外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

3 グローバルな安全保障

(1)地域安全保障

アジア太平洋地域では、グローバルなパワーバランスの変化等に伴って安全保障環境が厳しさを増している一方、各国の政治・経済・社会体制は多様であるため、地域における安全保障面の協力の枠組みが十分に制度化されているとはいいがたい。少なくとも現時点において、例えば欧州における北大西洋条約機構(NATO)のような集団的防衛のための枠組みをアジア太平洋地域において設立することは現実的ではない。日本は、日米同盟の強化に加え、アジア太平洋地域を中心に、二国間、多国間の安全保障協力を重層的に組み合わせて、日本にとって望ましい地域における安全保障環境を実現していく必要がある。

こうした認識の下、日本は、戦略的利益を共有する国々と安全保障分野における協力関係強化に取り組んでいる。オーストラリアとは、外務・防衛閣僚協議(11月)を開催するとともに、日・オーストラリア円滑化協定の交渉を進めている。韓国とは、2015年12月の日韓外相会談で、慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認したことを受け、安全保障分野も含め日韓関係を未来志向の新時代へと発展させていく。ASEAN諸国との間では、インドネシアと初の外務・防衛閣僚協議(12月)を開催するなど、各国と安全保障に関する対話を強化しているほか、防衛装備品・技術移転協定について、2016年2月に、フィリピンと署名し、2015年5月にマレーシア、12月にインドネシアとも交渉を開始するなど、協力を着実に進めている。また、巡視艇の供与等を通じて、フィリピン、マレーシア、ベトナム等の海洋能力向上に向けた支援を行っている。インドとの間では、外相間戦略対話(1月、第8回)や次官級「2+2」対話(4月、第3回)の開催に加え、防衛装備品・技術移転協定及び秘密軍事情報保護協定の署名等により協力を着実に進めている。

さらに、日本は、このような各国との二国間の協力関係強化に加え、日豪印次官級協議(6月及び2016年2月)、日米豪戦略対話高級事務レベル協議(9月)日米印外相会合(9月)日米韓外相会合(9月)等、3か国以上が参加する枠組みでの協力の推進を通じ、地域において、日米同盟を基軸とした平和と繁栄のためのネットワーク作りを進めている。

日本を取り巻く安全保障環境の安定のためには、中国やロシアとの間でも信頼関係の増進に取り組む必要がある。日中関係は、最も重要な二国間関係の1つであり、「戦略的互恵関係」の更なる推進に努めている。一方、中国の透明性を欠いた軍事力の広範かつ急速な強化や、海空域における活動の活発化は地域共通の懸念事項であり、中国に対しては様々な機会において国防政策の透明性向上や国際的な行動規範の遵守を働き掛けている。また、日中双方は、「日中防衛当局間の海空連絡メカニズム」の早期運用開始が重要であるという点で一致しており、その実現に向けて努めている。ロシアとの間では、2015年に2回の首脳会談(9月及び11月)を行い、9月の岸田外務大臣の訪露では平和条約締結交渉を再開するなど、政治対話を積極的に行っている。

さらに、欧州各国との間では、外務・防衛当局間協議を英国(9月、第14回)、フランス(9月、第18回)と開催した。また、中東各国とは、エジプトと初の外務・防衛当局間協議(10月)を行ったほか、安全保障対話をサウジアラビア(3月、第1回)、アラブ首長国連邦(12月、第1回)バーレーン(12月、第2回)と実施した。

これらに加え、日本は、EASARF拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)など、地域における多国間の枠組みに積極的に参加・貢献し、地域の安全保障面での協力強化に取り組んでいる。このうちARFは、政治・安全保障問題に関する対話と協力を通じた、アジア太平洋地域の安全保障環境の向上を目的としており、北朝鮮やEUを含め参加国・地域数が多いことからも、安全保障協力を進める上で重要なフォーラムである。8月のARF閣僚会合には、岸田外務大臣が出席し、日本の「積極的平和主義」の取組を説明するとともに、南シナ海、北朝鮮などの地域・国際情勢を中心に率直な意見交換を行った。またARFは、協議にとどまらず、災害救難、テロ対策、海上安全保障、不拡散・軍縮等の分野を中心に具体的協力を行う枠組みとしても発展してきている。日本は、海上安全保障、災害救難に関する期間会合(ISM)の共同議長国を務めているほか、5月に信頼醸成措置及び予防外交に関する会合を共同議長国として東京で開催するなど、積極的な貢献を行っている。

さらに日本は、安全保障に関する意見交換の場として、政府間協議(トラック1)のみならず、政府職員と民間有識者双方の出席による枠組み(トラック1.5)も活用している。ミュンヘン安全保障会議アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)、北東アジア協力対話(NEACD)、ベルリン外交フォーラムといった様々な会合に参加し、日本の安全保障政策に対する各国の理解促進を図るとともに、地域における協力促進や信頼醸成に取り組んでいる。

(2)平和維持・平和構築

ア 現場における取組
(ア)国連平和維持活動(国連PKO)

