4 軍縮・不拡散・原子力の平和的利用
(1)概観
日本は、自国の安全を確保・維持し、また、日本国憲法がうたっている平和主義の理念を基礎として、平和で安全な世界を目指すため、国際社会の責任ある一員として軍縮・不拡散に取り組んでいる。その対象は、大量破壊兵器(一般に核兵器・生物兵器・化学兵器を指す。)、通常兵器、ミサイルを含む運搬手段とそれらの関連物資・技術である。
日本は唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界を実現させるべく、様々な外交努力を行っている(1)。現在の国際的な核軍縮・不拡散体制の基礎となっているのは、核兵器不拡散条約(NPT)である。日本は、このNPT体制を維持・強化するために、現実的かつ実践的な提案を打ち出していくとの方針の下、非核兵器国12か国(2)から成るグループ「軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)」をオーストラリアと共に主導し、2015年NPT運用検討会議及びそれに先立って行われた3回の準備委員会への作業文書の提出や共同ステートメントの発表などを通じ、具体的貢献を行ってきている。
日本は、核兵器以外の大量破壊兵器である生物兵器や化学兵器、また、通常兵器についても、関連する条約の運用の強化と普遍化に向けた努力を行っている。
このほか、ジュネーブ軍縮会議(CD)における核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)などの新たな条約交渉の開始や国際原子力機関(IAEA)(3)の保障措置(4)の強化・効率化に向けて取り組んでいる。
また、各種の国際輸出管理レジーム(体制)や「拡散に対する安全保障構想(PSI)」(5)、核セキュリティ(6)強化に向けた取組にも積極的に参画している。
さらに、二国間の対話を通じた軍縮・不拡散外交も積極的に行っており、二国間原子力協定の締結などによる原子力の平和的利用の促進など(7)、その取組は多岐にわたっている。
(2)核軍縮
ア 核兵器不拡散条約(NPT)
2012年以降毎年開催された3回の準備委員会を踏まえ、2015年4月27日から5月22日まで、ニューヨークにおいて、2015年NPT運用検討会議が開催された。鋭意交渉が行われたものの、最終的に、主に中東非大量破壊兵器地帯の設置構想をめぐって関係国間の溝が埋まらず、最終文書を採択することなく終了した。しかしながらNPT三本柱(①核軍縮、②核不拡散及び③原子力の平和的利用)の進展のために、引き続きNPT体制の維持・強化に取り組むことが重要である。
イ 軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)
NPDIは、メンバー国の外相自身による関与の下、現実的かつ実践的な提案を通じ、核兵器国と非核兵器国の橋渡しの役割を果たし、軍縮・不拡散分野での国際社会の取組を主導している。2014年4月には日本で初めてとなる外相会合(第8回)を広島で開催した。この会合は出席者にとって被爆の実相に触れる機会となるとともに、NPDI各国として核兵器のない世界に向けた取組をこれまで以上に積極的に行うまたとない機会となった。また、日本が提案する全ての種類の核兵器削減、核軍縮努力を行っていない国に対する核戦力の凍結・削減の要求、核兵器削減交渉の多国間化、透明性の向上等、現実的かつ実践的な措置について合意を得ることができた。さらに、2015年4月、5月の2015年NPT運用検討会議に向け、NPDIとして国際社会をリードしていくため、18本の作業文書とNPT運用検討会議の合意文書案を提出した。
ウ 国連における取組
9月、核兵器の全面的廃絶のための国際の日に関する国連総会会合が開催され、日本から岸田外務大臣が出席した。さらに、12月に開催された第70回国連総会においては、日本が1994年以降毎年提出している核兵器廃絶決議案が107か国の共同提案国を集め、賛成166、反対3、棄権16で採択された。

エ 包括的核実験禁止条約(CTBT)(8)
日本は、NPTを基礎とする核軍縮・不拡散体制を支える重要な柱であるCTBTの早期発効を重視し、未批准国への働き掛けなどの外交努力を継続している。被爆70年となる2015年、岸田外務大臣は9月にニューヨーク(米国)で開催された第9回CTBT発効促進会議においてカザフスタン外相と共同議長を務めるとともに、2017年9月までの2年間、発効促進共同調整国として、CTBTの早期発効に向けた取組を主導することとなった。
オ 核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT:カットオフ条約)(9)
長年にわたりジュネーブ軍縮会議(CD)でのFMCTの交渉開始への合意がなされない状況を受け、2012年に国連総会でFMCTに関する政府専門家会合(GGE)の設置が決定された。2014年及び2015年に計4回のGGE会合が開催され、将来のFMCTの交渉に資する勧告を含む報告書が作成された。日本から須田明夫元軍縮代表部大使が日本政府専門家として参加し、GGEの議論に貢献した。
カ 軍縮・不拡散教育
