核軍縮・不拡散
国際原子力機関(IAEA)保障措置
1 IAEA保障措置協定
IAEA保障措置協定は、原子力が平和的利用から核兵器製造等の軍事的目的に転用されないことを確保することを目的として、IAEA憲章に基づき、IAEAが当該国の原子力活動について実施する査察を含む検認制度である保障措置を規定する協定である。
保障措置協定には、以下のものがある。
(1)包括的保障措置協定(CSA: Comprehensive Safeguards Agreement)
NPT締約国である非核兵器国が、NPT第3条1項に基づきIAEAとの間で締結することを義務づけられている、当該国の平和的な原子力活動に係るすべての核物質を対象とした保障措置協定。「NPTに基づく保障措置協定」、「フルスコープ保障措置協定」または、「包括的保障措置協定(Comprehensive Safeguards Agreement:CSA)」とも呼ばれている。IAEA作成文書INFCIRC/153型保障措置協定がモデル協定となっている。
2023年5月現在のNPTに基づく保障措置協定の締結国は182か国である。なお、我が国においてはNPTに基づく日・IAEA保障措置協定が1977年12月に発効している。(最新の締結国数はこちら(英語) )
- (注)少量議定書(SQP: Small Quantities Protocol)
- 国内に核物質を保有しない、又は微量のみ保有する(包括的保障措置協定が適用される基準量以下の保有にとどまる)国が原子力施設を保有せず、建設又は許可の決定を行っていない場合には、IAEAとの間で包括的保障措置協定(INFCIRC/153型)を結ぶ際にあわせて少量議定書(SQP:Small Quantities Protocol)を締結することができる。同議定書は、締結国にIAEAに対し核物質の冒頭報告(保有の有無、保有する種類、量、場所等の報告)を行うことを義務づけるが、査察の実施等の保障措置適用に係る当該国・IAEA側の負担を実質的に免除ないし軽減する効果を持つ。
2005年のIAEA理事会での決定以降は、初版少量議定書(original SQP) の条文を一部改訂した改訂少量議定書(revised SQP)の締結が奨励されている(改訂により、初版少量議定書では免除対象とされていた核物質の冒頭報告等が免除対象外となった)。
(2)自発的提供協定(VOA: Voluntary Offer Agreement)
核兵器国が、自発的にIAEA保障措置の適用を受けるために、IAEAとの間で締結する協定(5核兵器国(中、仏、露、英、米)は全て締結済)。
(3)対象物特定保障措置協定 (Item-Specific Safeguards Agreement)
IAEA作成文書INFCIRC/66又はINFCIRC/26型保障措置協定がモデル協定となっており、あらかじめ特定された核物質や非核物質、施設及び/又は機材をのみを対象とした保障措置協定。個別のプロジェクトや核物質の供給のために締結される保障措置協定のほか、「三者間保障措置協定(または保障措置移管協定)」、「一方的受諾協定」と呼ばれるものがこれに該当する。現在IAEAがこの型の協定を締結しているのはNPT非締約国である3か国(インド、パキスタン及びイスラエル)のみ。
2 IAEA追加議定書(Additional Protocol)
(1)概要
IAEA追加議定書(AP:Additional Protocol)とは、IAEAと上記1のいずれかの保障措置協定を締結した国との間で追加的に締結される保障措置強化のための議定書である。1993年、イラク及び北朝鮮の核兵器開発疑惑等を契機に、IAEA保障措置制度の強化及び効率化の検討が行われ、その結果として、未申告の核物質や原子力活動がないこと及び保障措置下にある核物質の軍事転用がないことを検認するためにIAEAが追加的に必要とされた権限等を盛り込んだモデル追加議定書(INFCIRC/540(corrected))が、1997年5月にIAEA理事会で採択された。
(2)内容
追加議定書を締結した場合、IAEAは、その国において保障措置協定よりも広範な保障措置を行う権限を与えられる。具体的には、追加議定書を締結した国は、(1)現行の保障措置協定において申告されていない原子力活動に関して申告を行うこと、(2)現行協定においてアクセスが認められていない場所等への補完的なアクセスをIAEAに認めることが義務付けられる。
(3)締結国及び署名国