国連PKOは、伝統的には、国連が紛争当事者間に立って、停戦や軍の撤退の監視などを行うことにより事態の鎮静化や紛争の再発防止を図り、当事者間の対話を通じた紛争解決を支援することを目的とした活動である。しかし、冷戦終結以降は、内戦の増加などによる国際環境の変化に伴い、停戦監視などの伝統的な任務に加え、元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)、治安部門改革、選挙、人権、法の支配などの分野における支援、政治プロセスの促進、文民の保護など、多くの任務を与えられている。2015年11月現在、16の国連PKOミッションが中東・アフリカ地域を中心に活動しており、ミッションに従事する軍事・警察・文民要員の総数は12万4,000人を超えている。任務の複雑化・大規模化とそれに伴う人員、装備・機材、財源などの不足という事態を受け、国連を中心に様々な場で国連PKOのより効果的・効率的な実施に関する議論が行われている。

日本は、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から国連PKOへの協力を重視しており、「国際連合平和維持活動への協力に関する法律」(PKO法)に基づき、1992年以来、計13の国連PKOミッションなどに延べ約1万人の要員を派遣してきた。現在は、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に対し、2011年から司令部要員を、2012年からは施設部隊も派遣している。施設部隊は、南スーダンの首都ジュバ及びその周辺において、給水活動などの避難民支援や敷地造成などの活動を実施している。2015年1月の閣議において、新たに司令部要員(航空運用幕僚)1人が派遣された。2013年12月以降の情勢不安定化もあり、南スーダンは独立から4年を経てなお、政治的混乱など大きな課題を抱えており、UNMISSを通じた同国の平和と安定のための取組が引き続き重要である。

(イ)平和構築に向けたODAなどによる協力

日本の国際協力において、平和構築は重要であり、開発協力大綱においても重点課題の1つとして位置付けられている。

平和構築には、紛争の予防や緊急人道支援とともに、紛争の終結、平和の定着や国づくりの支援を含めた継ぎ目のない取組が必要となる。日本は、人間の安全保障の視点に立ち、特に以下の国・地域において平和構築支援を進めている。

①アフガニスタン

アフガニスタンの自立とアフガニスタンを含む地域の安定を支援し、同国を再びテロの温床としないことは、国際社会と日本の平和と安全に関わる最重要課題の1つである。日本は、①治安維持能力の強化、②タリバーンなどの元兵士の社会への再統合、③教育、基礎医療、農業・農村開発、基礎インフラの整備、選挙支援など、2001年以降、総額約59億米ドルの開発支援を実施してきた。

2014年12月に開催された「アフガニスタンに関するロンドン会合」では、2012年の東京会合で表明された国際社会及びアフガニスタン政府双方のコミットメントを再確認した。2014年には、同国史上初めて民主的な選挙を通じた政権交代が実現し、ロンドン会合では新政権による改革に向けた強い意志が明確に示されたことも踏まえ、日本としても同国の改革に対する努力を引き続き支援していく。

②アフリカ

イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」による活動は、ナイジェリア及びその周辺国において激化しており、同時に国際組織犯罪の脅威も高まっている。日本はアフリカ地域における平和と安定の実現に向けた取組を積極的に実施している。

具体的には、2014年から、フランス語圏アフリカ地域8か国(コートジボワール、コンゴ民主共和国、セネガル、チャド、ニジェール、ブルキナファソ、マリ及びモーリタニア)の刑事司法分野の人材に対し、「仏語圏アフリカ刑事司法研修」を実施している。同研修では、対象国の捜査水準の向上、被疑者の人権確保等を目的として、捜査、訴追、司法及びテロ対策に関する知見を深めることで、対象国の人材育成や能力強化に貢献している。また、サヘル地域7か国(セネガル、ナイジェリア、モーリタニア、マリ、ブルキナファソ、ニジェール及びチャド)を対象に、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)を通じ、テロ対策法整備や法執行・執行機関能力向上に資する支援を実施している。

また、2015年には、深刻化するテロの脅威に対抗する水際対策として、モーリタニア、マリ、チュニジア及びモロッコに対し、国境管理能力や治安機能向上を目的とした機材供与を実施した。これらの支援は、第5回アフリカ開発会議(TICAD V)「横浜行動計画」の重点分野の1つである「平和と安定」に整合するものであり、2016年TICADVIでも引き続き同分野へ貢献していく。

イ 国連における取組
①国連平和維持活動

日本は、国連PKOに関する経験や知見を国際社会に還元している。国際社会の平和と安全の維持のため重要性を増しつつも多くの課題に直面する国連PKOを支援するため、日本は前年に引き続き、2015年9月末に第2回PKOサミット(於:ニューヨーク(米国))を共催した。同サミットには、提案者であるオバマ米国大統領を含め、主要な財政貢献国や要員派遣国計49か国・4機関(国連、NATO、EU及びAU)の首脳・閣僚・代表者らが出席し、国連PKOの支援策について活発な議論を行い、共同声明を発出した。安倍総理大臣も共催者として、①法制整備を通じた態勢整備として、今般の国際平和協力法の改正により日本が従事可能な業務が広がったことを踏まえ、今後、国連PKOへの貢献を更に拡充する用意があること、②日本・国連・アフリカの三角パートナーシップとして、ケニアで試行訓練が行われた「国連・アフリカ施設部隊早期展開プロジェクト(ARDEC)」を引き合いに、多様なパートナー間の協力を拡大すべきこと及び③国連PKO要員の能力向上等のために各種訓練を通じた支援を行うことや平和構築人材育成と女性のPKO参加の推進、性的搾取・虐待の被害者支援に向けた貢献を表明した。

