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小泉総理大臣演説

創造的パートナーシップに向けて
アジア協会主催講演会

平成14年5月1日
(於 シドニー)

(英語版はこちら)

 ニュー・モーガン・アジア協会会長、
 ヴェイル豪州貿易大臣閣下、
 ダウナー豪州外務大臣閣下、
 御列席の皆様、

 本日お話しする機会を与えて下さったモーガン会長に感謝します。モーガン会長は日豪経済合同委員会の豪州側議長として、わが国の今井経団連会長や室伏伊藤忠会長と共に、日豪経済関係緊密化のために長年努力してこられた方であり、先日も日豪経済関係のあり方について貴重なご提言をいただきました。会長の御尽力に改めて謝意を表します。
 私の豪州訪問は厚生大臣として来て以来4年ぶりになります。その際に、当時のウールドリッジ保健大臣からは素晴らしいワイン・コレクションを見せていただき、スミス福祉大臣からは美しいタスマニアの牧場に招待されたことを鮮明に記憶しています。スミスさんとは最近東京で再会し、当時の思い出などをお話ししました。豪州は、日本にとっても私個人にとっても大切な友人です。
 日本国民は、豪州に対してよいイメージを持っています。最近のある世論調査では、豪州はわが国で一番親近感を持たれている国でした。私の息子は過去2年連続で日本の夏休みを豪州でホームステイして過ごしています。実は、2年目は、他の国を訪問してはどうかと息子に提案したのですが、息子はあえて豪州を選びました。息子も私同様豪州流の歓待に感激したのでしょう。
 日豪両国は長い協力の歴史を持っています。象徴的な出来事を一つ紹介したいと思います。今から90年前に、白瀬中尉率いるわが国として初めての南極探検隊が南極大陸上陸に失敗し、再挑戦のためにシドニーに滞在しました。資金難などに苦しんでいた探検隊を豪州の方々は物心両面で支えてくれたのです。その87年後、氷海に閉じこめられた豪州の「オーロラ・オーストラリス」号を救出したのは、白瀬中尉の名前をとった砕氷海「しらせ」でした。お互いが苦境にあるときに助け合うことが両国の伝統なのだと思います。
 両国は風土も歴史も異なりますが、多くの点で価値観と利益を共有しており、そのことがこれまでの協力の基礎になってきています。我々は友人です。そして、我々は一層親しい友人になるべきだと思います。私は、今回、更に一歩進んだ建設的な協力関係を築いていきたいと考えて豪州に参りました。

 今回の会談で、ハワード首相と私は、「創造的パートナーシップ」として、政治・安全保障に関する意見交換、経済的つながりの強化、教育、社会、科学技術等の問題での協力や経験の共有につき合意しました。
 経済関係については、両国政府が民間からの提案を踏まえて、両国間のより深い経済的なつながりを実現するためのあらゆる選択肢を探求することを合意しました。これは、これまで相互補完的な形で発展してきた日豪経済関係の基本を維持しつつ、変化しつつある国際経済環境、特に東アジアにおける新たな経済状況を踏まえて、両国がどのようなパートナーシップを築いていくべきかを検討していこうとの試みです。

 アジア経済の60%を占める日本経済の回復が、豪州を含む東アジア地域の発展ダイナミズムに大きな影響を与えることを、私は十分認識しております。
 国家は時代の要請や国際環境の変化に対応して、常に新しいビジョンを持ち、自己変革しなければ、衰退の道を歩みます。私は日本を衰退させません。豪州経済が現在好調であるのも、思い切った経済改革や規制緩和を進めてきたからであると伺っています。私は、豪州に敬意を表するとともに、日本も同じことを成さねばならず、そのためには、現在の痛みに耐える必要があると考えます。

