ODA(政府開発援助)
ODAメールマガジン第383号
ODAメールマガジン第383号では,以下5話をお送りいたします。(肩書きは全て当時のものです)
- 第1話:エルサルバドル共和国より
「エルサルバドルの平和に向けた「人間の安全保障」」 - 第2話:エルサルバドル共和国より
「JICAボランティア・エルサルバドル派遣50周年を迎えて」 - 第3話:国際協力局地球規模課題総括課より
「「『世界津波の日』2018高校生サミットin和歌山」の開催告知」 - 第4話:ジャパン・プラットフォームより
「ジャパン・プラットフォームによる緊急人道支援【第9弾:南スーダンにおける飢饉に対するJPFの取組み-SDGsの実現に向けて】」 - 第5話:国際協力局政策課広報班より
「【イベント報告】 「グローバルフェスタJAPAN2018」を開催しました!」
エルサルバドルの平和に向けた「人間の安全保障」
原稿執筆:在エルサルバドル日本国大使館 児島 匠 三等書記官
日本の開発協力大綱の中では,国際社会の平和への積極的な貢献が一つの大きな方針として掲げられています。日本はエルサルバドルの平和に効果的に貢献するため,「人」の力を育てるための援助を実施しています。
エルサルバドル内戦(1979年から1992年まで)の終結とその後の平和構築に,国連PKO(平和維持活動)部隊が活躍し,日本もこれに参加しました。こうした協力は平和への貢献の一例ですが,戦争・紛争がなくなれば必ずしも平和な社会が実現するとは限りません。
実際,2015年のエルサルバドル10万人あたりの殺人発生数は108.64人(出典:UNODC(国連薬物犯罪事務所))で,世界最悪となりました。これは,記録に残っている限り,内戦時代の殺人発生率より高く,平和とはほど遠い状態にあります。
この点,殺人等の頻発を招いている社会構造自体を問題視しなくてはなりません。この国には,青少年を中心とするギャング及びその関係者が約50万人いるとも言われています。
本来不合理な選択肢であるはずの犯罪に手を染めて身近な人や自らの命をも危険にさらすことが,社会で生きていくための合理的な選択肢となっているのです。エルサルバドルの人々が平和に暮らすためには,この不幸な現実から抜け出すため,貧困等の根本的問題に対処していく必要があります。
その課題解決に貢献することは決して容易ではありません。現場からの声によれば,貧しい地域に支援しても,人々が最終的に目指すのはこの国を去ることだと言います。米国へ移住すれば,所得は10倍になると言われ,劣悪な治安からの逃避も相まって,人口約635万人に対し,約300万人のエルサルバドル人が米国に移住しているとされています。家族や大切な人々と離ればなれになった子ども達は,ギャングに引き込まれやすくなり,治安は一層悪化。結果,投資が起こらず,産業も育たず,魅力的な雇用も生まれず,教育もないという悪循環に陥っていきます。
しかし,人に焦点を当て,様々な脅威から各個人を保護する「人間の安全保障」を重視すれば,ODAの新たな地平が開けるように思われます。大切なのは,希望をくじく脅威から免れ,グローバル社会で生き抜いていくための能力と資格を得ていくことです。
日本は教育の質の改善をはじめ,子どもたちが実質的に基礎教育を受けられる環境を整備するため,学校などのインフラの改善や,上水道を整備して子どもたちを水汲み作業から解放し感染症予防を促進したり,保護者の所得向上や生活改善に向けた協力を行っています。世界へ羽ばたく人材を育成するため,日本への留学・研修のみならず,今後は,隣国との三角協力を通じた留学制度の充実化も重要になるでしょう。
様々な分野で活躍する人材が育ち,彼らがほかの国で学んだ技術を自国に持ち帰る環境が整えば,この国の発展に繋がり,平和な社会が定着していくでしょう。「人」の力が発展を支えてきた日本だからこそ,人材育成を通じた平和の諸要素の創出に貢献していくことが期待されています。
JICAボランティア・ エルサルバドル派遣50周年を迎えて
原稿執筆:JICAエルサルバドル事務所 大野 真 企画調査員(ボランティア事業)(執筆当時)
