軍縮・不拡散・原子力の平和的利用
技術協力・原子力科学技術応用
1 IAEAの取組
(1)原子力の平和的利用
IAEAは、原子力の平和的利用を促進することを核不拡散と並ぶIAEAの二大目的の一つとしています。IAEAは、「平和と開発のための原子力」という信条を掲げ、原子力科学技術の活用が持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも寄与するものとして、原子力の平和的利用の促進と、加盟国の社会・経済の発展に取り組んでいます。原子力科学技術は、原子力発電分野に加えて、保健・医療、食糧・農業、水資源管理・環境、産業応用などの様々な非発電分野でも活用されており、IAEAは、これらの原子力科学技術の利用やその安全性の向上に向けて、専門家の派遣や研修生の受入れ、機材供与、情報提供等を行っています。
また、原子力の平和的利用は、核兵器不拡散条約(NPT)において、締約国の「奪い得ない権利」と規定され、同条約において軍縮、核不拡散に並ぶ3本柱の一つとされています。開発途上国がNPT締約国の大半を占める中、原子力の平和的利用の促進に関するIAEAの活動はその重要性を増してきており、国際的な社会・経済の発展に資するだけでなく、NPTに基づく核軍縮・不拡散にかかる国際社会の努力にも貢献するものです。
2019年12月に就任したグロッシーIAEA事務局長のイニシアティブの下、IAEAは、温室効果ガスの削減にとって有効な手段の一つである原子力発電に関する技術協力に積極的に取り組んでいるほか、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、感染症の検査・対策能力の向上に向けた支援(ZODIAC)を行うなどの取組を実施しています。その後も、IAEAは、原子力科学技術の活用を通じて海洋プラスチック問題への対処に貢献する事業(NUTEC Plastics)、がんの放射線治療や画像診断・核医学検査等の能力構築のための事業(Rays of Hope)、食糧問題への対応にあたり原子力科学技術の使用促進を支援する事業(Atoms4Food)など、様々な取組を進めています。さらに、大学院において原子力分野の研究を希望する女性の就学を支援するマリー・キュリー奨学金プログラムや、若手・中堅女性研究者に原子力関連施設を訪問し、技術的能力等を向上させる機会を提供するリーゼ・マイトナー・プログラムを立ち上げるなど、原子力分野での女性のキャリア形成を支援するための取組も進めています。
(2)関連国際会議
ア IAEA技術協力国際会議
2017年5月30日から6月1日にかけて、IAEAによる60年間の技術協力の成果を総括するため、IAEAの主催により、技術協力国際会議が開催されました。政府関係者、国際機関関係者等、約1,100名が参加し、今後の技術協力のあり方、SDGsへの貢献、IAEAによるアウトリーチ等について議論が行われました。外務省からは中根猛科学技術協力担当大使、JICAからは金井要技術審議役、大阪大学からは畑澤順教授が出席し、IAEAとの協力についてパネルディスカッションを行いました。
イ IAEA原子力科学技術閣僚会議
2018年11月28日から30日にかけて、ウィーンにおいて、原子力の平和的利用、特に保健・医療、農業・食料、環境、水資源等の分野における原子力科学技術の応用と、SDGs達成に向けた取組促進を目的として、原子力科学技術閣僚会議が開催されました。同会議は、この分野で初めての閣僚レベルの会議であり、日本はコスタリカとともに共同議長を務めました。同会議には、137か国から約1,100名の代表団が参加し、54か国からは閣僚・政務レベルが出席し、原子力科学技術に対するIAEA加盟国の関心の高さがうかがえました。
ウ IAEA原子力科学技術・応用・技術協力閣僚会議
上記閣僚会議に引き続き、同分野における第2回目の閣僚レベルの会議となる、原子力科学技術・応用・技術協力閣僚会議が、2024年11月26日から28日にかけて開催されました。今回の閣僚会議にも、143か国から1,400名以上が参加し、うち50か国が閣僚・政務レベルが出席するなど、改めて原子力科学技術に対するIAEA加盟国の関心の高さが示されました。
2 日本の取組
(1)財政的支援
ア 技術協力基金(TCF)拠出金
技術協力基金(Technical Cooperation Fund: TCF)は、IAEAによる技術協力活動の主要な財源であり、同基金に対する各IAEA加盟国の分担額は、IAEA総会にて決定する予算総額と分担率に基づき、設定されます。2024年の日本の分担率は7.728%であり、米国(25%)、中国(分担率14.675%)に次ぐ第3位の拠出国です。
イ 平和的利用イニシアティブ(PUI)拠出金
平和的利用イニシアティブ(Peaceful Uses Initiative: PUI)は、原子力の平和的利用の促進にかかるIAEAの活動を支援する任意拠出のための枠組みです。2010年のNPT運用検討会議において、米国の提案により設立されました。2023年12月時点で、25か国及び欧州委員会が拠出を行っており、累計拠出額は約2億4千万ユーロに上ります。日本はこれまで、PUIに、6,800万ユーロ以上を拠出しており、米国に次ぐ第2位の拠出国です。PUIを通じた支援を通じてNPTの3本柱の一つである原子力の平和的利用を促進することにより、NPT体制を下支えするとともに、IAEA加盟国の社会・経済の発展やSDGsの達成を支援しています。
(2)技術的支援
日本は、原子力に関連する多くの分野において優れた技術を有しており、より多くの人がより安全に原子力の平和的利用のメリットを享受できるよう、IAEAの様々な活動への協力を通じ、国際社会における原子力の平和的利用の促進に貢献しています。
ア 原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)
RCAは、アジア・大洋州地域における地域協力協定です。IAEA及び日本を含む22の締約国の相互協力により、保健・医療、食糧・農業、水資源管理・環境、産業等の分野において、原子力科学技術に関する共同の研究、開発及び訓練を推進しています。
イ 研修員受入れ
原子力人材育成ネットワークを通じ、国内研究機関、大学や企業等において、IAEA研修生の受入れを実施しています。
ウ 実施取決めに基づく貢献
地方自治体、大学や研究所等の機関、企業が、独自にIAEAと実施取決め(Practical Arrangement)を結び、調査研究、情報交換、人材育成などの活動をIAEAと協力して実施しています。
エ IAEA協働センター
IAEA協働センターは、IAEAにより指定を受けた、原子力関連技術の研究、開発及び研修等を通じ、IAEAの活動を支援する機関です。現在、日本は5つの機関・ネットワークが指定を受けており、研修の開催、専門家の派遣等を実施しています。