外交青書・白書
第2章 地球儀を俯瞰する外交

3 中国・モンゴルなど

(1)中国

ア 中国情勢
(ア)内政

3月、第13期全国人民代表大会(「全人代」)第1回会議及び第13期全国政治協商会議(「全国政協」)第1回会議が開催され、2017年秋の党人事を踏まえた、習近平(しゅうきんぺい)政権第2期の国務院、全人代、全国政協人事が公表された。習近平国家主席(党内序列1位)、李克強(りこくきょう)国務院総理(党内序列2位)が再任され、栗戦書(りつせんしょ)全人代常務委員長(党内序列3位)、汪洋(おうよう)全国政協主席(党内序列4位)等が新たに就任したほか、2017年10月に中央政治局常務委員(いわゆる「トップ7」)を引退した王岐山(おうきざん)氏が国家副主席に就任した(引退した政治局常務委員の公職復帰は異例)。

今回の全人代では、2004年以来14年ぶりに憲法が改正され、「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」が、胡錦濤(こきんとう)前国家主席が提唱した「科学的発展観」と共に憲法に追記された。また、従来の国家主席と国家副主席の3選禁止規定が撤廃され、習近平国家主席は2023年以降も国家主席の地位を維持することが可能となった。

習近平政権が積極的に取り組む反腐敗の分野では、「国家監察委員会」が新設され、中国共産党員だけでなく広く公務員全体を対象に反腐敗の取締りを行う機関が発足した。

2013年以来5年ぶりに国務院の機構改革が実施され、自然資源部、生態環境部、農業農村部、文化旅遊部、退役軍人事務部、応急管理部等、26部局から27部局となった。

社会情勢では、2017年に死去した人権活動家でノーベル平和賞受賞者の劉暁波(りゅうぎょうは)氏の妻、劉霞(りゅうか)氏が、実質的な軟禁状態を解かれ7月にドイツへ出国した。中国国内における人権活動家やウイグル族を始めとする少数民族等に対する締め付けは引き続き強化されており、国際社会から懸念の声が上がっている。

(イ)経済

中国では、景気の持ち直しの動きに足踏みが見られ、2018年の実質GDP成長率は前年比6.6%増、貿易総額は前年比12.6%増となっている。過剰生産能力・過剰債務問題への対応や米中間の貿易・投資問題等の影響により、内需(消費、固定資産投資)の伸びの低下が見られるようになった。金融情勢についても米中間の貿易・投資問題等の影響が見られ、上海株式市場では、株価は年末には年初と比べ約25%下落した。為替については、年後半から元安ドル高傾向が続き、8月にはレートの基準値算出方法が変更されたものの、年末には1ドル=6.9元台前後で推移した(年初は1ドル=6.4元台)。こうした経済情勢を受け、7月、中国政府は、インフラ整備等の積極的な財政政策や流動性供給等の穏健な金融政策の実施により景気の下支えを行うことを表明した。

中国のGDPの推移
中国のGDPの推移

対外経済政策について、2018年は改革開放40周年に当たり、国内市場開放に向けた取組として、中国国際輸入博覧会の開催や自動車・日用品等の関税率の引下げ等が進められた。一方、米国との間では、貿易・投資問題をめぐり、双方が累次にわたって追加関税措置を発動するといった事態に至る中、今後の対応について米中間の協議が行われており、協議の動向が注目される。

12月に開催された中央経済工作会議では、「経済情勢の安定の中に変化や懸念が生じ、複雑かつ厳しい外部環境の下、経済は下方圧力に直面している」とした上で、大幅な減税等による積極的な財政政策と民間企業・零細企業に対する融資問題の解決等による穏健な金融政策を継続し、2019年の重点任務として、製造業の質の高い発展、強大な国内市場形成の促進、経済体制改革(国有資本の強大化・優良化、資源配分における政府の関与の減少等)の加速、全面的な対外開放の推進等に取り組むこととされた。安定的に党・政権を運営するためには、一定の経済成長を確保しつつ国内外の各種課題に対応する必要があり、今後の経済財政政策の動向が注目される。