青年海外協力隊は,1965年,ラオスへの派遣5名から始まりました。その3年後の1968年,中南米への初めての協力隊派遣として,ここエルサルバドルに8名の協力隊員が到着しました。8名の協力隊員は,体育教員養成校にて,エルサルバドル人教師とともにこの国の体育教育の基盤を作りました。
それから50年が経過し,今年,JICAボランティア・エルサルバドル派遣50周年を迎えることができました(注)。1月にはエルサルバドルに派遣された元協力隊員,協力隊時代の同僚,そしてエルサルバドルのサンチェス・セレン大統領を始めとする政府高官が列席する中,50周年記念式典が開催されました。
(注)2018年8月までのJICAボランティア派遣実績:青年海外協力隊534名,シニアボランティア36名
式典では,50年前に派遣された元協力隊員と,当時の教え子がほぼ50年ぶりの再会を果たし,会場は感動に包まれました。エルサルバドル国内では,この式典の模様が大きく報道され,改めてJICAボランティアの功績が称えられました。
先日,エルサルバドルの地方の町を歩いていると,見知らぬ男性から「日本人か?マサコのことは知っているか?」と呼び止められました。もちろん,その「マサコ」さんのことを知る由もなく,だれなのかを聞いてみると,かれこれ40年ほど前に協力隊員として派遣された日本人で,その男性は小学生の時にマサコさんから体育を教わったということでした。その後もその男性は昨日のことのように当時のことを楽しげに語ってくれました。
JICAボランティアの活動は,非常に地道なもので,隊員の2年間は格闘の毎日です。言葉が通じない。思いが伝わらない。日本人と全く考え方が違うため,思うように活動が進まない。いったい自分は何のためにこの国に来たのかと自問する日々。多くのボランティアは,そんな葛藤を繰り返します。
目に見える成果がすぐに得られないケースも多く見られます。それでも,先の男性のように,長い月日が過ぎた今もボランティアとの日々を鮮明に記憶に残している人が,このエルサルバドルにはたくさんいます。このようなことが,ここエルサルバドルだけではなく,協力隊が活動する世界各地で起こっているのです。
JICAボランティア事業は,ほかのODA事業とは若干異なった性格のものかもしれません。日本人との思い出が,人々の記憶にいつまでも残り続け,行ったこともない日本に親しみを覚えてくれます。また,協力隊から帰ってきた日本人は,その国のことをいつまでも語り継いでいきます。これも,ODA事業のひとつの大きな成果なのかもしれません。まさしく「顔の見える外交」を約2,300名の日本人が,今もなお世界中のどこかで行っているのです。
「『世界津波の日』2018高校生サミットin和歌山」の開催告知
原稿執筆:国際協力局地球規模課題総括課 渡邊 幸治 外務事務官
2015年11月,第70回国連総会において,日本を始め世界142か国が共同提案した,11月5日を「世界津波の日」とする決議が全会一致で採択されました。
この日が「世界津波の日」とされたのは,安政元年(1854年)11月5日,安政南海地震による津波が現在の和歌山県広川町を襲った際,濱口梧陵(ごりょう)が稲むらに火をつけ,この火を目印に村人を高台へ導き,津波から多くの命を救った故事にちなんだものです。
梧陵はその後も,莫大な私財を投じて村の再生を支援し,将来の津波に備えて堤防を築きました。この堤防(広村堤防)は,昭和21年12月の昭和南海地震による津波の被害を最小限に抑えました。
日本は,自然的条件から台風・豪雨・洪水・地震・津波などによる災害が発生しやすい国土です。数々の災害経験により蓄積した防災・減災に関する知見を活かして,「世界津波の日」の制定を切り口に,防災の様々な分野において国際協力を推進しています。今回は,そのような日本の防災協力の例として「世界津波の日 高校生サミット」についてご紹介します。
「世界津波の日 高校生サミット」は,地震・津波など自然災害にぜい弱な国の高校生を日本に招へいし,日本の高校生とともに日本の津波の歴史や各国における防災・減災の取組等の学習を通じ,防災の経験と教訓を未来の防災リーダーを担う若者に引き継いでいく青少年交流事業です。
2016年11月に高知県黒潮町,昨年11月は沖縄県宜野湾市で,「世界津波の日 高校生サミット」が開催されました。3回目となる本年のサミットは,濱口梧陵の生誕地で「稲むらの火」発祥の地である和歌山県で10月31日から11月1日にかけて開催し,日本を含む49か国の高校生が参加予定です。
