ODA(政府開発援助)

人間の安全保障

分野をめぐる国際潮流

平成28年2月8日

概況

 現下の多様な危険要因に対応するためには,政策と制度をさらに強化し包括的なものとする必要がある。国家は安全保障に引き続き一義的な責任を有するが,安全保障の課題が一層複雑化し,多様な関係主体が新たな役割を担おうとする中で,われわれはそのパラダイムを再考する必要があろう。安全保障の焦点は国家から人々の安全保障へ,すなわち「人間の安全保障」へ拡大されなくてはならない。
(出典:人間の安全保障委員会事務局『人間の安全保障委員会:最終報告書要旨』)

 人間の安全保障とは,人間一人ひとりに着目し,生存・生活・尊厳に対する広範かつ深刻な脅威から人々を守り,それぞれの持つ豊かな可能性を実現するために,保護と能力強化を通じて持続可能な個人の自立と社会づくりを促す考え方です。グローバル化,相互依存が深まる今日の世界においては,貧困,環境破壊,自然災害,感染症,テロ,突然の経済・金融危機といった問題は国境を越え相互に関連しあう形で,人々の生命・生活に深刻な影響を及ぼしています。このような今日の国際課題に対処していくためには,従来の国家を中心に据えたアプローチだけでは不十分になってきており,「人間」に焦点を当て,様々な主体及び分野間の関係性をより横断的・包括的に捉えることが必要となっています。

 国際社会において,人間の安全保障という概念を初めて公に取り上げたのは,国連開発計画(UNDP)の1994年版人間開発報告でした。この中では人間の安全保障を,飢餓・疾病・抑圧等の恒常的な脅威からの安全の確保と,日常の生活から突然断絶されることからの保護の2点を含む包括的な概念であるとし,21世紀を目前に開発を進めるに当たり,個々人の生命と尊厳を重視することが重要であると指摘しています。

 2000年の国連ミレニアム総会でアナン国連事務総長(当時)は,「恐怖からの自由,欠乏からの自由」とのキーワードを使って報告を行い,人々を襲う地球規模の様々な課題にいかに対処すべきかを論じました。この事務総長報告を受け,同総会で演説した森総理(当時)は,日本が人間の安全保障を外交の柱に据えることを宣言し,世界的な有識者の参加を得て人間の安全保障のための国際委員会を発足させ,この考え方を更に深めていくことを呼びかけました。

 2001年1月にアナン国連事務総長(当時)が来日した際,森総理(当時)の提案を受け12名の有識者から構成された「人間の安全保障委員会」の創設が発表され,共同議長に緒方貞子国連難民高等弁務官(当時)とアマルティア・セン・ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ学長(当時)が就任しました。この委員会は人間の安全保障の概念構築と国際社会が取り組むべき方策について提言することを目的とし,5回の会合と世界各地での対話集会や分野別研究等を経て,2003年2月には小泉総理(当時)に最終報告書の内容を報告し,5月にはアナン国連事務総長(当時)に報告書を提出しました。

 同報告書においては,「安全保障」の理論的枠組みを再考し,安全保障の焦点を国家のみを対象とするものから人々を含むものへと拡大する必要があり,人々の安全を確保するには包括的かつ統合された取り組みが必要であることが強調されています。また,人間の安全保障は「人間の生にとってかけがえのない中枢部分を守り,すべての人の自由と可能性を実現すること」と定義され,人々の生存・生活・尊厳を確保するため,人々の「保護(プロテクション)」と「能力強化(エンパワーメント)」のための戦略の必要性が訴えられました。

 このほか,人間の安全保障を推進する動きとして,1999年にカナダとノルウェーのイニシアティブにより設立された「人間の安全保障ネットワーク」や個別の国々による活動が挙げられ,人間の安全保障を重視する国連機関も増えています。さらに,2005年及び2010年の国連首脳会合のほか,G8,OECD(経済協力開発機構),APEC(アジア太平洋経済協力),TICAD(アフリカ開発会議),太平洋・島サミット,世界金融・経済に関する世界会議等の成果文書等において,人間の安全保障が取り上げられるなど,人間の安全保障は地球規模の課題に取り組む上での重要な概念として,国際社会の認識が深まっています。

 2012年9月に,国連総会において,人間の安全保障の共通理解に関する総会決議が採択され,人間の安全保障をめぐる議論は大きく前進しました。