(ウ)外交

2018年、中国はボアオ・アジア・フォーラム(4月)、上海協力機構(SCO)サミット(6月)、中国・アフリカ協力フォーラム(9月)、中国国際輸入博覧会(11月)等、各国首脳を招いた大規模な外交行事を相次いで主催し、「大国外交」をアピールした。

6月、習近平政権下では2度目の「中央外事工作会議」が開催され(前回は2014年11月)、政治局常務委員7名に加え、王岐山国家副主席が出席した。楊潔篪(ようけつち)外事工作委員会弁公室主任は、同会議で「習近平外交思想」の指導的地位が確立されたと宣言した。

米中関係は、年初にトランプ米国大統領が一般教書演説で中国等について米国の「国益、経済力、価値観に挑むライバル」と発言、7月以降、米中双方が制裁関税を発動する等、関係が緊張化した。こうした中、G20ブエノスアイレス・サミットの際に行われた米中首脳会談(12月)で、米中双方は更なる関税措置を暫時見合わせ、更なる協議を行うことで一致しており、今後の動向が注目されている。

(エ)軍事・安保

中国の国防費は過去30年間で約51倍に増加しているが、予算の内訳、増額の意図については十分明らかにされていない。こうした中、核・ミサイル戦力や海・空軍戦力を中心として、軍事力は広範かつ急速に強化・近代化されている。その際、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における優勢の確保も重視している。中国による透明性を欠いた軍事力の拡大や東シナ海等における一方的な現状変更の試み及び軍事活動の拡大・活発化は、地域・国際社会共通の懸念事項となっている。中国は、国連平和維持活動(PKO)のほか、各種人道支援、災害救援活動などにおいては、継続的に積極的な姿勢を取っている。

習近平国家主席は、第19回党大会で、今世紀半ばまでに中国軍を世界一流の軍隊にすると述べた。近年、中国は、政治面、経済面に加え、軍事面でも国際社会で大きな影響力を有するに至っている。中国に対する疑念を払拭するためにも、具体的かつ正確な情報開示などを通じて、中国が国防政策や軍事力の透明性を高めていくことが強く望まれる。日本としては、日中安保対話等の対話や交流の枠組みを通じて、日中間の相互信頼関係を増進させながら、関係国と連携しつつ、透明性の向上について働きかけるとともに、法の支配に基づく国際秩序に中国が積極的に関与していくよう促していく考えである。

イ 日中関係
(ア)二国間関係一般

東シナ海を隔てた隣国である中国との関係は、日本にとって最も重要な二国間関係の一つであり、両国は緊密な経済関係や人的・文化的交流を有している。2018年は、日中平和友好条約締結40周年という節目の機会を捉えて首脳・外相を含むハイレベルでの対話が活発に行われ、日中関係が正常な軌道に戻り、新たな発展を目指す段階へと入る一年となった。

2018年は、安倍総理大臣及び李克強国務院総理の両国首脳間の相互往来が実現した。5月に、李克強国務院総理が、国務院総理としては2010年以来8年ぶりに日本を公式訪問した。日中首脳会談では、李克強国務院総理から安倍総理大臣に対して年内訪中について招請があり、両首脳はその後の習近平国家主席の訪日へと着実にハイレベルの往来を積み重ねることで一致した。また、李克強国務院総理は、今回の訪日で日中関係が正常な軌道に戻り、長期的・安定的な発展を維持していきたいと述べ、安倍総理大臣からは、日中関係が競争から協調へ移り、日中関係の発展により、地域・世界の様々な課題に共に大きな責任を果たしていきたいと述べた。防衛当局間の海空連絡メカニズムを含め、合計10の覚書協力文書への署名が行われた。

李克強国務院総理との日中首脳会談(5月9日、東京 写真提供:内閣広報室)
李克強国務院総理との日中首脳会談
(5月9日、東京 写真提供:内閣広報室)