近年、軍縮・不拡散問題への取組を推進する上で、軍縮・不拡散についての教育の重要性が国際社会に広く認識されてきており、日本は、唯一の戦争被爆国として、これを積極的に推進してきている。日本の取組として、被爆証言の多言語化、各国若手外交官の被爆地研修、NPT運用検討会議のプロセスにおける作業文書の提出や演説を実施している。このほか、被爆者を「非核特使」として委嘱し、国際会議等で被爆体験証言をするなど被爆の実相を国内外に伝達する活動を政府として後押ししている。近年、被爆者の高齢化が進む中、これまでの「非核特使」制度に加えて、若い世代を対象とした「ユース非核特使」制度を新たに創設し、広島・長崎の被爆の実相を世代を超えて語り継いでいく取組にも重点を置いている(P140コラム参照)。また、日本での国連軍縮会議開催に際した協力を行っているほか、広島市や長崎市との協力の下、在外公館を通じた海外における原爆展の展開支援も行っている。12月には、ウィーンにおいて世界で3番目となる常設原爆展が開設された。
キ そのほかの二国間での取組
核軍縮・不拡散及び環境汚染防止の観点から、日露非核化協力委員会を通じ、ロシアにおける退役原子力潜水艦解体関連の協力を実施している(10)。また、ウクライナやカザフスタンとの間でそれぞれ設立した非核化協力委員会を通じ、核セキュリティ強化に資する協力を実施している(11)。
(3)不拡散
ア 大量破壊兵器などの拡散防止の取組
日本は、不拡散体制強化のために様々な外交努力を行っている。IAEA指定理事国(12)としてその活動に人的・財政的貢献を行っているほか、国際的な核不拡散体制の中核的な措置であるIAEAの保障措置については、より多くの国が追加議定書(13)を締結するよう、IAEAと協力し、IAEAが主催する地域セミナーへの人的・財政的支援を含め、様々な協議の場で各国に働きかけている。
輸出管理レジーム(体制)は、兵器やその関連汎用品・技術の供給能力を持ち、かつ適切な輸出管理を支持する国々による協調のための枠組みである。日本は、核兵器、生物・化学兵器、ミサイル(14)、通常兵器それぞれの輸出管理レジームに参加し、貢献している。特に、原子力供給国グループ(NSG)に対しては、ウィーン日本政府代表部が事務局の役割を果たしている。
また、日本は拡散に対する安全保障構想(PSI)の取組を重視しているほか、不拡散体制への理解促進と取組の強化を目指し、アジア不拡散協議(ASTOP)(15)やアジア輸出管理セミナー(16)を通じて、アジア諸国を中心に地域的取組の強化のための働き掛けを行っている。さらに、ロシアや中央アジアなどで大量破壊兵器やその運搬手段の研究開発に関与していた科学者などを国際科学技術センター(ISTC)を通じて平和的な目的の研究に従事させることにより、大量破壊兵器に関する知識・技能の拡散防止と国際的な科学協力に貢献している。

イ 地域の不拡散問題
北朝鮮の核・ミサイル開発の継続は、国際社会の平和と安全に対する重大な脅威であり、特に核開発は国際的な核不拡散体制に対する重大な挑戦である。
2002年10月に北朝鮮がウラン濃縮計画の存在を認めたことを契機に核問題が再び深刻化し(17)、2006年7月にテポドン2を含む7発の弾道ミサイルが発射され、同年10月には核実験実施に至った。
2007年には、六者会合において、共同声明の実施のための「初期段階の措置」及び同「第二段階の措置」が採択されたが、間もなく北朝鮮はこれらの文書に定められた措置の中断を発表した。
さらに、2010年11月、北朝鮮は訪朝したヘッカー・スタンフォード大学教授らに、「ウラン濃縮施設」などを視察させた。
北朝鮮は、2013年2月には3度目となる核実験を強行し、4月には寧辺(ヨンビョン)の核施設の再稼働の意思を表明した。
2015年3月に公表された国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネルによる報告書は、2014年の北朝鮮による弾道ミサイルの発射数(13発~15発)は異例の事態であると指摘した。2015年に入ってからも、北朝鮮は数次にわたりミサイルを発射し、また、同年9月のIAEA事務局長報告によれば、寧辺(ヨンビョン)の黒鉛減速炉に関連する水蒸気の排出等の兆候が引き続き見られ、ウラン濃縮施設とされる施設の増築や使用の動きが確認されるなど、核・ミサイル開発を継続している。さらに北朝鮮は、2016年1月に4度目となる核実験を強行し、翌月には、弾道ミサイルを発射した。これを受け、同年3月に国連安保理は制裁を大幅に追加・強化する包括的かつ強い内容の決議第2270号を採択した。日本は、引き続き、米韓を含む関係国と緊密に連携しつつ、北朝鮮に対し、ウラン濃縮活動の即時停止を含め、全ての核兵器及び既存の核計画の放棄に向けた措置を着実に実施するよう強く求めていく考えである(2-1-1(1)参照)。
