ODA(政府開発援助)

2019(令和元年)年11月8日発行
令和元年11月8日

カンボジア和平から経済成長への息の長い協力
現地の技術者と共に課題に取り組む

在カンボジア日本国大使館 二等書記官 廣瀬 敦司

  • (画像1)カンボジア

 11月9日はカンボジアの独立記念日です。カンボジアは,1953年にカンボジア王国として独立し,平和を保っていましたが,1970年のクーデターにより内戦が始まり,その後1991年のパリ和平合意までの約20年間,内戦を経験しました。この内戦時代に,カンボジアでは道路・橋梁や上水道といったインフラの整備が停滞し,また,社会の中核を担う多くの人材が犠牲になりました。日本はカンボジアの内戦終結に向けた和平プロセスをフランスとともに主導し,和平達成後には自衛隊初の国連平和維持活動(PKO)部隊派遣として,国際連合カンボジア暫定統治機構(UNTAC)に参加したほか,政府開発援助(ODA)を通じ,カンボジアの和平,復興,経済発展へのカンボジアの人々の努力に協力してきました。

 近年カンボジアは目覚ましい経済成長を遂げており,過去20年平均で国内総生産(GDP)の年成長率7%台を堅持しています。カンボジアはメコン地域の中心に位置し,この地域の物流の大動脈の1つとなる南部経済回廊の中核を成しており,ASEAN地域の経済統合と連携を促進する上で,その重要性をますます高めています。

橋がつなぐ日本とカンボジア 復興と発展への協力

 2019年4月,カンボジアの首都プノンペンとカンボジアの大動脈の1つである国道6号線とを結ぶ「チュルイ・チョンバー橋(日本カンボジア友好橋)」が我が国の無償資金協力により改修されました。開通式典にはフン・セン首相の出席を始め,多くの住民や子どもたちがチュルイ・チョンバー橋の開通を祝いました。

  • (写真1)現在のチュルイ・チョンバー橋
    改修が完了した現在のチュルイ・チョンバー橋
    建設当時国王から「日本カンボジア友好橋」と命名された
    (写真提供:石川正頼/JICA)

 チュルイ・チョンバー橋は,日本とカンボジアの友好,そしてカンボジアの和平,復興,経済発展に対する日本の協力として象徴的な橋です。カンボジアの独立後,我が国の対カンボジア初となる無償経済協力供与を含む資金によって,1963年にチュルイ・チョンバー橋は完成しました。しかし,1972年,内戦によりこの橋の中央部分が爆破され落橋したため,長期にわたって通行が出来ない状況になってしまいました。

 内戦終結後,当時,カンボジア最高国民評議会の議長であったシハヌーク殿下は,「人々の記憶から辛い戦争の記憶を遠ざけ,新しい国を造っていこう,それには戦争の象徴であるあの橋を作り直すことだ」との強い思いから,復興支援を協議する初の会合で,チュルイ・チョンバー橋をまず修復したいと日本に要請しました。その要請を受け,1992年から1994年まで我が国のカンボジア復興支援の第一号となるこの橋の改修工事が無償資金協力によって実施されました。チュルイ・チョンバー橋の再開通により,人の交流や経済活動が活発化し,この橋はまさにカンボジアの和平と復興,そして将来の経済発展にとっての希望の象徴となりました。

 内戦終結から約30年が経過し,カンボジアの復興と発展に大きく貢献したチュルイ・チョンバー橋は,2019年4月,我が国の無償資金協力事業により橋のアプローチ部分の改修工事を終え,新たな時代の役割を担うことになりました。

カンボジアの500リエル紙幣に込められた日本への想い

 我々がカンボジアの人々や政府高官と話をする際,必ずと言っていいほどカンボジアの復興・発展に対する日本の貢献への謝意があります。それをよく表しているのがカンボジアの500リエル紙幣です。

  • (写真2)カンボジアの500リエル紙幣
    「きずな橋」や「つばさ橋」が日章旗とともに描かれた
    カンボジアの500リエル紙幣

 この紙幣には日本が無償資金協力で整備した「きずな橋」(カンボジアの国土を分断するメコン川に架かる初の橋として2001年に開通)と「つばさ橋」(ASEAN諸国の物流の生命線である「南部経済回廊」の一部である国道1号線のメコン川に架かる橋として2015年に開通)が日章旗とともに描かれています。また,在カンボジア日本大使館が作成するフェイスブック上で我が国の経済協力事業を紹介した動画の再生回数が,100万回を越えたこともあります。

  • (写真3)きずな橋
    メコン川に架かる初の橋となった「きずな橋」
    (写真提供:JICA)
  • (写真4)つばさ橋
    南部経済回廊を形成する「つばさ橋」
    (写真提供:JICA)

