グローカル外交ネット

令和5年10月18日

在ドミニカ共和国日本国大使館
特命全権大使 高木 昌弘

はじめに

 2023年7月13日(木曜日)から14日(金曜日)に松戸市とパートナーシップ協定を結んでいるコンスタンサ市を訪問しました。

まつどの梨

(写真1)梨プロジェクト圃場とその周辺

 二十世紀梨の発祥の地であり、活発な国際交流活動を展開する千葉県松戸市の事業の中でも、カリブ海の島国で急速な経済発展を続ける野球強国のドミニカ共和国との協力関係にはとりわけ印象深いものがあります。松戸市の梨を同国の山間部にあるコンスタンサ市で栽培し新しい特産品にできるよう、2016年から協力が続けられているのです。一昨年からはJICAの「草の根技術協力事業」制度も活用され、コロナ禍の収束も相まって協力が加速化されています。地元の特産品の栽培技術を海外に提供するというのは通常はなかなかできないことであり、大変ユニークなものであると思います。
 ドミニカ共和国は全体としてトロピカルな気候で、カリブ海で最も素晴らしい海岸リゾートを有することで知られ、もともとマンゴー、カカオ、パイナップル、バナナなどがたくさん生産されていますが、コンスタンサは標高千メートルを超えるところにあり、そこで同国では前例のない寒冷な気候を必要とする果物の栽培にチャレンジ中です。この過程で、苗木を日本から輸送しなくても済む接ぎ木のやり方が発案されるなど、単に既存の知識を移転するにとどまらない新技術の展開も見られることは特筆されます。
 そもそもなぜ地球の裏側にあるドミニカ共和国が協力の対象になったのかというと、2015年に外務省が松戸市との共催で、駐日外交団による松戸市視察ツアーを実施したときに、同ツアーに参加した当時のドミニカ共和国公使が梨を試食し、同国でも是非とも栽培したいとの協力要請を行ったことがきっかけでした。松戸市としても同市の認知度や「まつどの梨」のブランド力の向上が期待できるということで始まったそうです。
 この取り組みが実を結び、ドミニカ共和国に松戸の梨の伝統を受け継ぐ新たな特産品が生まれ、コンスタンサのますますの発展にも貢献することを期待しています。

ホストタウン、消防車、そしてスイーツ

(写真2)令和4年11月30日のパートナーシップ協定調印式の様子

 松戸市は、先の東京オリンピック・パラオリンピックに際しホストタウンとしてドミニカ共和国からテコンドーの選手を受け入れました。また、昨年には松戸市から中古消防車を日本外交協会を通じてコンスタンサ市に寄贈していただきましたが、その際の整備・輸送費は外務省が草の根・人間の安全保障無償資金協力により支援しました。使用訓練のために松戸市から消防士が現地に来訪し、引き渡し式典では見事な放水デモンストレーションを見せていただきました。
 このような交流の基礎を固めるべく、昨年11月には両市の間でパートナーシップ協定が結ばれました。松戸市の本郷谷市長とコンスタンサ市のルナ市長が署名したこの協定には、訪日中であったゴメス外務省二国間関係担当次官に加え、タカタ駐日大使と私が証人としてそれぞれ署名しました(詳細については、グローカル通信本年3月号(PDF)別ウィンドウで開く【千葉県松戸市・ドミニカ共和国コンスタンサ市パートナーシップ協定】をご参照)。
 協定署名を受けた友好イベントの一つとして、松戸市ではドミニカ共和国産のカカオを使った素敵なオリジナルスイーツを市内の複数の提携店で販売しました。ドミニカ産のカカオは非常に高い品質のもので、日本の主要メーカーのチョコレートにも使われているので、コンビニなどでドミニカ共和国産のカカオを使ったチョコレートを目にした方も多いのではないでしょうか。上記のスイーツは本年4月に日本を訪問したドミニカ共和国のペーニャ副大統領一行にもプレゼントされ、好評を得ました。ちなみに、この訪日に合わせて一時帰国した私もスイーツを試食させていただき、そのおいしさに感動しました。このような食べ物を通じて友好関係を盛り上げていくアイデアはとても素晴らしいと思います。

日本人移住者の貢献と収穫祭での盆踊り

(写真3)コンスタンサ収穫祭開会式(中央の主催者を挟み向かって左がクルス農業大臣、右が高木大使)

 さて、コンスタンサは第二次世界大戦後に日本人農業移住者が入った土地の一つで、様々な農産品をもたらした貢献が当国政府と国民から非常に高く評価されています。日本及びスペインからの移住者の長年の努力によって今やコンスタンサは当国の一大農産業地帯に成長しており、去る7月に盛大に実施された同市の収穫祭では両国がメインテーマに採り上げられたことから、祭りイベントとして日本の盆踊り、武道、移住の歴史などが広く紹介されました。
 私はこの収穫祭に合わせてコンスタンサに1泊2日の日程で出張しました。首都サントドミンゴから車で約3時間弱の道のりで、海沿いにある首都とは違う山間の清涼な空気が感じられました。ルナ市長は、農産業セクターのご出身で、収穫祭会場だけでなく、近くにある日系のイチゴ農園でもご一緒していただき、交流促進について意見を交わしました。この農園は一般客の見学やイチゴ狩りも受け入れて同市のエコツーリズムにも一役買っており、農園のインスタグラムには何と9万人超のフォロワーがついています。園内ツアーでは日本人移住者の歴史についても説明されていました。
 収穫祭の会場は同市飛行場の敷地の一部を使った広々とした場所で、特設ステージ、展示スタンド、屋台などが配置されていました。クルス農業大臣も来場され、開会式挨拶の中で日本からの移住者が農業発展に尽くした功績に深く感謝する旨述べていました。日本の盆踊り紹介は特設ステージで上記梨プロジェクトで長期派遣されている日本人専門家の出沼さんが和太鼓を見事にたたき、出演者の皆様に混じって私も法被を着て一緒に踊らせていただきました。
 居合道や空手の迫力あるデモンストレーションも大きなインパクトがあり、来場者から大きな拍手が寄せられていました。
 特設ステージではさらに、長年にわたって市の発展に貢献したということで、日系社会代表者や私への感謝状授与もしていただきました。
 また、展示スタンドスペースでは日本スタンドに日本人移住者の歴史を振り返る写真や農具などが見られたほか、JICAボランティアが毛筆を使って来訪者の名前を日本の文字で書いてあげるイベントが催されました。
 コンスタンサは山の涼しい保養地としても人気があり、私も簡素ながらさわやかな自然の風を感じられるホテルに一泊しました。そこのロビーにはJICAの持続可能な観光プロジェクトに参加したことを示すポスターが掲示されており、日本からの協力の成果がこうした身近な施設でも確認できたことをうれしく思いました。
 松戸市が一つのきっかけをとらえてコンスタンサ市との具体的な交流につなげ、外務省やJICAもこれをサポートしていけることは日本とドミニカ共和国との友好協力関係に幅と深みをもたらすものです。本稿では紙面の関係もあって両市の交流の一部しかご紹介できませんでしたが、何らかの形で皆様にも関心を持っていただければ幸いです。

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