ODA(政府開発援助)

平和構築支援

分野をめぐる国際潮流

平成28年6月29日

概況

 紛争と人々の不安定さが人間開発に負の影響を広く及ぼし,世界で何十億人もが不安定な境遇に置かれている。人間開発指数(HDI)低位国の多くは,長年の紛争から抜けきっていなかったり,なおも暴力にさらされている国々である。紛争影響国に暮らす人々の数は,世界人口の約20%にあたる15億人強に及んでいる。近年の政情不安はおびただしい人的犠牲を伴い,2012年末時点で約4,500万人が紛争や迫害によって居住地を追われている。これは過去18年間で最悪の数字であり,1,500万人以上が難民となっている。
(出典:国連開発計画(UNDP)『人間開発報告書2014』別ウィンドウで開く

 平和と安定の持続は開発の前提条件であり,国際社会の更なる繁栄及び国際的な開発目標の達成には不可欠です。紛争は長年の開発努力の成果を瞬時に失わせ,膨大な社会・経済的損失を生み出します。更に,紛争により疲弊し統治能力を失った,いわゆる「破綻国家」は,テロ活動の拠点や大量破壊兵器の拡散の源となり,地域そして世界全体の平和と安定にとって重大な脅威となる危険性をはらんでいます。このように政府が十分な能力を持たない国々には,まさに「人間の安全保障」という視点からの支援が重要となっています。紛争に際しては,個人に対する国境を越えた脅威を除去し,いかにして平和を構築していくかが国際社会の課題となります。

 開発途上国における国内・地域紛争では,政治的対立に加え貧困が紛争の終結とその後の平和の定着を困難にしています。すなわち,腐敗や統治能力のない政府に対する不満が反対勢力の台頭を生み,また,十分な社会サービスを受けられず,収入も乏しい貧困層が反対勢力の兵員として取り込まれ,国内紛争を助長する傾向があります。したがって,政治的和解だけでなく,ODAにより元兵員を含む多くの人々の生活を改善し,平和の恩恵を実感させることが,平和構築の進展のために重要な意義があります。こうした事情を踏まえて,予防や紛争下の緊急人道支援とともに,紛争の終結を促進するための支援から,日本は「平和の定着」と「国づくり」のための支援まで,紛争終結のための政治的プロセスとともに復興開発への支援に対して積極的に継ぎ目のない支援に取り組んできました。

 冷戦後の国際社会においては,民族・宗教・歴史などに根ざす対立が世界各地で顕在化し,地域・国内紛争が多発するようになりました。被害者の大多数が子ども及び女性を含む一般市民であるほか,通常,大量の難民・避難民が発生し,人道問題や人権侵害の問題が発生しています。紛争要因や紛争形態の変化に伴い,紛争予防・紛争解決のための手段として,国際社会では国際平和維持活動(PKO)や多国籍軍の派遣,及び予防外交や調停などの政治的手段のみならず,紛争後の国づくりも含めた包括的な取り組みが必要であることが認識され始め,紛争被害の防止・軽減における開発援助の果たす役割が重要視されるようになりました。こうした流れの中で国連PKOの役割も国家間の停戦監視等に加えて,元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR),地雷対策,治安部門改革(SSR)その他の法の支配関連の活動,人権の保護と促進等に拡大しており,開発援助とPKOの連携がますます求められています。

 1992年,ガリ国連事務総長(当時)は「平和への課題」を発表し,その中で平和構築の重要性を提示しました。2000年8月には,国連はこれまでの活動経験を踏まえて「ブラヒミ・レポート」を発表し,平和構築を「平和の基礎を組み立て直し,単に戦争が存在しないだけでなく,その状態以上を構築するための手段を提供するもの」と位置づけました。2005年,紛争解決から復興に至るまでの一貫したアプローチに基づき,紛争後の平和構築のための統合戦略を助言することを目的として国連平和構築委員会(PBC: Peacebuilding Comission)が設立されました(日本は設立当初からのメンバー)。特にPBCの対象国として取り上げられることとなったブルンジ及びシエラレオネについては,優先分野が特定され,国連平和構築基金(PBF: Peacebuilding Fund)からそれぞれ5,460万ドル,5,180万ドルが拠出され(2015年8月現在),国連ミッション撤退後の支援のあり方につき,具体的な協議が続けられています。なお,日本はこれまでPBFに対して計4,250万ドルの拠出を行っています。「ブラヒミ・レポート」から15年が経った現在,様々な取組や議論を経て,平和構築は単に紛争後の活動を意味するものではなく,紛争の予防や再発のリスクの低減,持続可能な平和と開発に向けた基礎を築くための措置といった一連のプロセスを含めたものと認識されるようになっています。

