外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

4 東南アジア

(1)インドネシア

インドネシアは、世界第4位の人口(約2億6,700万人)を有する東南アジア地域の大国として、ASEANにおいて主導的な役割を担うほか、G20メンバー国として、国際社会の諸課題においてもイニシアティブを発揮している。

2019年10月に発足したジョコ大統領の第2期政権は、国会の議席の約74%を与党が占める安定政権として、①インフラ開発、②人材開発、③投資促進、④官僚改革、⑤適切な国家予算の執行を優先課題として実施している。また、新型コロナの拡大を受け、春以降、大規模社会制限や経済対策を実施している。投資促進に関しては、インドネシア政府は、投資誘致を目的に雇用、投資、事業認可手続きの簡素化などの11分野の関連法を一括改正する雇用創出に関するオムニバス法を11月に成立させた。

日本との関係では、ジョコ第2期政権の優先課題であるインフラ整備と人材育成の分野における協力を積極的に進めているほか、新型コロナ対策及び保健・医療体制の強化のために医療機材の供与や財政支援借款、またアビガンの供与などの協力を行っている。

日本とのハイレベルの交流としては、1月に茂木外務大臣がインドネシアを訪問し、日・インドネシア閣僚級戦略対話を行った。新型コロナの世界的な感染拡大により人の往来が制限された後も首脳電話会談を2度、外相電話会談を2度実施し、新型コロナへの対応などについて緊密に意見交換を行った。また、10月には菅総理大臣が総理就任後の初の外国訪問の一環としてインドネシアを訪問し、ジョコ大統領との首脳会談において、政治・安全保障、経済・インフラ整備、海洋、防災などの協力や南シナ海や北朝鮮などの地域的課題における連携の更なる強化を確認した(61ページ 囲み記事参照)。

(2)カンボジア

カンボジアは、南部経済回廊の要衝に位置し、メコン・東南アジア地域の連結性と格差是正の鍵を握る国である。ガバナンス強化を中心とする開発政策の下、過去20年間平均7%の成長を続け、2030年の上位中所得国入りを目指している。2020年は成長牽引役の縫製、観光、建設業が新型コロナ問題により落ち込み、1993年の王国政府発足後初めてマイナス成長となる見込みである。

1992年に日本が初めて本格的PKOを派遣したカンボジアは「積極的平和主義」の原点の国であり、和平とその後の復興・開発への協力を基に培われた両国関係は2013年に「戦略的パートナーシップ」に格上げされ、現在も深化している。2020年は8月に、茂木外務大臣が新型コロナ感染拡大後初の海外要人としてカンボジアを訪問し、フン・セン首相表敬及びプラック・ソコン外相との間で外相会談を実施した。10月にも外相電話会談を実施した。

内政面では、最大野党・救国党が前年に解党される中、2018年国民議会選挙にて与党・人民党が全議席を独占した。カンボジア政府は、同年末の声明にて国内での対話促進や司法手続迅速化など民主的環境の改善措置を表明し、以後取り進めてきている。2020年1月には2017年に逮捕された野党党首の公判が開廷したが、3月以降新型コロナにより休廷した。

日本は、カンボジアの民主的発展を後押しするために与野党若手政治関係者招へいなどの取組を進めており、1月に第4回招へいを実施した。

日本が長年支援しているクメール・ルージュ裁判では、8月に捜査中被疑者1名の不起訴が確定し、その他捜査中の2事案も不起訴となれば2022年末に予定される第2-02事案(元国家元首が被告)上訴審判決をもって裁判が完結する見込みが高まっている。

(3)シンガポール

シンガポールは、ASEANで最も経済が発展している国家であり、全方位外交の下、米国や中国を含む主要国と良好な関係を維持している。

国内では、リー・シェンロン首相率いる人民行動党(PAP)が、7月の総選挙で、対象改選全93議席中83議席を獲得して引き続き議会での圧倒的多数を占めるものの、PAPの全体得票率は61.24%にとどまり、前回2015年選挙時の69.86%より低い得票率であった。

