外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

4 軍縮・不拡散・原子力の平和的利用

(1)核軍縮

日本は、唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界の実現に向け国際社会の取組をリードしていく責務がある。

近年の国際的な安全保障環境は厳しく、また2017年7月に採択された核兵器禁止条約を取り巻く対応に見られるように、核軍縮の進め方をめぐっては、核兵器国と非核兵器国の間のみならず、核兵器の脅威にさらされている非核兵器国とそうでない非核兵器国の間においても立場の違いが見られる。このような状況の下、核軍縮を進めていくためには、核兵器国の協力を得ながら現実的かつ実践的な取組を粘り強く進めていく必要がある。

日本は、核兵器のない世界の実現のため、後述する「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」、国連総会への核兵器廃絶に向けた決議の提出、軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI10)の枠組みや個別の協議などを通じ、核兵器国と非核兵器国の間の橋渡しに努めつつ、核兵器不拡散条約(NPT11)体制の維持・強化や包括的核実験禁止条約(CTBT12)の発効促進、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT13)の交渉開始といった、核兵器国も参加する現実的かつ実践的な取組を積み重ねていく考えである。

ア 核兵器不拡散条約(NPT)

日本は、国際的な核軍縮・不拡散体制の礎石であるNPT体制の維持・強化を重視している。条約の目的の実現及び規定の遵守を確保するために5年に一度開催される運用検討会議では、1970年の条約発効以来、その時々の国際情勢を反映した議論が行われてきたが、2015年に開催された運用検討会議は、中東非大量破壊兵器地帯創設などの問題をめぐり議論が収れんせず、合意文書を採択することなく終了した。こうした状況の中、次回のNPT運用検討会議に向けた取組の重要性が高まっている。

2019年4月から5月にニューヨークで開催された2020年NPT運用検討会議第3回準備委員会には、辻清人外務大臣政務官が出席し、一般討論演説を実施した。加えて、日本政府は、核クラスター(会合)でのステートメントの実施、NPDIメンバー国と連携した透明性や軍縮・不拡散教育に関する作業文書の提出、軍縮・不拡散教育に関する共同ステートメントの主導、サイドイベントの実施などを通じて、議論に積極的に参加した(170ページ 特集参照)。

NPT運用検討会議に向けた取組

2020年は、核兵器不拡散条約(NPT)の運用検討会議の開催が予定されている年であり、また、NPTの発効から50年、広島と長崎に原爆が投下されてから75年の節目の年でもあります。同条約は、核軍縮、核不拡散及び原子力の平和的利用を目的とした条約であり、インド、パキスタン、イスラエル、南スーダンを除く191か国・地域が締約国となっています(2019年12月時点)。

前回の2015年NPT運用検討会議は、中東非大量破壊兵器地帯※1の問題をめぐって締約国が合意に至ることができず、最終文書案が採択されることなく会議が終了しました。それ以降も、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、国際社会では、核軍縮をめぐる見解の相違も存在しています。そうした中でも、NPTが国際社会の平和と安全に果たすべき役割は大きく、日本政府として、NPT体制を維持・強化することを極めて重視し、そのための取組を積み重ねてきています。

2020年に先立つ3年間には、2020年NPT運用検討会議の準備委員会が、毎年開催されました。2017年5月の第1回準備委員会では、核軍縮、核不拡散及び原子力の平和的利用というNPTの三本柱の履行状況について議論が行われました。同委員会には岸田外務大臣が出席し、国家間における信頼関係の再構築の重要性を訴え、そのための提言を得るために、「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」(168ページ 4(1)イ参照)を立ち上げることを表明しました。

2018年4月の第2回準備委員会では、河野外務大臣が「賢人会議」の提言の内容を紹介するとともに、各分野別の議論にも積極的に貢献しました。

2020年NPT運用検討会議第2回準備委員会に出席する河野外務大臣(2018年4月、スイス・ジュネーブ)
2020年NPT運用検討会議第2回準備委員会に出席する河野外務大臣
(2018年4月、スイス・ジュネーブ)

2019年4月の第3回準備委員会では、2020年NPT運用検討会議への議長による勧告案について議論が行われましたが、核軍縮の進め方や地域情勢などについて締約国の間での意見の隔たりが埋まらず、議長勧告に合意することはできませんでした。こうした中においても、同準備委員会において、日本政府は、「賢人会議」が外務省に提出した「京都アピール※2やNPT上の義務及びコミットメントの各国の履行状況にかかる透明性向上に関するサイドイベントを開催するとともに、日本主導で、55か国が連なって軍縮・不拡散教育に関する共同ステートメントを実施※3しました。また、軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)(169ページ 4(1)ウ参照)としても、作業文書の提出、サイドイベントの開催などを通じて同準備委員会での議論に貢献しました。

また、2019年11月には、茂木外務大臣が共同議長となり、第10回NPDI外相会合を開催し、NPT体制の維持・強化に関するNPDIのコミットメントを示すNPDI外相共同声明が発出されました。

第10回NPDI外相会合に出席する茂木外務大臣(2019年11月、名古屋)
第10回NPDI外相会合に出席する茂木外務大臣(2019年11月、名古屋)

一方で、このような議論の積み重ねを経ても、国際社会においては、中東非大量破壊兵器地帯創設構想や、核兵器禁止条約の位置付け等核軍縮の進め方などをめぐって引き続き各国間での立場の違いが存在しているのが現状です。また、核不拡散の分野においても、包括的保障措置協定追加議定書(AP)(171ページ 4(2)ア参照)の位置付けや不拡散上の措置と原子力の平和的利用との関係などについては意見の相違をどのように埋めるかといった問題があります。