10月には、安倍総理大臣が、多数国間会議への出席を除き、日本の総理大臣として約7年ぶりに中国を訪問した。習近平国家主席、李克強国務院総理それぞれと首脳会談を実施し、二国間関係のみならず、地域・国際社会の諸問題について率直な議論が行われたほか、12本の国際約束・覚書の署名が行われるなど、政治・安全保障、外交、文化・国民交流などの様々な分野で数多くの成果が上がった。安倍総理大臣の中国滞在中には、首脳会談に加え、日中平和友好条約締結40周年レセプションや第三国市場協力フォーラムへの日中両首脳の出席、安倍総理大臣と北京大学学生との交流など多くの行事が行われ、大変有意義な訪問となった。

李克強国務院総理との日中首脳会談(10月26日、中国・北京 写真提供:内閣広報室)
李克強国務院総理との日中首脳会談
(10月26日、中国・北京 写真提供:内閣広報室)
習近平国家主席との日中首脳会談(10月26日、中国・北京 写真提供:内閣広報室)
習近平国家主席との日中首脳会談
(10月26日、中国・北京 写真提供:内閣広報室)

このほかにも、日中首脳間では、5月に習近平国家主席との間で、国家主席との間では初となる日中首脳電話会談が実施され、9月(東方経済フォーラム)及び11月(G20ブエノスアイレス・サミット)にも習近平国家主席との間で日中首脳会談が実施された。

2018年は日中の外相相互往来も9年ぶりに実現した。1月、河野外務大臣が中国を訪問し、日中首脳往来を着実に進めていくことの重要性を確認した。4月には、王毅(おうき)国務委員兼外交部長が訪日し、日中外相会談のほか、約8年ぶりとなる日中ハイレベル経済対話を実施した。このほかにも、8月(ASEAN関連外相会談)、9月(国連総会)、10月(安倍総理大臣訪中)と様々な機会を捉えて、間断なく日中外相間で対話が行われた。

日中平和友好条約署名から40年を迎えた8月12日には、安倍総理大臣と李克強国務院総理、河野外務大臣と王毅国務委員兼外交部長との間で祝電が交換され、両国の協力関係を深化させ、日中関係を更に発展させていくとの決意が表明された。

そのほかにも、2月及び9月に谷内国家安全保障局長が訪中し、楊潔篪国務委員と会談したほか、8月には秋葉外務事務次官が訪中し、楽玉成(らくぎょくせい)外交部副部長らと意見交換を行った。このほか、外交当局間では、安倍総理大臣の訪中時に日本の外務省と中華人民共和国外交部との間の2019年の交流・協力の年間計画の作成に関する覚書が署名され、日中国際法局長協議(9月)、日中テロ対策協議(9月)、日本の外務省研修所と中国外交部養成学院との交流(9月)、中堅幹部代表団の相互訪問(12月)、日中報道官協議(12月)等、各分野における日中間の実務的な対話と信頼醸成が着実に進められた。また、日中両国の議会間・政党間交流も活発に行われ、7月には大島衆議院議長が全人代からの招請で公式訪中訪問し、10月には、第8回日中与党交流協議会が日本で開催され、「共同提言」が発表された。

日中両国は、地域と国際社会の平和と安定に大きな責任を共有しており、安定した日中関係は、両国の国民だけではなく、北朝鮮問題を含む地域及び国際社会の課題への対応等においても重要である。日本としては、国際社会の課題への対応に共に貢献する中で、共通利益を拡大し、両国関係を発展させていくことが重要であるとの「戦略的互恵関係」の考え方の下、大局的観点から、引き続きハイレベルの頻繁な往来を実現し、あらゆる分野の交流・協力を推し進め、日中関係を新たな段階に押し上げていく。

(イ)日中経済関係

日中間の貿易・投資などの経済関係は、緊密かつ相互依存的である。2018年の貿易総額(香港を除く。)は、約3,175億米ドルであり(前年比6.9%増)、中国は、日本にとって13年連続で最大の貿易相手国となっている。また、日本の対中直接投資は、中国側統計によると、中国経済の持ち直しの動き等により、2018年は約38.1億米ドル(前年比16.5%増(投資額公表値を基に推計))と、中国にとって国として第4位(第1位はシンガポール、第2位は韓国、第3位は英国)の規模となっている。