日本との関係では、2020年は、新型コロナの影響により往来の機会が減少したものの、首脳電話会談を1度、外相電話会談を2度実施し、両国のハイレベルの交流を継続している。また、8月、茂木外務大臣は、新型コロナの世界的な拡大後、アジア初の訪問国としてシンガポールを訪問し、リー・シェンロン首相表敬及びバラクリシュナン外相と会談を実施した。同会談において、両国は新型コロナの拡大を受けた水際対策強化後の国際的な人の往来再開に向けた段階的措置として、入国後14日間についても行動範囲を限定してビジネス活動が可能となる「ビジネストラック」と、主に中長期間に滞在する駐在員などを念頭に置いた「レジデンストラック」の両トラック開始を目指すことに合意した。

日・シンガポール外相会談(8月13日、シンガポール)
日・シンガポール外相会談(8月13日、シンガポール)

また、両国は1997年に署名した「21世紀のための日本・シンガポール・パートナーシップ・プログラム(JSPP21)」を通じて、開発途上国に対して共同で技術協力を行っており、これまでに約400の研修を実施し、ASEAN諸国などから約7,000人が参加している。

日本文化情報の発信拠点としてシンガポールに2009年に開所された「ジャパン・クリエイティブ・センター(JCC)」では、感染症対策をとりつつ各種の発信やイベントを開催した。

(4)タイ

タイは、1967年の「バンコク宣言」により誕生した東南アジア諸国連合(ASEAN)の原加盟国の一つであり、また、メコン地域の中心に位置し、地政学的に重要な国である。

日本とタイは、600年にわたる長い交流の歴史があると言われており、伝統的に友好関係を維持してきている。外交関係の樹立は1887年の「日暹(にちせん)修好通商に関する宣言(日タイ修好宣言)」まで遡る。現在の両国関係は、二国間のみならず、地域及び国際社会でも協力する「戦略的パートナーシップ関係」にある。加えて、日本からの長年にわたる政府開発援助や民間企業による投資の結果、タイは自動車産業を始めとする日本企業にとっての一大生産拠点となり、今日では地球規模でのサプライチェーンの一角として日本経済に欠くことのできない存在であり、5,000社以上の日本企業が進出し、7万人以上の在留邦人が暮らしている。

また、2013年、短期滞在での活動を目的とするタイ国民に対する査証免除措置の導入を受け、訪日タイ人観光客が急増し、新型コロナの感染拡大前の2019年には約132万人のタイ人が日本を訪問しており、国別渡航者数で第6位であった。1月に茂木外務大臣がタイを訪問し、プラユット首相への表敬及びドーン外相との会談を実施した。その後の新型コロナの感染拡大に伴う人的往来の制限に伴い、要人往来は実施されていないが、茂木外務大臣がドーン副首相兼外相(注:8月より副首相を兼任)と5月6月及び10月の3度にわたり電話会談を実施し、ハイレベルでの交流を継続した。

一方、タイ国内状況に目を向ければ、経済・社会的格差や新型コロナの感染拡大に伴う経済状況の悪化などを背景に、若年層を中心とした政府や王室に対する抗議デモが活発化し、不安定な状況が継続している。

茂木外務大臣によるプラユット・タイ首相の表敬(1月7日、タイ・バンコク)
茂木外務大臣によるプラユット・タイ首相の表敬
(1月7日、タイ・バンコク)

(5)東ティモール

東ティモールは、インド太平洋の要衝、オーストラリアとインドネシア間の重要なシーレーンに位置する、21世紀最初の独立国家(2002年)である。同国は、国際社会の支援を得つつ平和と安定を実現し、民主主義に基づく国造りを実践してきた。経済は天然資源(石油や天然ガス)への依存度が高く、国家の最優先課題として産業多角化に取り組んでいる。

外交面では、東ティモールの最重要外交課題であるASEAN加盟に向けて、ASEAN各国との調整などに引き続き取り組んでいる。

国内では、政権与党とル・オロ大統領との間で対立が続き、国政は停滞していたが、1月以降、連立与党内の分断などを契機として、各政党間での新たな合従連衡が模索された。その結果、5月29日までに、ルアク首相率いる国民解放党(PLP)及びル・オロ大統領率いる東ティモール独立革命戦線(フレテリン)を含む4党から成る新たな国民議会多数派により第8次立憲政権を支える体制が確立され、内閣改造が行われた結果、対立は解消された。