難しい課題が山積する中ですが、日本政府は、2020年NPT運用検討会議が意義ある成果を収めるものとなるよう、現実的で具体的な取組や提案を継続して実施してきています。唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界の実現に向けて、今後も、「賢人会議」での議論の成果の活用や、核兵器廃絶に向けた決議、NPDIとしての活動などを通じて、具体的な取組を続けていきます。

※1 1995年のNPT運用検討・延長会議において、NPT寄託国である米国、ロシア及び英国の共同提案による中東地域における核兵器などの大量破壊兵器のない地帯(非大量破壊兵器地帯)の創設を目指す中東決議が採択された。しかし、アラブ諸国とイスラエルの立場の違いもあり、現在に至るまで同地帯は創設されていない(2019年12月時点)。

※2 「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」第3回会合(2018年11月、長崎)、第4回会合(2019年3月、京都)において、現下の状況において核軍縮を進めるために必要な国際社会の取組について議論が行われ、同年4月にその結果をまとめた「京都アピール」が河野外務大臣に提出された。

※3 日本は、NPTプロセスにおける軍縮・不拡散教育の取組の必要性、同教育を進めるため現実的な方法について締約国に喚起するとともに、同分野での日本の存在感を改めて示すことを目的として、軍縮・不拡散教育共同ステートメントを主導してきている。2019年の第3回準備委員会においては、国にとどまらない様々な主体との連携、インターネットやSNSの更なる活用、若者の更なるコミットメントの重要性などを強調する共同ステートメントを実施し、核兵器国である英国を含む55か国の賛同を得た。

イ 核軍縮の実質的な進展のための賢人会議

核軍縮の進め方をめぐり様々なアプローチを有する国々の間の信頼関係を再構築し、核軍縮の実質的な進展に資する提言を得ることを目的に、日本が2017年に立ち上げた「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」(日本も含め、立場の異なる国々の有識者17名で構成)では、第1回会合(2017年11月)及び第2回会合(2018年3月)の議論を踏まえて提言が取りまとめられ、NPT運用検討会議第2回準備委員会(2018年4月)で同提言の内容が紹介された。また、第3回会合(2018年11月、長崎)及び2019年3月に京都で開催された第4回会合の議論を踏まえ、4月には、白石隆座長(熊本県立大学理事長)から河野外務大臣に、現下の状況において核軍縮を進めるために必要な国際社会の取組などについて議論が行われた成果である「京都アピール」が提出された。同月のNPT運用検討会議第3回準備委員会では、辻外務大臣政務官が同アピールの内容を紹介した。7月には東京で第5回会合を開催し、これまでの賢人会議の議論を総括する報告書を作成することで委員の間で意見が一致したことを受け、10月、白石座長から若宮健嗣外務副大臣に「議長レポート」が提出された。

ウ 軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)

2010年に日本とオーストラリアが主導して立ち上げた地域横断的な非核兵器国のグループであるNPDI(12か国で構成)は、メンバー国の外相自身による関与の下、現実的かつ実践的な提案を通じ、核兵器国と非核兵器国の橋渡しの役割を果たし、核軍縮・不拡散分野での国際社会の取組を主導している。これまでNPDIは、2015年NPT運用検討会議に計19本、2020年NPT運用検討会議14プロセスに計15本の作業文書を提出するなど、現実的・実践的な提案を通じてNPT運用検討プロセスに積極的に貢献してきている。

11月には、G20愛知・名古屋外務大臣会合の際、第10回NPDI外相会合を日・オーストラリア共同で開催し、NPT体制の維持・強化の重要性に関する外相共同声明を発出した。

エ 国連を通じた取組(核兵器廃絶決議)

日本は、1994年以降、その時々の核軍縮に関する課題を織り込みながら、全面的な核廃絶に向けた具体的かつ実践的な措置を盛り込んだ核兵器廃絶に向けた決議案を国連総会に提出してきている。2019年の決議案においては、核兵器国と非核兵器国の共通基盤の構築に資するものとして、核軍縮について国際社会として直ちに取り組むべき共同行動の指針と未来志向の対話の重要性に焦点を当てた。同決議案は、11月の国連総会第一委員会で148か国、12月の国連総会本会議では160か国の幅広い支持を得て採択された。国連総会には、日本の核兵器廃絶決議案に加えて、ほかにも核軍縮を包括的に扱う決議案が提出されているが、日本の決議案はそれらの決議案と比較して最も賛成国数が多く、20年以上にわたって国際社会の立場の異なる国々から幅広く支持され続けてきている。

オ 包括的核実験禁止条約(CTBT)

日本は、核兵器国と非核兵器国の双方が参加する現実的な核軍縮措置としてCTBTの発効促進を重視し、発効要件国を含む未署名国や未批准国に対しCTBTへの署名・批准を働きかける外交努力を継続している。2月には、ジンバブエがCTBTを批准した。また、9月に開催されたCTBT発効促進会議の第11回会合において、茂木外務大臣はCTBTの発効促進に向けた日本の取組を紹介するとともに、核軍縮の取組が着実に進展することへの期待と決意を表明した。

