ODA(政府開発援助)
ODAメールマガジン第422号
草の根ODAで,タイの人々に直接届ける医療支援
在タイ日本国大使館 経済部
草の根・人間の安全保障無償資金協力担当
タイの首都バンコクは公共交通機関や宿泊施設,教育に加えて医療も非常に発展しており,多くの国からタイで医療を受けるために旅行をする医療ツーリズムが知られています。一方,国内にはまだまだ外部の助けを必要としている医療団体があります。草の根・人間の安全保障無償資金協力担当は,そのような団体へ医療サービスへの支援をおこなってきました。
1 少数民族に寄り添い,国境付近の医療を支援
カンボジアやラオス,ミャンマーの国境付近の生活の様相は,都市部とは大きく異なります。特にミャンマーとタイとの国境地帯には,カレン族やモン族といった少数民族が多く生活しています。彼らのなかには雇用機会がより多く,賃金水準の高いタイに仕事を探して入国する労働者が多数存在しており,国境に面したサンクラブリー村に朝入国し,日中は家具作りなどの仕事をして,夕方には国境の向こうに帰っていく生活を送っています。
「ミャンマーからタイへ,国境を超える移動が日常となっている人は約4万人もいるのですが,彼らが通うべきミャンマーの病院には十分な検査施設がなく,幅広い手術に対応できる外科医も存在していませんでした。そこで多くの患者たちは4時間離れた病院まで足を運ぶ必要があったのです」と語るのは,この地で働く人々を健康面からサポートしてきた日本人看護師の陣野さんです。少数民族の多くは国籍を保持していないなどの理由によって,どちらの国でも社会保障を受けることができず,また,病院も遠いことから適切な医療を受けることはできませんでした。
陣野さんはこの状況を見かねてご主人とともにサンクラブリーに診療所を開所し,この地で働く人々を健康面からサポートしてきました。ところがこの診療所でも医療器材を十分にそろえることはできず,簡易的な手術も実施できない状況でした。そこで日本は草の根ODAを通じてこの診療所へ,医療機器および手術室の整備を実施しました。現在ではこの診療所は,より高度な医療技術も提供できるようになり,国籍を持たない人々にとって必要不可欠な場所として存在しています。「ODA支援によって,この地域内で提供できる医療の幅が広がり,より多くの命を救うことができるようになりました」と陣野さんは語ります。
2 高齢者に寄り添い,デイケアセンターを支援
タイでは地方自治体が主体となってデイケアセンターを運営し,高齢者介護を行う例がよくみられます。その現場は,地元民によるボランティアによって支えられており,先進的介護技術の導入や,新しい便利な機材を導入するほどの予算を持っていないところがほとんどです。
そのような中,チョンブリー県サンスク市では,地元自治体が建設を計画していた新しいデイケアセンターに対して,日本がJICA草の根技術協力を通じて,リハビリ器具や運動器具,血圧計などの機材整備の支援を実施しました。この支援には,佐久市および佐久大学の技術的な支援と,タイ国トヨタ自動車株式会社による車椅子乗降用リフトを備えた高齢者送迎車両の支援が同時に実施されました。これらの協力は,タイにおけるデイケアセンターとしての機能を最大限に発揮できるパイロットケースとして,今後の活動が注目されています。
3 受刑者に寄り添い,刑務所病院を支援
バンコク近郊には刑務所が7か所あり,受刑者の医療はバンコク都刑務所病院が提供していますが,産婦人科や外科には専門医がいないため,一般人も通う外部の病院に搬送する必要があります。患者の搬送にあたっては,受刑者は常に手錠をしているため,どのような症状であっても救急車による搬送が義務付けられています。このような事情から,救急車の出動回数は非常に多いにも関わらず,古い救急車を修理しながら使用しており,道中で故障し人力で押すなど,搬送体制には改善が必要な状況でした。加えて,病院の医療廃棄物の保管所として屋外の金網張りの小屋を利用しており,風雨が吹き込み,外部からも見える状態になっていたため衛生上のリスクが高い状況にありました。
このような中,バンコク都刑務所病院に対して,日本はODAを通じて新しい救急車および医療廃棄物保管所の建設を支援しました。これによって安全・安心な搬送体制を確保できるとともに衛生環境も向上し,受刑者のみならず医療従事者の院内感染リスクが軽減されました。
タイの医療制度を支援することは,SDGsの目標「すべての人に健康と福祉を」の観点からも重要です。また,タイの国民を支援することは,タイと日本の関係を更に発展させていくために大切です。今後も継続して在タイ日本大使館では,医療だけにとどまらず多く草の根の支援をしていきます。
(注)本記事は,6月15日に執筆されました。
新型コロナウイルス拡大防止のための国際協力
日本のODAによる新型コロナウイルス感染症拡大防止に関する事例を紹介いたします。
パラオへの医療機材の供与
パラオでは,厳格に入国を制限しており,新型コロナウイルス感染症の感染者は確認されていません(6月15日現在)。しかし,この厳しい入国制限の結果,主要産業の観光産業をはじめ,経済的に大きな打撃を受けています。今後,他国からの渡航の段階的な再開が見込まれる中,保健・医療体制が十分でなく,医療関連機材も不足している同国に,日本はCTスキャナー,ICU用のベッドなどの保健・医療関連機材の供与を行うこととしました。
(注)写真は「経済社会開発計画」(平成29年10月署名)の一部として供与された外科用モバイルCアーム。パラオの医療従事者に技術指導を行った時に撮影されたもので,記事とは無関係です。
国名 | 供与内容 | 金額 | ODAタイプ | 署名日付 |
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ミクロネシア連邦 | 移動式診察ユニット ICUベッドなど |
3.82億円 | 無償資金協力 | 2020年6月12日 |
ホンジュラス共和国 | 救急車 移動式X線撮影装置 モニターなど |
3億円 | 無償資金協力 | 2020年6月13日 |
ボツワナ共和国 | サーモグラフィー 自動体外式除細動器 (AED)など |
3億円 | 無償資金協力 | 2020年6月15日 |
パラオ共和国 | CTスキャナー ICU用ベッドなど |
3億円 | 無償資金協力 | 2020年6月15日 |
(6月12日~15日署名分)