また、イランの核問題も、国際的な核不拡散体制における重大な課題である。2003年以降、イランに対し、ウラン濃縮活動の停止などを求めるIAEA理事会決議(18)及び国連安保理決議(19)が採択されてきたにもかかわらず、イランはウラン濃縮関連活動を継続していたが、2013年8月にローハニ政権が発足して以降、その姿勢に変化が現れ、同年11月には、EU3(英仏独)+3(米中露)側による制裁の一部解除に対し、イラン側が、アラク重水炉の活動の停止を行うことなどからなる「共同作業計画(Joint Plan of Action)」(20)に合意した。その後、包括的解決に向けた交渉が行われ、最終的に、2015年7月に、EU3(英仏独)+3(米中露)とイランとの間で、イランの核問題に関する最終合意である「包括的共同作業計画(Joint Comprehensive Plan of Action:JCPOA)」(21)に合意した。JCPOAでは、イランの原子力活動に制約をかけつつ、それが平和的であることを確保した上で、イラン側の措置の実施に伴い、これまでに課された制裁が解除される手順が明記された。同時に、イランの核問題に関する軍事的側面の可能性(22)については、IAEAとイランとの間で「イランの核計画に関する過去及び現在の未解決の問題の解明のためのロードマップ」が合意された。また、これらを受けて、JCPOAを承認し、IAEAに必要な検証・監視活動を行うよう要請するなどの内容を含む安保理決議第2231号が採択された。
「イランの核計画に関する過去及び現在の未解決の問題の解明のためのロードマップ」に基づき、イランとIAEAとの間で作業が行われた結果、2015年12月にIAEA事務局長による最終評価報告(23)が発出された。同最終評価報告は、2003年末までにイランにおいて、核爆発装置の開発に関連する活動が組織的に行われ、一部の活動については2004年以降も行われた一方で、2010年以降は同様の活動が行われたとする信頼性のある根拠を有していないとした。
さらに、2016年1月には、イランがJCPOAで約束した一部の措置を履行したことがIAEAにより検認された。これにより、新たに採択された安保理決議第2231号に基づき、過去の関連する安保理決議によって課された制裁の一部が終了した。ただし、イランの核活動やミサイルなどに関連する移転活動には引き続き制約が課されている。今後は、イランによる合意の着実な履行とIAEAによる監視・検証が重要である。この過程で、2015年9月の日・イラン首脳会談の際に、安倍総理大臣から、ローハニ・イラン大統領に対し、最終合意の着実な履行及びIAEAとの協力を働き掛けた。また、2015年10月の岸田外務大臣のイラン訪問時には、JCPOAが規定する「履行の日」以降、原子力安全やIAEA保障措置・透明性措置の分野で協力を行っていく意図を表明した。
シリアによるIAEA保障措置の履行に関する問題も、2008年以降、IAEA理事会において取り上げられている。2011年、IAEA理事会は、シリアのデイル・エッゾールで未申告で原子炉建設を行っていたことがIAEA保障措置協定下の違反を構成することを認定した。シリアがIAEAに対して完全に協力し、事実関係が解明されるためにも同国が追加議定書を署名・批准し、これを実施することが極めて重要である。
ウ 核セキュリティ
近年、核物質そのほかの放射性物質を使用したテロ活動を防止するための「核セキュリティ」についても、IAEAや国連、有志国による各種の取組を通じて国際協力が強化されている。特に、オバマ米国大統領が提唱して開始された核セキュリティ・サミットは、その3回目が2014年3月にオランダ・ハーグで開催され、53か国4機関が出席した。日本からは、安倍総理大臣が出席し、核物質の最小化と適正管理、改正核物質防護条約への対応等、日本の核セキュリティ向上へ向けた取組を表明した。次回は2016年3月31日から4月1日まで、米国ワシントンで行われる。
2015年2月、日本は、核セキュリティ対策の実施状況のレビューを行うIAEAの専門家チームである国際核物質防護諮問サービス(IPPAS)ミッションを受け入れた。事後、このミッションから提示された報告書で、日本の核セキュリティ体制及びミッションが訪問した施設について、良好事例と共に、継続的な改善のための勧告や助言が示された。
また、同年7月、IAEA主催による原子力分野におけるコンピュータ・セキュリティ国際会議がウィーンで開催され、92か国17機関から700人以上が参加した。日本からも多くの政府関係者や専門家が出席した。
(4)原子力の平和的利用
ア 多国間での取組
核軍縮・不拡散と並んで原子力の平和的利用はNPTの三本柱の1つとされており、核軍縮・不拡散を進める国が平和的目的のために原子力の研究、生産及び利用を発展させることは「奪い得ない権利」であるとされている。
近年、国際的なエネルギー需要の拡大や地球温暖化問題への対処の必要性などから、原子力発電(24)の拡充や新規導入を計画する国が増加しており、東京電力福島第一原子力発電所の事故後も、原子力発電は国際社会における重要なエネルギー源となっている。
一方、原子力発電に利用される技術や機材、核物質は軍事転用が可能であることや一国の事故が周辺諸国にも大きな影響を与え得ることから、原子力の平和的利用に当たっては、①保障措置(を始めとする不拡散の取組)、②原子力安全(原子力事故の防止に向けた安全性の確保など)及び③核セキュリティ(核テロ対策)の「3S」(25)の確保が重要である。東京電力福島第一原発事故の当事国として、事故の経験と教訓を世界と共有し、国際的な原子力安全の向上に貢献していくことは、日本の責務である。この観点から、IAEAとの協力の一環として、福島県に指定した「IAEA緊急時対応能力研修センター」(IAEA・RANET・CBC)で、2015年4月及び11月に国内外の関係者を対象に、緊急事態の準備及び対応の分野における訓練活動に関する研修を実施している。