外務省は,高校生サミットを後援するとともに,海外高校生の招へいを担当しています。本年8月に東京で二階俊博自由民主党幹事長,仁坂吉伸和歌山県知事,西岡利記広川町長,高校生議長が出席した合同記者発表が行われた際に,高校生議長2名が外務省を訪問しました。
高校生サミットでは国籍を越えて,防災,減災に関して活発な議論が行われることを期待しています。サミットの成果は最終的に「稲むらの火継承宣言」としてとりまとめ,高校生議長が発表を行う予定です。
サミット開催前には,参加高校生は和歌山県広川町主催の「稲むらの火祭り」に参加するほか,濱口梧陵が築いた広村堤防や「稲むらの火の館」(津波防災教育センター),津波避難用の高台を視察する予定です。
「世界津波の日 高校生サミット」を通じ,参加高校生が津波をはじめとする自然災害の脅威や防災・減災の取組を学び,防災への理解を深め,将来各国で防災・減災分野において主導的な役割を担うリーダーとして活躍することを大いに期待しています。
日本はそのような若手防災リーダーの育成に尽力し,津波をはじめとする自然災害から一人でも多くの尊い命を守るため,引き続き防災分野で国際社会に貢献していきます。
ジャパン・プラットフォームによる緊急人道支援【第9弾:南スーダンにおける飢饉に対するJPFの取組み SDGsの実現に向けて】
原稿執筆:ジャパン・プラットフォーム(JPF)助成事業推進部 樋口 博昭
ジャパン・プラットフォーム(JPF)のODAメールマガジン第4弾「南スーダンの人の力を生かす」では,南スーダン周辺国での衛生事業をご紹介しました。今回は,現地の深刻な飢饉に対するJPFの取組をご紹介します。
2011年7月9日にスーダンから独立し,新しい国家として歩み始めた南スーダンは,2013年12月に勃発した政府軍と反政府軍の衝突により,状況が一変しました。それ以来,南スーダンの長引く紛争の影響で破綻的な経済状況,気候変動の影響,および避難を強いられた人々が農業に従事できない状況などが相まって,南スーダンの食糧・栄養危機は深刻な状態に陥りました。2017年2月には旧ユニティ州の一部地域で飢饉宣言が出され,また,国内の約100万人が飢饉寸前の状態にあったのが,同年7月には170万人が飢饉寸前の状態にまで陥りました。
JPFは,このような状況に鑑み,国内の飢饉対応を最優先に,本格的な支援を実施しています。JPF加盟NGOのワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)は,南スーダンのワラップ州トゥイッチ郡(現トゥイッチ州)にて5歳未満児および妊娠・授乳中の母親を対象にコミュニティを基盤とした急性栄養不良の管理を実施し,栄養状態の改善に貢献しました。
具体的には急性栄養不良により命を落としてしまう危険がある5歳未満児に,栄養治療を提供し,子どもたちの命を救いました。この事業では,単に栄養治療を施すだけではなく,今後のことを視野に入れ,JPF加盟NGOだけではなく,栄養補助食や栄養治療食を支援する国際機関(WFP(世界食糧計画),UNICEF(国連児童基金)),および保健サービスを担う当地の保健局などと連携し,地域に根ざした急性栄養不良管理研修を実施しています。68人の栄養アシスタントを含む保健スタッフと122人のコミュニティ栄養ボランティアに研修を行い,今後も起こりうる飢饉というリスクに,村人自身で対処できるよう人材育成に貢献しました。
2015年9月の国連サミットにて全会一致で採択された「持続可能な開発目標:SDGs(Sustainable Development Goals)」から,今月で丸3年。
SDGsでは,2030年を期限として世界共通の17の目標を掲げ,「Leave No One Behind(誰一人取り残さない)」世界の実現を目指しています。JPFも日々の活動を通して,課題解決のための連携を推進するプラットフォームとなるべく,政府や企業,NGO,そして地域や個人の力を合わせて,人道危機における課題に取り組んでいます。
【イベント報告】 「グローバルフェスタJAPAN2018」を開催しました!