カ 核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT:カットオフ条約)15

FMCTの構想は、核兵器用の核分裂性物質(高濃縮ウラン、プルトニウムなど)の生産そのものを禁止することにより、新たな核兵器国の出現を防ぐとともに、核兵器国による核兵器の生産を制限するものであることから、軍縮・不拡散双方の観点から大きな意義を有する。しかしながら、ジュネーブ軍縮会議(CD)では長年にわたり交渉開始の合意に至っていない。こうした状況を受け、2016年に、第71回国連総会でFMCTハイレベル専門家準備グループの設置が決定された。日本は同グループでの議論に積極的に参画し、同グループでは、第1回会合(2017年8月)及び第2回会合(2018年6月)における議論を経て、将来の条約の概要について考え得るオプションや交渉において考慮すべき事項を提示する内容を含む報告書が採択され、同報告書は同年の第73回国連総会に提出された。日本としては、引き続きFMCTの議論に積極的に貢献していく。

キ 軍縮・不拡散教育

日本は、唯一の戦争被爆国として、軍縮・不拡散に関する教育を重視している。具体的には、被爆証言の多言語化国連軍縮フェローシップ・プログラム16を通じた各国若手外交官の広島及び長崎への招へい、在外公館を通じた海外での原爆展の開催支援17、被爆体験証言を実施する被爆者に対する「非核特使」の名称付与などを通じ、被爆の実相を国内外に伝達すべく積極的に取り組んでいる。2019年には、ロサンゼルスなど米国3都市で「ヒロシマ、ナガサキ原爆展」が開催された。

また、被爆者の高齢化が進む中で、広島及び長崎の被爆の実相を世代や国境を越えて語り継いでいくことが重要となっている。こうした観点から、2013年から2019年までに国内外の300人以上の若者に「ユース非核特使」の名称を付与してきている。

(2)不拡散及び核セキュリティ

ア 不拡散に関する日本の取組

日本は、自国の安全を確保し、かつ国際社会の平和と安全を維持するため、不拡散政策にも力を入れている。不拡散政策の目標は、日本及び国際社会にとって脅威となり得る兵器(核兵器、生物・化学兵器といった大量破壊兵器及びそれらを運ぶミサイル並びに通常兵器)やその開発に用いられる関連物資・技術の拡散を防ぐことにある。今日の国際社会においては、新興国の経済成長に伴い、それらの国における兵器やその開発に転用可能な物資などの生産・供給能力が増大するとともに、流通形態の複雑化を始めこれら物資などの調達手法が巧妙化している。また、新技術の登場を背景として、民間の技術が軍事転用される可能性が高まっており、脅威となり得る兵器やその関連物資・技術の拡散リスクが増大している。このような状況において、日本は、国際的な不拡散体制・ルールの維持・強化、国内における不拡散措置の適切な実施、各国との緊密な連携・能力構築支援を柱として不拡散政策に取り組んでいる。

拡散を防ぐための主な手段には、①保障措置、②輸出管理、③拡散に対する安全保障構想(PSI)の3つがある。

保障措置とは、原子力が平和的利用から核兵器その他の核爆発装置に転用されないことを担保することを目的に、国際原子力機関(IAEA)と国家との間で締結される保障措置協定に従って行われる検証活動である。日本はIAEAの指定理事国18としてIAEAに対する支援を始め、様々な取組を行っている。例えば、IAEAの保障措置は国際的な核不拡散体制の中核的な措置であるとの考えの下、各国の保障措置に対する理解や実施能力を高め、また、より多くの国が追加議定書(AP)19を締結するよう、IAEAが主催する地域セミナーの支援を始め、各国への働きかけを進めている。さらに、8月、IAEAがオブザーバー参加したアジア太平洋地域における保障措置の強化を目指すアジア太平洋保障措置ネットワーク(APSN)年次会合に出席し、人材育成の分野でファシリテーターを務めるなど、地域・国際的な保障措置強化の取組にも積極的に参加している。

また、7月の天野之弥(ゆきや)IAEA事務局長の逝去に伴い行われたIAEA事務局長選挙において(※天野事務局長の功績については174ページ コラム参照)、アルゼンチン出身のグロッシー氏が中南米地域から初めて事務局長に選出された。同事務局長はプロフェッショナリズム、技術的専門性をもって核不拡散課題に対応していくと表明しており、2020年2月に外務省賓客として訪日し、安倍総理大臣を表敬したほか、茂木外務大臣と会談を行い、日本とIAEAとの間で一層の協力関係構築に向け連携していくことを確認した。日本としては、核不拡散分野で深い知見と経験を有するグロッシー新事務局長を最大限支援しつつ、他の加盟国と協力してIAEAの役割の強化に引き続き取り組んでいく。

茂木外務大臣とグロッシーIAEA事務局長との会談(2020年2月25日、東京)
茂木外務大臣とグロッシーIAEA事務局長との会談
(2020年2月25日、東京)

輸出管理は、拡散懸念国やテロ組織など、兵器やその関連物資・技術を入手し、拡散しようとする者に対し、いわば供給サイドから規制を行う上で有益な取組である。現在、国際社会には四つの輸出管理の枠組み(国際輸出管理レジーム)があり、日本は、全てのレジームに発足当時から参加し、国際的な連携を図りつつ、厳格な輸出管理を実施している。具体的には、核兵器に関して原子力供給国グループ(NSG)、生物・化学兵器に関してオーストラリア・グループ(AG)、ミサイル20に関してミサイル技術管理レジーム(MTCR)、通常兵器に関してワッセナー・アレンジメント(WA)があり、各レジームにおいて、兵器の開発に資する汎用品・技術をそれぞれリスト化している。参加国は、それらリストの掲載品目・技術について国内法に基づき輸出管理を行うことで、大量破壊兵器などの不拡散を担保している。国際輸出管理レジームではこのほか、拡散懸念国などの動向に関する情報交換や非参加国に対する輸出管理強化の働きかけなども行われている。日本はこのような国際的なルール作り、ルールの運用に積極的に関与しているほか、核不拡散分野における国際貢献の観点から、NSGの事務局の役割を在ウィーン国際機関日本政府代表部が担っている。