二国間関係に関し、1月に中山展宏外務大臣政務官が東ティモールを訪問し、日本の対東ティモール支援20周年記念式典や、日本のODAにより建設した国立東ティモール大学工学部新校舎及びディリ港フェリーターミナルの竣工式に出席した。また、その際に、ル・オロ大統領、ルアク首相及びバボ外務・協力相との間で、教育・人材育成、人的交流、経済・インフラなどの分野における二国間協力や、日本・東ティモール・インドネシア3か国協力の枠組みにおける海洋分野などの協力、地域における連携を強化した。

また、新型コロナの感染拡大を受け、保健・医療体制強化のための医療機材の供与などの支援を行っている。

バボ・外務・協力相と会談する中山外務大臣政務官(1月14日、東ティモール・ディリ)
バボ・外務・協力相と会談する中山外務大臣政務官
(1月14日、東ティモール・ディリ)

(6)フィリピン

フィリピンは、2012年から一貫して6%以上の高い成長率を維持してきたが、2020年は、新型コロナの感染拡大に伴い導入された国内経済活動の制限や海外労働者からの送金減などによる影響により、マイナス成長が見込まれている。ドゥテルテ大統領は新型コロナ対策においても国民の高い支持を得ており、汚職撲滅、治安・テロ対策などの優先課題への対応に引き続き、強い指導力を発揮した。また、ミンダナオ和平については、2022年の自治政府発足を目指したプロセスが継続しており、3月時点でモロ・イスラム解放戦線(MILF)兵士の30%に相当する1万2,000人の退役及び武装解除が完了している。

「戦略的パートナー」である日・フィリピン関係の更なる強化のため、1月、茂木外務大臣がマニラを訪問し、ドゥテルテ大統領表敬ロクシン外相との会談及びドミンゲス財相との会談を行ったほか、フィリピン沿岸警備隊を訪問し、日本政府が円借款で建造を支援した巡視船を視察した。新型コロナの影響で往来が中断されてからも、要人間の意見交換は活発に行われ、首脳電話会談を2度、外相電話会談を1度実施した。

日・フィリピン外相会談(1月9日、フィリピン・マニラ)
日・フィリピン外相会談(1月9日、フィリピン・マニラ)

安全保障面では、8月、国産の完成装備品の初の海外移転としてフィリピンへの警戒管制レーダーの納入契約が成立し、協力が一層推進されることとなった。また、経済面では、1月、フィリピン政府が、東日本大震災後に設けていた日本産食品の輸入規制措置をすべて撤廃することを決定した。さらに、10月には、2017年に安倍総理大臣が表明した5年間で1兆円規模の官民支援を着実に実施するために立ち上げられた、日・フィリピン経済協力インフラ合同委員会の第10回会合を実施するなど、日本はフィリピン政府が掲げる積極的なインフラ整備政策「ビルド・ビルド・ビルド」を強力に後押ししている。加えて、感染症対策災害対応についても医療機材の供与や財政支援借款、また、アビガンの供与などの協力を行っている。

(7)ブルネイ

ブルネイは、豊富な天然資源を背景に、高い経済水準と充実した社会福祉を実現し、政治的、経済的に安定した国である。立憲君主制であり立法評議会があるものの、国王が首相、財務・経済相、国防相及び外相を兼任しており、国王の権限は非常に強い。東南アジアの中心に位置し、南シナ海のクレイマント国の一つであり、ASEANの一体性、統合強化を柱とするバランス外交を行っている。

ブルネイの経済成長率は2020年も中国との合弁企業による石油精製事業に支えられ、引き続きプラスを維持すると予測されている一方、エネルギー資源への過度の依存から脱却すべく経済の多角化を目指している。

日本とブルネイは、1984年に外交関係を開設し、政治、防衛、経済、文化、人物交流など、様々な分野で良好な関係を発展させてきた。また両国の皇室・王室関係も緊密で、ボルキア国王は2019年の即位礼正殿の儀に参列するため訪日した。ブルネイは日本へのエネルギー資源の安定供給の面からも重要であり、ブルネイの液化天然ガス(LNG)輸出総量の約6割が日本向けであり、同国産LNGは日本のLNG総輸入量の約5%を占めている。なお、日本は2021年にASEAN議長国となるブルネイへの協力として、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)を通じたテロ対策能力向上のための支援を決定した。