原稿執筆:国際協力局政策課広報班
9月29日(土曜日),東京のお台場センタープロムナードにて,国内最大級の国際協力イベント「グローバルフェスタJAPAN2018」が開催されました(外務省共催)。
今年は「Action for all 小さなことから変わる明日へ」をテーマに,268団体(NGO,企業,国際機関,在京大使館等)が出展。台風24号の接近に伴い,予定していた2日目(30日(日曜日))は残念ながら中止となってしまいましたが,雨天にもかかわらずのべ43,888人もの方に足を運んでいただき,肌寒さを吹き飛ばす熱気に包まれた1日となりました!
今年のグローバルフェスタは,5月に福島県いわき市で開かれた第8回太平洋・島サミット(PALM8)で広報親善大使をつとめた「フラガール」の皆さんの素敵なパフォーマンスで幕を開けました。
また,ODA(政府開発援助)について皆様にご理解いただくために外務省から任命されて誕生した,アニメ「秘密結社 鷹の爪団」の主人公「吉田くん」扮する「ODAマン」が,着ぐるみ姿で初登場し,共催者を代表して挨拶に立った堀井巌外務大臣政務官と,オープニングを盛り上げました。
毎年恒例の外務省写真展(オリンパス株式会社協賛)は,「わたしたちのAction」をテーマに,今年はじめて,専用の投稿サイトでのコンテスト形式で展示作品を募集。例年を大きく上回る231点の応募の中から,グローバルフェスタJAPAN2018実行委員会による審査を経て,最優秀賞1作品,優秀賞2作品が選ばれました。また,コンテストサイト上で最も多くの「いいね!」を集めた作品が,いいね!賞を受賞しました。
写真展には,受賞作を含め計93点が展示され,多くの人が,写真を通して知る国際協力の世界に熱心に見入っていました。
この日の目玉の一つ,ODAマンのスペシャルステージ「鷹の爪団の 行け!ODAマン」では,ODAマンが,世界に役立つ日本のODAについて,原作者でもある声優のFROGMAN氏の生アテレコでユーモラスに紹介。本降りの中,大勢の人が詰めかけ,会場は笑いに包まれました。
この日一番の盛り上がりを見せたのが,ODAマンの会場練り歩き!サプライズで登場したリアルODAマンに,みんな大興奮。降りしきる雨をものともせず,ハイタッチやODAマンポーズで雨を吹き飛ばしました。
国際協力の最前線が詰まった広い会場は,268のさまざまな団体による活動報告や各国料理,体験イベントなどでにぎわい,またステージでは,共催者や出展者による多彩なプログラムが実施され,多くの人が熱心に耳を傾けていました。
グローバルフェスタを通じて多くの方に「国際協力」に関心を持っていただき,自分にできるActionを見つけていただくことができました。ご来場いただきました皆様,ご協力いただきました皆様,本当にありがとうございました!!来年もよろしくお願いいたします!!
イベント当日の様子を動画で見る
最近の開発協力関連トピック
- (1)ショートアニメ「鷹の爪団の 行け!ODAマン」好評公開中です!
人気アニメ「秘密結社 鷹の爪団」の吉田くんがODAマンに変身してODAを楽しく,わかりやすく解説!
「鷹の爪団の 行け!ODAマン」ぜひご覧ください! - (2)ODA出前講座
立命館大学の国際関係研究科の学部・大学院留学生が来省し,ODA出前講座を英語で実施しました!開催報告がアップされましたので,ご覧ください。ODA出前講座の申請についてはこちらから。 - (3)海外における開発協力広報(広報パンフレット)
在外公館では,英語やその国の言語で日本の開発協力に関するパンフレット等を作成しています。日本による開発協力の歴史,理念,個別案件などを分かりやすくまとめ,相手国政府関係者やプレス等の様々な方々に配布しています。このたび,新たに作成されたヨルダン(PDF)のパンフレットをホームページに公開しました。 - (4)JICA広報誌「mundi」の外務省ページが新しくなりました!
mundiで「ココシリ」として連載していた外務省ページが「教えて!外務省 知っておきたい国際協力」としてリニューアルしました。記念すべき第一弾のテーマは「ODAで外務省とJICAはどう連携しているの?(PDF)」です。外務省とJICAそれぞれの役割について,外務省員が答えます!