ODA(政府開発援助)

2024年5月30日発行
令和6年5月30日

海外で役立っている日本の中古消防・救急車両!
日本の顔が見える国際協力

一般社団法人日本外交協会 事務局長 渡邊 信裕

 「外国で日本の消防車や救急車を見かけた。これらの車両はどこから送られてきたのだろう?日の丸が付いているし、車体に日本語が書いてある!よく見ると私の地元の名前だ!」
 日本の中古消防車や救急車等が国際協力事業に活用されていることをご存知でしょうか。一般社団法人日本外交協会は、1997年以降、日本の地方公共団体等で更新の時期を迎えた消防車や救急車、塵芥収集車等を無償で譲り受け、日本政府ODA「草の根・人間の安全保障無償資金協力」事業(特定型:リサイクル草の根無償)の枠組みで、開発途上国へ送り届けてきました。ピカピカに磨き上げた消防車が海外へ到着すると、まるで家族のように現地で歓迎され、たいへん喜ばれています。日本で廃棄される運命にあった消防車等が、国境を越えて引き続き人々の命や財産を守っている。「日本の顔の見える国際協力」として評価される事業についてご紹介致します。

中古消防車・救急車等の寄贈活用

消防車の引渡しの様子 【写真提供:在東ティモール日本国大使館】
救急車の引渡しの様子 【写真提供:在ドミニカ共和国日本国大使館】

 日本外交協会は1947年、憲政の神様といわれた尾崎幸雄(咢堂)ら有志の国会議員により設立された公益団体で、日本の外交政策の啓発活動を中心とした事業等に取り組んできました。1997年には、消防車や救急車等を外国に寄贈する「リサイクル援助事業」を開始しました。消防車等は所有者(自治体等)で一定期間使用された後は通常新しい車両に更新されますが、当協会では一定期間使用された車両を開発途上国において再活用するこの事業の主旨・目的を自治体等に幅広くご理解いただく努力を続け、20年以上経過した現在では、北海道から沖縄まで理解の輪が広がり、2023年度までにアジアや太平洋、中南米、アフリカ、欧州といった82の国々に1,333台の車両が寄贈されてきました。寄贈車両は消防車や救急車に限りません。現在では廃棄物処理に不可欠な塵芥収集車、災害時や水不足問題に対応する給水車、福祉車両としてのマイクロバスや初等教育の普及のための図書館車など、多岐に亘っています。
(事業実績については当協会ウェブサイト(PDF)別ウィンドウで開くをご参照下さい。)

リサイクル援助事業・実績表(車種・機材当集計内訳)2024年5月時点 一般社団法人日本外交協会 累計82か国 ポンプ車 223台 水槽付きポンプ車 196台 化学消防車 35台 ポンプ積載車 40台 はしご車 21台 高所放水車 1台 資機材搬送車・指揮車等 19台 救助工作車 36台 災害支援車 1台 地震体験車 2台 救命ボート 1艘 消防資機材(長距離送水用機材、防火服) 17式 給水車・水槽車 水槽トレーラー 40台 救急車・巡回診療車 452台 建設機材(ブルドーザー・ショベルカー) 6台 じんかい収集車・ダンプ車・バキューム車 186台 図書館車 53台 マイクロバス・福祉用車両・バス 20台 放送中継車 2台 自転車 660台 ベッド・診察台 355床 車いす 165台 医療資機材 4式 音楽資機材 1式 印刷資機材 2式 パソコン資機材、文房具類 2式 ミシン 22台 電子・電気機器パーツ類 1式 農業器具 2台 車両1333台
寄贈品の内訳

日本の顔の見える国際協力

出動するはしご車(カンボジア) 【写真提供:松崎 真行さん】
巡回中の救急車(ミクロネシア) 【写真提供:一般社団法人日本外交協会】

 寄贈中古消防車・救急車供与先にある在外公館(日本国大使館ないし総領事館)では、保健・医療、水・衛生、防災といったその国の自治体が取り組む地域住民サービスを提供する上で不可欠な機材の供与を行うための案件形成に当たっており、そのような中で、「リサイクル援助」が国際協力の重要なツールの一つとして活用されています。開発途上国の中には首都であっても消防車が1台しかない、日本のように防災・救急サービスが行政によって運営されていない、火災が起きても車両が無くて思うような消火活動ができない、貧しい地域に暮らす人々が病院へアクセスできない、といった状況の中で、車両供与の要請が寄せられます。多くの人命や財産を救うために活動する自治体や団体にとって、車両等の機材不足は深刻な問題ですが、通常、消防車・救急車と言えば、その新車購入には数千万円以上の資金が必要です。日本外交協会はこのような要望に応えるパートナーとして、必要な情報提供や「草の根無償」事業の資金協力をもって寄贈を実現するに当たり具体的な実施業務を担っています。丈夫で壊れにくいといった“Made in Japan”の機材・製品に対する強い信頼感は、世界で根強いところですが、たとえ中古であっても、日本の自治体等で大切に運用管理されてきた消防車や救急車であるからこそ、必要な整備を行えば引き続き使うことができます。日本のODAの証である日章旗ステッカー“From the People of Japan”を付けた車両は。現地に暮らす、或いは現地を訪れた日本人・関係者からも反響が多く、日本の顔の見える国際協力として国内外から好評を得ています。

