ODA(政府開発援助)

2021(令和3年)年9月17日発行
令和3年9月17日

ドミニカ共和国の国立大学で響いた日本製のピアノの音
コロナ禍に立ち向かう勇気をもらうひととき

(写真1)コンサートの様子 本格的なピアノを使用して大学コンサートホールで開催されたコンサート。学生らの練習の成果が十分に発揮された。

在ドミニカ共和国日本国大使館 山本 圭吾

 2021年6月16日、米州最古の大学、サント・ドミンゴ自治大学(UASD)芸術学部の小ホールに、草の根文化無償資金協力で供与されたYAMAHA製グランドピアノの上質な音色が響き渡りました。コロナ禍で引渡しが丸一年遅れましたが、演奏者達は待望のピアノで表現できる悦びを音に乗せ、聴衆は今も続くコロナ禍に立ち向かう勇気をもらうという、だれもが幸せを感じるひとときとなりました。

(写真2)演奏の様子 戦場のメリークリスマスを演奏している日本人ピアニスト瀧氏。JICAシニアボランティア隊員として、2年間にわたって同大学にて学生の指導にあたってきた。
(写真3)国歌斉唱の様子 コンサートに先立ち、この整備プロジェクトを記念して、ドミニカ共和国と日本国双方の国歌斉唱が行われた。

 同コンサートは供与式に続いて開催されたもので、YAMAHAがピアノ作成を始めた1901年に作曲された滝廉太郎メヌエット、ピアノソロ千本桜等、そしてエンディングは、元シニアボランティアの瀧和子氏による戦場のメリークリスマスがオーケストラと共に演奏され、短時間ながらも豪華な内容でした。
 コロナ対策で着席数を半分に制限しましたが、オンライン配信には3,100名もの視聴者が訪れ、多くの人々がピアノの到着を待ち望んでいたということが感じられました。

(写真4)大学の副学長(右)と牧内在ドミニカ共和国大使(左) 日本の文化無償資金協力で、サント・ドミンゴ自治大学(UASD)芸術学部に対して音楽器財を整備。親善友好プレートの除幕を行う大学の副学長と牧内在ドミニカ共和国大使。
(写真5)グランドピアノ 整備された日本製のグランドピアノ。高温多湿の環境でも美しい音色を奏でられる。

高温多湿の環境にも耐える日本製グランドピアノ
オールジャパンで文化支援を実現

(写真9)台の上に置かれた電子ピアノ 学生が練習用に使用している
YAMAHA製の電子ピアノ。
(写真10)先生と電子ピアノを弾く生徒たち ピアノの授業風景。学生は電子ピアノを用いて
熱心に授業に対応していた。

 本案件は、国立大学で唯一音楽学科を有するUASDに整備された状態のピアノがなく、同大学の学費はほぼ無料のためピアノ購入予算は到底望めないという窮状をシニアボランティアの瀧氏からお聞きしたことから動き出したプロジェクトでした。
 同大学からの要請を受け在ドミニカ共和国大使館員が現場視察に行ったところ、何台かあるピアノのペダルは壊れていて、鳴らない鍵盤があるもの、シロアリに食われ使用に耐えないものもあるという状況でした。しかし先生達は半ば壊れたピアノをねじ伏せるかのように弾き、学生達も真剣な表情で多くを吸収しようという意欲にあふれていたことが印象的でした。

(写真6)教室内の様子 この教室では、個人所有のピア
ノを借用して授業が行われていた。
(写真7)ピアノの前にセットされた教室の椅子 修理を施しながら使用され
ているアメリカ製ピアノ。
(写真8)ピアノの前にセットされたピアノ用椅子 数が限られていた貴重なアップ
ライトピアノとピアノ用椅子。
(写真11)牧内在ドミニカ共和国大使(左)とピアノを弾く女性(右) 新しいグランドピアノでの練習会の様子。
(写真12)瀧氏(右)と学生(左) 新しいグランドピアノを用いて、コンサートの指導に取り組むJICAシニアボランティアの瀧氏と学生の様子。

 本件を具体化する上で最大の難関はヨーロッパ発祥のピアノは高温多湿のドミニカ共和国では保守管理が難しいという点でした。しかしたまたま熱帯に生まれたことで教育機会が奪われる現状を打破したいという思いで検討を重ねる途中、世界で唯一YAMAHA社が熱帯仕様のピアノを量産しているということがわかり、また、大学側も具体的な温度・湿度管理方法を提示する等の自主努力を行ってくれたことで急に道が開けてきました。
 本件は大使館だけではなく、JICAシニアボランティア、YAMAHAを含むオールジャパンでの支援となり、関係者からは、コロナ禍にあっても文化を蔑ろにしない日本の心意気を賞賛したいとの声が寄せられました。
 供与内容としては3種類のグランドピアノ計4台で、これは初心者でも質の良いピアノに触れて基本的奏法を学ぶことができ、上級者はより上質なピアノで高度な技術と表現を磨けることを想定しています。またピアノを良い状態に保つための除湿器4台も併せて供与しています。

(写真13)牧内在ドミニカ共和国大使(左から3人目)と関係者たち プロジェクトで築かれた関係者の絆。

 学生を2年間にわたって指導してきたJICAシニアボランティア瀧氏は「2年間の活動を通してドミニカ共和国の若者はすばらしい感性の持ち主が多くいるということが分かりました。今回のピアノ供与は音楽の裾野を広げつつ、将来ドミニカ共和国から世界的なピアニストが出ることの大きな助けとなると期待しています」と述べました。

 アントニオ・メディナ・サント・ドミンゴ自治大学副学長からは、「ピアノは、あらゆる音楽教育に使用されるので、教育の質の向上に大いに貢献する。日本とは日本人移住が始まった1965年から親密な関係を築いてきており、日系人、日本国民、日本政府によるドミニカ共和国の発展に向けたあらゆる分野の御支援に感謝したい」との言葉が寄せられました。

(画像1)ドミニカ共和国

 今回のコンサートは、すべての演奏者があふれる喜びを表現して時間が押すという展開で、供与が心待ちにされていた事がうかがえました。小さめの劇場におかれたヤマハのグランドピアノは存在感抜群で、音もしっかりしていて、日本をアピールすることができたと確信しています。支援とコンサートの件は、現地メディアによって報道され、多くの人々に知られることとなりました。
 学生達に質の高い音楽教育の機会を提供することが出来たこと、また、多くの人々がオンラインライブに訪れ、本件が音楽を愛するドミニカ共和国人の心に響く案件であったと実感できたことは大変な悦びです。ぜひ、大使館で撮影した動画もあわせてご視聴いただければ幸いです。

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