また、日本は、こうした国際輸出管理レジームを補完するものとして、拡散に対する安全保障構想(PSI)21の活動にも積極的に参加しており、2018年7月には、海上阻止訓練「Pacific Shield 18」を主催22するなど、各国及び関係機関の間の連携強化などに努めている。

日本主催PSI訓練での乗船風景(2018年7月25日、房総半島沖海域)
日本主催PSI訓練での乗船風景
(2018年7月25日、房総半島沖海域)

さらに日本は、アジア諸国を中心に不拡散体制への理解促進と地域的取組の強化を図るため、毎年、アジア不拡散協議(ASTOP)23やアジア輸出管理セミナー24を開催している。3月に行われた第15回ASTOPでは、輸出管理の強化のほか、PSIやIAEA保障措置及び追加議定書について議論が行われた。2月に開催された第26回アジア輸出管理セミナーには32か国・地域が参加し、アジア各国・地域の輸出管理担当者の能力構築を図るため、輸出管理の実効性強化に向けた取組などについて議論が行われた。

そのほかにも、非国家主体への大量破壊兵器及びその運搬手段(ミサイル)の拡散防止を目的として2004年に採択された国連安保理決議第1540号25に関し、アジア諸国による同決議の履行支援のため日本の拠出金が活用されるなど、国際的な不拡散体制の維持・強化に貢献している。

天野IAEA事務局長の残した足跡

2009年12月に日本人として初めて国際原子力機関(IAEA)事務局長に選出され、約10年間の長きにわたって第5代事務局長を務めた天野之弥(ゆきや)氏が、2019年7月、任期半ばで逝去されました。IAEA事務局長として真摯に職務に取り組み、多くの功績を残した天野氏は、その勤勉さとともに冗談を好む親しみやすい人柄でも知られており、IAEA職員を始め様々な人に慕われていました。天野氏の逝去に際し、米国のポンペオ国務長官、ロシアのラブロフ外相、イランのザリーフ外相など各国の要人や国内外の数多くの方々が、その功績を称(たた)えるとともに哀悼の意を表しました。

IAEA設立60年記念行事での演説の様子(写真提供:IAEA)
IAEA設立60年記念行事での演説の様子
(写真提供:IAEA)

このコラムでは天野事務局長が残された足跡の一部を紹介します。

1 東京電力福島第一原子力発電所事故への対応

2011年3月11日の東京電力福島第一原子力発電所事故発生を受けて、日本政府は、4月、同事故について、国際原子力事象評価尺度(INES)レベル7(「深刻な事故」)として、IAEAに通報しました。天野事務局長は、事故発生から一週間後、日本政府との協議などのために訪日し、同年7月及び翌年12月には現場入りするなど、自らの目で正確な状況の把握に努めました。天野事務局長の下、IAEAはこのような事故直後からの事務局長自らの現地視察や国際社会への情報提供といった初動対応や廃炉・汚染水対策に関する助言といった日本に対する協力に加え、事故について科学的に裏付けられた客観的な情報発信を行いました。そして事故の原因と結果についての評価を提示した「福島第一原子力発電所事故事務局長報告書」を作成しました。またIAEAの重要な役割の一つである世界の原子力安全の向上に向けて、同事故の教訓などを踏まえた行動計画の策定・実施に取り組みました。同事故後の日本政府とIAEAとの協力、国際社会の原子力安全向上の取組は今なお続いています。

2 核不拡散問題への取組

今日、国際社会が直面している核不拡散問題への対応は、IAEAの重要な任務です。

2015年7月に成立したイランの核合意の履行開始(2016年1月)が可能となったのは、2015年9月に天野事務局長自らがイラン入りし、同年12月にIAEAが軍事転用疑惑解明のための作業に区切りを付けることができたからです。その後も天野事務局長は核合意履行の検証・監視という重要な活動を、IAEAの不偏不党、専門性にのっとり、責任感をもって指揮しました。天野氏は、現在イランで最も知られた日本人の一人とも言えるでしょう。

また、IAEAは、現在北朝鮮において活動はできていませんが、定期的に北朝鮮の核問題に関する報告を出すとともに、北朝鮮の核・ミサイル問題をめぐる緊張が高まっていた2017年夏には、天野事務局長の下、いち早くIAEA事務局内に「北朝鮮チーム」を立ち上げ、体制の強化に努めるなど積極的に対応してきました。

3 「平和と開発のための原子力」

天野事務局長は、原子力技術の持つ幅広い可能性を追求し、2017年のIAEA設立60周年を機に、IAEAのモットーを「平和のための原子力(Atoms for Peace)」から「平和と開発のための原子力(Atoms for Peace and Development)」に変更し、開発途上国における医療や農業など幅広い分野での原子力技術の活用の促進や、IAEAの原子力応用研究所の改修事業などに注力しました。

天野事務局長が逝去された後に開催された2019年のIAEA総会ではその功績を称え、ウィーン(オーストリア)郊外にあるIAEA研究所の研究棟の一つを「ユキヤ・アマノ・ラボラトリー」と命名する決議が採択されました。天野氏の名を冠したこの研究棟は、2020年の春に稼働予定です。

私たちは、天野事務局長のリーダーシップ及び業績を高く評価し、生前の献身に改めて深い敬意を表します。また、天野事務局長の後を継いで就任したグロッシ-事務局長の取組を最大限支援しつつ、他の加盟国と協力しながらIAEAの役割の強化に取り組んでいきます。