 10年前のバブル経済の時期、日本人は、自己を過信し、自己変革しませんでした。今日、日本人は自信を喪失しています。私は、日本国民に、自身過剰もいけないが自信喪失もいけないと言っています。
 私は昨年4月の総理就任以来、「構造改革なくして成長なし」との方針の下、構造改革を最優先課題として推進し、デフレ対策も打ち出しました。技術力、人材、IT等の面で、私は日本の潜在力に関して自信を失っていません。これまでのやり方を変えることには、大きな苦痛と抵抗が伴いますが、日本と東アジア地域、そして世界経済の将来のためには、構造改革を大胆に推進することが必要不可欠です。
 日本に対して、構造改革が進んでいない、十分成果を上げていないと批判されることがあります。しかし、大胆な改革に成功したと言われているサッチャー政権は誕生後2年間はマイナス成長、米国のレーガン政権でも最初はマイナス成長であり、5-6年経って改革の成果が顕れてきたのです。
 私が進めている構造改革には、今後2-3年での不良債権の処理、特殊法人の見直し、郵政事業への民間の参入、民間の自由な経済活動を阻害する規制の撤廃、硬直化した財政や社会制度の改革があり、これらは既に進んでいます。現に日本経済にも底入れに向けた動きが見えてきています。
 このような構造改革は、外資の対日投資を促進し、これが一層日本経済の回復を加速することになることを期待しております。

 アジア太平洋地域における協力は両国間の重要な課題です。本日はその一つの側面である東アジア地域における協力について話したいと思います。
 東アジア地域は世界で最も大きな発展の潜在力を持つ地域です。シンガポールにおけるスピーチで、私は、この地域における「共に歩み共に進むコミュニティ」の構築を提唱しました。私は、豪州にも、そのコミュニティの中心的メンバーの一つになってほしいと考えています。
 「共に歩み共に進むコミュニティ」の形成のためには、制度的な枠組みを最初に作ることが最良の方法とは限りません。東アジアのように多様性に富んだ地域では、機能的な協力を積み重ねる方がより有効であると考えます。そうした過程を通じて、徐々にコミュニティ意識が形成されていくことが望ましいのです。では、機能的な協力につきいくつかの例を述べてみたいと思います。
 例えば、地域安定化のための共同の努力があります。私は、豪州がこれまで東チモールの安定に向けて中心的な役割を果たしてきたことに敬意を表します。今後の国造りの過程でも国連や地域の関係諸国と協力して積極的な役割を果たされることを期待しています。 このような努力は、地域全体の安定にも資することだと考えます。東チモールPKOには、わが国からも自衛隊施設部隊などを派遣しており、今後とも豪州と協力して活動していきたいと考えております。
 次に、人の密輸などの国境を越える問題の解決のための協力があります。2月のバリ島における閣僚会議では、豪州とインドネシアが共同議長を務めましたが、こうした共同の努力は非常に大切です。

 更に、貿易・投資面を中心とする経済連携の推進があります。豪州政府は、現在、韓国、中国、シンガポール、タイと経済関係緊密化のための努力をしておられますが、こうした積み重ねもこの地域におけるコミュニティ形成に資するものです。わが国も、ASEAN諸国や韓国との包括的な経済連携を模索しています。これも我々が共通に取り組んでいける課題でしょう。
 東アジア地域においては、この地域の多様性や他の国々の特性を十分に配慮する必要があります。また、地域における協力を進める際には、既存の協力の枠組みを尊重していくべきです。また、価値観を押しつけない形で協力を行っていくことが重要です。豪州は国内においても多様性を持っている国であり、これまでもこうした多様性から生じる困難を克服して多文化主義に基づく国造りを進めていると承知しています。豪州の多様性に対する理解が、地域における協力を強化することに役立つと考えます。
 また、豪州及びわが国は、APEC創設時からの中心メンバーであり、今後ともAPECの枠組みにおける協力を推進していくことが重要です。