カンボジア人の暮らしに生かす日本の知見

 日本の協力には,インフラや建物の整備だけでなく,日本人技術者が現地の技術者と共に課題に取り組むという特徴があります。例えば,首都プノンペンの上水道は,内戦直後の水道普及率は20%,無収水率(漏水や盗水が原因で浄水場から配水した上水に対し水道料金が徴収できない割合)は72%にも及んでいましたが,内戦終結直後から,JICA調査団がカンボジアに入り,現状を改めようとするプノンペン水道公社のスタッフと北九州市上下水道局の技術者などが現場で協力した結果,現在では水道普及率は90%,無収水率は6%まで改善するなど「プノンペンの奇跡」と言われる成果を上げています。現地の人の技術を育てながら開発協力を行うという日本の姿勢が,カンボジアの日本人に対する信頼度を高めています。

  • (写真5)プンプレック浄水場の様子
    「プノンペンの奇跡」と言われ,安全な水を供給する
    プンプレック浄水場(写真提供:今村健志郎/JICA)

 カンボジアの首都プノンペンは今,高層ビルの建設ラッシュであり,町中のいたるところで車が走り経済的発展を謳歌しているようにも見えますが,交通渋滞やゴミ問題などの都市化に伴う問題の顕在化や,都市部と地方部との格差も広がりつつあります。これらの課題に対し日本の経験や知識を活かし,日本がカンボジアの安定と発展に貢献できることはまだまだあります。

セルビア柔道選手の活躍を「畳」でサポート
スポーツ交流に貢献する日本のODA

在セルビア日本国大使館

  • (画像1)セルビア共和国

 セルビアはヨーロッパの南東,バルカン半島に位置する隠れたスポーツ大国です。テニスのノバク・ジョコビッチ選手の他,リオ五輪では男子水球金メダル,女子バレーボール銀メダルで世界ランキング1位(2019年9月現在),バスケットボールでもリオ五輪で男女ともにメダル獲得するなど,人口700万人の国としては目覚ましい結果を残しています。また,武道も非常に盛んで,地方のどんな小さな街でも柔道,空手,合気道いずれかの武道のクラブが見つけられるほどの,知られざる親日国です。

 2018年には安倍総理大臣が,本年には河野外務大臣(当時)がセルビアを訪問し,日・セルビア間のさまざまな交流が盛り上がりつつあります。在セルビア日本大使館では,2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けたスポーツ交流発展を念頭に,日本のODA事業「草の根文化無償資金協力」として,2017年にはセルビア柔道連盟の「畳」の整備,2018年にはセルビア体操連盟の体操器材整備を実現しました。

  • (写真1)欧州柔道杯の様子 (写真2)欧州柔道杯の様子
    2018年6月,セルビアの首都ベオグラードで行われた欧州柔道杯。
    日本からの協力で整備された畳が使われている。

 日本からの支援により,セルビア柔道連盟は,国際大会の基準に則った「畳」全325枚を整備することができました。その1枚1枚の側面に日章旗ステッカーが貼りつけられています。これら畳は2018年6月にベオグラードで開催された欧州柔道杯等の大会で使用された他,重要な大会の前のセルビア代表選手の合宿にも使われています。2017年に行った畳の引渡し式には,柔道連盟会長とセルビア政府の幹部だけでなく,現役のセルビア柔道選手で最も有名なネマニャ・マイドフ選手とアレクサンダル・クコリュ選手も駆けつけました。マイドフ選手は2017年にハンガリーで行われた世界柔道選手権で,セルビアの柔道選手として初めて優勝を果たしました。その後2019年9月に東京で開催された世界柔道選手権でも90キログラム級で銅メダルを獲得しており,2020東京オリンピック競技会に向けたセルビアのホープの1人です。セルビア柔道連盟によれば,畳の整備によってセルビア柔道全体の年間練習量が増えたとのことで,この畳が利用されるようになってから,欧州選手権やジュニアの国際大会も含めれば,セルビア人の優勝数は約30に上っています。

  • (写真3)畳を重ねて横から撮影
    畳を重ねて横から撮影したもの。1枚1枚
    に日章旗マークが貼られている。
  • (写真4)畳の引渡し式の様子
    畳の引渡し式の場で,髙原大使(当時)と握
    手するマイドフ選手(右から2番目)。左端
    はクコリュ選手。

 一方,体操はセルビアで目立った結果を出しているわけではないのですが,多くの子どもが親しむスポーツであり,国民の健康な身体作りに貢献しています。ただ,従来から財政支援が少なく,体操連盟の所有する体操器材も非常に老朽化していたため,跳馬,段違い平行棒,平均台,マットといった器材整備も今回のプロジェクトにより実現し,体操選手や体操クラブに通う子どもたちが安全な環境で練習できるようになりました。笑顔で新しい器材を迎えた子どもたちの誰かが,近い将来に世界の舞台で活躍することを願ってやみません。

  • (写真5)練習に励む子どもたちの様子
    整備された新器材を使って練習に励む子どもたち。
  • (写真6)新体操用マットにある日章旗マーク
    新体操用マットにある日章旗マークは,
    セルビア体操連盟が,わざわざ布にプリ
    ントして,手縫いで付けてくれたもの。
  • (写真7)体操器材引渡式の様子
    体操器材引渡式の様子。子どもたちのはにかんだ
    笑顔が見られる。
  • (写真8)日本のODA支援を記したプレート
    体操クラブの建物に設置された,日本の
    ODA支援を記したプレート。