福島第一原発の状況については、国内のみならず、国際社会に対する適時適切な情報発信が重要である。この観点から、日本は、福島第一原発の廃炉作業・汚染水対策の進捗、空間線量や海洋中の放射能濃度のモニタリング結果、食品の安全といった事項について、IAEAを通じて包括的な報告を定期的に公表しているほか、外交団に対する説明会の開催や在外公館を通じた情報提供などを行っている。
また、汚染水問題も含め、福島第一原発の廃炉は、世界にも例がない困難な作業の連続であり、国内のみならず、 IAEAを始めとする世界の技術や叡智(えいち)を結集して、その解決に取り組むこととしている。この関連では、IAEA海洋モニタリング専門家の受入れを実施した(2014年9月、11月、2015年5月及び11月)ほか、放射線影響に関しては、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が福島県や都内においてセミナーやワークショップ等を開催する(2014年9月及び11月)など国際社会との連携・協力を進めている。
また、日本は開発途上国を中心とした国際社会における原子力の平和的利用の促進を重視する観点から、IAEA技術協力基金への拠出や平和利用イニシアティブ(PUI)を通じた支援を実施してきている。その中でも特に、原子力科学技術を活用した医療及び農業等の非発電分野での原子力の平和的利用の促進を重視しており、また、発電分野においても放射線防護の強化に貢献するなど、様々な分野における協力を通じて開発途上国の社会的・経済的な発展に貢献している。2015年4月から5月にかけてNPT運用検討会議で日本はPUIに対し、向こう5年間で総額2,500万米ドルの拠出を行うことを表明した。また、原子力事故の被害者の迅速かつ公平な救済・賠償の充実や法的予見性の向上等に資するものとして、原子力損害の補完的な補償に関する条約(CSC)があり、日本は2015年1月に同条約を締結した。日本の締結により、この条約は2015年4月15日に発効に至り、国際的な原子力損害賠償制度を強化する重要な一歩となった。
イ 二国間原子力協定
二国間原子力協定は、特に原子力の平和的利用の推進と核不拡散の確保の観点から、原子炉のような原子力関連資機材等を移転するに当たり移転先の国からこれらの平和的利用などに関する法的な保証を取り付けるために締結するものである。
また、日本は、「3S」を重視する観点から、最近の原子力協定においては、原子力安全面に関する規定も設けており、協定の締結により、原子力安全の強化などに関し、協定に基づく協力の促進も可能となる。
日本の原子力技術に対する期待は、福島第一原発の事故後も引き続き諸外国から表明されている。二国間の原子力協力については、福島第一原発事故に関する経験と教訓を世界と共有することにより、国際的な原子力安全の向上に貢献していくことが日本の責務である。この認識の下、日本は相手国の事情や意向を踏まえつつ、世界最高水準の安全性を有する原子力関連資機材・技術を提供していく考えである。原子力協定の枠組みを整備するかどうかについては、核不拡散の観点、相手国の原子力政策、相手国の日本への信頼と期待、二国間関係などを総合的に勘案し、個別具体的に検討していくこととしている。
なお、日本は、2015年末現在、カナダ、オーストラリア、中国、米国、フランス、英国、欧州原子力共同体(EURATOM)、カザフスタン、韓国、ベトナム、ヨルダン、ロシア、トルコ及びアラブ首長国連邦との間でそれぞれ原子力協定を締結している。

核兵器不拡散条約(NPT:Treaty on the Non-proliferation of Nuclear Weapons)は、①核兵器国(1)(米国、ロシア、英国、フランス及び中国)による核軍縮交渉を進め、②核兵器の拡散を防ぎ、③原子力の平和的利用のための協力を促進することを主要な目的としています。191か国・地域が参加しており、核軍縮・不拡散を規定した唯一の国際的な条約です。日本は1976年に締約国となり、同条約の維持・強化に向けた国際的議論に貢献してきています。
NPTは、条約の運用を検討するために5年ごとに運用検討会議を開催しています。これは、NPTの三本柱である核軍縮、核不拡散、原子力の平和的利用についての進展を確認するとともに、次の目標を設定する重要な会議です。4週間かけた議論を行い、最終的には運用検討会議としての合意文書が採決されます。
広島・長崎の被爆から70年という節目の年に開催された2015年運用検討会議は、厳しい状況の中での開催となりました。これは中東問題や核兵器の非人道性など締約国間で意見を収斂(しゅうれん)させることが難しいテーマが多かったためです。
こうした状況において日本は、核兵器国と非核兵器国が協力して実践的で具体的な取組を進めていくことの重要性を訴えるべく、岸田外務大臣が一般討論演説において、①核戦力の透明性向上、②あらゆる核兵器の削減及びそのための将来的な核兵器削減交渉の多国間化、③核兵器の非人道性についての認識を通じた国際社会の結束、④北朝鮮の核・ミサイル問題等の地域の不拡散問題への対応及び⑤政治指導者や若者による被爆地訪問の意義を訴えました。さらに、運用検討会議期間中に訪米した安倍総理大臣は、オバマ米国大統領との間で「NPTに関する日米共同声明」を発表し、NPT体制を維持・強化し、「核兵器のない世界」を目指す国際社会の取組を促しました。