日中貿易額の推移
日中貿易額の推移
日本の対中直接投資の推移
日本の対中直接投資の推移

2018年は日中平和友好条約締結40周年の節目であり、経済分野においてもハイレベルの往来や協力関係が強化された。4月には、約8年ぶりに日中ハイレベル経済対話が開催され、マクロ経済政策、日中間の経済分野における協力と交流、第三国における日中協力、東アジアにおける経済連携及び地球規模課題への対応等について議論した。5月の李克強国務院総理訪日の際には、金融・食品・第三国における日中民間経済協力等について一致したほか、安倍総理大臣及び李克強総理の立ち会いの下、「社会保障に関する日本国政府と中華人民共和国政府との間の協定」(日・中社会保障協定)の署名が行われ、11月の臨時国会において全会一致で承認された。10月の安倍総理大臣訪中の際には、金融協力が進展(人民元クリアリング銀行の指定、通貨スワップ協定の締結・発効、日中証券市場協力の強化)し、イノベーション及び知的財産権分野の協力のための日中イノベーション協力対話の創設等で一致した。特に、知的財産権を含む問題について、安倍総理大臣から習近平国家主席に対して、中国側が更なる改善を図っていくことが重要であると指摘した。また、日中の財界トップを含め約1,500名の参加を得て日中第三国市場協力フォーラムが開催され、インフラ・物流・IT等に関する52件の協力覚書が署名・交換された。さらに、2018年が中国の改革開放40周年に当たることを踏まえ、日本政府として、2018年度をもって全ての対中ODAの新規供与を終了し、新たな次元の日中協力を追求していくことで一致し、開発協力分野における対話や人材交流の実施に向けた調整を進めていくこととなった(特集「対中ODA40年の回顧」43ページ参照)。このほか、8月には、麻生副総理大臣兼財務大臣が訪中し、劉昆(りゅうこん)財政部長と日中財務対話を開催した。また、同月、王志剛(おうしごう)科学技術部長が訪日し、日中科学技術協力委員会に出席したほか、林文部科学大臣との会談を行う等、幅広い分野における交流が実現した。

食品については、1月末から2月上旬にかけて、北京及び上海において「地域の魅力海外発信支援事業」を実施し、日本産米等を中心とした日本産食品の宣伝事業を展開した。11月には、東京にて7年ぶりに日中食品安全推進イニシアチブの閣僚級会合が開催され、大口厚生労働副大臣と鄒志武(すうしぶ)海関総署副署長ほかが出席した。特に、中国政府による日本産食品・農産物に対する輸入規制については、5月及び10月の日中首脳会談や上記の日中ハイレベル経済対話を始め、10月の第8回日中与党交流協議会や11月の吉川農林水産大臣と倪岳峰(げいがくほう)海関総署長との当局間トップ同士の会談、同月の江藤内閣総理大臣補佐官の訪中、7月の西川内閣官房参与の訪中、8月の二階自民党幹事長の訪中等、あらゆる機会を通じて、中国側に対して科学的根拠に基づく評価を促すとともに、規制の撤廃・緩和の働きかけを行った。その結果、11月末、中国当局が新潟県産精米の輸入解禁を発表する等、一定の成果も出ている。

民間レベルの経済交流も活発に行われた。9月に日中経済協会、日本経済団体連合会(経団連)及び日本商工会議所の合同ミッションが訪中した際や、10月に北京で開催された日中企業家及び元政府高官対話(日中CEO等サミット)では、日中の主要企業の経営者らの間で意見交換が行われ、李克強国務院総理を始めとする中国政府要人との会談が行われた。

特集
対中ODA40年の回顧

1979年、大平総理大臣(当時)は、日中国交正常化や中国の改革開放政策の採用といった経緯を踏まえ、中国の近代化への協力を表明し、同年、鉄道近代化等の技術協力をもって中国に対する政府開発援助(ODA)が始まりました。