※ 国際原子力事象評価尺度(INES:International Nuclear and Radiological Event Scale):1990年、IAEAと経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)が、原子力施設などの事故・故障について、安全上の重要性について表すために共同作成した国際的な指標であり、7つのレベルに分類。日本では1992年から運用開始。放射性物質が環境中へ放出された場合、基本的にはINESレベル4以上となる。各レベルの判断基準は、レベル7:数万兆ベクレル超、レベル6(大事故):数千兆ベクレル超、レベル5(広範囲への影響を伴う事故):数百兆ベクレル超、レベル4(局地的な影響を伴う事故):数十兆ベクレル超。東京電力福島第一原発事故の放射性物質の放出量は原子力安全委員会(当時)の発表では約63万兆ベクレル、原子力安全・保安院(当時)の概算では37万兆ベクレル(それぞれヨウ素換算)。

イ 地域の不拡散問題

北朝鮮は、累次の国連安保理決議に従った、全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での廃棄を依然として行っていない。

米国と北朝鮮の間で、2月、ハノイ(ベトナム)において第2回米朝首脳会談が開催され、6月、板門店においてトランプ大統領と金正恩(キムジョンウン)国務委員長が面会し交渉が行われる中、北朝鮮は、5月から11月にかけて、20発を超える頻繁な弾道ミサイル発射を繰り返した。このような中、朝鮮半島の非核化に向けて、引き続き、国際社会が一体となって米朝プロセスを後押ししていくことが重要である。

一方で、8月のIAEAの事務局長報告は、北朝鮮のいくつかの核関連施設で活動が継続ないし更に進展したことなどを指摘した上で、北朝鮮の核活動は引き続き重大な懸念を生じさせるものであり、これらの活動は国連安保理決議の明確な違反であり、遺憾であると指摘した。また、9月のIAEA総会では、同報告に基づいた決議をコンセンサスで採択し、北朝鮮の非核化に向けたIAEA加盟国の結束した立場を示した。

日本としては、引き続き、安保理決議に従った北朝鮮の全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄に向けて、米国、韓国を始めとする関係諸国やIAEAなどの国際機関と緊密に連携していく。また、安保理決議の完全な履行の観点から、アジア地域を中心とした輸出管理能力の構築も進めていく。

また、イランについて、IAEAは、2016年1月以来、イランによる包括的共同作業計画(JCPOA)26の履行の監視・検証を継続的に行ってきている。2018年5月、米国はJCPOAからの離脱を発表し、8月及び11月に対イラン制裁が再適用された。これに対してイランは、2019年5月にJCPOA上の義務の段階的停止を発表し、低濃縮ウラン貯蔵量の上限超過、濃縮レベルの上限超過、遠心分離離機の研究・開発の規定外の活動、フォルド(イラン中部コム近郊)にある燃料濃縮施設での濃縮再開などの措置を順次取ってきている。11月には、IAEAがイランの未申告の場所でウラン粒子を検出したと報告を行っており、こうした中、グロッシー事務局長は、イランの核問題に対し、公平であると同時に、断固とした態度で臨むとしている。

日本としては、イランがJCPOA上のコミットメントを継続的に低減させていることを強く懸念し、イランに対し、核合意を遵守し、JCPOA上のコミットメントに即座に戻るとともに、JCPOAを損なう更なる措置を控えるよう強く求めている。また、日本は、イランに対して、JCPOAに基づき、また、包括的保障措置協定(CSA)及び追加議定書を始めとしてイランが負っている原子力に関する全ての義務に従い、IAEAと完全に協力するよう求めている。

シリアによるIAEA保障措置の履行については、事実関係が解明されるためにも、シリアがIAEAに対して完全に協力すること、また、同国が追加議定書を署名・批准し、これを実施することが重要である。

ウ 核セキュリティ

核物質やその他の放射性物質を使用したテロ活動を防止するための「核セキュリティ」については、オバマ米国大統領が提唱し、2010年から2016年の間に4回開催された核セキュリティ・サミットや、IAEA主催の「核セキュリティに関する国際会議」を始め、IAEAや国連、有志国による各種取組を通じ、国際的な協力が進展している。日本は、こうした取組に積極的に参加し、貢献している。

2018年2月に外務省とIAEAとの間で署名された「東京2020年オリンピック・パラリンピック競技大会の機会における核セキュリティ措置の実施支援分野における日IAEA間の実施取決め」に基づき、2019年10月、IAEA及び米国の専門家の参加を得て、国内関係機関による大規模公共行事における核セキュリティ対策に関する机上訓練が実施された。

また、11月、外務省は、日本原子力研究開発機構(JAEA)の核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN)の協力の下、核物質及びその他の放射性物質の輸送セキュリティに関する国際シンポジウムを開催した。同シンポジウムには、IAEAなどの国際機関や関係各国から100人以上の専門家が参加し、輸送セキュリティに関するグッドプラクティスの共有や共通の課題について意見交換を行った。

(3)原子力の平和的利用

ア 多国間での取組

原子力の平和的利用は、核軍縮・不拡散と並んでNPTの三本柱の一つとされており、核軍縮・不拡散を進める国が平和的目的のために原子力の研究、生産及び利用を発展させることは「奪い得ない権利」であるとされている。国際的なエネルギー需要の拡大などを背景として、原子力発電27を活用する又は活用を計画する国は多い。

