核軍縮・不拡散

令和元年5月31日

 4月29日から5月10日まで,ニューヨークの国連本部において2020年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議第3回準備委員会が開催された(議長:サイード・マレーシア国連代表部大使)。我が国からは,辻外務大臣政務官,髙見澤軍縮代表部大使,北野ウィーン代表部大使他が出席した。

1 概要

  • (1)第3回準備委員会は,2020年のNPT運用検討会議に向け,過去2回の準備委員会でのやりとりも踏まえ,手続き事項を決定し,実質的事項の議論を深めるための会合との位置づけ。
  • (2)5月10日,2020年運用検討会議の手続き事項を中心とした内容を含む準備委員会の最終報告書が採択された。
    • ア 2020年運用検討会議の議題や手続規則,締約国による費用負担の割合及び主要委員会における議題の配置等について合意。
    • イ グロッシー・アルゼンチン・ウィーン代表部大使の2020年運用検討会議議長への指名が,非同盟運動(NAM)諸国議長による連絡を受けて,本年の第4四半期に確定することにつき合意。
    • ウ グロッシー議長候補等が,2020年運用検討会議に先だって,締約国と協議を実施し,同会議の技術的・組織的事項について扱うことを許可。
  • (3)第3回準備委員会期間中には,以下の日程でNPT三本柱について議論が行われた他,議長が作成した2020年運用検討会議への勧告案の検討が行われた。
    • 4月29日~5月1日 一般討論及びNGOセッション
    • 5月1日~5月3日 クラスターI及び特別時間(核軍縮,消極的安全保証)
    • 5月3日~5月6日 クラスターII及び特別時間(核不拡散,中東非大量破壊兵器地帯等の地域問題を含む)
    • 5月6日~5月7日 クラスターIII及び特別時間(原子力の平和的利用,その他条項)
    • 5月7日~5月10日 勧告案の検討
  • (4)一般討論においては,中満国連事務次長・軍縮担当上級代表及びサイード第3回準備委員会議長によるステートメントの後,110以上の国・グループ・地域・国際機関がステートメントを実施し,2020年運用検討会議に向けた基本方針や重視する事項,新しいイニシアティブ等について発言した。また,NGOセッションでは,広島・長崎両市長等によるステートメントや被爆者による被爆証言が行われた他,各クラスターでは,核軍縮,核不拡散及び原子力の平和的利用に関するそれぞれの立場が述べられた。
  • (5)2020年運用検討会議への勧告案の検討に際しては,5月3日に配布された第一次案に基づき,5月7日から勧告案の検討が開始され,前文(総論),核軍縮,不拡散,原子力の平和的利用及び地域情勢のテーマ毎に,各国がコメントを行った。
     5月9日,勧告案の第二次案が議場において配布され,これを受けて再度各国がコメントを行ったが,NAM諸国等が第二次案は第一次案と比較して核軍縮分野で改善された点が多いとして評価する一方で,核兵器国等からは第二次案はバランスを欠いており受け入れられない旨の主張がなされた。これを受けて,議長は,同勧告案(第二次案)にコンセンサスはないと判断し,5月10日,同勧告案(第二次案)を議長の責任の下での作業文書として発出する旨表明した。

2 第3回準備委員会における日本政府の対応

  • (1)辻外務大臣政務官の出席
    • ア 4月29日,日本政府から辻清人外務大臣政務官が第3回準備委員会に出席し,一般討論演説を実施した。辻政務官は,安全保障環境が厳しい中でも,2020年運用検討会議において意義ある成果を収めることを世界が期待している旨述べるとともに,「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」による「京都アピール」が,対話や関与を維持し,現実的かつ実践的な取組を継続することの重要性を訴え,同アピールの具体的な内容を紹介した。
    • イ 辻政務官は,サイード第3回準備委員会議長,ゼルボ包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会暫定技術事務局長,中満上級代表との会談を実施し,我が国の考え等を伝達した他,「京都アピール」の紹介のために我が国が主催したサイドイベントに出席して日本の取組を説明した。
  • (2)髙見澤軍縮代大使,北野ウィーン代大使が,各クラスター及び特別時間において,各事項(核軍縮,安全保証,核不拡散,地域問題,原子力の平和的利用,運用検討プロセス強化)についてのステートメントを実施し,勧告案の検討においても我が国の立場・考え方を発信した。
  • (3)日本が主導する形で,国にとどまらない様々な主体との連携,インターネットやSNSの更なる活用,若者の更なるコミットメントの重要性等を強調する核軍縮・不拡散教育に関する共同ステートメントを実施し,核兵器国である英国を含む55か国の賛同を得た。
  • (4)12か国の非核兵器国からなる地域横断的なグループである軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)としての活動にも積極的に貢献した。NPDIは,日本が主導した透明性及び軍縮・不拡散教育を含む,計5本の作業文書(他に,核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT),警戒態勢解除,原子力の平和的利用)を提出した他,透明性向上に関する共同サイドイベントを開催した。また,共同ステートメントについては,NPT運用検討プロセス強化に関するステートメントを主導し,48か国がこれに賛同した。5核兵器国,非同盟運動(NAM)諸国,新アジェンダ連合(NAC)との対話も実施した。
  • (5)日本政府代表団は,平和首長会議や広島県主催のイベントに参加した他,被爆者,被爆二世,若者を含む市民社会との対話を行うとともに,核兵器国を含む各国の政府関係者や専門家と活発に意見交換を行った。