(8)ベトナム

ベトナムは、南シナ海のシーレーンに面し、中国と長い国境線を有する地政学的に重要な国である。また、東南アジア第3位の人口を有し、中間所得層が急増していることから、有望な市場でもある。現在、インフレ抑制などのマクロ経済安定化、インフラ整備や投資環境改善を通じた外資誘致を通じ、安定的な経済成長の実現に取り組んでいる。また、行政改革や汚職対策にも積極的に取り組んでいる。2020年はASEAN議長国及び国連安保理非常任理事国を務め、国際社会での役割も拡大している。

日本とベトナムは、「アジアにおける平和と繁栄のための広範な戦略的パートナーシップ」の下で、様々な分野で協力を進展させている。要人往来も活発に行われ、1月には茂木外務大臣がベトナムを訪問し、フック首相、ミン副首相兼外相及びアイン商工相との会談を行った。3月及び6月には茂木外務大臣とミン副首相兼外相との電話会談、5月及び8月には安倍総理大臣とフック首相との電話会談を実施した。10月には、菅総理大臣とフック首相との電話会談を行ったほか、菅総理大臣が総理大臣就任後初の外国訪問先としてベトナムを訪問した。菅総理大臣はベトナム訪問中、フック首相との首脳会談では、新型コロナからの回復に向けて、「ビジネストラック」の運用開始及び双方向の定期旅客便の再開に合意したほか、チョン書記長兼国家主席、ガン国会議長及びチン越日友好議員連盟会長との会談や日越大学での政策スピーチなどを行い、「インド太平洋国家」として今後も地域の平和と繁栄に対する貢献を主導していくことを宣言した(61ページ 囲み記事参照)。

10月18から21日まで、菅総理大臣は就任後初の外国訪問先として、2020年のASEAN議長国であるベトナム及びASEANの主要国であるインドネシアを訪問した。今回の訪問では、友人であり、戦略的パートナーでもあるASEANとの信頼関係をより一層深化させるとともに、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を実現するための要であるASEAN各国と緊密に連携しながらFOIPを着実に実現していくとの日本の決意を宣言する重要な機会となった。

ベトナム訪問中、菅総理大臣は、フック首相との間で首脳会談を行い、新型コロナからの回復に向けて、「ビジネストラック」の運用開始及び双方向の定期旅客便の再開に合意するとともに、サプライチェーンの多元化や新型コロナ流行下で生活に困っている在日ベトナム人への支援など、両国間の協力を強化していくことで一致した。また、防衛装備品・技術移転協定の実質合意を始めとした安全保障分野での協力、インフラ整備等の経済協力、防災、農業分野における連携など、二国間関係の強化について確認した。さらに、地域情勢についても緊密に連携し、FOIPと多くの本質的な共通点を有する「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」を全面的に支持することを確認した。

同訪問中、菅総理大臣は、チョン共産党書記長兼国家主席、ガン国会議長とも会談を実施したほか、チン越日友好議員連盟会長から表敬を受けた。また、日越大学において学生との意見交換も行い、同大学では、「共につくるインド太平洋の未来」をテーマに、総理就任後初めて国外で外交政策スピーチを実施した。スピーチでは、これまでの連結性や人造りに関する協力を通じた日本とASEANの強固なパートナーシップを確認するとともに、AOIPとFOIPが基本的な原則を共有していることやAOIPを全面的に支持すること、そして法の支配の重要性を強調した。菅総理大臣の訪問を機に、官民の幅広い分野で16の文書に合意するなど、「戦略的パートナーシップ」で結ばれる日・ベトナム関係は、政治・経済・文化・人的交流などあらゆる面で飛躍的な発展を遂げている。

ベトナムに続いて訪問したインドネシアでは、ジョコ大統領との間で首脳会談を行ったほか、日本企業との意見交換、元日本留学生による表敬及びカリバタ英雄墓地での献花を行った。

日・インドネシア首脳会談では、菅総理大臣はFOIPと多くの本質的な共通点を有するAOIPへの全面的な支持を伝達し、両首脳は、共に海洋国家として自由で開かれた海洋秩序の実現に向けた協力を行うことについて一致した。また、保健分野やサプライチェーンの強じん化を含め、新型コロナからの回復に向けた両国の協力の拡大、インフラ協力や人材育成、離島開発などの推進、外務・防衛閣僚会合(2+2)の早期実施を始めとする政治・安全保障分野の協力及びインドネシアの投資環境改善に向けた協力の強化などについて一致した。