 OECD開発援助委員会(DAC)では,平和構築への取組みとして,2007年に,安全と正義(Justice)の構築支援に関して,それまでの教訓と課題に基づいてまとめた「OECD DAC handbook on Security System Reform(SSR)」を発表し,同年には,脆弱国家に援助を実施する際のドナー側が念頭に置くべきガイドラインとして,「脆弱国家支援原則(Principles for Good International Engagement in Fragile States)」を採択しました。また,それまで紛争と国家の脆弱性を別々の枠組みで議論していた流れを統一し,新たに設置した「紛争と脆弱性に関する国際ネットワーク(INCAF: International Network on Conflict and Fragility)」において,紛争や脆弱な状況下の国々への支援に関する議論を行っています。2010年4月には,INCAFにより,ドナーと受益国双方を交えて,平和構築と国家建設に関する経験等を共有することを目的とした「第1回平和構築と国家建設に関する国際対話」が東ティモールで開催され,脆弱国が平和構築と国家建設を行う上で必要な共通の目標等をまとめた「ディリ宣言」が採択されました。さらに,2011年6月にリベリアで開催された「第2回平和構築と国家建設に関する国際対話」における議論を経て,2011年11月に釜山で開催された「第4回援助効果向上に関するハイレベル・フォーラム」において脆弱国支援を改善するための新たな援助協調の取組である「ニュー・ディール(A NEW DEAL for engagement in fragile states)」が合意されました。

 世界銀行においても,1997年に平和構築担当部門(Conflict Prevention and Reconstruction Unit)を立ち上げ,紛争後の地域におけるプログラムの実施にあたってのアドバイスや情報収集,個別の国における開発モニタリング等を手掛けています。また,脆弱な政府機構や不安定な経済が紛争を引き起こす一要因であるとして,世界銀行が設立した「ポスト・コンフリクト基金」を通して,紛争後の復興支援に係る活動を行ってきました。最近では,紛争と国家の脆弱性の関連性に焦点をあてており,2007年には平和構築担当部門と脆弱国家担当チームのメンバーから構成される新たなグループ(Fragile and Conflict-affected Countries Group)を立ち上げ,また,2008年には,ポスト・コンフリクト基金と脆弱国への支援を行う基金(Low Income Countries Under Stress (LICUS) Trust Fund)を統合し,「国家・平和構築基金(SPF: State and Peace-building Fund)」を設立し,平和構築と国家建設に係る支援を実施しています。なお,2010年には,世界銀行発行の「世界開発報告書(WDR: World Development Report)2011」が「紛争・安全保障・開発」をテーマとして取り上げました。

関連国際会議等

  • 「アジアの平和構築と国民和解,民主化に関するハイレベル・セミナー」(2015年6月)(プログラム:日本語(PDF)別ウィンドウで開く英語(PDF)別ウィンドウで開く

 6月20日,東京・青山の国連大学において,「アジアの平和構築と国民和解,民主化に関するハイレベル・セミナー」が開催されました。このセミナーは,昨年11月の東アジア・サミットの際に安倍総理から開催の意向を表明していたものであり,明石康スリランカ平和構築及び復旧・復興担当日本政府代表が全体議長を務め,岸田文雄外務大臣が基調講演を行い,ラモス=ホルタ東ティモール前大統領,サマラウィーラ・スリランカ外相,ムラド・モロ・イスラム解放戦線議長等,アジア諸国の平和構築,国民和解,民主化にこれまで携わってきた国内外のリーダー,政府関係者,国際機関関係者,有識者,専門家等が幅広く参加して行われました。

