軍縮・不拡散・原子力の平和的利用
原子力の平和的利用 総論
令和7年8月8日
1 総論
(1)原子力の平和的利用の国際的な位置づけ
- 第二次世界大戦後、核開発競争に対する懸念が強まり、原子力は国際的に管理すべきであるとの考えが広まりました。
- そのような中で、1953年の国連総会における米国のアイゼンハワー大統領による演説(「Atoms for Peace」演説)を契機として、原子力を平和的目的のために活用する国際的な機運が高まり、1957年には国際原子力機関(IAEA)が設立されました。IAEA憲章第2条においては、全世界における平和、保健及び繁栄に対する原子力の貢献を促進・増大することがIAEAの目的の一つと定められており、これ以降、原子力の平和的利用は着実に進展していきました。
- 1968年には核兵器不拡散条約(NPT:Treaty of the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)が署名・開放され、同条約において核軍縮・不拡散と並び、原子力の平和的利用は3本柱の一つとされ、不拡散の義務に従って、平和目的のために原子力の研究、生産及び利用を発展させることは「奪い得ない権利」であると定められました。
- 原子力発電分野に関しては、近年、国際的なエネルギー需要の拡大や地球温暖化問題への対処の必要性等から、原子力発電の拡充及び新規導入を計画する国が増加しており、東京電力福島第一原子力発電所の事故後も、原子力発電は国際社会において重要なエネルギー源となっています。
- 原子力技術は、発電分野に加え、保健・医療、食料・農業、水資源管理・環境、産業応用など非発電分野においても各国の社会・経済の発展にとって不可欠な技術となっています。その利用形態は大きく分ければ、放射線利用と同位体分析です。
- 放射線利用は、レントゲン撮影やがんの放射線治療をはじめ、伝染病や農業被害をもたらす害虫を防除する不妊虫放飼法や、半導体、タイヤの製造などにも活用されています。また、同位体分析は、水の循環、土壌の組成、人の栄養素の摂取状況などの調査に活用されています。
- 原子力発電に利用される技術や機材、核物質は軍事転用が可能であることや、一国の原子力事故が周辺諸国にも大きな影響を与え得ることから、原子力の平和的利用に当たっては、ア 核不拡散(IAEAの保障措置)(Safeguards)、イ 原子力安全(原子力事故の防止に向けた安全性の確保等)(Safety)、ウ 核セキュリティ(核テロリズムの危険への対応等)(Security)の「3S」の確保が重要です。
(2)日本の取組
ア 原子力の平和的利用の促進
- 日本は、NPT体制の3本柱の1つである「原子力の平和的利用」の促進を重視しており、この一環として、IAEAによる取組を人的・財政的に支援し、IAEA加盟国における原子力の平和的利用の促進に貢献しています。
- IAEAの活動は、グローバルな開発課題の解決にもつながり、日本が重視するSDGs達成にも貢献するものです。このため、IAEAの活動を支援することは日本にとっても重要な政策となっています。
イ 3Sの確保
日本はこれまで、二国間、多数国間の枠組みを通じて、「3S」確保の重要性を国際社会の共通認識とするための外交を展開しています。また、「3S」の強化を目的とした人材育成支援事業を行っています。
ウ 東京電力福島第一原発事故を踏まえた原子力安全強化に向けた取組と情報発信
- 東京電力福島第一原発事故後、日本は各国、IAEAを始めとする国際機関から協力を得ながら、国際社会に開かれた形で廃炉を進めるとともに、関連する情報発信を行っています。
- 特に、ALPS処理水の海洋放出については、IAEAの関与も得つつ、国際基準に則り安全に行われており、こうした点を国際社会に透明性をもって説明し、国際社会の一層の理解を醸成するための取組を継続しています。
- また、東京電力福島第一原発事故の状況に関する国際的な情報発信を行うとともに、各国に対して原子力安全や緊急時対応能力に関する支援を行う等、日本は、事故の経験と教訓を国際社会と共有し、国際的な原子力安全の向上に貢献しています。
エ 二国間原子力協定
- 二国間原子力協定は相手国との間で原子力の平和的利用分野における協力を実現するために、相手国との間で移転される原子力関連資機材等の平和的利用及び核不拡散の法的な確保に必要となる法的枠組みを定めるために締結するものです。
- また、二国間協定の下で、原子力安全の強化等に関する協力を促進することも可能です。
- 原子力協定の枠組みを整備するかどうかについては、核不拡散の観点、相手国の原子力政策、相手国の日本への信頼と期待、二国間関係等を総合的に勘案し、個別具体的に検討しています。
- 日本は、これまでにカナダ、フランス、豪州、中国、米国、英国、欧州原子力共同体(EURATOM)、カザフスタン、韓国、ベトナム、ヨルダン、ロシア、トルコ、アラブ首長国連邦及びインドとの間で二国間原子力協定を締結済みです。