3 評価

  • (1)日本は,辻外務大臣政務官が一般討論演説を実施したことに加えて,「賢人会議」の「京都アピール」や透明性向上に関するサイドイベントを開催し,核軍縮,核不拡散,原子力の平和的利用といった各分野別の議論にも積極的に関与するとともに,日本が主導する形で核兵器国である英国を含む55か国による軍縮・不拡散教育共同ステートメントを実施した。また,NPDIは,作業文書の提出,サイドイベントの開催等を通じて今次準備委員会での議論に貢献した。
  • (2)グロッシー・アルゼンチン・ウィーン代表部大使の2020年運用検討会議議長への指名の手続きの確定を含めて,必要な手続き事項の確定が行われたことにより,今後一年間,実質的事項に集中して議論を深めていくための環境が整い,また,同大使が議長候補として活動することが可能となったことは,今次準備委員会における一つの成果と評価できる。
  • (3)今次準備委員会において2020年運用検討会議のための勧告案が採択されなかったことは残念であったが,各国が同運用検討会議の成功に向けてNPT体制の維持・強化が必要であるとの認識を示し,NPTへのコミットメントを再確認したことは認められた。
  • (4)核軍縮分野については,CTBT,FMCT,核軍縮検証,透明性及び核リスク低減といった措置の重要性については概ね意見の一致が見られるとともに,核兵器国の動きとして,5核兵器国による共同ステートメント(調整国である中国が読み上げ),米国による「核軍縮のための環境創出(CEND)」イニシアティブ,英国及び中国による国別履行報告の提出等が見られた。一方で,NAM諸国やNAC構成国を中心に核軍縮分野における核兵器国の取組が不十分であり,核兵器の近代化や核抑止が核軍縮を妨げている旨の主張がなされるとともに,核兵器禁止条約の位置づけや核軍縮の進め方については,引き続き各国間で意見の相違があった。また,今次準備委員会における注目すべき動きの一つとして,ヴァルストロム・スウェーデン外相が,核軍縮のための新たな取組として,ステッピング・ストーン・アプローチを提唱した。
  • (5)核不拡散分野においては,IAEA保障措置や輸出管理,核セキュリティの重要性については締約国間での意見の一致が見られたものの,包括的保障措置協定追加議定書(AP)の位置づけや不拡散上の措置と原子力の平和的利用との関係等については意見の相違が見られた。
  • (6)地域情勢においては,我が国から,北朝鮮の核・ミサイル問題について,(1)関連する安保理決議に従った全ての核兵器及びその他の大量破壊兵器,あらゆる射程の弾道ミサイル並びに関連計画及び施設の完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な方法による廃棄(CVID)の実現に国際社会とともに協働する強いコミットメントを再確認,(2)北朝鮮に対してNPT及びIAEA保障措置を完全な遵守への復帰,CTBTの署名及び批准を求める,(3)全ての国が関連する安保理決議を完全に履行することが重要である旨述べた。また,フランスが北朝鮮の核問題に関する共同ステートメント(我が国を含む70か国が支持)を実施した。シリアに関しては,米国がIAEA保障措置協定不遵守に関する共同ステートメント(我が国を含む52か国が支持)を実施した一方,異なる立場からの意見も表明された。イランの核問題に関しては,イランの核開発に関する懸念が述べられた一方,米国のイラン核合意からの離脱等に関する批判も表明された。
  • (7)中東非大量破壊兵器地帯構想については,その実現が重要との認識は共有されたが,昨年の国連総会の決定に基づく国連事務総長主催の会議(2019年11月に開催予定)については意見の相違が見られた。上記会議の結果も含め,2020年運用検討会議においては再び大きく取り上げられる可能性があると考えられる。
  • (8)原子力の平和的利用分野については,我が国の取組として辻政務官からIAEA原子力応用研究所の改修プロジェクトへの追加拠出を表明するなど,多くの締約国から平和的利用の促進に向けた取組とその重要性につき言及があった。特に,天野IAEA事務局長の掲げる「平和と開発のための原子力」に基づくIAEAの開発への取組は,締約国の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献するものとして多くの支持が表明された。
  • (9)米国は,CENDアプローチの今後の進め方に関する作業文書を提出し,米国主催のサイドイベントにおいて,2019年夏にワシントンにおいて「核軍縮のための環境創出のための作業部会(CEWG:Creating an Environment for Nuclear Disarmament Working Group)」の第一回総会を開催し,軍縮の可能性に影響を与える国際的な安全保障環境に関連する事項・質問を特定し,これらの要素について検討するためのサブグループを創設するとして,2020年運用検討会議に向けて取組を開始する旨表明した。

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