一方、これら原子力発電に利用される核物質、機材及び技術は軍事転用が可能であり、また一国の事故が周辺諸国にも大きな影響を与え得る。したがって、原子力の平和的利用に当たっては、①保障措置、②原子力安全(原子力事故の防止に向けた安全性の確保など)及び③核セキュリティの「3S」28の確保が重要である。また、東京電力福島第一原発事故の当事国として、事故の経験と教訓を世界と共有し、国際的な原子力安全の向上に貢献していくことは、日本の責務である。この観点から、IAEAは日本と協力し、2013年に福島県に「IAEA緊急時対応能力研修センター(IAEA・RANET・CBC)」を指定しており、2019年8月及び11月には国内外の関係者を対象として、緊急事態の準備及び対応の分野での能力強化のための研修を実施した。

東京電力福島第一原発の廃炉・汚染水対策、除染・環境回復は着実に進展しているが、世界にも前例がない困難な作業の連続であり、世界の技術や叡智(えいち)を結集して取り組んでいる。IAEAとは事故直後から協力しており、2019年は、海洋モニタリング専門家の受入れ(6月)を実施した。また、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、2014年に東京電力福島第一原発事故による放射線のレベル及び影響に関する報告書を公表し、2018年からは、最新の情報に基づく評価を実施すべく同報告書の改訂作業が進められている。

国際社会の正しい理解と支援を得ながら事故対応と復興を進めるためには、適時適切な情報発信が必要である。この観点から、日本は、東京電力福島第一原発の廃炉作業・汚染水対策の進捗、空間線量や海洋中の放射能濃度のモニタリング結果、食品の安全といった事項について、IAEAを通じて包括的な報告を定期的に公表しているほか、原則毎月1回の在京外交団及びIAEA向けの現状の通報や、原発事故以来100回以上に上る在京外交団に対する説明会の開催、在外公館を通じた情報提供などを行っている。また、東京電力福島第一原発における汚染水の処理状況について、特に混同されやすい汚染水とALPS処理水29の違いを国際社会に対し分かりやすく説明するための英文広報資料を作成し、9月にウィーンで開催されたIAEA総会を始めとする国際会議において配布した30。日本は、今後も国際社会に対し、科学的根拠に基づいた、透明性のある説明を丁寧に行っていく方針であり、風評被害を助長しかねない主張に対しては、引き続きしっかりと説明を行っていく。

原子力は、発電のみならず、保健・医療、食糧・農業、環境、産業応用などの分野でも活用されている。これら非発電分野での原子力の平和的利用の促進と開発課題への貢献は、開発途上国がNPT加盟国の大半を占める中で重要性が増してきている。IAEAも、開発途上国への技術協力や持続可能な開発目標(SDGs)の達成への貢献に取り組んでいる。

そのような中、日本は、原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)に基づく協力を始めとするIAEA技術協力や平和的利用イニシアティブ(PUI)などを通じて、IAEAの活動を積極的に支援しており、2015年4月、NPT運用検討会議で、日本はPUIに対し5年間で総額2,500万米ドルの拠出を行うことを表明した。2019年には、PUIを通じ、IAEAのサイバースドルフ原子力応用研究所の改修事業などに対して支援を行った。

イ 二国間原子力協定

二国間原子力協定は、原子力の平和的利用の捉進と核不拡散の確保の観点から、原子力関連資機材などを移転するに当たり移転先の国からこれらの平和的利用などに関する法的な保証を取り付けるために締結するものである。

また、日本は、「3S」を重視する観点から、近年の原子力協定では、原子力安全及び核セキュリティに関する規定も設け、原子力安全や核セキュリティに関する国際約束に適合するよう行動することを相互に確認しているほか、同協定下での原子力安全分野での協力を促進することも可能となっている。

東京電力福島第一原発の事故後も引き続き諸外国から日本の原子力技術に対する期待が表明されている。相手国の事情や意向を踏まえつつ、日本が世界最高水準の安全性を有する原子力関連資機材・技術を提供していくことも可能である。また、二国間の原子力協力として、東京電力福島第一原発事故に関する経験と教訓を相手国と共有し、相手国の原子力安全の向上に協力していくことが求められている。原子力協定の枠組みを設けるかどうかは、核不拡散の観点、相手国の原子力政策、相手国の日本への信頼と期待、二国間関係などを総合的に勘案し、個別具体的に検討してきている。2019年末現在、日本は発効順で、カナダ、オーストラリア、中国、米国、フランス、英国、欧州原子力共同体(EURATOM)、カザフスタン、韓国、ベトナム、ヨルダン、ロシア、トルコ、アラブ首長国連邦及びインドとの間でそれぞれ原子力協定を締結している31

(4)生物兵器・化学兵器

ア 生物兵器

生物兵器禁止条約(BWC)32は、生物兵器の開発・生産・保有などを包括的に禁止する唯一の多国間の法的枠組みである。条約遵守の検証手段に関する規定や条約実施機関がなく、条約をいかに強化するかが課題となっている。

2006年以降、履行支援ユニット(事務局機能)の設置や、5年に一度開催される運用検討会議の間における年2回の会期間会合の開催などが決定され、BWC体制の強化に向けて取組が進んできた。

2021年に予定されている第9回運用検討会議までの会期間会合では、国際協力、科学技術の進展レビュー、国内実施、防護支援及び条約の制度的強化の五つのテーマについて協議することが合意されている。2019年12月のBWC締約国会合でもこれらのテーマが議論され、日本も積極的に貢献した。

イ 化学兵器

化学兵器禁止条約(CWC33)は、化学兵器の開発・生産・貯蔵・使用などを包括的に禁止し、既存の化学兵器の全廃を定めている。条約の遵守を検証制度(申告と査察)によって確保しており、大量破壊兵器の軍縮・不拡散に関する国際約束としては画期的な条約である。CWCの実施機関として、ハーグ(オランダ)に化学兵器禁止機関(OPCW34)が設置されている。OPCWは、シリアの化学兵器廃棄において、国連と共に重要な役割を果たし、2013年には、「化学兵器のない世界」を目指した広範な努力が評価されノーベル平和賞を受賞した。