1980年代は、円借款による大型経済インフラ支援を中心として、市場経済化や近代化に重点を置いた支援が行われました。例えば、河北(かほく)省の秦皇島(しんこうとう)港拡充事業により、同港は、中国最大の石炭積出港となっています。また、中国に対する最初の無償資金協力として、中日友好病院を設立しました。その後も、同病院では日本の技術協力を通じた医療技術者の育成が行われ、日中友好の象徴的案件として位置付けられています。

中日友好病院 中国・北京市 (写真提供:JICA)
中日友好病院 中国・北京市 (写真提供:JICA)

1990年代は、上海浦東空港や北京都市鉄道といった経済インフラに加えて、都市化、環境汚染及び地域部の貧困対策に対する支援が重点的に行われました。無償資金協力を通じて設立を支援した日中友好環境保全センターは、今や中国の環境保全の中核的存在となっています。1996年度から2000年度に実施した環境分野における一連の円借款事業を通じ、都市ガス事業で10都市395万人以上、地域熱供給事業で6都市90万人以上、下水事業で28都市1,300万人以上が裨益(ひえき)したとの調査結果があります。

四川大地震時における国際緊急援助隊救助チームの活動 中国・四川省(写真提供:JICA)
四川大地震時における国際緊急援助隊救助チームの活動 中国・四川省(写真提供:JICA)

2000年代は、経済インフラから、環境・生態保全、社会開発、人材育成、法制度整備分野を中心とした支援に移行するとともに、対中ODAの規模は2000年度の2,144億円をピークに縮小しました。具体的には、13省・自治区に対する植林事業や農村部の年金制度整備支援、ビジネス環境を整備し、日系企業の進出を後押しするための法整備支援等が着実に実施されましたが、中国の発展に伴い、2006年に一般無償資金協力、2007年に円借款の新規供与が終了しました。また、2008年の四川大地震を受けた日本の国際緊急援助隊による支援は、日中双方のメディアにも大きく取り上げられました。

こうした支援は中国の改革・開放政策の維持・促進に貢献するとともに、日中関係を下支えする主要な柱の一つとして強固な基盤を形成してきました。

近年では、技術協力プロジェクト等を通じて、日本国民が直接裨益する越境公害、感染症等、協力の必要性が真に認められるものに限って支援を実施してきましたが、中国の改革開放40周年を契機に、対等なパートナーとして新たな次元の日中協力を推進すべきであるとの考えに至り、2018年10月の安倍総理大臣の中国訪問の機会に、有償・無償資金協力等を合わせて総額約3兆6,000億円に上る対中ODAの終了を発表しました。習近平国家主席からは、これまでの日本の支援に対する高い評価が示されました。今後は、開発分野における対話や人材交流等の新たな日中協力の具体化に向けて日中両政府間で議論していきます。

(ウ)両国民間の相互理解の増進
〈日中間の人的交流の現状〉

中国からの訪日者数は2013年から増加を続けている。2017年の訪日者数は約736万人(日本政府観光局(JNTO)推計値)に達し、過去最高を記録した。2017年は、一年間で日中両国合わせて1,000万人以上の往来があった。団体観光から個人観光へのシフトが一層進み、また、要件が緩和された数次査証の利用者(いわゆるリピーター)も増えていることから、訪日観光の目的地及びニーズは多様化していると考えられる。

〈日中青少年等の交流〉

10月の安倍総理大臣訪中時には、李克強国務院総理との間で、両国国民の相互信頼・理解を醸成する観点から、双方向の国民交流、特に若い世代等の交流を更に拡大する必要があるとの認識で一致した。また、「日本国政府と中華人民共和国政府との間の青少年交流の強化に関する覚書」が両外相の間で署名され、2019年を「日中青少年交流推進年」と銘打って、今後5年間で3万人規模の青少年交流を実施していくことで一致した。