また、日本が主導するグループである軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)として運用検討会議の合意文書案を提示し、世界各国の理解と協力を訴えました。NPDIの提案はかなりの部分が最終文書案に取り入れられ、日本の高いプレゼンスを示すことができました。

このような日本の取組にもかかわらず、残念ながら会議は最終文書の合意に至りませんでした。タウス・フェルーキ議長(アルジェリア外務省大臣顧問)は各国が受入れ可能と思われる最終文書案を作成し、同文書案に対しては多くの国が受入れ可能(少なくともコンセンサスをブロックしない)というところまでいきましたが、中東非大量破壊兵器地帯についての問題をめぐって関係国間で合意がなされず、残念ながら最終文書案が採択されることなく会議は終了しました。
今回の会議で最終文書案を採択できなかったことにより、次回の2020年運用検討会議までの5年間における明確な合意された指針を失うこととなり、NPTを中心とする国際的な核軍縮・不拡散体制に一定の影響があったことは否めません。一方で、核軍縮・不拡散の促進の歩みを止めることはできません。日本としては、2015年8月に広島で開催された国連軍縮会議や包括的核実験禁止条約(CTBT)賢人グループ会合での活発な議論を通じ、核軍縮・不拡散の進展に向けた機運を維持していくよう努めました。9月にはCTBT発効促進会議で岸田外務大臣が共同議長を務めました。また、12月には1994年以来毎年日本が国連総会に提出している核兵器廃絶決議が採択されました。
2016年日本はG7議長国であり、また、2015-2017年にはCTBT発効促進共同調整国を務めることもあり、NPDIの枠組みも活用しつつ、今後とも「核兵器のない世界」に向け、NPT体制の維持・強化の取組を推し進めていきます。
1)NPT第9条3「この条約の適用上、「核兵器国」とは、1967年1月1日以前に核兵器その他の核爆発装置を製造しかつ爆発させた国をいう。」

長崎県立長崎東高校2年●内野 璃奈
2015年は原爆被爆から70年の節目の年にあたります。この大切な年に、私たち第18代高校生平和大使21名は外務省から“ユース非核特使”を委嘱され、核兵器の廃絶と平和への想いを世界に伝えるためにスイスへと旅立ちました。

わたしの祖父は12才の時に長崎で被爆しました。幸いにも祖父は命を落とすことはありませんでしたが、多くの友人を失いました。この祖父は「2度と原爆のような悲劇を人類が味わってはならない。」と言っています。わたしは、被爆地の若者として、このような被爆者の思いを引きついでいきたいと思っています。
高校生平和大使は1998年にインドとパキスタンが相次いで核実験を行った際、被爆地の声を世界に届けてほしいという長崎の市民の声から誕生しました。
わたしたち第18代の高校生平和大使は8月16日から21日まで国連欧州本部・軍縮会議日本政府代表部・メキシコ政府代表部・5つのNGO団体を訪問し、ベルンで署名活動を行い、核兵器廃絶を訴えてきました。
国連欧州本部では、軍縮会議の本会議の中で広島の高校生がスピーチをすることができました。その後、国連軍縮部では21名でスピーチを行い、1年間で集めた164,176筆の署名を提出しました。署名は累計1,337,598筆となりました。署名を提出した後、日本政府代表部主催の被爆70年祈念行事に参加させていただきました。そこでは、各国の方々の前で私たちの活動を紹介することができました。
メキシコ政府代表部訪問では3人がスピーチをした後に意見交換を行いました。メキシコ大使は「これからは唯一の戦争被爆国である日本が世界をリードして核軍縮を進めていく必要がある。」とおっしゃいました。
このスイスの旅では、若者の声を真剣に受け止めてくださるたくさんの方に出会いました。また、核兵器廃絶を目指して活動しているのは私たちだけでなく、平和を願う想いは言語の壁を越えて繋がっていることを実感することができました。日本の若者の活動は世界にも広まりつつあることを感じました。これからも“ビリョクだけどムリョクじゃない”という言葉を信じて被爆者の想いを世界にそして後世へと伝え続けたいと思います。

(5)生物兵器・化学兵器
ア 生物兵器
生物兵器禁止条約(BWC)(26)は、生物兵器の開発・生産・保有などを包括的に禁止する唯一の多国間の法的枠組みである。条約遵守の検証手段に関する規定が無く、条約をいかに強化するかが課題となっている。
2015年の会合では、生物兵器使用により感染症が発生した場合のBWC下での対応に関し、西アフリカで発生したエボラ出血熱流行への対応から教訓を得るための議論が行われた。日本は、エボラ出血熱対応への日本の支援について専門家が発表を行うなど、条約強化のための議論に貢献した。
イ 化学兵器
化学兵器禁止条約(CWC)(27)は、化学兵器の開発・生産・保有・使用などを包括的に禁止し、既存の化学兵器の全廃を定めている。条約の遵守を検証制度(申告と査察)によって確保しており、大量破壊兵器の軍縮・不拡散に関する国際約束としては画期的な条約である。CWCの実施機関として、ハーグ(オランダ)に化学兵器禁止機関(OPCW)が設置されている。OPCWは、2013年9月以降継続しているシリアの化学兵器廃棄において、国連と共に重要な役割を果たしており、日本はその活動に対して財政的支援を行った。2015年8月、シリア国内で引き続き発生している塩素ガス使用等の責任特定のため、国連・OPCW共同調査メカニズムが国連安保理決議に基づき設置されるなど、化学兵器が二度と使用されないようにするための努力が続けられている。
