核軍縮・不拡散
国際原子力機関(IAEA)第63回総会(結果)
9月16日から20日まで,ウィーンにおいて国際原子力機関(IAEA)第63回総会が開催されたところ,概要は以下のとおり。
1 竹本直一 内閣府特命担当大臣の出席
(1)一般討論演説
総会には,竹本直一内閣府特命担当大臣が我が国政府代表として出席し,9月16日(初日),一般討論演説(日本語(PDF)/英語(PDF))を行った。
演説の冒頭,天野事務局長の御逝去に心から哀悼の意を捧げるとともに,天野事務局長が掲げた「平和と開発のための原子力」の象徴である,IAEAサイバースドルフ原子力応用研究所の改修事業を完遂させるため,100万ユーロの支援を行うことを決定した旨発表した。また,同研究所の研究棟に天野事務局長の名前を冠することが決定されたことに,深く謝意を表するとともに,天野事務局長の志と業績が後世に長く受け継がれ,国際社会の平和と安定の促進につながっていくことを願う旨述べた。
次に,現下の国際不拡散体制が直面する重要課題について述べた。北朝鮮の核問題については,日本は,関連する国連安保理決議に従った,北朝鮮の全ての大量破壊兵器,あらゆる射程の弾道ミサイル並びに関連計画及び施設の完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な方法による廃棄を実現するために国際社会と協働していくという強いコミットメントを再確認するとともに,国際社会が一体となって米朝プロセスを後押しすること及び安保理決議を完全に履行することが重要である旨述べた。
イランの核合意に関して,日本は,核合意を国際不拡散体制の強化と中東地域の安定に資するものとして引き続き支持し,核合意の上限を超過するイランの措置に対し強い懸念を表明した。また,核合意履行の監視・検証におけるIAEAの役割は重要であり,天野事務局長が推進した中立性,専門性に立脚する検証・監視の実施を強く支持する旨述べた。
来年開催の2020年NPT運用検討会議は,核軍縮に加え,核不拡散や原子力の平和的利用といった,IAEAに関わりが深い分野につき指針を決める重要な会議であり,意義ある成果を挙げるべく我が国も取り組んでいく旨述べた。
核不拡散のための中核的手段であるIAEAの保障措置の更なる強化・効率化に向けたIAEAの取組を強く支持するとともに,国際不拡散体制を一層強化する観点から,包括的保障措置協定(CSA)及び追加議定書(AP)の普遍化に向け,国際社会にも一層の努力を呼びかけた。また,核セキュリティについては,2020年核セキュリティ国際会議の成功に貢献していくとともに,2020年東京オリンピック・パラリンピックを始め,大規模行事における核テロを含む,テロ対策に万全を期していく旨述べた。
東京電力福島第一原子力発電所事故後の取組につき,同発電所の廃炉・汚染水対策が進展し,オフサイトでは,帰還困難地域を除いた地域における面的除染が終了するなど環境再生事業が大きく前進し,避難指示が解除され,帰還が進んでいる旨説明した上で,汚染水の浄化処理の結果発生する多核種除去設備(ALPS)で処理された水は,トリチウム以外の放射性物質について,ほとんど取り除かれたものであり,その最終的な取扱いについて検討を行っている旨説明した。
その他,我が国のエネルギー政策,放射性廃棄物最終処分及び廃止措置,核融合研究開発の重要性等につき説明した上で,原子力の平和的利用の促進と核不拡散体制強化に一層貢献していく強い決意を改めて表明した。
2 主要な議題
(1)天野事務局長追悼
今年7月の天野事務局長の逝去を受けて,故・天野事務局長が掲げた「平和と開発のための原子力」をはじめとする功績を称えるとともに,IAEAのサイバースドルフ原子力応用研究所の一棟に天野事務局長の名を冠する(Yukiya Amano Laboratories)ことが決定された。同追悼決議は,9月16日の総会にて竹本直一内閣府特命担当大臣によるステートメント(PDF)が行われた後,総会にて採択が宣言された。
(2)北朝鮮の核問題
北朝鮮に対して,全ての核兵器及び既存の核計画の完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な方法での放棄並びに全ての関連活動の速やかな停止に向けた具体的措置をとることを強く求めること,また,全ての加盟国が,関連安保理決議に従って,自らの義務を完全に履行することの重要性を強調することなどを内容とする北朝鮮の核問題に関する決議(「IAEAと北朝鮮との間のNPT保障措置協定の履行」に関する決議)がコンセンサスで採択された。
(3)中東におけるIAEA保障措置の適用
全ての中東域内国に対してNPTへの加入及びIAEA保障措置に関連する国際的な義務の遵守を求めるとともに,全ての関係国に対して域内の非核兵器地帯設立に向けた取組を求めること等を内容とする決議が賛成多数で採択された。
(4)保障措置の強化・効率化
保障措置は,核不拡散のための中核的な要素であり,効果的・効率的な保障措置の必要性,各保障措置協定締結国による協定上の義務の完全な履行の重要性を強調するとともに,事務局長から理事会に対し,引き続き国レベル・アプローチの適用を通じて得られた知見を適宜報告すること等を内容とする決議がコンセンサスで採択された。
(5)原子力安全
原子力発電及び放射線技術の導入を検討している国の増加に伴い,加盟国の取組及び基盤の維持・向上のためのIAEA及び加盟国相互の支援を奨励すること,原子力安全関連条約の締結及びその義務の履行を加盟国に要請すること,可搬型(水上浮揚型),小型モジュール炉,第4世代炉等の先進炉に関する原子力安全の観点からの継続的な検討をIAEAに要請すること,原子力事故時に適切に情報共有し,原子力発電及び放射線技術を扱う事業者・関係当局・公衆・国際社会における透明性を向上すること等を内容とする決議がコンセンサスで採択された。
(6)核セキュリティ
国際社会の核セキュリティ強化におけるIAEAの中心的な役割を確認しつつ,2020年に開催されるIAEA核セキュリティ国際会議(ICONS2020)における実質的な成果に向けて努力するよう各加盟国に呼びかけ,2021年の改正核物質防護条約に関するレビュー会議に向けた準備を歓迎し,また,サイバー攻撃に対する効果的対策を奨励し,新たな技術に係る課題への対応や人材育成の重要性等を確認する内容の決議がコンセンサスで採択された。
(7)技術協力,原子力応用
技術協力に関しては,原子力の平和的利用の促進に向けたIAEAによる技術協力活動の強化や右活動を通じた持続可能な開発目標(SDGs)の達成等の開発課題への継続的な取組,資源動員の強化,パートナーシップの拡大につきIAEA事務局に求める決議がコンセンサスで採択された。原子力技術の応用に関しては,保健・医療,水資源管理,サイバースドルフ原子力応用研究所の改修事業,小型モジュール炉(SMR)や廃炉にかかるIAEAの活動についての決議がコンセンサスで採択された。