「国連・アフリカ施設部隊早期展開プロジェクト(ARDEC)」の試行訓練の様子
「国連・アフリカ施設部隊早期展開プロジェクト(ARDEC)」の試行訓練の様子

潘基文(パンギムン)国連事務総長が設置したPKOや特別政治ミッション(SPM)などの国連平和活動についての戦略的見直しを行うためのハイレベル・パネルは、2015年6月に報告書を提出した。同報告書を踏まえ、9月、潘基文事務総長は、紛争予防と調停の能力強化、パートナーシップの再強化や要員の能力向上等の国連としての優先課題とその実施に向けた行動計画を取りまとめた事務総長報告書を加盟国に提示した。国連平和活動の見直しについては、今後、国連総会や国連安保理のPKO各種委員会、G7平和維持・平和構築専門家会合の枠組み等でも議論される見込みである。

②国連平和構築委員会(PBC)

地域紛争や内戦の多くは、終結後に紛争の再燃に直面することから、事後に適切な支援を行うことが極めて重要である。この認識の下、2005年、紛争解決から復旧・社会復帰・復興まで一貫した支援に関する助言を行うことを目的とし、「平和構築委員会(PBC)」が設置された。PBCは、国連安保理、総会及びその他国連関連機関と緊密に連携し、ブルンジ、シエラレオネ、ギニアビサウ、中央アフリカ、リベリア及びギニアの6か国に対し、平和構築における優先課題の特定や戦略の策定に対する助言を行い、その実施を支援している。

日本は、PBC設立時からのメンバーとして、また、2011年以降は教訓作業部会の議長としてPBCに貢献してきた。2015年は、PBC部会で、紛争後の国家において最も重要な制度構築に関する議論を主導した。

2015年は、PBCを含む国連平和構築アーキテクチャー(構造)全体の見直しが実施され、国連安保理とPBCの更なる連携強化の必要性が強調された。2016年以降は、PBC及び国連安保理に所属する加盟国として、両機関の架け橋となり、貢献することが期待されている。

日本は、PBCと同時期に設立された平和構築基金(PBF)にも総額4,250万米ドルの拠出を実施しており、第5位の主要ドナー国である(2015年12月現在)。

平和構築分野での日本の取組
平和構築分野での日本の取組
国連ミッションへの軍事要員・警察要員の派遣状況 ~上位5か国、G8諸国及び近隣アジア諸国~
国連ミッションへの軍事要員・警察要員の派遣状況 ~上位5か国、G8諸国及び近隣アジア諸国~
ウ 人材育成
①平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業

紛争後の平和構築においては、高い能力と専門性を備えた文民専門家の役割が拡大する一方で、担い手の数は十分ではなく、人材の育成が大きな課題となっている。日本は、平和構築・開発の現場で活躍できる文民専門家を育成すべく、人材育成事業を実施してきており、2015年度末までに育成した人材は約540人に上る。事業修了生は、南スーダンやアフガニスタンなど世界各地の平和構築・開発の現場で活躍しており、諸外国や国連などから高い評価を得ている。

9月に開催された第2回PKOサミットにおいて、安倍総理大臣が文民専門家を一層輩出していくことを表明したことを踏まえ、2015年度事業では、若手人材向けの研修コースに加え、実務家を対象とするコースを実施したほか、キャリア構築支援も実施した。

第2回PKOサミットで演説する安倍総理大臣(9月28日、米国・ニューヨーク 写真提供:内閣広報室)
第2回PKOサミットで演説する安倍総理大臣(9月28日、米国・ニューヨーク 写真提供:内閣広報室)
②平和維持要員の訓練

日本は、国連PKOに参加する各国の平和維持要員の能力向上を支援してきており、10月、国連PKOに関する教官養成コースを日本で初めて開催した。また、アジア・アフリカ諸国のPKO訓練センターに対する講師などの人材派遣や財政支援も行っている。

COLUMN
アフリカ施設部隊早期展開プロジェクトによるアフリカの平和維持要員の育成
~技術と経験の伝授~

国際社会の平和と安定に重要な役割を果たしている国連平和維持活動(国連PKO)の現場では、近年ミッションの新規展開時や拡大時に、要員の早期展開やミッションの迅速な立上げに大きな課題があることが露呈しました。PKOに積極的な要員派遣国(TCC)の多くでは、派遣する要員はいるものの装備やスキルが不足している場合が少なくありません。

国連は、十分な装備やスキルを有している先進国を中心とした国々に対し、アフリカ諸国の施設部隊の能力構築と国連PKOの現場で必要となる重機の提供を期待して、国連、アフリカのTCC及び特別な技能や貢献意思を有する国との間の三角パートナーシップを立ち上げました。

日本は、1992年にカンボジアに展開したPKO(国連カンボジア暫定機構(UNTAC))以来、多くのミッションに施設部隊を派遣したほか、近年、国連PKO工兵部隊マニュアルの策定に主導的役割を果たすなど十分な経験と知見を有しています。2014年9月の第1回PKOサミットで安倍総理大臣は、国連からの要請を受け、アフリカ施設部隊早期展開プロジェクトへの支援を表明しました。これを受け、2015年9月から10月までの6週間の日程で、外務省が訓練の開催と国連への重機供与に必要な資金面の協力を行い、防衛省が教官を派遣する形で、同プロジェクトの試行訓練がケニア(ナイロビ)において実施されました。陸上自衛隊の教官11人が派遣され、ウガンダ、ケニア、タンザニア及びルワンダの訓練生10人に、ブルドーザーなどの重機の操作・整備訓練を実施しました。試行訓練の結果、訓練生全員が4種類の重機を安全かつ基礎的な施設作業が実施できる練度に達し、試行訓練は成功裏に終了しました。この訓練は、2015年9月の第2回PKOサミットでも、安倍総理大臣によるスピーチの中で紹介されました。