2018年、青少年を含む人的交流事業である「JENESYS2018」により、中国から高校生や若手社会人など約800人を日本に招へいした。訪日した中国の若者は、学校交流や企業視察などを通じ、日本の様々な文化、生活や魅力に触れるとともに、日本の青少年との間で相互理解を深め、今後の日中関係の在り方などについて活発な意見交換を行った。また、「日中植林・植樹国際連帯事業」で、「3つの架け橋」プロジェクト(①大学交流、②オリンピック・パラリンピック交流及び③サッカー交流)を対日理解促進のテーマとした約1,000人規模の交流(招へい)を実施した。

北京大学における安倍総理大臣と大学生との交流(10月26日、中国・北京 写真提供:内閣広報室)
北京大学における安倍総理大臣と大学生との交流
(10月26日、中国・北京 写真提供:内閣広報室)
日中交流促進実行委員会が主催した李克強国務院総理歓迎レセプション(5月10日、東京 写真提供:日本経済団体連合会)
日中交流促進実行委員会が主催した李克強国務院総理歓迎レセプション
(5月10日、東京 写真提供:日本経済団体連合会)
「日中大学生五百人交流団」日中平和友好条約締結40周年記念 日中大学生交流式典・夕食交流会(11月30日、東京 写真提供:日中友好会館)
「日中大学生五百人交流団」日中平和友好条約締結40周年記念
日中大学生交流式典・夕食交流会
(11月30日、東京 写真提供:日中友好会館)
〈各分野における交流〉

将来にわたっての安定した日中関係を築くため、日本政府は、高校生や大学生など次世代を担う青少年のほか、政・経・官・学などの各界において一定の影響力を有する者、オピニオンリーダーなどの様々なレベル・分野の人材を日本に招へいし、幅広い関係の構築・強化に努めている。日本の各界や有識者との意見交換、視察などの交流を通じて、被招へい者と日本側関係者との間に良好な関係が構築され、日本に対する正確な理解を促進することが期待されている。

林鄭月娥(キャリー・ラム)香港特別行政区行政長官(左から3人目)を迎えて開催した「日本秋祭in香港-魅力再発見-」開幕式(10月12日、香港)
林鄭月娥(キャリー・ラム)香港特別行政区行政長官(左から3人目)を迎えて開催した「日本秋祭in香港-魅力再発見-」開幕式
(10月12日、香港)

また、日中平和友好条約締結40周年に当たる2018年には、日中国交正常化45周年・日中平和友好条約締結40周年交流促進実行委員会(日中交流促進実行委員会)の協力の下、年間で440件を超える周年認定行事が行われるなど、様々な交流事業が展開され、友好協力関係を推進した。

(エ)個別の懸案事項
〈東シナ海情勢〉

東シナ海では、尖閣諸島周辺海域における中国公船による領海侵入が継続しており、また、中国軍もその海空域での活動を質・量とも急速に拡大・活発化させている。さらに、日中間の境界未画定海域での中国による一方的な資源開発も継続しているほか、日本の同意を得ない海洋調査も繰り返されている。

尖閣諸島は、歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり、現に日本はこれを有効に支配している。したがって、尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題はそもそも存在しない。日本が1895年に国際法上正当な手段で尖閣諸島の領有権を取得してから、東シナ海に石油埋蔵の可能性が指摘され、尖閣諸島に対する注目が集まった1970年代に至るまで、中国は、日本による尖閣諸島の領有に対し、何ら異議を唱えてこなかった。中国側は、それまで異議を唱えてこなかったことについて、何ら説明を行っていない。

尖閣諸島周辺海域における中国公船及び漁船の動向については、依然として公船による領海侵入が継続しており、その回数は一年間で19回に上った(2017年の領海侵入回数は29回、2016年は36回)。このような中国による一方的な現状変更の試みに対しては、外交ルートを通じ、厳重な抗議と退去要求を繰り返し実施してきており、引き続き、日本の領土・領海・領空は断固として守り抜くとの決意の下、毅然(きぜん)とかつ冷静に対応していく。