 日豪両国は、共有する価値観に基づくグローバルな協力を進めていくことができます。
 民主主義、法の支配という価値観に対して現在最大の脅威となっているのはテロリズムです。テロリズムと戦うことは、現在日豪両国が共通に抱える課題です。わが国は自衛隊艦艇をインド洋に派遣するなどの協力を行っています。豪州も艦艇の派遣に加えアフガニスタンに特殊部隊を派遣しています。先般、アフガニスタンにおいて貴国のアンドリュー・ロバート・ラッセル軍曹がお命を落とされたと聞きました。私は御家族に心からお悔やみを申し上げると共に、国際平和のために豪州がこれまで数々の貢献を行ってきたことに敬意を表します。テロリズムと闘うためには、国際的連携を強化することが非常に重要です。ハワード首相と私は、日豪両国でテロ対策に関する協議を行うことで合意しました。
 冷戦終了後、世界においてし、宗教的、民族的要因に根差した地域紛争が頻発しています。このような紛争に苦しむ国々に対して国際社会が行う平和維持活動についても、平和の定着、更にはその国の基礎的システムそのものの構築を目指す形態の支援が広く行われています。わが国は、「平和の定着及び国造り」のための協力を強化し、国際協力の柱とするために必要な検討を始めたいと考えています。この分野で経験と知見を有する豪州とは協力していきたいと思います。
 自由市場経済という価値観を国際的に実現していくためには、多角的自由貿易体制を発展させていかなければなりません。貿易は各国に恩恵をもたらします。WTO新ラウンド交渉を目指して豪州と緊密に協力していきたいと考えます。両国は、新ラウンドにおいて、世界貿易の一層の自由化とともにWTOルールの見直し、強化、拡充を図る点においても共通の立場を探っていくことができます。
 地球環境保護はますます緊急の課題となっております。ヨハネスブルグ・サミットに向け、我が国は各国が戦略、責任、経験を共有するという「グローバル・シェアリング」という考えを提唱しています。更に日豪の協力によりサミットの成功に貢献できることを願っています。京都議定書の早期発効は国際的取組強化への重要な第一歩です。既にエネルギー効率が最高水準にある我が国にとって、議定書の約束の履行は決して容易ではありませんが、今国会で承認を得て議定書を締結する考えです。豪州が我が国とともに議定書締結を目指すことを強く希望します。

 最後に、豪州の人々の気質について、私がとりわけ尊敬している点をお話ししたいと思います。第二次世界大戦中に特殊潜行艇でシドニー湾内に進入し、戦死した日本軍将兵に対して、豪州海軍が海軍葬をもって弔いました。海軍葬を執行したグ-ルド海軍少将は、「これら日本海軍軍人によって示された勇気は、誰によっても認められ、かつ一様に推賞されるべきものだ」と述べたのです。海軍葬では彼らの棺は日章旗にくるまれ、その後、遺体はわが国に届けられたのであります。私は、豪州の方々の敵に対する寛大さ、敵である勇者を讃える公平な心意気に心から敬意を表します。
 それから22年を経て、戦死した将兵のうちの一人である松尾中佐の母が豪州を訪れ、豪州側関係者に御礼を述べると共に、シドニー湾で息子の霊を慰めました。当時のゴートン首相をはじめとする豪州の方々は、「勇者の母来る」と言って、非常に温かい接遇をして下さいました。
 私は、豪州の方々の未来志向の精神にも深い感銘を受けております。豪州の国章に描かれたカンガルーとエミュという豪州固有の動物は、常に前向きで進み後ずさりをしないことから、豪州人の国民性を象徴していると聞きました。豪州の人々は、こうした進取の気性を持って、自己変革を繰り返し、現在のような豪州を形作ってきたのだと思います。
 私は、本日、進取の気性を発揮し、ハワード首相と「創造的パートナーシップ」の構築を合意しました。新しい世紀にあっても、日豪間で未来志向の精神を持って前向きな努力関係をますます発展させていきたいと希望しています。
 御清聴ありがとうございました。


小泉総理大臣演説 / 平成14年 / 目次


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