教官として訓練に参加した陸上自衛隊の高橋2曹は、「試行訓練は、まさに試行錯誤の連続であり、その都度、議論し最高のものを残してきたと自負しています。また、私が作成に携わった教育資料が今後も国連主導の教育現場において使用されることは、今後の自衛官人生の中での大きな自信と励みになりました。次に同様の機会があれば、積極的に参加したいと考えています。いつの日か、今回の学生がもっと上達し、PKO派遣等の現場において、一緒に施設活動を実施することが私の夢です。」と述べています。

2016年には本格的訓練を予定しており、日本は引き続き貢献していきます。

重機の操作について講義を行う陸上自衛隊の教官
重機の操作について講義を行う陸上自衛隊の教官
グレーダーの機能について訓練生に説明する陸上自衛隊の教官
グレーダーの機能について訓練生に説明する陸上自衛隊の教官

(3)治安上の脅威に対する取組

ア テロ対策

2015年は、パリでの雑誌社に対する銃撃テロ事件(1月)、パリでの同時多発テロ事件(11月)、米国カリフォルニア州での銃撃テロ事件(12月)などが発生し、欧米を含む地域にまでテロの脅威が拡大した1年となった。中東・アフリカ地域においては、日本人も犠牲となったシリアにおける邦人殺害テロ事件(1月、2月)やチュニジアの博物館での銃撃テロ事件(3月)を始め、ケニアの大学での襲撃事件(4月)、チュニジアのリゾート地における銃撃テロ事件(6月)、トルコ・アンカラにおける爆弾テロ事件(10月)に見られるように多くの一般市民が犠牲となるテロ事件が発生した。また、ISILによるソーシャルメディアなどを通じたプロパガンダに感化され、先進国からも多くの若者が外国人戦闘員としてイラクやシリアに渡航していることも引き続き大きな問題となった。日本についても、ISILがシリアにおいて日本人男性2人を殺害したと見られる動画を配信したほか、機関誌において日本の大使館等を攻撃対象の候補として言及した。また、チュニジアにおける銃撃テロ事件等では日本人も被害者となるなど、日本に対するテロの脅威は現実のものとなっている。こうした状況を受けて、2月、岸田外務大臣は、テロ対策における日本外交の三本柱として、①1,550万米ドルの中東・アフリカでのテロ対処能力向上支援などを含むテロ対策の強化、②中東の安定と繁栄に向けた外交の強化及び③過激主義を生み出さない社会の構築支援を打ち出し、包括的な取組を進めてきた。国際社会においても、国連などの様々な場を活用してテロ対策が進められており、12月には国連安保理において、ISILのテロ資金の規制を更に強化するよう求める決議(第2253号)が採択された。

6月のG7エルマウ・サミット(於:ドイツ)の首脳宣言でも、テロと暴力的過激主義に対する闘いが国際社会にとっての優先課題であることが確認された。特に、暴力的過激主義対策については、米国主導の下、2月に閣僚級会合(於:ワシントンDC(米国))、6月には地域別閣僚級会合(於:シドニー(オーストラリア))、9月に首脳級会合(於:ニューヨーク(米国))が開催され、日本は、シリアでの邦人殺害テロ事件における各国の協力への謝意を表明するとともに、テロ対策に関する複眼的な取組を紹介した。また、9月のグローバル・テロ対策フォーラム(GCTF)1の第6回閣僚級会合(於:ニューヨーク(米国))でも、暴力的過激主義対策に係る新しい取組が発表された。

アジアにおける取組としては、6月にカンボジアにおいて第13回国境を越える犯罪に関する高級実務者会合(SOMTC+日中韓)及び第12回SOMTC+日本が開催されるとともに、9月にはマレーシアにおいて第7回国境を越える犯罪に関する閣僚会議(AMMTC+日中韓)及び第2回AMMTC+日本が開催され、山谷えり子国家公安委員会委員長が出席した。ARFのプロセスにおいては、5月に中国で第13回テロ及び国境を越える犯罪対策に関する会期間会合(ISM on CTTC)2が開催され、テロリストによるインターネットの利用及び外国人戦闘員の問題が議論された。

北アフリカ・サヘル地域においては、2015年もISIL、イスラム・マグレブ諸国のアル・カーイダ(AQIM)などのテロ組織の活発な動きが見られたことを受け、日本はテロ対策における日本外交の三本柱の1つである「テロ対策の強化」の具体策として国連薬物・犯罪事務所(UNODC)など国際機関を通じたテロ対処能力向上支援プロジェクトに取り組んだ。

二国間・三国間では、4月に日米豪テロ協議(於:ワシントンDC(米国))、5月に日中韓テロ対策協議(於:北京(中国))及び日・ロシアテロ対策協議(於:東京)、10月に日英テロ対策協議(於:東京)、11月に日・インドテロ対策協議(於:デリー(インド))を開催し、テロ情勢についての情報交換、国際場裏での協議など各国との連携を強化している。