日本は、加盟国を増やすための協力、条約の実効性を高めるための締約国による条約の国内実施措置の強化及びそのための国際協力につき積極的に取り組んでいる。2015年2月にはウズムジュOPCW事務局長が訪日し、岸田外務大臣との間で、条約の実効性向上などの課題に連携して協力していくことを確認した。9月には、OPCWのプログラムの下、日本の化学工場にスリランカ、フィリピンからの研修生2人を受け入れ、工場の安全管理などに関する研修を実施した。
また、日本は、CWCに基づき、中国に遺棄された旧日本軍の化学兵器について、国内の老朽化した化学兵器と同様に廃棄義務を負っており、中国と協力しつつ、1日も早い廃棄の完了を目指して最大限の努力を行っている。
(6)通常兵器
ア クラスター弾(28)
日本は、クラスター弾の人道上の問題を深刻に受け止め、被害者支援や不発弾処理といった対策を実施するとともに、クラスター弾に関する条約(CCM:Convention on Cluster Munitions)(29)の締約国を拡大する取組を継続している。また、ラオスやレバノンなどのクラスター弾の被害国に対し、不発弾処理や被害者支援事業の協力を行っている(30)。
9月には、クロアチアでCCM第1回検討会議が開催され、日本からは佐野利男軍縮代表部大使が首席代表として出席し、これまでの日本の不発弾対策支援の実績を振り返るとともに、日本の不発弾対策支援のアプローチとして、今後とも、不発弾除去、被害者支援及び危険回避教育の3点に重点を置いて支援を継続する姿勢を表明した。
イ 小型武器
事実上の大量破壊兵器とも称される小型武器は、その操作の手軽さゆえに、拡散が続いている。少なくとも年間50万人が小型武器の使用の結果死亡しているとされ、紛争の長期化や激化、治安回復や復興開発の阻害などの問題の一因となっている。日本は、毎年の国連小型武器決議の国連総会への提出を始め、国連における取組に貢献すると同時に、世界各地において武器回収、廃棄、研修などの小型武器対策プロジェクトを支援している。
ウ 対人地雷
日本は、実効的な対人地雷の禁止と被害国への地雷対策支援の強化を中心とした包括的な取組を推進している。アジア太平洋地域各国への対人地雷禁止条約(オタワ条約)(31)締結の働き掛けに加え、1998年以降、50か国・地域に対して約620億円を超える地雷対策支援(地雷除去、被害者支援等)を実施してきている。
そのほか、2014年1月から2015年12月までの任期で、地雷対策支援のドナー国から成る「地雷対策支援グループ」の議長を務めた。
エ 武器貿易条約(ATT:Arms Trade Treaty)
通常兵器の国際貿易を規制するための国際的な共通基準を確立し、不正な取引等を防止することを目的としたATT(32)が、2013年4月に国連総会で採択され、2014年12月24日に発効した。2015年8月に開催された第1回締約国会合では、条約の事務局設置都市がジュネーブ(スイス)に決定され、事務局長としてドゥラドゥラ南アフリカ共和国通常兵器規制委員会事務局長が選出された。日本は、以前から実効的で幅広い国の参加が得られる条約の作成の必要性を主張し、交渉において、原共同提案国として積極的かつ建設的な役割を果たしてきた。2014年5月、日本はアジア太平洋で最初の締約国となるとともに、条約の未締結の国に対して早期締結を呼び掛けている。
1 より詳細な日本の核軍縮・不拡散分野の政策については2016年発行の「日本の軍縮・不拡散外交(第7版)」を参照
2 2010年9月に日本及びオーストラリアが立ち上げ、カナダ、チリ、ドイツ、ポーランド、メキシコ、オランダ、トルコ、アラブ首長国連邦、フィリピン及びナイジェリアの計12か国が参加
3 IAEAは、原子力の平和的利用を促進するとともに、原子力が平和的利用から軍事的利用に転用されることを防止することを目的とし、1957年に設立された。事務局はウィーンに設置されている。最高意思決定機関は全加盟国で構成され年1回開催される総会である。総会に対して責任を負うことを条件に、35か国で構成される理事会がIAEAの任務を遂行する機関として機能している。2015年12月現在、167か国が加盟。天野之弥氏が2009年12月以降事務局長を務めている。
4 IAEAが各国と個別に締結した保障措置協定に基づき、査察などの手段により、核物質が平和的目的だけに利用され、核兵器などに転用されないことを担保するために行われる検認活動(査察、各国の計量管理(核物質の在庫量の管理)記録のチェックなど)。NPT締約国である非核兵器国は、NPT第3条に基づき、IAEAとの間で保障措置協定を締結し、国内の全ての核物質について保障措置(包括的保障措置)を受け入れることが求められている。