化学産業が発達し、化学工場の数が多い日本は、OPCWの査察を数多く受け入れている。そのほか、加盟国を増やすための施策、条約の実効性を高めるための締約国による条約の国内実施措置の強化など、OPCWに対して具体的な協力を積極的に行っている。また、日本は、CWCに基づき、中国国内で遺棄された旧日本軍の化学兵器について、中国と協力しつつ、一日も早い廃棄の完了を目指している。

6月、アリアスOPCW事務局長が訪日し、日本との間で、引き続き連携していくことで一致した。

(5)通常兵器

通常兵器とは、一般に大量破壊兵器以外の武器を意味し、地雷、戦車、大砲から、けん銃などの小型武器まで多岐にわたる。実際の紛争で使用され、文民の死傷にもつながる通常兵器の問題は、安全保障に加え人道の観点からも深刻であり、グテーレス国連事務総長が2018年に発表した軍縮アジェンダにおいて、通常兵器分野の軍縮は「人命を救う軍縮」として三本柱の一つに位置づけられている。日本は、通常兵器に関する国際的な基準・規範に基づく協力・支援において、積極的な活動を行っている。

ア 小型武器

小型武器は、実際に使用され多くの人命を奪っていることから「事実上の大量破壊兵器」とも称され、入手や操作が容易であるため拡散が続き、紛争の長期化や激化、治安回復や復興開発の阻害などの一因となっている。日本は、1995年以来毎年、小型武器非合法取引決議案を他国と共同で国連総会に提出し、同決議は毎年採択されてきた。また、世界各地において武器回収、廃棄、研修などの小型武器対策事業を支援してきている。2019年には、グテーレス国連事務総長の軍縮アジェンダに基づき設立された小型武器対策メカニズムに対し、200万米ドルを拠出した。

イ 武器貿易条約(ATT)35

通常兵器の国際貿易を規制するための共通基準を確立し、不正な取引などを防止することを目的としたATTは、2014年12月に発効した。日本は、条約の検討を開始する国連総会決議の原共同提案国の1か国として、国連における議論及び交渉を主導し、条約の成立に大いに貢献した。また発効後も、締約国会議などでの議論に積極的に参加し、2018年8月、日本はアジア大洋州から選出された初めての議長国として第4回締約国会議を東京で開催するなど、引き続き貢献している。

ウ 特定通常兵器使用禁止・制限条約(CCW)36

CCWは、過度に傷害を与える又は無差別に効果を及ぼすことがあると認められる通常兵器の使用を禁止又は制限するもので、手続事項などを定めた枠組条約及び個別の通常兵器などについて規制する五つの附属議定書から構成される。枠組条約は1983年に発効した。日本は、枠組条約及び改正議定書Ⅱを含む議定書ⅠからⅣを締結している。2017年からは、急速に進歩する科学技術の軍事利用に対する国際社会の懸念を背景として、CCWの枠組みで自律型致死兵器システム(LAWS)に関する政府専門家会合が開催されている。2019年は3月及び8月に同会合が開催され、日本もこれに積極的に参加し、議論に貢献した。

エ 対人地雷

2019年、対人地雷禁止条約(オタワ条約)37は発効後20周年を迎えた。日本はこれまで、対人地雷の実効的な禁止と被害国への地雷対策支援の強化を中心とした包括的な取組を推進してきた。アジア太平洋地域各国へのオタワ条約締結に向けた働きかけに加え、1998年以降、51か国・地域に対して約780億円を超える地雷対策支援(地雷除去、被害者支援など)を実施している。

11月には、オスロ(ノルウェー)で開催されたオタワ条約第4回検討会議に尾身朝子外務大臣政務官が出席し、これまでの日本の地雷対策支援の取組及び実績を振り返るとともに、対人地雷のない世界を目指し、今後とも積極的な役割を果たすとの姿勢を表明した。

オ クラスター弾38

クラスター弾がもたらす被害は、人道上の観点から国際的に深刻に受け止められている。日本は、被害者支援や不発弾処理といった対策を実施39するとともに、クラスター弾に関する条約(CCM)40の締約国を拡大する取組を継続しており、9月の締約国会合でも、これらの課題に関する議論に参加した。

10 NPDI:Non-Proliferation and Disarmament Initiative

11 NPT:Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons

12 CTBT:Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty

13 FMCT:Treaty Banning the Production of Fissile Material for Nuclear Weapons or other Nuclear Explosive Devices / Fissile Material Cut-off Treaty

14 新型コロナウイルス感染症の影響を受け、2020年3月、国連は、当初4月から開催を予定していた同会議を延期し、状況が許せば、遅くとも2021年4月までに開催することに締約国が合意したと発表している。本章では、便宜上、「2020年NPT運用検討会議」と記載する。

15 核兵器その他の核爆発装置製造のための原料となる核分裂性物質(高濃縮ウラン及びプルトニウムなど)の生産を禁止することにより、核兵器の数量増加を止めることを目的とする条約構想

16 1983年以来、軍縮専門家を育成するために国連が実施。同プログラムの参加者を広島・長崎に招待しており、資料館の視察や被爆者による被爆体験講話などを通じ、被爆の実相への理解促進に取り組んでいる。