また、日本は、テロ対処能力が必ずしも十分でない開発途上国などがテロの温床になることを防ぐため、各国の能力を向上させるための支援を重視している。具体的には、ODAを活用し、①出入国管理、②航空保安、③港湾・海上保安、④税関協力、⑤輸出管理、⑥法執行協力、⑦テロ資金対策、⑧化学・生物・放射性物質・核(CBRN)テロ対策、⑨テロ防止関連諸条約3実施などの分野において、東南アジア、中東、アフリカ地域を中心に技術協力や機材供与などの支援を行っている。

さらに、テロとの闘いにおいては、テロ資金の流れを遮断し、テロリストの移動を制限することが不可欠である。そのため、日本は、外国為替及び外国貿易法(外為法)及び国際テロリスト財産凍結法に基づき、テロリストやテロ組織の国内外送金や預金契約の制限を含む資産凍結措置を実施しているほか、外為法及び出入国管理及び難民認定法(入管法)に基づき、資産凍結対象者の入国・通過防止等の措置を講じるなど、国際社会と一致団結した取組を行っている。

イ 刑事司法分野の取組

国連の犯罪防止刑事司法会議及び犯罪防止刑事司法委員会は、犯罪防止及び刑事司法分野における国際社会の政策形成の中心機関である。4月にカタールで開催された第13回犯罪防止刑事司法会議において、日本が2020年の同会議開催国となることが決定された。2015年には、UNODCの犯罪防止刑事司法基金への拠出を通じて、国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)と連携し、ミャンマーにおける刑事司法改革支援を実施した。同国政府により本件実施は高く評価されており、2016年も継続的に実施していく予定である。サイバー犯罪対策においては、日本、米国、オーストラリア及びUNODCで協力し、ASEAN諸国の法執行機関を対象とする能力強化ワークショップの実施に向けて調整を進めている。

また、日本は、国際組織犯罪分野における国際的な法的枠組みの整備により、国際的な組織犯罪を防止し、これと闘うための協力を促進するために、国際組織犯罪防止条約及び補足議定書の締結について検討を進めている。

ウ 腐敗対策

2015年、日本は、G7の枠組みを中心に、海外に流出した腐敗収益の没収や元の国への返還を図る「財産回復」の協力を進めた。12月にハマメット(チュニジア)で開催された第4回財産回復アラブ・フォーラムに参加し、財産回復の取組を紹介した。日本がG7サミット議長国を務める2016年も、アラブ・フォーラムの取組を継続していく予定である。G20の枠組みでは、主にG20腐敗対策作業部会を通じ、実質的所有者の透明性に関するG20ハイレベル原則を実施するための日本の行動計画を策定したほか、民間部門の清廉性と透明性に関するG20ハイレベル原則などの策定に参画した。

経済協力開発機構(OECD)贈賄作業部会は「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」のモニタリングを通じて、外国公務員贈賄の防止に取り組んでおり、日本も参加している。

また日本は、贈収賄、公務員による財産の横領などの腐敗に有効に対処するための措置や国際協力などを規定した国連腐敗防止条約の締結についても検討を進めている。さらに2015年は、UNODCを通じ、外国公務員贈賄事案における国際協力に関するハンドブックの作成を支援したほか、アフガニスタン政権の腐敗対策を支援すべく、同国の刑事司法システムを強化し、治安の安定化を図るため、UNODCのプロジェクトに約100万米ドルを拠出した。

エ マネーロンダリング(資金洗浄)・テロ資金供与対策

マネーロンダリングやテロ資金供与対策については、国際的な枠組みである金融活動作業部会(FATF)4が、各国が実施すべき国際的基準や新たな視点からの対策について議論を進めている。日本は、設立時からのメンバー国として、これらの議論に積極的に参加している。さらに、テロ資金の流れを遮断するための国際的な取組を支援するため、UNODCと連携し、西アフリカ諸国の能力構築支援を行った。

オ 人身取引対策

日本は、日々その手口が巧妙化・潜在化する人身取引犯罪に効果的に対処するため、5年ぶりに策定された「人身取引対策行動計画2014」に基づき、人身取引対策に係る国内体制を強化し、開発途上国への支援も積極的に実施している。1月には「人身取引対策に関する政府協議調査団」をタイに派遣し、その機会を活用して第5回「人身取引に関する日タイ共同タスクフォース会合」を開催しており、日・タイ間で更なる連携を確認した。2015年も継続して、日本で保護された外国人人身取引被害者の母国への帰国・社会復帰支援事業を国際移住機関(IOM)への拠出を通じて行うとともに、UNODCが実施する東南アジア諸国及びナイジェリア向けのプロジェクトへ拠出し、法執行当局に対する研修などを実施した。

カ 不正薬物対策

麻薬委員会(CND)は、薬物分野における国際的な政策形成の中心機関である。これまで日本は継続的にCND委員国を務めており、4月の委員国選挙では、アジア太平洋グループ内でトップ当選し、2016年から2019年までの委員国に再任された。3月に開催された同委員会では、世界規模で拡散し脅威を増している危険ドラッグ(NPS)や覚醒剤等の合成麻薬問題に対して、国際的な取組を強化していくことが必要であると唱えた。