  • 人間の安全保障国際シンポジウム「紛争後の平和構築における人間の安全保障 人道支援から開発への移行」(2006年12月)(日本語英語(PDF)別ウィンドウで開く

 2006年12月,「紛争後の平和構築における人間の安全保障 人道支援から開発への移行」をテーマとした国際シンポジウムが外務省の主催で開催されました。平和構築,紛争後の移行期における支援に取り組む代表的な国連機関の長であるアントニオ・マヌエル・デ・オリヴェイラ・グテーレス国連難民高等弁務官とケマル・デルビシュ国連開発計画(UNDP)総裁,緒方貞子国際協力機構(JICA)理事長を始めとする有識者を招き,平和構築の現場における人間の安全保障のアプローチの有用性,実践及び将来に向けての課題について議論が行われました。

 2006年6~7月,ニューヨーク国連本部において,国連小型武器行動計画履行検討会議(United Nations Review Conference on the Programme of Action on Small Arms and Light Weapons)が開催されました。同会議は,2001年に策定された国連小型武器行動計画の各国による履行状況の検討を目的とし,政府,国際・地域機関及びNGO等から2,000人以上が参加しました。会議では,一般討論演説や事項別討論等を通じて行動計画を引き続き履行していく各国の決意が改めて確認されました。

 2006年2月,日本は国連開発計画(UNDP),アフリカのためのグローバル連合(GCA),世界銀行との共催でTICAD平和の定着会議を開催しました。本会議では多くの紛争が終結に向かいつつあるアフリカにとって,喫緊の課題である平和の定着に関し,アフリカ,アジア及び欧米諸国,地域・国際機関並びにNGO・市民社会の代表により,活発な議論が行われました。

G7/G8

  • 「G8北海道洞爺湖サミット首脳宣言」(2008年)(仮訳英語

 我が国は,議長を務めた2008年のG8プロセスにおいて平和構築を取り上げ,首脳宣言において平和構築支援の強化にコミットする旨が表明されました。これ以降,定期的にG7/G8平和維持・平和構築専門家会合が開催されています。

  • 「安定化と復興における協力と今後の行動に関するG8宣言」(仮訳英語)(2006年)

 「国際社会は,紛争から持続可能な平和への移行期にある脆弱な国家と国民を,強固な安定化・復興援助をもって支援する用意をしておくべきである」との認識がなされ,G8各国がより調整されたアプローチに向けて努力を行うことが表明されました。

G8カナナスキス・サミット(2002年)

 G8アフリカ行動計画が採択され,その中で「2010年までにアフリカ諸国並びに地域的及び準地域的な機関が,アフリカ大陸における暴力的紛争の予防及び解決をすることがより効果的に出来るように,また,国連憲章に従った平和支援活動の実施により効果的に取り組むことが出来るように,技術的及び資金的な支援を提供する」と表明されました。

G8ウィスラー・外相会合(2002年)

  • 「紛争と開発に関するG8イニシアティブ 共有された水資源に関する協力的かつ持続的な管理の推進」(仮訳英語

 「環境破壊,資源の欠乏及びその結果生ずる社会 政治的影響は,それらが内戦又は国家間の紛争を惹起し,又は悪化させるおそれがあるという点で安全保障に対する潜在的脅威である」との1999年の会合での認識の下,共有された水資源の持続的な管理に貢献しかつそのような管理を推進するイニシアティブが表明されました。

G8九州・外相会合(2000年)

  • 「紛争予防のためのG8宮崎イニシアティブ」(日本語英語

 地球社会全体において「予防の文化」を推進し,発展させるために持続的な努力を行うとの確認がなされ,「包括的アプローチを追求することの重要性が強調されました。初めて紛争地域への小型武器の輸出不許可が宣明されたほか,紛争予防における国連の主導的役割が強調され,武力紛争の潜在的要因の除去に資するような開発政策を策定するよう確保されること等が承認されました。


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