等の海外実証の支援など、アジア太平洋を中心とした諸外国において「みちびき」の利活用を促進し、官民一体となって日本の商業宇宙市場の海外展開に取り組んでいる。さらには、宇宙技術を活用した国際協力の実施により、気候変動、防災、森林保全、海洋・漁業資源管理、資源・エネルギーなどの地球規模課題への取組に貢献するとともに、開発途上国の宇宙分野での能力構築支援に取り組んでいる。例えば、インドネシアにおいて日本の地球観測衛星を用いた高精度漁業資源管理システムの共同開発を開始したほか、アフリカにおいても国連持続可能な開発目標(SDGs)パイロット(試験的)事業を開始した。

1 ブルンジ、シエラレオネ、ギニアビサウ、中央アフリカ、リベリアの5か国

2 コンピュータセキュリティインシデントに対処するための組織の総称。コンピュータセキュリティインシデントによる被害の最小化を図るため、インシデント関連情報、脆弱(ぜいじゃく)性情報、攻撃の予兆情報等を収集・分析し、解決策や対応方針の策定、インシデント対応等を行う。

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