ODA(政府開発援助)
平和構築支援
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「平和の定着」を目指す日本のODA支援
近年、世界各地で発生している人道危機が長期化・複雑化している中、開発途上国における紛争の予防、紛争後の緊急人道支援、復興開発支援がますます重要になっています。日本は、「人間の安全保障」の視点から、紛争時から復興・開発に至るあらゆる段階で、個人の保護と能力強化のための取組を行うことを重視し、開発協力大綱でも、同視点を基本方針の一つに据え、平和構築を重点課題として位置づけています。これは、日本の安全と繁栄は世界の平和と安定に依存しており、地理的に離れた地域の紛争であっても、ODAを活用して平和の構築に貢献することは重要だという考えに基づきます。また、平和と安定、安全の確保は、国づくりおよび開発の前提条件であるとの観点から、紛争下・紛争直後の緊急人道支援から復旧復興・開発支援まで、切れ目のない支援を実施することを重視しています。
紛争と開発分野における政策方針(開発協力大綱からの抜粋)
I.理念
(1)開発協力の目的
国際社会の期待を踏まえ、世界の責任ある主要国として、国際社会の抱える課題、とりわけ開発課題や人道問題への対処に、これまで以上に積極的に寄与し、国際社会を力強く主導していくことは、我が国に対する国際社会の信頼を確固たるものとする観点から大きな意義を有する。
(中略)
現在の国際社会では、もはやどの国も一国のみでは自らの平和と繁栄を確保できなくなっている。そのような時代においては、開発途上国を含む国際社会と協力して世界の様々な課題の解決に積極的に取り組み、平和で安定し繁栄する国際社会の構築を実現するとともに、そうした取組を通じて、国際社会の様々な主体と強固かつ建設的な関係を構築していくという真摯な取組の中にこそ、我が国が豊かで平和な社会を引き続き発展させていく道がある。
(中略)
我が国は、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保により一層積極的に貢献することを目的として開発協力を推進する。こうした協力を通じて、我が国の平和と安全の維持、更なる繁栄の実現、安定性及び透明性が高く見通しがつきやすい国際環境の実現、普遍的価値に基づく国際秩序の維持・擁護といった国益の確保に貢献する。
(2)基本方針
ア 非軍事的協力による平和と繁栄への貢献
非軍事的協力によって、世界の平和と繁栄に貢献してきた我が国の開発協力は、戦後一貫して平和国家としての道を歩んできた我が国に最もふさわしい国際貢献の一つであり、国際社会の平和と繁栄を誠実に希求する我が国の在り方を体現するものとして国際社会の高い評価を得てきた。我が国は今後もこの方針を堅持し、開発協力の軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避するとの原則を遵守しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保に積極的に貢献する。
イ 人間の安全保障の推進
個人の保護と能力強化により、恐怖と欠乏からの自由、そして、一人ひとりが幸福と尊厳を持って生存する権利を追求する人間の安全保障の考え方は、我が国の開発協力の根本にある指導理念である。この観点から、我が国の開発協力においては、人間一人ひとり、特に脆弱な立場に置かれやすい子ども、女性、障害者、高齢者、難民・国内避難民、少数民族・先住民族等に焦点を当て、その保護と能力強化を通じて、人間の安全保障の実現に向けた協力を行うとともに、相手国においてもこうした我が国の理念が理解され、浸透するように努め、国際社会における主流化を一層促進する。また、同じく人間中心のアプローチの観点から、女性の権利を含む基本的人権の促進に積極的に貢献する。
II.重点政策
(1)重点課題
イ 普遍的価値の共有、平和で安全な社会の実現
平和と安定、安全の確保は、国づくり及び開発の前提条件である。この観点から、貧困を含め紛争や不安定の様々な要因に包括的に対処するとともに、紛争予防や紛争下の緊急人道支援、紛争終結促進、紛争後の緊急人道支援から復旧復興・開発支援までの切れ目のない平和構築支援を行う。その際、難民・避難民支援等の人道支援、女性や社会的弱者の保護と参画、社会・人的資本の復興、政府と市民の信頼関係に基づく統治機能の回復、地雷・不発弾除去や小型武器回収、治安の回復等、必要な支援を行う。
(2)地域別重点方針
