核軍縮・不拡散

国際原子力機関(IAEA)の概要

平成28年5月31日

1 沿革

(1)ウラン、プルトニウム等の核物質は、原子力発電のような平和的利用のためにも、また、核兵器製造等の軍事利用のためにも使用され得る。このため、原子力の平和的利用については、常に核兵器の拡散を如何に防止するかという問題を伴う。

(2)第2次世界大戦終結後、原子力の商業的利用に対する関心の増大とともに、核兵器の拡散に対する懸念が強まり、原子力は国際的に管理すべきであるとの考えが広まった。

(3)1953年の国連総会におけるアイゼンハワー米国大統領による演説(「Atoms for Peace」演説として知られる。)を直接の契機として、国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)創設の気運が高まり、1954年に、国連においてIAEA憲章草案のための協議が開始された。

(4)1956年、IAEA憲章採択会議においてIAEA憲章草案が採択され、1957年7月29日、IAEA憲章は所要の批准数を得て発効し、IAEAが発足した。

(5)2016年5月現在、加盟国は167ヶ国である。

2 目的と権限

(1)IAEAは、原子力の平和的利用を促進するとともに、原子力が平和的利用から軍事的利用に転用されることを防止することを目的とする。

(2)IAEAは、次のような権限を有する。

(ア)全世界における平和的利用のための原子力の研究、開発及び実用化を奨励し、援助する。加盟国間の役務、物質、施設等の供給の仲介や、活動又は役務を行う。

(イ)平和的目的のための原子力の研究、開発及び実用化の必要を満たすため、開発途上地域における必要を考慮しつつ、物資、役務、施設等を提供する。

(ウ)原子力の平和的利用に関する科学上及び技術上の情報の交換を促進する。

(エ)原子力の平和的利用の分野における科学者及び専門家の交換及び訓練を奨励する。

(オ)原子力が平和的利用から軍事的利用に転用されることを防止するための保障措置を設定し、実施する。

(カ)国連機関等と協議、協力の上、健康を保護し、人命及び財産に対する危険を最小にするための安全上の基準を設定し又は採用する。

3 組織

(1)総会(General Conference

(ア)総会は、全加盟国の代表で構成され、通常会期は毎年1回9月に本部(ウィーン)にて開催される。理事会の要請又は加盟国の過半数の要請があれば、事務局長は特別会期を招集することが出来る。

(イ)総会の任務は、総会選出理事国の選出、加盟の承認、加盟国の特権免除の停止、予算の承認、国連に対する報告の承認、財政に関する規則の承認、事務局長任命の承認等である。決定は、出席し投票する加盟国の3分の2の多数を必要とする予算等の重要事項を除き、出席し投票する加盟国の過半数によって行われる。

(2)理事会(Board of Governors

(ア)理事会は、総会に対し責任を負うことを条件として、IAEAの任務を遂行する権限を有しており、IAEAにおける実質的な意思決定機関となっている。理事会の決定は、出席し投票する理事国の3分の2の多数を必要とする予算等の重要事項を除き、出席し投票する理事国の過半数によって行われることになっているが、多くの場合、コンセンサス又は無投票によることが慣行となっている。

(イ)理事会は、原子力に関する技術(原料物質の生産を含む)の最も進歩した加盟国として毎年6月の理事会によって指定される13ヶ国(我が国を含むG7等の原子力先進国)及び総会で選出する22ヶ国の計35の理事国から構成される。

(ウ)理事会は、理事会が別段の決定を行わない限り本部(ウィーン)において、通例、3月、6月、9月(総会の前及び後の2回)及び11月に開催される。議長の任期は一年。2005年10月から2006年9月まで天野之弥在ウィーン国際機関日本政府代表部大使(現IAEA事務局長)が理事会議長を務めた。

(エ)理事会が設置している主な下部委員会は以下のとおり。

  • (a)計画予算委員会:通常5月に翌年度予算案等の行財政問題を審議する。
  • (b)技術協力委員会:通常11月に翌年の技術協力計画等を審議する。

(3)事務局(Secretariat

 IAEAの職員の長は事務局長(任期4年)であり、現在は天野之弥氏が務めている。同事務局長は、2009年7月にIAEA理事会で選出・任命された後、同年9月のIAEA総会での承認を経て、同年12月に就任した。事務局長の下に1名の事務局長補及び6名の事務次長がおり、事務次長はそれぞれ管理運営、原子力エネルギー、保障措置、技術協力、原子力科学・応用及び原子力安全・セキュリティの6局の長として事務局長を補佐している。また、機関の円滑な運営を図るため、事務局長が指名する官房長及び数名の特別補佐官がいる。職員数は約2,500名。

