グローカル外交ネット
ハイチの度重なる国難を通じて深まる絆
(愛知県幸田町とハイチ)
在ハイチ日本国大使館 大使
水野 光明
幸田町は、愛知県の中南部に位置する、温暖な気候と緑豊かな自然に恵まれた人口約4万人が暮らす美しい町です。筆柿(ふでがき)の生産量が日本一の町としても有名です。
1 ホストタウン登録の経緯

幸田町がハイチ共和国のホストタウンとして登録されたのは、2019年2月に同町出身の私が里帰りした機会に成瀬敦町長とお会いしたことがきっかけとなりました。ハイチという国名はハイチでは「アイチ」と発音され、「愛知」の発音とほぼ同じであることもこの登録を後押ししました。成瀬町長は、まずはハイチについてよく知りたいと関心を示して下さり、その後、町職員の方々にハイチを紹介するプレゼンテーションの機会を頂くなどしてハイチに対する理解を深めていただき、8月22日、成瀬幸田町長とラーセン・ハイチ・オリンピック会長との間でホストタウンに関する合意文書が署名されました。
2 幸田町公式ホームページ上でのハイチ紹介コラムの連載
東京オリンピック開催が一年延長された後もその開催が危ぶまれる中、万が一ハイチ選手との交流イベントが実施できない場合でも、幸田町の方々にハイチのことを知って頂きたい、そして可能なら幸田町とハイチの交流が続いてほしいという願いから、今年3月から東京オリンピック開催までの間、幸田町の公式ホームページにハイチ共和国を紹介するコラムを掲載させていただきました。コラムでは、ハイチと愛知の交流と協力関係、ハイチ国旗と国歌、ハイチとクリストファー・コロンブスとの関係、フランス革命とハイチ革命、ハイチ独立の4人の英雄などのハイチの歴史の他に、ハイチの絵画、メタルアート、代表的な映画監督などのハイチの文化的な側面について触れました。ハイチについて日本語で紹介される内容が、震災被害などの暗いニュースが主流な中で、ハイチの人々が誇りに感じている側面や、国際的に評価される側面に光を当てて紹介することができたのではないかと感じています。
3 ハイチの度重なる国難を通じて深まる幸田町との絆


東京オリンピック開催を間近に控えた7月7日、ハイチのジョブネル・モイーズ大統領が私邸で武装グループに暗殺されるという衝撃的な事件が発生しました。同14日に予定していたオンライン交流会の開催を自粛するべきかハンス・ラーセン・ハイチ・オリンピック委員会会長に相談したところ、会長は、「こんな時だからこそ選手達を励ますために、是非とも予定通り開催してほしい。交流会の参加者で故モイーズ大統領のために一分間の黙祷を捧げてほしい。」という要望が示されました。こうして、オンライン交流会の冒頭で、地球のほぼ裏側に位置するハイチ共和国の国家元首のご逝去を、幸田町の参加者の方々と一緒に追悼できたことは、このホストタウン事業の象徴的な瞬間であったと感じています。そして、交流会において、出席された幸田町の方々が「ガンバレ!ハイチ(Allez! Haïti !)」と書かれた応援メッセージを高く掲げて下さったことは、ハイチ選手団だけでなく、ハイチ国民への応援のメッセージとも重なるものになりました。
8月14日午前8時29分(現地時間)、ハイチ南西部でマグニチュード7.2の地震が発生して、死者約2,200人、負傷者約1.2万人、約13万軒の家屋が倒壊又は損壊という甚大な人的・物的被害をもたらしました。大統領暗殺事件に追い打ちをかけるような度重なる国難に、今、国際社会はハイチに支援の手を差し伸べようとしています。この事態に、幸田町の方々が即座に反応して、町役場にハイチの被災者義援金の募金箱を設置して下さったことは、その国際的な連帯に加わる具体的な行動であり、非常に尊いものだと思います。
4 今後の予定
今後のホストタウン事業として、幸田町は、12月に幸田町立図書館においてハイチの絵画を展示するハイチアート展を開催する予定と伺っています。今後の幸田町とハイチ共和国との交流についても、この交流立ち上げに関わった者として、引き続き何らかの形でお手伝いをできればと考えています。