アフリカについては、貿易・投資及び消費の拡大を軸に近年目覚ましい発展を遂げるアフリカの成長を我が国とアフリカ双方の更なる発展に結びつけられるよう、アフリカ開発会議(TICAD)プロセス等を通じて、官民一体となった支援を行っていく。また、特にアフリカで進む準地域レベルでの地域開発及び地域統合の取組に留意する。一方、依然として紛争が頻発する国々や深刻な開発課題が山積する国々が存在することを踏まえ、引き続き人間の安全保障の視点に立って、平和構築と脆弱な国家への支援に積極的に取り組み、平和と安定の確立・定着及び深刻な開発課題の解決に向けて、必要な支援を行う。
中東については、日本のみならず国際社会全体にとって、平和と安定及びエネルギーの安定供給の観点から重要な地域であり、平和構築、格差是正、人材育成等の課題に対する協力を行い、同地域の平和と安定化に積極的に貢献し、我が国と中東地域諸国の共生・共栄に向け支援を行っていく。
III.実施
(1)実施上の原則
イ 開発協力の適正性確保のための原則
(イ)軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避
開発協力の実施に当たっては、軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する。民生目的、災害救助等非軍事目的の開発協力に相手国の軍又は軍籍を有する者が関係する場合には、その実質的意義に着目し、個別具体的に検討する。
(ウ)軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発製造、武器の輸出入等の状況
テロや大量破壊兵器の拡散を防止する等、国際社会の平和と安定を維持・強化するとともに、開発途上国はその国内資源を自国の経済社会開発のために適正かつ優先的に配分すべきであるとの観点から、当該国の軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造、武器の輸出入等の動向に十分注意を払う。
イニシアティブ・資金コミットメント(地雷除去・小型武器)
紛争に関わる大きな問題として、広範に使用されている対人地雷と小型武器の問題があります。これらは製造及び入手が容易な上、取扱いが簡単なため、武力紛争を助長、再発、長期化させるとともに、紛争後の復興開発を阻害する大きな要因となっています。特に、対人地雷は無差別に非戦闘員である一般市民を殺傷するため、人道上極めて重大な問題とされています。これらの問題に関し、国際社会による早急な対策が求められており、日本は積極的な貢献を行っています。
- 日本の国際社会における対人地雷対策への取組
1997年12月、対人地雷禁止条約(オタワ条約)の署名式において小渕外務大臣(当時)より、「犠牲者ゼロ・プログラム」を提唱しました(日本語/英語)。日本は、同プログラムにおいて、地雷除去や犠牲者支援に対する協力のために、1998年から5年間の間に100億円規模の支援を行うことを表明し、2002年10月にこの支援額を達成しました。2019年11月、オタワ条約第4回検討会議においては、これまでの我が国の地雷対策支援の実績を振り返るとともに、日本が地雷除去後の土地における農業開発を通じた住民の生計向上も支援している例に触れるとともに、南南協力や地域協力にも貢献していることを紹介しました(英語)。
- 国際社会における小型武器問題への取組みの提唱
小型武器は、実際に使用され多くの人命を奪っていることから「事実上の大量破壊兵器」とも称され、入手や操作が容易であるため拡散が続いています。日本は、1995年に小型武器問題が国際社会に提起されて以来、国連を中心とする枠組みを通じて主導的な役割を果たしてきました。具体的には、2001年の国連小型武器行動計画の採択に貢献し、その後の同計画履行検討会議等においても、議論に積極的に参加してきました。また、毎年、国連総会に小型武器決議案を提出し、小型武器非合法取引の防止に向け国際世論の関心を高めることに貢献しています(小型武器関連会合)。ODAを通じた支援では、小型武器の非合法取引や流用を防止・削減する取組としてアフリカ諸国において、小型武器の回収、関連法制度の整備支援や法執行機関への能力構築支援等を行っています。また、日本は2019年には、グテーレス国連事務総長の軍縮アジェンダに基づき小型武器対策のために設立された「人命を救う軍縮」(SALIENT)基金に対し、200万ドルを拠出し、小型武器対策への国際的な取組に貢献しています。