5 PSIとは、大量破壊兵器などの拡散阻止のため各国が国際法・各国国内法の範囲内で共同してとり得る措置を実施・検討するための取組で、2003年5月に発足。2015年12月現在105か国が、PSIの活動に参加・協力している。日本は、PSI海上阻止訓練を2004年及び2007年の2度主催し、2010年11月に東京においてオペレーション専門家会合(OEG)を主催したほか、2012年7月には日本で行うものとしては初のPSI航空阻止訓練を主催した。また、他国が主催する訓練及び関連会合にも積極的に参加している。2013年5月には、PSI創設10周年を記念するハイレベル政治会合がPSI参加国のうち72か国の参加を得てポーランドにて開催され、日本からも参加した。また、2015年11月には、2018年に日本が訓練の主催国となることを見据え、ニュージーランド主催PSI阻止訓練「MARU2015」へ積極的に参加するとともに、同年5月のカナダ主催オペレーション専門家会合(OEG)にも参加した。さらに、2016年1月には、米国主催で政治会合(高級事務レベル)が開催され、2013年のハイレベル政治会合からの取組の進捗状況の確認等が行われた。
6 核物質などがテロリストやその他の犯罪者の手に渡ることを防ぐための措置
7 原子力潜水艦解体作業で取り出された原子炉区画を長期陸上保存するために必要な機材を供与(2012年)
8 宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる場所における核兵器の実験的爆発及び核爆発を禁止。1996年に署名開放されたが、2015年12月現在、条約発効のために批准が必要な国(発効要件国)全44か国のうち、中国、エジプト、イラン、イスラエル及び米国が未批准、インド、北朝鮮及びパキスタンが未署名のために未発効となっている。
9 核兵器その他の核爆発装置製造のための原料となる核分裂性物質(高濃縮ウラン及びプルトニウムなど)の生産を禁止することにより、核兵器の数量増加を止めることを目的とする条約構想
10 退役原子力潜水艦解体事業「希望の星」は、2002年6月のG8カナナスキス・サミット(於:カナダ)において合意された、大量破壊兵器及びその関連物質の拡散防止を主な目的とする「G8グローバル・パートナーシップ」の一環として実施されたもので、2009年12月までに計6隻を解体して完了した。2010年8月からは、解体した原子力潜水艦の原子炉区画を安全に保管するため原子炉区画陸上保管施設の建設に対する協力を実施した。
11 2011年1月、日・ウクライナ核兵器廃棄協力委員会を通じ、ハリコフ物理化学研究所核セキュリティ強化、さらに、同年11月、日・カザフスタン核兵器廃棄協力委員会を通じ、カザフスタン核セキュリティ防護資機材整備に対する協力をそれぞれ実施した。
12 IAEA理事会で指定される13か国。日本を始めG7などの原子力先進国が指定されている。
13 包括的保障措置協定に追加して、各国がIAEAとの間で締結する議定書。追加議定書の締結により、IAEAに申告すべき原子力活動情報の範囲が拡大されるなど検認活動が強化される。2015年12月現在、126か国が締結
14 弾道ミサイルに関しては、輸出管理体制のほかにも、その開発・配備の自制などを原則とする「弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範」(HCOC)があり、日本は2013年5月から1年間議長国を務めた。
15 ASTOPとは、日本のほか、ASEAN10か国、中国、韓国、米国、オーストラリア、カナダ及びニュージーランドが参加し、アジアにおける不拡散体制の強化に関する諸問題について議論を行う日本主催の多国間協議。最近では2016年1月に開催された。
16 アジア諸国・地域の輸出管理当局関係者などの参加により、アジア地域における輸出管理強化に向けて意見・情報交換をするセミナー。1993年から毎年東京で開催しており、最近では2016年2月に開催し、28か国・地域が参加した。
17 2003年1月、北朝鮮はNPTから脱退することを通告し、その後、1994年10月に米朝間で署名された「合意された枠組み」の下で凍結していた5メガワットの実験炉を再稼働させ、使用済核燃料棒の再処理を再開した。
18 2003年9月のIAEA理事会決議や10月のEU3(英仏独)とのテヘラン合意を受け、イランは濃縮関連活動の停止の約束のほか、保障措置に関する是正措置やIAEA追加議定書の署名など一時的には前向きな対応を見せたものの、活動を継続した。また、2004年11月のEU3とのパリ合意により同活動を停止したものの、2005年8月には再開している。これを受け、2005年9月、IAEA理事会は、イランによる保障措置協定の違反を認定し、2006年2月のIAEA特別理事会において、イランの核問題を国連安保理に報告する決議を採択し、これ以降、イランの核問題は国連安保理でも協議されるようになった。
19 これまでイランの核問題に関連し、累次の国連安保理決議が採択されているが、これらの決議は、国連憲章第7章下で、イランに対し、全ての濃縮関連・再処理活動及び重水関連計画の停止、未解決の問題の解決などのため、IAEAに対してアクセス及び協力の提供を義務付け、また、追加議定書の迅速な締結を要請しており、決議第1835号は、イランに対しこれら4本の決議の義務を遅滞なく遵守するよう求めている。また、決議第1737、1747及び1803号は、核関連物資の対イラン禁輸やイランの核・ミサイル関連個人・団体の資産凍結などの憲章第7章第41条下のイランに対する措置を含んでおり、決議第1929号は、イランに対する追加的な措置として、武器禁輸の拡大、弾道ミサイル開発の規制、資産凍結・渡航制限対象の拡大、金融・商業分野、銀行に対する規制の強化、貨物検査などの包括的な措置を含んでいる。