加えて、中国軍の艦艇・航空機による日本周辺海空域での活動も活発化している。1月には、尖閣諸島周辺の日本の接続水域を潜没潜水艦及び水上艦艇が航行したほか、6月には、中国海軍の病院船が同接続水域を航行した。いずれも外交ルートを通じ、重大な懸念を表明して厳重に抗議し、再発防止を強く求めた。また、航空機の活動についても引き続き活発であり、2012年秋以降、航空自衛隊による中国軍機に対する緊急発進の回数は高い水準で推移している。このような最近の中国軍の活動全般に対して、日本としては外交ルートを通じ、適切な形で提起してきている。

また、東シナ海における日中間の排他的経済水域(EEZ)及び大陸棚の境界が未画定である中で、中国側の一方的な資源開発は続いている。政府は、日中の地理的中間線の中国側で、2013年6月から2016年5月にかけて新たに12基、それ以前から確認してきたものを含めると合計16基の構造物を確認している。このような一方的な開発行為は極めて遺憾であり、日本としては、中国側による関連の動向を把握するたびに、中国側に対して、一方的な開発行為を中止するとともに、東シナ海資源開発に関する日中間の協力についての「2008年合意」の実施に関する交渉再開に早期に応じるよう強く求めてきている。2018年10月の安倍総理大臣訪中の際には、東シナ海資源開発に関する「2008年合意」の完全な堅持を確認するとともに、その実施に向けた交渉の早期再開を目指し、意思疎通を強化していくことで一致した。

日中中間線付近において設置が確認された中国の海洋構造物(写真提供:防衛省)
日中中間線付近において設置が確認された中国の海洋構造物(写真提供:防衛省)
詳細は、https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/higashi_shina/tachiba.html参照

さらに、近年、東シナ海を始めとする日本周辺海域において、中国による日本の同意を得ない調査活動や同意内容と異なる調査活動も多数確認されている。

日中両国は、これらの懸案を適切に処理すべく、関係部局間の対話・交流の取組を進めている。5月の李克強国務院総理訪日時には、日中防衛当局間の「海空連絡メカニズム」が10年に及ぶ協議を経て妥結し、6月にその運用が開始された。これは、両国の相互理解の増進及び不測の衝突を回避・防止する上で大きな意義を有する。12月には防衛当局間の海空連絡メカニズムに基づく防衛当局間の初の年次会合及び専門職会合が開催された。また、安倍総理大臣訪中時には、日中海上捜索・救助(SAR)協定が署名された。この協定により海上捜索救助分野における日中協力に関する法的枠組みが構築され、これまで以上に円滑かつ効率的な捜索救助活動が可能となることが期待される。また、4月及び12月には、それぞれ仙台及び浙江省(せっこうしょう)嘉興(かこう)市烏鎮(うちん)において日中高級事務レベル海洋協議が開催された。

累次の日中首脳会談で安倍総理大臣が述べているように、東シナ海の安定なくして日中関係の真の改善はない。日中高級事務レベル海洋協議や他の関係部局間の協議を通じ、両国の関係者が直接顔を合わせ、率直に意見交換を行うことは、信頼醸成及び協力強化の観点から極めて有意義である。日本政府としては、中国との間で関係改善を進めつつ、個別の懸案に係る日本の立場をしっかりと主張すると同時に、一つひとつ対話を積み重ね、東シナ海を「平和・協力・友好の海」とすべく、引き続き意思疎通を強化していく。

〈遺棄化学兵器問題〉

日本政府は、化学兵器禁止条約に基づき、中国における旧日本軍の遺棄化学兵器の廃棄処理事業に着実に取り組んできている。2018年は、中国各地において遺棄化学兵器の現地調査及び発掘・回収を進めるとともに、吉林省(きつりんしょう)敦化(とんか)市ハルバ嶺地区における廃棄処理を進め、累計で約5万2,000発の遺棄化学兵器の廃棄を完了(12月現在)した。

〈邦人拘束事案〉

邦人拘束事案については、日本政府として、法施行及び司法プロセスにおける透明性、邦人の権利の適切な保護、公正公平の確保並びに人道的取扱いを中国政府に対して求めてきている。