2015年には、UNODCと協力し、アジア太平洋地域における合成薬物の分析調査やミャンマーにおける不法ケシ栽培モニタリングを実施したほか、西アフリカ地域では、合成麻薬の製造に使用される前駆物質の不正流入を防止すべく、法執行当局に対する技術協力を実施した。さらに、アフガニスタン及び周辺国(イラン、中央アジア)では、国境管理強化や代替作物開発支援、女性中毒患者支援密輸対策などのため、UNODCに約350万米ドルを拠出し、当該地域諸国の取組を積極的に支援した。

(4)海洋

力ではなく、法とルールが支配する海洋秩序に支えられた「開かれ安定した海洋」は、日本だけでなく国際社会全体の平和と繁栄に不可欠であり、これを維持・発展させていくことが必要である。

近年、資源の確保や安全保障の観点から各国の利害が衝突する事例が増えている。特に、南シナ海においては、沿岸国の間で海洋をめぐる争いなどが発生しており、「力」による一方的な現状変更への懸念が高まっている。

このような中、安倍総理大臣が2014年5月のシャングリラ・ダイアローグで「海における法の支配の三原則」を提唱するなど、日本は海洋秩序の安定・維持と航行・飛行の自由や安全の確保に尽力している。また、ODAを活用してアジアの沿岸国に対する巡視船供与や海上保安機関の能力強化に向けた人材育成等により、アジアの沿岸国の海上保安能力の向上を支援している。

ア 海洋の秩序
(ア)日本にとっての海洋秩序の重要性

日本は、四方を海に囲まれた海洋国家であり、石油や鉱物などのエネルギー・資源の輸入のほぼ全てを海上輸送に依存している。また、天然資源の乏しい島国である日本にとって、海洋の生物資源や周辺海域の大陸棚・深海底に埋蔵される鉱物資源は、経済的な観点から重要である。このため、日本は海洋秩序の安定・維持に積極的に貢献する必要がある。

(イ)国連海洋法条約と日本の取組

海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約:UNCLOS)は、「海の憲法」とも呼ばれ、法の支配に基づく海洋秩序の根幹を成す条約である。同条約は、公海における航行の自由、上空飛行の自由を始めとする海洋の利用に関する諸原則や海洋の資源の開発やその規制などに関する国際法上の権利義務関係を包括的に規定している。さらに、同条約に基づき、国際海洋法裁判所(ITLOS)大陸棚限界委員会(CLCS)及び国際海底機構(ISA)という国際機関が設立された。同条約は、日本を含む166の国(日本が承認していないものも含む。)とEUが締結している。

主要な海洋国家である日本にとって、同条約が根幹を成す海洋秩序は、日本の海洋権益を確保し、海洋に係る活動を円滑に行うための礎となるものである。このため、日本は、同条約の更なる普遍化と適切な実施の確保のために、締約国会議などでの議論や関連国際機関の活動に積極的に貢献している。さらに、国内外の著名な国際法学者を招いて、海洋法に関する国際シンポジウムを開催するなど、国連海洋法条約の下での公正な海洋秩序の構築、維持及び発展に尽力している(3-1-6参照)。

(ウ)海洋秩序に対する挑戦と日本及び国際社会の対応(1-1(2)2-1-2(1)及び2-1-6参照)
a 東シナ海をめぐる情勢

東シナ海では、尖閣諸島周辺海域における中国公船等による領海侵入事案が2015年もそれまでと同程度のペースで続いている。さらに、2015年12月末以降は、外観上明らかに機関砲を搭載した海警船による領海侵入も繰り返し発生するようになっている。また、排他的経済水域及び大陸棚の境界画定がいまだ行われていない海域において、中国による一方的な資源開発が継続している。さらに、2015年11月には、中国海軍情報収集艦が尖閣諸島南方の接続水域の外側で反復航行する事案も確認された。

東シナ海情勢が悪化していることを踏まえ、中国の尖閣諸島周辺における領海侵入や境界未画定海域における一方的な資源開発等については、日本として主張すべきは主張しつつ、引き続き、毅然(きぜん)かつ冷静に対応していく。

尖閣諸島魚釣島(写真提供:内閣官房)
尖閣諸島魚釣島(写真提供:内閣官房)
b 南シナ海をめぐる問題

南シナ海では、中国による大規模かつ急速な埋立て、拠点構築及びその軍事目的での利用等現状を変更し緊張を高める一方的な行動、さらにはその既成事実化の試みが一段と進められており、日本を含む多くの国から懸念が表明されている。また、南シナ海をめぐるフィリピンと中国との間の紛争に関し、フィリピンが開始したUNCLOSに基づく仲裁手続について、2015年10月に仲裁裁判所は、一部の申立てについて管轄権を認める決定を下し、11月に本案口頭手続を行ったが、中国は引き続き仲裁手続に応じていない。

南シナ海をめぐる問題は、資源やエネルギーの多くを海上輸送に依存し、南シナ海における航行及び上空飛行の自由並びにシーレーンの安全確保を重視する日本にとっても、重要な関心事項である。開かれた自由で平和な海を守るため、国際社会が連携していくことが求められている。