紛争と開発分野における事例
地雷
コロンビアでは、2016年に政府とコロンビア革命軍(FARC)の間で、半世紀以上に及ぶ国内紛争の和平合意に至りました。この国内紛争において埋設された対人地雷は、1万1,000人を超える地雷被害者を生み、和平合意の実現を経た今もなお、依然として国内の広い範囲において、多数の地雷が埋設されていると言われています。
日本はこの事態を踏まえ、株式会社日建製の地雷除去機7台と、地雷除去機の維持管理用ツールを格納する移動式コンテナ等を供与しました。また、コロンビア陸軍の隊員及び国防省の職員からなるコロンビア人道的地雷除去チームの計17名に対し、日本、カンボジア、ラオスにおいて、日建とカンボジアの地雷対策センター(CMAC)およびラオスのラオス国家不発弾処理プログラム(UXO Lao)の合同による地雷除去機の維持管理および操作方法等のトレーニングを実施しました。これは、日本がカンボジアのCMACとラオスのUXO Laoに伝えてきた技術をコロンビア政府関係者に広めるもので、日本と開発途上国が地域を越えて他の途上国を支援する「三角協力」の具体例の一つといえます。
また、コロンビア本国においても、同チームの30名に対して操作トレーニングを実施しました。これにより、コロンビア政府の対人地雷除去能力および活動が強化されることが見込まれます。これまで地雷への恐怖から土地を放棄せざるを得なかった国内避難民の帰還を促し、地域住民が取り戻した土地を、農地として利用することが可能となることで、安心して暮らせる社会の実現につながることが期待されています。
国際機関・他ドナーと連携した支援の事例
アフガニスタン支援
日本は、2001年のタリバーン支配崩壊以降、アフガニスタンを再びテロの温床としないとの決意の下、2002年及び2012年の支援国会合の開催や総額約68億ドル(2020年12月現在)の支援を始め、同国の復興プロセスに一貫して貢献してきました。国際機関・他ドナーとも緊密に連携しながら、治安維持能力向上のための支援や、農業・農村開発、教育、保健、インフラ分野等の開発支援を中心に、様々な支援を実施してきています。
また、JICAを通じ、2020年12月までに約3,000名のアフガニスタンの行政官等に研修を実施し、600名以上を日本の大学院に研修員として受け入れる等、自国の発展を担うことのできる人材の育成にも力を入れています。
2020年11月に100近くの国及び国際機関の参加を得てオンライン形式で開催された「アフガニスタンに関するジュネーブ会合」では、茂木大臣から、アフガニスタン政府自身の改革努力を前提に、日本は過去4年間と同水準の年間1.8億ドル規模の支援を2021年から2024年まで維持するよう努めること及び、和平プロセスに進展が見られる場合は追加的支援を検討する用意があることを表明しました。今後も現地の情勢を踏まえ、国際社会と連携しながら、アフガニスタンの平和と安定のために積極的に貢献していきます。
イラク支援
日本は、中東の安定の要であるイラクの安定実現を重視しており、2003年以来一貫して、インフラ復興などの広範な分野において、イラク自身による国づくりの努力を支援してきました。イラク戦争後の2003年10月、日本はイラクに対する「当面の支援」として15億ドルの無償資金協力(電力、教育、水・衛生、保健、雇用等のイラク国民の生活基盤の再建及び治安の改善を重点)と、中期的な復興ニーズに対する支援として円借款による最大35億ドルの支援(円借款では主に経済社会インフラ整備を支援)の計最大50億ドルのイラク復興支援を表明し、2012年5月にこのコミットメントを達成しました。また、2005年に約67億ドルの債務削減に合意し、2008年末までに完了しました。
日本はその後も、イラク復興のための協力を引き続き実施しており、2003年以降の対イラク支援の累計額は、無償資金協力約22億ドル、円借款約77億ドル、債務削減約67億ドルの計約160億ドルに達します(2020年12月現在)。なお、22億ドルの無償資金協力には、2014年以降の「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」の侵攻によって発生した国内避難民等への支援やISILからの解放地復興支援等を目的として、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を始めとする国際機関等を通じて実施した緊急無償資金協力等が含まれます。
南スーダン支援