4 財政

(1)IAEAの会計年度は、1月1日~12月31日。

(2)IAEAの予算は、通常予算、技術協力基金及び特別拠出金によるものに大別される。

(ア)通常予算は、2015年で約3億5千万ユーロとなっており、主に人件費、会議費、情報配布費、保障措置実施費等として用いられる。主な財源は、加盟国の義務的経費である分担金である。各加盟国の分担金は、国連の通常予算に対する国連加盟国の分担率に準じて策定される基本分担率に基づき、保障措置予算に対する負担額の調整を行った上で毎年の総会決議により定められる。

(イ)技術協力基金(TCF: Technical Cooperation Fund)は、IAEAの技術協力活動のために用いられる義務的経費であり、上記(ア)の基本分担率に基づき、各加盟国の拠出目標額が毎年の総会決議により定められる。2015年の予算額は、約6,980万ユーロ。

(ウ)特別拠出金(extrabudgetary contribution)は、技術協力基金では賄いきれない技術協力活動等の個別プロジェクトに対し、加盟国等が任意に拠出する。

5 事業内容

 IAEAの事業は、原子力の平和的利用に関する分野と、原子力が平和的利用から軍事的利用に転用されることを防止するための保障措置の分野に大別される。2005年10月、両分野におけるIAEAの貢献が認められ、IAEA及び同エルバラダイ事務局長(当時)はノーベル平和賞を受賞した。

(1)原子力の平和的利用

 原子力の平和的利用に関するIAEAの事業は、原子力発電、非原子力発電(保険・医療、食糧・農業、水資源管理、環境、工業適用等)及びこれらの利用の安全・セキュリティに係る分野に大別される。また、これらの分野において開発途上国に対する技術協力活動が実施されている。

(ア)原子力発電分野

 原子力発電の分野では、技術的な観点からの情報交換、コスト及び環境への影響等に関する水力・火力等他の電力生産技術と原子力の比較検討を通じて、各国がエネルギー政策の企画、決定、評価を行うための技術的な観点からの支援、原子力発電の新規導入を決定した加盟国に対する支援、拡散抵抗性の高い次世代原子力炉に関する研究、開発等を行っている。

(イ)非原子力発電分野

 非原子力発電分野では、保険・医療、食糧・農業、水資源管理、環境、工業適用等、様々な分野における活動が行われている。天野IAEA事務局長が「平和と開発のための原子力」(Atoms for Peace and Development)を掲げるなど、これら分野における活動は重視されている。IAEAは、国際連合食糧農業機関(FAO)とパートナーシップを組み、食糧・農業分野における課題に取り組む等、他機関と連携した活動も行っている。2006年に設立されたがん対策行動計画(PACT)では,世界保健機関(WHO)及び国際がん研究機関(IARC)とパートナーシップを組み、包括的ながん対策の体制構築に取り組んでいる。

(ウ)原子力安全分野

 原子力安全分野において、IAEAは、健康を守るため及び生命や財産に対する危険を最小限に抑えるために安全基準を策定又は採択する権限を与えられており、各種の国際的な安全基準・指針の作成及び普及に貢献している。特にチェルノブイリ事故以降、原子力発電の安全確保の重要性は、国境を越えた問題として再認識され、旧ソ連・東欧の発電所の安全性向上、アジア地域の原子力安全性向上を始めとして、原子力安全分野でのIAEAの一層の活動が期待されている。また、IAEA事務局長は、「原子力事故の早期通報に関する条約(1986年発効)」、「原子力事故又は放射線緊急事態の場合における援助に関する条約(1987年発効)」、「原子力の安全に関する条約(1996年発効)」、及び「使用済み燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約(2001年発効)」の寄託者となっており、IAEAがこれら条約の締約国会合の事務局を務めている。さらに、東京電力福島第一原発事故を契機として、国際社会における原子力安全の強化に向けた取組も進んでいる。2011年6月に原子力安全に関するIAEA閣僚会合が行われ、原子力安全に関するIAEA行動計画が同年9月のIAEA総会で確定された。翌2012年12月には、日本とIAEAが原子力安全に関する福島閣僚会議を共催し、福島第一原発事故の教訓を国際社会と共有した。また、2015年2月には、原子力安全に関する国際的な枠組の強化として、原子力の安全に関する条約の外交会議において、原子力安全に関するウィーン宣言が採択された。このように、同事故以降、IAEAは国際的な原子力安全の強化において、一層主導的な役割を果たしてきている。