20 共同作業計画(Joint Plan of Action)
・交渉当事者が6か月間に実施する「第一段階の措置」及び「最終段階の包括的合意の措置(要素)」から構成された。
【第一段階の措置】
〈イランによる措置〉
・5%を超える濃縮活動を停止
・20%濃縮ウランの5%へ希釈又は酸化ウランへの転換
・濃縮能力増強の停止(新型遠心分離機や濃縮施設の新設禁止)
・低濃縮ウランの貯蔵量の増加を禁止
・アラク重水炉の活動の進展を禁止
・IAEAの査察を強化
〈EU3+3による措置〉
・限定的、一時的、対象を限定した、可逆的な制裁解除
・金・貴金属、石油化学分野、自動車分野での禁輸措置の解除
・航空分野における制裁解除(安全面での修理部品供給等)
・イラン産原油輸入量を現在の相当程度削減した水準で維持
・6か月間、核計画に対する新たな制裁措置の実施見送り
・人道取引の促進と決済ルートの確立
【最終段階の包括的合意の措置(要素)】
・国連安保理、複数国あるいは一国による核分野での制裁の包括的解除
・双方で合意する濃縮プログラム(実際の需要に合致した、双方で合意する諸要素から成るもの。濃縮活動の範囲、レベル、能力、場所、濃縮済みウラン貯蔵量について合意される制約の中で、合意された期間の間認められるもの。)
・アラクにおける原子炉に関連する懸念を完全に解決し、再処理をせず、再処理能力を有する施設を建設しない
・合意された透明化措置及び強化された監視の完全実施と、追加議定書の批准及び実施
・近代的な軽水炉・研究炉及び関連施設の取得を含む国際的民生原子力協力への参加と核燃料の供給
全期間にわたって最終段階の包括的解決を成功裏に実施した場合、イランの原子力プログラムはNPTの非核兵器国と同様に扱われる。
21 包括的共同作業計画(Joint Comprehensive Plan of Action:JCPOA)
●イランの原子力活動に制約をかけつつ、それが平和的であることを確保し、また、これまでに課された制裁を解除していく手順を詳細に明記したもの
〈イラン側の主な措置〉
●濃縮ウラン活動に係る制約
・稼動遠心分離機を5060機に限定
・ウラン濃縮の上限は3.67%、貯蔵濃縮ウランは300kgに限定等
●アラク重水炉、再処理に係る制約
・アラク重水炉は兵器級プルトニウムを製造しないよう再設計・改修し、使用済燃料は国外へ搬出
・研究目的を含め再処理は行わず、再処理施設も建設しないなど
22 PMD(Possible Military Dimensions:軍事的側面の可能性)
2011年11月、IAEAは、イランの核活動に関し、核爆弾開発の兆候について、起爆装置の開発等を含む12項目から成る「軍事的側面の可能性」を事務局長報告として指摘。以降、本件はイランとIAEAとの協議における重要な論点として扱われてきた。
23 イランの核問題の軍事的側面の可能性(PMD)に関するIAEA事務局長の最終評価報告(要旨)
結論として以下の3点について言及
(1)「イランの核計画に関する過去及び現在の未解決の問題の解明のためのロードマップ」(以下、「ロードマップ」)において行うことになっていた活動は、全てスケジュールどおりに終了した。
(2)IAEAは、2003年末までにイランにおいて、核爆発装置の開発に関連する活動が組織的に行われ、一部の活動については2004年以降も行われたと評価。同時に、IAEAは、これらの活動は実現可能性・科学的研究並びに一定の関連する技術的知見及び能力の獲得以上に進展しなかったと評価。また、2010年以降に核爆発装置の開発に関連する活動が行われたとする信頼性のある根拠を有していない。
(3)IAEAは、イランの核計画に関する軍事的側面の可能性に関し、核物質の転用についての信頼性のある根拠を何ら発見していない。
24 IAEAによれば、2016年1月現在、原子炉は世界中で441基が稼働中であり、64基が建設中(IAEAホームページ)
25 核不拡散の代表的な措置であるIAEAの保障措置(Safeguards)、原子力安全(Safety)及び核セキュリティ(Security)の頭文字を取って「3S」と称されている。
26 1975年3月発効。締約国数は173か国(2015年12月現在)
27 1997年4月発効。2015年8月にミャンマー、10月にアンゴラが加入し、締約国数は192か国となった(2015年12月現在)。
28 一般的には、多量の子弾を入れた大型の容器が空中で開かれて子弾が広範囲に散布される仕組みの爆弾及び砲弾のことをいう。不発弾となる確率が高いとも言われ、不慮の爆発によって一般市民を死傷させることなどが問題となっている。
29 クラスター弾の使用、所持、製造などを禁止するとともに、貯蔵クラスター弾の廃棄、汚染地域におけるクラスター弾の除去などを義務付ける条約で、2010年8月に発効した。2015年12月現在の締約国数は、日本を含め98か国
30 クラスター弾対策及び対人地雷対策に関する国際協力の具体的な取組については、開発協力白書を参照
31 対人地雷の使用・生産などを禁止するとともに、貯蔵地雷の廃棄、埋設地雷の除去などを義務付ける条約で、1999年3月に発効した。2014年12月現在の締約国数は、日本を含め162か国
32 武器貿易条約(ATT)の2015年12月現在の署名国は130か国、締約国は78か国