日本との連携でシエラレオネの人の移動の課題に取り組む

IOMシエラレオネ事務所プロジェクト・マネージャー 赤尾邦和

  • (画像1)シエラレオネ共和国

 国際移住機関(IOM)はシエラレオネで,2016年から日本の支援を受け,保健・農業・防災の分野を含む,同国の「人の移動」に関わる課題に対応する活動を行っています。シエラレオネでは約7割の若者が失業状態であるとされ,多くの若者がよりよい生活を求めて非正規の移住を選択しています。こうした移民はサハラ砂漠を越え,リビアなどから欧州を目指しますが,多くの場合実現せず国外で厳しい生活を余儀なくされています。他方,シエラレオネ内戦などを契機に海外に渡った,シエラレオネ出身専門家や投資家の活用による開発効果が着目されており,国内での雇用を増やして危険な移住を減少させつつ,シエラレオネへの技術移転や貿易促進を目指しています。

 IOMでは,2017年から2019年3月まで,海外に暮らすシエラレオネ出身「ディアスポラ」の専門知識を活用した,農業や保健分野の事業を行いました。「ディアスポラ」とは,出身国との間に何らかの絆を持つ移民コミュニティを指し,文化的な結び付きを背景に,投資や技術移転を通して本国の発展に大きく貢献することができます。

 この事業の一環で2018年9月,日本貿易振興機構(JETRO)の協力により,日本企業8社が参加して,シエラレオネ農業分野投資を促進するビジネス・フォーラムを開催しました。今回参加したシエラレオネ出身のディアスポラの投資家は,欧米でシエラレオネ産の作物などを販売していますが,ビジネス拡大のパートナーを必要としていました。このフォーラムをきっかけとしたマッチングの成果として,日本の専門商社がシエラレオネ企業とカカオやカシューナッツ等の取引を始めることに合意し,また,日本の食品会社がディアスポラと連携して,今年中にシエラレオネ産のカカオの輸出をすることが予定されています。

  • (写真1)ビジネス・フォーラムの様子
    2018年9月にJETROとの協力で開催したディアスポラのための
    農業投資ビジネス・フォーラム
  • (写真2)ビジネス・フォーラムでの取引合意の様子
    ビジネス・フォーラムの結果,日本企業とシエラレオネ企業が取引に合意

 保健分野では,IOMはディアスポラの医師・看護師等をシエラレオネに招き,診察・治療などを行いました。昨年は,2人しか医師がいない地方の県で,外科手術143件を含む602件の診察・治療を行い,多くの住人が健康を取り戻す手助けをしました。また,日本のデジタル・ナレッジ社が提供するeラーニングシステムを活用し,米国在住のディアスポラ医療専門家が帰国せずに,講師としてシエラレオネの大学等での講座を開講する試みを行いました。

  • (写真3)歯科治療および技術指導の様子
    ディアスポラ医師による歯科治療および技術指導
  • (写真4)eラーニングの受講生の様子
    eラーニングの受講生。
    シエラレオネ大学医学部と公衆衛生大学院での一部のコースを,アメリカの
    大学に在籍するシエラレオネ出身ディアスポラの教員により開講しました。
(参考資料)
関連ビデオ

 今年4月からは,日本政府の支援による若者への就業支援を通じた非正規移住対策事業を実施中です。シエラレオネでは高い失業率から,新たな機会を求めて,多くの人が欧州を目指す危険な非正規移住を試みますが,大抵は国外で厳しい生活を送る結果となります。IOMは,職業訓練および起業支援,そして非正規移住のリスクに関する啓発活動を実施し,若者が母国で働けるための環境整備を行います。

(参考資料)

 事業成功のためには雇用のニーズをよく知る多くの民間企業との連携が不可欠です。その一つとして,今年8月に日本で開催された第七回アフリカ開発会議(TICAD7)期間中,IOMは伊藤忠商事株式会社傘下のドール社の現地法人であるシエラトロピカル社とパートナーシップの合意文書を締結しました。

 また,先述したディアスポラ人材を職業訓練の講師として活用するなど,ディアスポラ人材とのネットワーキングにも期待しています。

  • (写真4)視察する様子
    シエラトロピカル社がシエラレオネで運営するパイナップル畑を
    IOM日本人職員(右)が同僚と視察する様子
  • (写真4)パートナーシップの合意文書の署名式
    伊藤忠株式会社本社における,パートナーシップの合意文書の署名式
(参考資料)

 こうした日本との連携は,民間セクターの関与を通じた雇用創出という点でTICAD7の趣旨にも合致するもので,シエラレオネ政府からも好意的に受け取られています。IOMは着実に成果を出せるように,今後もシエラレオネでの活動に取り組んでいきます。

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