日本は、「インド太平洋国家」として、今後もASEANと共に力を合わせてインド太平洋地域の平和で繁栄した未来を創り上げていく。

菅総理大臣のベトナム訪問(10月、写真提供:内閣広報室)
菅総理大臣のベトナム訪問(10月、写真提供:内閣広報室)

元来親日的なこともあり、ベトナム国民の訪日者数は2011年の約4万人から2019年には49万人を超え、日本に暮らすベトナムの人々は2011年の約4万人から2020年6月には約42万人に増えており、国別在留外国人数で中国、韓国に次いで3番目に多い数字となっている。

(9)マレーシア

マレーシアは、マレー半島の「半島マレーシア」とボルネオ島の「東マレーシア」から成る、インド洋と太平洋の結節点に位置し、南シナ海とマラッカ海峡に面した地政学的に重要な国である。また、13州及び3連邦直轄地から成る連邦国家で、ブミプトラ(土着の民族を含むマレー系)(69%)、華人系(23%)、インド系(7%)などから構成される多民族国家である。

2月、政権内部における対立などによりマハティール首相が辞任したことを受け、3月に就任したムヒディン首相は、就任直後から新型コロナ対策に注力している。新型コロナの影響で、二国間での要人往来は例年に比べて減少したものの、外相電話会談を1度実施し、8月には、新型コロナの世界的な感染拡大後初めてのアジア訪問の一環として、茂木外務大臣がマレーシアを訪問し、ヒシャムディン外相及びアズミン上級相兼国際貿易産業相と会談を行った。

両国間の具体的な協力については、油防除や海賊対策などの海洋協力や、新型コロナ拡大の下での協力として、二国間で主に中長期滞在者の往来を可能とする「レジデンストラック」の開始に合意した。また、国際機関を通じた技術支援・保健医療物資支援やアビガン錠の無償供与などが行われた。

人材育成分野では、マハティール首相(当時)が1981年に提唱した日・マレーシア間の友好関係の基盤である東方政策により、これまでに約2万6,000人のマレーシア人が日本で留学及び研修した。2011年9月に開校したマレーシア日本国際工科院(MJIIT)をASEANにおける日本型工学教育の拠点とするための協力が進められているほか、筑波大学のマレーシアにおける分校設置に向けた協議が行われており、実現すれば日本の大学が設置する初の海外分校となる。

経済面では、日本はマレーシアにとって最大の投資国(2019年)であり、マレーシアへの進出日系企業数は約1,500社に上るなど、引き続き緊密な関係にある。

(10)ミャンマー

ミャンマーでは、2015年の総選挙で国民民主連盟(NLD)が国民の大多数の支持を得て、2016年3月にアウン・サン・スー・チー国家最高顧問率いる新政権が発足し、以来、民主化の定着、国民和解、経済発展に取り組んできた。2020年11月には総選挙が実施され、NLDが再び圧倒的勝利を収めた。

2020年11月の総選挙実施に当たり、日本政府は二重投票防止のための特殊インクを供与したほか、笹川陽平ミャンマー国民和解担当日本政府代表を団長とする選挙監視団を派遣し、自由かつ公正な選挙が平和裡に実施されたことを確認した。

しかし、総選挙後、ミャンマー国軍は、有権者名簿情報の重複などの選挙不正があったことを繰り返し主張し、これに対し連邦選挙管理委員会、連邦議会、政府がこれを受け入れなかったとして、2021年2月1日未明、アウン・サン・スー・チー国家最高顧問、ウィン・ミン大統領を含むNLD政権幹部や多数の連邦議会議員を拘束した。同日、大統領代行(国軍出身の副大統領)が緊急事態を宣言し、全権をミン・アウン・フライン国軍司令官に委譲した。国軍によるクーデターに国民は反発し、全国で不服従運動が拡大した。連日数万人規模のデモが実施されたほか、公的機関職員のボイコットも行われた。これを受け国軍は、ヤンゴン地域などに夜間外出禁止令及び公共の場での5人以上の集会禁止令を発表、警察もデモ隊に対し一部では放水、催涙弾や発砲による鎮圧を行った。日本は、ミャンマーで民主化プロセスが損なわれる事態が生じていることに対し、重大な懸念を有しており、クーデター発生当日に外務大臣談話を発出した。日本は、民間人に対する暴力的な対応を直ちに停止すること、アウン・サン・スー・チー国家最高顧問を含む拘束された関係者の解放、民主的な政治体制の早期回復を国軍に強く求めている。