- ア 2023年3月現在、追加議定書の締結国は日本を含む141か国+国際機関(ユーラトム)である。
- イ 2023年3月現在、署名国は上記141か国を含む154か国である。
- ウ 日本は、1998年12月4日に署名、1999年12月16日に発効。
(最新の締結国数・署名国数はこちら(英語))
3 IAEA追加議定書の普遍化に向けた我が国の外交努力
- (1)日本は、核不拡散体制の強化を図るためには、追加議定書の締結促進を図り、IAEA保障措置を強化することが重要との認識の下、1999年12月、原子力発電を行っている国では初めて追加議定書を締結した。さらに、IAEAと協力しつつ、追加議定書の普遍化のためのイニシアティブを積極的に推進している。
- (2)2000年の第44回IAEA総会においてIAEA保障措置強化のための「アクションプラン」を提案して以来、追加議定書の普遍化を日本の核不拡散外交の一つの柱として位置づけ、IAEA等との協力のもと、未締結国を対象に追加議定書に関するセミナーやワークショップを開催、支援するなど、人的・財政的な貢献を行ってきた。ASEANやAPEC及びアジア不拡散協議(ASTOP:我が国が主催するアジアにおける不拡散体制強化に関する会議)等の場を活用した働きかけだけでなく、G7としての働きかけや二国間対話など、様々な機会を捉えて追加議定書の締結を働きかけている。2010年のNPT運用検討会議においては、追加議定書の締結が核不拡散のための最も現実的で効果的な手段であるだけでなく、原子力の平和的利用を安全・確実に進められるよう促す要因となるとの考え方をNPT締約国が共有し、追加議定書の普遍化に向けた前向きな成果となった。2022年のNPT運用検討会議における議長の最終文書案においても、2015年の同会議から新たに14か国が追加議定書を締結したことを歓迎した上で、未締結国に対し締結を奨励する内容となった。
4 統合保障措置(Integrated Safeguards)
(1)概要
- ア IAEAは、1990年代前半のイラクや北朝鮮の核問題を踏まえ、追加議定書(AP)の策定等による保障措置の強化を行う一方、不拡散上問題がないと判断される国については、保障措置の効率化を目指すとの方針の下、1998年頃から統合保障措置(IS)の開発を始めた。その結果、2002年3月のIAEA理事会にて、統合保障措置(IS)の基本を定めた概念的枠組が決定された。
- イ 統合保障措置(IS)は、包括的保障措置協定(CSA)に基づく保障措置手段と追加議定書(AP)に基づく保障措置手段の有機的な組合せである。IAEAは、CSA及びAP双方の下で利用可能な保障措置手段を最適に組み合わせ、国ごとの特異性や関連情報の評価を通じて、従来よりも効率性を高めた保障措置を行うことができる。具体的には、従来の計量管理を基本としつつ、短期通告査察又は無通告査察を強化することで、IAEAの検認能力を維持したまま査察回数を削減することができるようになった。
- ウ 統合保障措置(IS)が適用されるためには、当該国がCSA及びAP双方に基づく保障措置を一定期間にわたって受け入れ、その結果、IAEAが当該国に対し、「保障措置下にある核物質の転用」及び「未申告の核物質及び原子力活動」が存在しない旨の「拡大結論(Broader Conclusion)」を導出する必要がある。拡大結論が得られた国については、当該国政府とIAEA事務局の合意に基づいて統合保障措置(IS)への移行がなされる。また、この統合保障措置(IS)が継続して適用されるためには、IAEAが毎年発表する「保障措置実施報告書(SIR)」において当該国に対する「拡大結論」が維持される必要がある。
(2)我が国における統合保障措置の実施
- ア 我が国は、1977年に包括的保障措置協定(CSA)、1999年に追加議定書(AP)をそれぞれ締結し、以降CSA及びAP双方に基づくIAEA保障措置を実施。その結果、2004年6月、IAEAが我が国について上記(1)ウの「拡大結論」を導出し、同年9月、統合保障措置(IS)の実施が開始された。
- イ 統合保障措置(IS)が継続して実施されるためには、IAEAが毎年発表する「保障措置実施報告書(SIR)」において「拡大結論」が維持される必要があるが、我が国については、2004年から毎年、同「拡大結論」が維持されている。
- ウ 統合保障措置(IS)が適用されていることにより、我が国について対象施設に対する通常査察の回数は減少している。