イ 海上安全保障

日本は、アジアやアフリカでの海賊対策などの取組や各国との緊密な連携・協力を通じて、航行や上空飛行の自由や安全の確保に積極的に貢献している。

(ア)ソマリア沖・アデン湾における海賊対策
①海賊・武装強盗事案の現状

国際商工会議所(ICC)国際海事局(IMB)の発表によれば、ソマリア沖・アデン湾での海賊・武装強盗事案(以下「海賊等事案」)の発生件数は、2011年のピークにおいては237件であったが、2015年には0件となった。これは、各国海軍などによる海上取締活動、各国商船による自衛措置の実施などの取組によるものといえるが、ソマリア沖海賊を生み出す根本的原因はいまだ解決しておらず、国際社会が取組を弱めれば、状況は容易に逆転するおそれがある。

②海賊対処行動の延長と護衛実績

日本は、2009年からソマリア沖・アデン湾に海上自衛隊の護衛艦2隻(海上保安官が同乗)やP-3C哨戒機2機を派遣し、海賊対処行動を実施している。2015年7月7日、日本政府は、海賊対処法に基づく海賊対処行動を更に1年間継続することを閣議決定した。

派遣された護衛艦は、2015年1月から12月まで78回の護衛活動で147隻の商船を護衛し、P-3C哨戒機は、227回の任務飛行を行い、警戒監視や情報収集、他国艦艇への情報提供を行った。

③海賊対策における国際協力の推進

日本は、ソマリア沖海賊を生み出す根本的原因の解決に向けて、ソマリアや周辺国の海上保安能力の向上やソマリアの安定に向けた支援といった多層的な取組を行っている。

日本は、国際海事機関(IMO)の設置した基金に1,460万米ドルを拠出し、イエメン、ケニアやタンザニアへの情報共有センターの設置や地域における能力構築のための訓練センター(ジブチ)の建設を支援した。また、国連開発計画(UNDP)が管理する国際信託基金に450万米ドルを拠出し、ソマリアや周辺国の法廷などの整備や法曹関係者の訓練・研修のほか、セーシェルなどのソマリア周辺国で有罪判決を受けた海賊のソマリアへの移送などを支援している。そのほか、国際協力機構(JICA)の技術協力で能力拡充を支援してきているジブチ沿岸警備隊に対し、2015年12月、巡視艇2隻を供与した。

また、ソマリアの安定に向けて、日本は、2007年以降、治安向上、人道支援、雇用創出及び警察支援のため、総額3億7,137万米ドルを拠出している。

(イ)アジアにおける海賊対策

日本は、アジアの海賊・海上武装強盗対策における地域協力の促進のため、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)の策定を主導し、同協定は2006年に発効した。各締約国は、同協定に基づきシンガポールに設置された情報共有センター(ReCAAP-ISC)を通じ、海賊・海上武装強盗に関する情報共有及び協力を実施しており、日本は事務局長や事務局長補の派遣や財政支援によりReCAAP-ISCの活動を支援してきている。

このような日本のアジアにおける海賊対策のための取組は、国際的にも高く評価されている。

(5)サイバー

サイバーが人々の経済社会の活動基盤として欠かせないものとなる一方で、サイバー空間を利用した侵害行為(サイバー攻撃)の規模や影響は年々拡大している。また、特定の目的を持つと考えられる高度なサイバー攻撃の一部については、国家の関与が指摘されているものもある。

日本年金機構がサイバー攻撃を受け、約125万件に上る年金情報が窃取された事案が2015年6月に明らかになるなど、日本もサイバー攻撃の脅威にさらされている。2016年にはG7伊勢志摩サミット、2020年には東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を控えており、サイバーセキュリティの問題は日本にとって喫緊の課題である。

サイバー攻撃は、匿名性が高く、短時間で広範な影響をもたらし、地理的な制約を受けることが少なく容易に国境を越えるといった特性がある。一国のみで対応することが困難な国際社会共通の切迫した課題であり、国際社会との連携や協力が不可欠となっている。

こうした状況を背景に、9月に閣議決定された「サイバーセキュリティ戦略」に基づき、国際的なルール作りや、各国との協力・信頼醸成の促進、サイバー犯罪対策、能力構築支援等の取組を進めている。

国際的なルール作りについては、日本は、「サイバー空間を利用した行為に対しても従来の国際法が適用される」との立場から、国連における政府専門家会合(国連サイバーGGE(Group of Governmental Experts))や、4月のサイバー空間に関するハーグ会議等への参加を通じ、官民一体となって国際社会の議論に積極的に取り組んでいる。

各国との協力・信頼醸成の促進については、米国、オーストラリア、英国、フランス、インド、イスラエル、エストニア、ロシア、EU、NATO、ASEAN等との間や、日中韓3か国の枠組みでの協議・対話を実施した。こうした協議等を通じて、双方のサイバー分野における政策及び取組について情報交換し、相互理解を深め、協力強化や信頼醸成の促進に努めている。また、10月に、ARFの枠組みにおいてシンガポールで開催されたサイバー信頼醸成措置のワークショップに参加するなど、サイバー分野における多国間の協力強化にも積極的に取り組んでいる。

サイバー犯罪対策については、サイバー空間の利用に関する唯一の多数国間条約であるサイバー犯罪条約のアジア地域初の締約国として、この条約の締約国拡大に向けてサイバー犯罪条約関連会合等に積極的に参加している。開発途上国等への能力構築支援は、サイバー空間の性質上、一部の国や地域における対処能力の不足が、世界全体にとってのリスク要因となることから日本の安全を確保する上でも重要である。日本は、ASEAN諸国を中心にCSIRT(Computer Security Incident Response Team)5や法執行機関の能力強化等の支援を進めている。