(エ)核セキュリティ分野

(a)IAEAでは、核セキュリティ活動(核テロ対策)の一環として、現在、「核セキュリティ・シリーズ文書」の作成を進めている。2011年1月に、「核物質及び原子力施設の物理的防護に関する核セキュリティ勧告(別称INFCIRC/225/Rev.5)」(核兵器に利用可能な物質がテロに利用されないための体制整備や防護措置について記載)、「放射性物質及び関連施設に関する核セキュリティ勧告」(核兵器には利用できない放射性物質でもテロリストによって爆弾などに利用されれば甚大な被害が想定されるので、これを防ぐための体制整備や防護措置について記載)及び「規制上の管理を外れた核物質その他の放射性物質に関する核セキュリティ勧告」(核物質の密輸が世界的な懸念事項となっていることを踏まえて作成されたもの)の3つの勧告文書を発行するとともに、その下位文書となる実施指針及び技術指針等の作成を進めている。

(b)2001年米国同時多発テロを受け、2002年3月のIAEA理事会において、核テロ対策を支援するためにIAEAにおいて実施すべき事業として、核物質及び原子力施設の防護等8つの活動分野から構成される第1次活動計画(2002年~2005年)が承認されるとともに、この計画の実施のために「核セキュリティ基金」(Nuclear Security Fund)が設立された。以降、4年ごとに計画の見直しが行われ、現在IAEAでは2013年9月に承認された第4次核セキュリティ計画に基づいた活動(2014年~2017年)が行われている。

(c)近年の核テロ対策に対する国際社会の関心の高まりを受け、2005年4月、IAEAの活動と密接に関係する「核によるテロリズムの防止に関する条約(核テロ防止条約)」が国連で採択され、2007年7月に同条約は発効した。また、2005年7月、既存の「核物質の防護に関する条約(核物質防護条約)」を強化するための改正がIAEAの場で採択されている。日本は、2007年8月に核テロ防止条約を、2014年6月に核物質防護条約改正を締結している。

(オ)技術協力

(a)IAEAの技術協力活動は、技術協力を必要とする各加盟国とIAEA事務局との調整を経てプロジェクトとして作成され、理事会(通常11月)が承認する。技術協力活動を支える主な財源は、加盟国が基本分担率に準じて拠出する技術協力基金で賄われている。

(b)2010年には、原子力の平和的利用分野におけるIAEAの活動を促進するための追加的な財源として、米国の呼びかけにより平和利用イニシアティブ(PUI)が設立された。2015年12月時点で、我が国を含む19か国及び欧州委員会が、PUIに対する拠出を行っており、開発途上国に対するIAEAの技術協力活動を支援している。

(c)アジア・太平洋、アラブ、アフリカ、カリブ・ラテンアメリカの各地域には、IAEAの技術協力活動の枠組の下、原子力科学技術を活用した技術協力を推進することを目的とした地域協力協定がある。アジア・太平洋地域を対象とした地域協力協定であるRCA(Regional Cooperative Agreement for Research, Development and Training Related to Nuclear Science and Technology)は、2016年3月時点で、我が国を含む22か国が締約国となっており、保健・医療、食糧・農業、環境、工業適用等の分野における技術協力プロジェクトを実施している。

(2)保障措置の実施

IAEA憲章では、IAEAを通じて核物質等が提供された場合には、これらの核物質等がいずれかの軍事目的を助長するような方法で利用されないことを確保するために保障措置を設定し、かつ実施すること、また二国間若しくは多国間の原子力協定の当事国が要請した場合及び何れかの国が自発的に要請した場合に保障措置を適用することが定められており、これに基づいてIAEAと関係国との間に保障措置協定が締結されている。詳細については、「IAEA保障措置(1)(2)(3)(4)」を参照のこと。

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