なお、日本は経済発展への大きな潜在力及び地政学的重要性を有するミャンマーの安定及び発展が地域全体の安定と繁栄に直結するとの認識に立ち、伝統的な友好国である同国の民主的国造りを官民挙げて全面的に支援してきた。2016年に安倍総理大臣が表明した、5年間で官民合わせて8,000億円の貢献は、ヤンゴン都市開発、電力、運輸インフラを中心に幅広い分野において実施されてきた。

また、ミャンマー西部のラカイン州で、2017年8月の武装勢力による治安部隊拠点に対する襲撃を契機に、70万人以上の避難民がバングラデシュに流出した問題に関し、日本は国際社会と共にミャンマー政府に、「安全、自発的かつ尊厳のある」避難民帰還の実現、国連の関与の下での帰還環境の整備を働きかけるとともに、ラカイン州では避難民・住民に対する人道支援やインフラ整備支援を実施してきたほか、バングラデシュ側では避難民、ホストコミュニティに対する人道支援を実施してきた。加えて、ラカイン州における人権侵害疑惑について、ミャンマー政府及び国軍に対し、ミャンマーが設立した独立調査団の勧告を踏まえ、透明性のある形で捜査、訴追を進め、国際司法裁判所による暫定措置命令を着実に履行するよう働きかけてきた。

ミャンマー独立以来、国軍との戦闘を続けている少数民族武装勢力との和平実現も重要な課題であり、これまでに10の少数民族武装勢力が「全国規模停戦合意(NCA)」に署名した。日本は、笹川政府代表を中心に、恒久的停戦と地域の安定を実現すべく、和平の当事者間の対話を側面支援してきたほか、停戦実現地域住民の生活向上のため、復興開発支援を実施してきた。

日本としては、事態を注視しながら、必要な対応を行っていく。

(11)ラオス

ラオスは、中国、ミャンマー、タイ、カンボジア及びベトナムの5か国と国境を接し、メコン連結性の鍵を握る内陸国である。2020年、内政面では、人民革命党の一党支配体制の下、安定した政権運営が行われた一方で、2021年に予定されている第11回人民革命党大会に向けた準備が中央及び地方の各レベルで行われた。経済面では、最優先課題として財政安定化に取り組む一方、新型コロナの影響で、観光を始めとするサービス業などが打撃を受け、近年、約6~7%の高水準を維持していた経済成長率の低下が予測されている。

日・ラオス間では3月に外交関係樹立65周年を迎え、「戦略的パートナーシップ」5周年の節目の年となった。8月に、茂木外務大臣が新型コロナの感染拡大後初の海外要人としてラオスを訪問し、トンルン首相及びサルムサイ外相と会談を行ったほか、10月にも茂木外務大臣とサルムサイ外相が電話会談を実施した。経済協力分野でも、様々な協力が実施された。ラオス政府から強い要望があった財政安定化支援については、1月に支援の成果となる政策提言が取りまとめられたほか、引き続き、専門家の派遣などによる協力が実施された。また、5月には日本が2012年から起草支援を行っていた民法典が施行され、長年にわたるラオスに対する法整備支援の集大成の一つとなった。8月の茂木外務大臣のラオス訪問に際しては、新型コロナ対策支援の一環として、無償資金協力による医療関連資機材の引渡式を実施したほか、教員養成・都市交通などの分野に対する無償資金協力の実施などを決定した。このように、2016年9月に両首脳から発表された「日ラオス開発協力共同計画」の着実な進展が見られ、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた多くの取組が行われた。文化交流では、1月にビエンチャンにおいて「ジャパン・フェスティバル」が開催され、両国国民間の相互理解が深まった。

日・ラオス外相会談 (8月23日、ラオス)
日・ラオス外相会談 (8月23日、ラオス)
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