(2)台湾

ア 内政

11月24日、4年に一度の統一地方選挙が行われ、与党・民進党は首長の数を半減させて大敗し、野党・国民党は首長の数を倍以上増やして大勝した。同選挙結果を受け、蔡英文(さいえいぶん)総統は、民進党主席を辞任した。また、2018年の実質GDP成長率は前年比2.63%増となった。

イ 両岸関係・外交

蔡英文政権の発足以降、中台間の公式ルート(中国側:国務院台湾事務弁公室・海峡両岸関係協会、台湾側:行政院大陸委員会・海峡交流基金会)による直接のやり取りは中断していると見られる。また、中国の反対等により、台湾は世界保健機関(WHO)を始めとする国際機関等の会議に参加することができなかった。5月にはドミニカ共和国とブルキナファソが、8月にはエルサルバドルが台湾と断交するとともに中国との外交関係を樹立し、台湾と外交関係を有する国は17か国となった。

ウ 日台関係

台湾は、日本にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナーであり、大切な友人である。日本と台湾との関係は、1972年の日中共同声明に従い、非政府間の実務関係として維持されている。11月には、日本側の民間窓口機関である日本台湾交流協会と台湾側の民間窓口機関である台湾日本関係協会との間で5本の協力文書が作成され、また、12月には第3回となる海洋協力対話を開催して2本の協力覚書が作成された。

一方、東日本大震災後に台湾が日本産食品に課している輸入規制は依然として解除されておらず、日本側は科学的根拠に基づき、その撤廃・緩和を繰り返し強く求めている。

(3)モンゴル

ア 内政

2017年10月に首相、同11月に与党・人民党党首として選出されたフレルスフ首相は、国際通貨基金(IMF)との間で合意した拡大信用供与措置(EFF)の着実な実施に努めた。その結果もあり、2018年1~9月期の実質GDP成長率が6.4%に達するなど、モンゴルのマクロ経済指標は着実に改善に転じている。

イ 日・モンゴル関係

モンゴルは、日本と普遍的価値を共有する地域の重要なパートナーであり、引き続き「戦略的パートナーシップ」として位置付けた友好的な両国関係を、真に互恵的なものとするべく一層強化していく。

2018年、政府間では、2月に外相会談(東京)、4月に第3回日本・モンゴル戦略対話(東京)、9月に安倍総理大臣とバトトルガ大統領との首脳会談(ウラジオストク(ロシア))、12月に安倍総理大臣とフレルスフ首相との首脳会談(東京)を実施するなど、ハイレベル交流が活発に行われた。また、多国間対話の取組として、4月に第3回日米モンゴル協議(東京)を開催したほか、8月には薗浦健太郎内閣総理大臣補佐官がモンゴルを訪問し、防衛省が実施中の能力構築支援の修了式に出席した。

日・モンゴル首脳会談(9月11日、ロシア・ウラジオストク 写真提供:内閣広報室)
日・モンゴル首脳会談
(9月11日、ロシア・ウラジオストク 写真提供:内閣広報室)
日・モンゴル首脳会談後の共同記者発表(12月13日、東京 写真提供:内閣広報室)
日・モンゴル首脳会談後の共同記者発表
(12月13日、東京 写真提供:内閣広報室)
日・モンゴル外相会談(2月22日、東京 写真提供:内閣広報室)
日・モンゴル外相会談(2月22日、東京 写真提供:内閣広報室)

議会間では、6月にエンフアムガラン国家大会議副議長が訪日した後、10月に郡司彰参議院副議長がモンゴルを訪問した。昨年のエンフボルド国家大会議議長と大島理森衆議院議長の相互訪問に引き続き、副議長の相互訪問が実現し、両国議会間交流は一層強化された。

12月のフレルスフ首相の訪日に際して行われた日・モンゴル首脳会談の後、両首脳は共同声明を発表するとともに、前年3月に外相間で署名した「戦略的パートナーシップのための日本・モンゴル中期行動計画(2017~2021)」の進捗状況を確認したファクトシートを発出した。今後とも引き続き、同計画に沿って着実に二国間関係を強化し、両国の「戦略的パートナーシップ」を発展させるべく取り組んでいく。

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