国境を跨いだ友好関係、交流を深めるツール

蔵王町より寄贈された車両(パラオ) 【写真提供:一般社団法人日本外交協会】
松戸市による研修(ドミニカ共和国) 【写真提供:一般社団法人日本外交協会】

 この事業は、供与先における救命・防災といった地域住民向けの行政サービスを後押しするという側面に加えて、車両を供出した日本の自治体等が外国と友好関係を深めることにも繋がっています。例えば、宮城県蔵王町とパラオ国では、戦後に南太平洋のパラオから引き揚げた在留邦人が開拓した「北原尾」(北のパラオ)の絆から、消防車と救急車の寄贈と使用講習が実現しました。また、ラグビーワールドカップのトンガ代表チーム事前キャンプ地となった高知県(高知市)はトンガへの塵芥収集車の寄贈を、愛知県(幸田町を通じて豊田市)が東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会ホストタウン(以下、「オリパラ・ホストタウン」。)を務めた縁でハイチへの消防車・救急車の寄贈を、群馬県片品村がホンジュラスへ、同県甘楽町(かんらまち)がニカラグアへの消防車を寄贈し、また、千葉県松戸市はドミニカ共和国(コンスタンサ市)への消防車寄贈後、現地での使用講習を実現させ、現在も交流を温めています。このように、国際協力の事業が、国境を跨いで、供出先・寄贈先自治体間の様々な交流や友好関係を深めることにも役立っています。

広がる日本の自治体と車両寄贈先の外国との繋がり(順不同)
  自治体 相手国 寄贈品 日本と海外の自治体の繋がり
1 群馬県片品村 ホンジュラス 消防車(その1別ウィンドウで開くその2別ウィンドウで開く 東京オリパラ・ホストタウン
2 宮城県蔵王町 パラオ 消防車、救急車 太平洋戦争後パラオから引き揚げた在留邦人の移住先
3 東京都八王子市 ミクロネシア 塵芥収集車 JICA青年海外協力隊(職員派遣)、廃棄物処理問題の改善事業
4 福岡県みやま市 バヌアツ 消防車 東京オリパラ・ホストタウン
5 神奈川県愛川町 ドミニカ共和国 救急車 ドミニカ共和国の外国人が多い、駐日大使との交流
6 群馬県甘楽町 ニカラグア 消防車 東京オリパラ・ホストタウン
7 愛知県幸田町(豊田市) ハイチ 消防車 前駐ハイチ大使のご出身地が東京オリパラ・ホストタウン(幸田町)、フランス語で「ハイチ」を「アイチ」と発音すること等からの友好交流
8 北海道恵庭市 グアテマラ 消防車 東京オリパラ・ホストタウン
9 福島県いわき市 サモア 消防車、救急車 島サミット
10 高知県(高知市) トンガ 塵芥収集車 ラグビーワールドカップ2019の事前キャンプ地
11 神奈川県横浜市北山田町 ブルキナファソ 消防車 市議、町民による友好交流
12 千葉県松戸市 ドミニカ共和国 消防車 東京オリパラ・ホストタウン、JICA梨植樹事業等

人から人へ、知識と技術の伝授

消防車の取り扱い研修の様子(チリ) 【写真提供:一般社団法人日本外交協会】
消防車のメンテナンス研修の様子(ナウル) 【写真提供:一般社団法人日本外交協会】

 一般的に消防車や救急車といった車両の機能は外国でも共通するため、言語面での調整は勿論必要とは言え、日本製車両は十分機能を発揮できるとともに、それ以上に有効に活用されています。但し、何事にもちょっとしたコツがあり、ノウハウがあります。日本外交協会では、各方面からの要望や諸事情を考慮したうえで、自治体の専門家を外国へ派遣し、車両取扱いやメンテナンスに関する短期研修事業も実施しています。日本で長年培われてきた知識や技術の伝授は、一朝一夕には行きませんが、適切かつ安全な運用のノウハウは車両や、人々の生活と身の安全を守ることに繋がります。研修事業は指導員と参加者との熱い気持ちのぶつかり合いとなることが多く、教える側にとって大変貴重な経験となり、学ぶことが多いといった反響が寄せられます。

更なる発展のために

救急車の取り扱い研修の様子(レソト) 【写真提供:一般社団法人日本外交協会】
供与された消防車(ウクライナ) 【写真提供:在ウクライナ日本大使館】

 この場を借りて、これまで国際協力のため、中古消防車・救急車等の供出にご理解・ご協力いただいた自治体、企業等の全ての皆様に、改めて感謝申し上げます。たとえ中古であっても、消防車・救急車、そして近年ニーズが高まっている塵芥収集車といった日本の車両は、人々の安全な生活と都市の発展に引き続き必要とされ、多くの国で受け入れられており、「リサイクル援助」事業に対する期待は益々高まっていると感じます。これからも、開発途上国の多くの人々の生活を末永く豊かにしていくという、日本の草の根無償を活用した本事業の主旨・目的が、幅広く共有されていくよう努め、本事業が更に発展していくよう取り組んでまいります。

ゴミ回収中の塵芥収集車(ドミニカ共和国) 【写真提供:一般社団法人日本外交協会】

 本事業に関する寄贈や物品供出については、遠慮なく下記へお問い合わせ下さい。
(一般社団法人日本外交協会 海外援助事業)
 ホームページ:リサイクル援助 – 日本外交協会(ホームページ)別ウィンドウで開く
 電話:03-5401-2121、メール:recycle@spjd.or.jp

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