(6)宇宙

近年、宇宙利用の多様化及び活動国の増加に伴って宇宙空間の混雑化が進むとともに、衛星破壊(ASAT)実験や人工衛星同士の衝突等による宇宙ゴミ(スペースデブリ)の増加の問題が発生し、持続的かつ安定的な宇宙利用に関するリスクが増大している。

そのような状況に対応するため、日本は宇宙空間における国際的な規範作りに関する議論に積極的に参画するとともに、各国と宇宙に関する対話・協議を促進し、宇宙空間における安全の確保に向けた取組に貢献している。

また、国際的に宇宙空間の利活用に関する新技術の開発やサービスの普及が進展する中で、国際宇宙ステーション(ISS)を始めとする宇宙科学・探査や日本の宇宙産業の海外展開、宇宙技術を活用した地球規模課題の解決や、開発途上国の宇宙分野での能力向上支援等にも積極的に取り組んでいる。

ア 宇宙空間における国際的な規範作り

宇宙空間の持続的・安定的利用の確保のためには、ASAT実験のようなスペースデブリを発生させる行為を規制するとともに、各国の宇宙活動に関する情報共有を促進する透明性・信頼醸成措置(TCBM)に関するルールを整備することが重要である。そのような観点から、日本はEUが主導する「宇宙活動に関する国際行動規範(ICOC)」の策定に関する議論に積極的に貢献してきている。7月にはニューヨークにおいて第一回多国間交渉会合が開催された。

また、国連宇宙空間平和利用委員会(UNCOPUOS)においては、「宇宙活動の長期的持続可能性に関するガイドライン」の作成など宇宙空間の平和利用に関する議論が行われており、日本も積極的に議論に貢献している。10月には国連総会で初めて宇宙を議題とした第1・第4合同委員会が開催された。

イ 各国との宇宙対話・協議の実施

国際社会における宇宙に関する関心の高まりを反映し、様々な二国間・多国間の宇宙対話・協議等が増加している。宇宙を利用する各国との間で幅広い視点で情報を共有し協力を促進していくことは持続的かつ安定的な宇宙利用の観点からも非常に有意義であり、日本としても、宇宙主要国やアジア太平洋地域を中心に、安全保障や科学・産業分野での対話を推進している。

2月の安全保障分野における日米宇宙協議(於:東京)、同9月の宇宙に関する包括的日米対話第3回会合及び第6回日米宇宙政策協議(民生・商業利用(於:東京)や第5回安全保障に関する日米豪宇宙協議(於:キャンベラ(オーストラリア))などの協議を実施し、11月には第3回ARF宇宙セキュリティワークショップ(於:北京(中国))において参加国との対話を行っている。

ウ 宇宙科学・探査、日本の宇宙産業の海外展開及び地球規模課題解決に向けた支援

平和目的の宇宙空間の探査及び利用の進歩は全人類の共同の利益であり、外交的にも重要な意義を持つものである。中でもISSは15か国が参加する壮大なプロジェクトであり、宇宙に関する国際協力の象徴とも言える。こうした観点から、日本は12月に日米間でISSに関する新たな日米協力に係る文書の署名を行い、2024年までのISS運用延長に参加することを決定した。

また、国際的に増大する人工衛星や打ち上げサービスなどの需要を獲得することは日本の宇宙産業にとって重要な課題となっており、トップセールスや在外公館の活用等を通じ日本の宇宙産業の海外展開に取り組んでいる。さらには、宇宙技術を活用した開発協力の実施により、気候変動、防災、森林保全、資源・エネルギーなどの地球規模課題への取組に貢献するとともに、開発途上国の宇宙分野での能力向上を支援してきている。

1 テロ対策に関する新たな多国間の枠組みとして米国から提唱され、2011年9月に設立。実務者間の経験・知見・ベストプラクティス(成功事例)の共有や「法の支配」、国境管理、暴力的過激主義対策などの分野における能力向上支援の実施などを目的とする。G7を含む29か国及びEUがメンバー(国連はパートナー)

2 ASEAN関連外相会議の一部として毎年夏に開催されているARF閣僚会合の際に開催

3 テロ防止関連諸条約については、外務省ホームページを参照。日本は13のテロ防止関連条約を締結している。

4 1989年のG7アルシュ・サミット(於:フランス)において、国際的なマネーロンダリング対策の推進を目的に招集された国際的な枠組み。G7を含む34か国・地域及び2国際機関が参加。マネーロンダリング、テロ資金供与対策や大量破壊兵器の拡散資金対策について各国が実施すべき国際的基準をFATF勧告として定め、勧告の実施に向けた取組が不十分な国・地域を、マネーロンダリングやテロ資金供与の深刻な問題・脅威が認められる国・地域として特定し、公表している。

5 コンピュータセキュリティインシデントに対処するための組織の総称。コンピュータセキュリティインシデントによる被害の最小化を図るため、インシデント関連情報、脆弱(ぜいじゃく)性情報、攻撃の予兆情報等を収集、分析し、解決策や対応方針の策定、インシデント対応等を行う。

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