日本は、2011年の南スーダンの独立以来、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に2017年まで自衛隊施設部隊を派遣するなど、国際社会と連携しながら、インフラ建設等の新国家建設支援、基礎生活向上支援、農業支援・食料安全保障支援を中心に、南スーダンの国造りを支援しています。南スーダンでは、2013年及び2016年に大規模な衝突が発生しましたが、その後政府間開発機構(IGAD)による平和的仲介が始まり、その結果、2018年には「再活性化された衝突解決合意(R-ARCSS)」と呼ばれる和平合意が成立しました。現在はこの和平合意に則って、平和と安定の回復の取組が続いています。
その中でも重要な取組は、反政府武装勢力の兵士の再教育や再訓練を行うために彼らを一時的に集合させる施設を整備し、同勢力と国軍の統合を促進することです。2017年以降、日本はIGADを通じてこうした取組を支援しているほか、2020年1月には国際平和協力法に基づき、IGADに対し、一時的な宿営場所の整備の一環としてテント、毛布等の物資協力を実施しました。このほか、UNMISSに4名の司令部要員を派遣しています。平和は開発の不可欠の前提であるという理解の下、日本は南スーダンの平和構築を支援し続けています。
ミンダナオ支援
フィリピン南部のミンダナオでは、1969年以降、イスラム国家の樹立を目指す勢力により、武力を伴う分離独立闘争が繰り広げられてきました。フィリピンの歴代政権によって断続的ながらも粘り強く和平交渉が続けられた結果、近年になり、バンサモロ基本法の成立(2018年7月)やバンサモロ自治政府設立のための住民投票を経て同暫定自治政府の発足(2019年2月)が実現するなど、和平プロセスは大きく進展しています。
日本政府は、インド太平洋地域の平和と繁栄の確保、国際的なテロとの戦い、フィリピンの治安及び投資環境の改善等の観点からミンダナオ和平支援を重視しており、2002年の小泉総理大臣(当時)による「平和と安定のためのミンダナオ支援パッケージ」の表明以降、20年近くにわたり、和平プロセスの進展及び復興・開発を包括的に支援してきました。その代表的な取組として、「日本・バンサモロ復興開発イニシアティブ(J-BIRD)」という、元紛争地域における集中的な開発協力プロジェクトを実施しています。J-BIRDは、2006年12月の安倍総理大臣(当時)のフィリピン訪問時に立ち上げられました。ミンダナオの持続可能な安定と発展の実現のためには、地元住民が和平による経済発展を感じられることが重要との認識に基づき、これまで、自治政府設立のための行政能力向上、生計向上支援や地域産業振興、インフラ整備、350以上の村落部における学校、農業施設の整備など、総額500億円以上に及ぶ支援を実施してきています(2020年12月時点)。また、2006年10月からは、フィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)との停戦監視等を任務とする国際監視団(IMT)に日本大使館員を社会経済開発アドバイザーとして派遣しています。さらに、日本はフィリピン政府とMILFとの和平交渉のオブザーバー役である国際コンタクト・グループ(ICG)にもその発足時の2009年12月から参加しています。日本政府は、今後も和平プロセスの進捗に応じて支援を強化していきます。
平和構築分野での人材育成
平和構築の現場で求められる活動やそれに従事する人材に求められる資質は多様化・複雑化しています。日本は、2007年度から2014年度まで、現場で活躍できる日本やその他の地域の文民専門家を育成する「平和構築人材育成事業」を実施してきました。2015年度以降は同事業の内容を拡大し、「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」として、現場で必要な知識・技術習得のための国内研修及び国際機関の現地事務所への海外派遣を行う「プライマリー・コース」に加え、平和構築・開発分野に関する一定の実務経験を有する方のキャリアアップを支援する「ミッドキャリア・コース」を実施してきています。また、これらのコースの修了生の多くが、アジアやアフリカ地域の平和構築・開発の現場で現在も活躍しています。
関連:平和構築分野における人材育成事業
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/peace_b/j_ikusei/index.html