17 広島市や長崎市との協力の下、ニューヨーク(米国)、ジュネーブ(スイス)及びウィーン(オーストリア)で常設原爆展が開設されている。

18 IAEA理事会で指定される13か国。日本を始め、G7などの原子力先進国が指定されている。

19 NPT締約国である非核兵器国が、NPT第3条1項に基づきIAEAとの間で締結することを義務づけられている、当該国の平和的な原子力活動に係るすべての核物質を対象とした「包括的保障措置協定(CSA)」などに追加して、各国がIAEAとの間で締結する議定書。追加議定書(AP)の締結により、IAEAに申告すべき原子力活動情報の範囲が拡大され、未申告の原子力核物質・原子力活動がないことを確認するためのより強化された権限をIAEAに与えるもの。2019年10月時点で、136か国が締結している。

20 弾道ミサイルに関しては、輸出管理体制のほかにも、その開発・配備の自制などを原則とする「弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範」(HCOC)があり、143か国が参加している。

21 2019年12月現在、107か国がPSIの活動に参加・協力している。日本は、過去には、2004年、2007年及び2018年にPSI海上阻止訓練を、2012年にPSI航空阻止訓練をそれぞれ主催したほか、2010年に東京においてオペレーション専門家会合(OEG)を主催した。また、他国が主催する訓練及び関連会合にも積極的に参加しており、アジア太平洋地域でのローテーション訓練に参加しているほか、2016年1月に米国で開催された政治会合(高級事務レベル)に参加した。直近では2018年5月にフランスで開催されたPSI創設15周年を記念するハイレベル政治会合に参加した。

22 横須賀市、房総半島沖海空域及び伊豆半島沖空域において開催された同訓練には、日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、シンガポール及び米国がアセットや人員を参加させたほか、インド太平洋諸国などから19か国がオブザーバーを派遣した。

23 日本が主催し、ASEAN10か国、中国、インド、韓国、そしてアジア地域の安全保障に共通の利益を持つ米国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、フランスの局長級が一堂に会し、アジアにおける不拡散体制の強化に関する諸問題について議論を行う多国間協議。直近では2019年3月に開催

24 日本が主催し、アジア諸国・地域の輸出管理当局関係者などが参加して、アジア地域における輸出管理強化に向けて意見・情報交換をするセミナー。1993年から毎年東京で開催している。最近では2020年2月に開催

25 2004年4月採択。全ての国に対し、①大量破壊兵器開発などを試みるテロリストなどへの支援の自制、②テロリストなどによる大量破壊兵器開発などを禁ずる法律の制定及び③大量破壊兵器拡散を防止する国内管理(防護措置、国境管理、輸出管理など)の実施を義務付けるとともに、国連安保理の下に国連安保理理事国から構成される「1540委員会」(決議第1540号の履行状況の検討と国連安保理への報告が任務)を設置

26 イランの原子力活動に制約をかけつつ、それが平和的であることを確保し、また、これまでに課された制裁を解除していく手順を詳細に明記したもの
〈イラン側の主な措置〉
 ●濃縮ウラン活動に係る制約
  ・稼動遠心分離機を5,060機に限定
  ・ウラン濃縮の上限は3.67%、貯蔵濃縮ウランは300kgに限定など
 ●アラク重水炉、再処理に係る制約
  ・アラク重水炉は兵器級プルトニウムを製造しないよう再設計・改修し、使用済燃料は国外へ搬出
  ・研究目的を含め再処理は行わず、再処理施設も建設しない

27 IAEAによると、2020年1月現在、原子炉は世界中で447基が稼働中であり、52基が建設中(IAEAホームページ)

28 核不拡散の代表的な措置であるIAEAの保障措置(Safeguards)、原子力安全(Safety)及び核セキュリティ(Security)の頭文字を取って「3S」と称されている。

29 ALPS処理水とは、多核種除去設備(Advanced Liquid Processing System)を含む複数の浄化設備で可能な浄化処理をした水

30 IAEA総会などで配布した汚染水とALPS処理水の違いに関する英文資料の最新版は外務省ウェブサイトに掲載
https://www.mofa.go.jp/mofaj/dns/inec/page22_003031.html

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31 英国とは、現在改正交渉中

32 1975年3月発効。締約国数は183か国(2019年12月現在)。Biological Weapons Convention

33 CWC:Chemical Weapons Convention 1997年4月発効。締約国数は193か国(2019年12月現在)

34 OPCW:Organization for the Prohibition of Chemical Weapons

35 武器貿易条約(ATT:Arms Trade Treaty)の2020年1月現在の締約国は105か国・地域。日本は、署名が開放された日に署名を行い、2014年5月、締約国となった。

36 特定通常兵器使用禁止・制限条約(CCW:Convention on Certain Conventional Weapons)の2018年11月現在の締約国は125か国・地域

37 対人地雷の使用・生産などを禁止するとともに、貯蔵地雷の廃棄、埋設地雷の除去などを義務付ける条約で、1999年3月に発効した。2020年1月現在の締約国数は、日本を含め164か国・地域

38 一般的には、多量の子弾を入れた大型の容器が空中で開かれて子弾が広範囲に散布される仕組みの爆弾及び砲弾のことをいう。不発弾となる確率が高いともいわれ、不慮の爆発によって一般市民を死傷させることなどが問題となっている。

39 クラスター弾対策及び対人地雷対策に関する国際協力の具体的な取組については、開発協力白書を参照

40 クラスター弾の使用・所持・製造などを禁止するとともに、貯蔵クラスター弾の廃棄、汚染地域におけるクラスター弾の除去などを義務付ける条約で、2010年8月に発効した。2020年11月現在の締約国数は、日本を含め107か国・地域

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