2 中央アジア諸国とコーカサス諸国
(1)総論
中央アジア・コーカサス諸国は、アジア、欧州、ロシア、中東を結ぶ地政学的な要衝に位置するほか、石油、天然ガス、ウランなどの豊富な天然資源を有する。また、同諸国を含む地域全体の安定、テロとの闘い、麻薬対策といった国際社会が直面する重要課題に取り組んでいく上でも高い重要性を有する。
日本はこれら諸国との二国間関係の強化を、要人往来などを通じて引き続き図るとともに、「中央アジア+日本」対話4の枠組みなどを活用した地域協力促進のための取組を続けている。
(2)中央アジア諸国
日本は、中央アジアの「開かれ、安定し、自立的な発展」を支え、地域協力の発展のための「触媒」として地域及び国際の平和と安定に寄与することを目的とした外交を推進しており、二国間関係の着実な強化、「中央アジア+日本」対話を通じた地域協力の促進・地域共通の課題への貢献及びグローバルな舞台での協力を中央アジア外交の柱としている。
2019年においては、前年に引き続き要人往来などの活発な交流が行われた。10月の即位礼正殿の儀に際してはナザルバエフ・カザフスタン初代大統領、ジェエンベコフ・キルギス大統領、ベルディムハメドフ・トルクメニスタン大統領が訪日し、安倍総理大臣との会談を行った。ナザルバエフ初代大統領は安倍総理大臣との会談において、日本が進めている「中央アジア+日本」対話に賛辞を述べつつ、両首脳は同対話などを通じた地域協力を進めることで一致した。ジェエンベコフ大統領は安倍総理大臣との会談で、2015年の安倍総理大臣のキルギス訪問から両国関係は大きく進展していると述べつつビジネス面で協力を発展させたいとの期待を示した。ベルディムハメドフ大統領との会談では、安倍総理大臣からトルクメニスタンの豊富な資源と日本の質の高いインフラを組み合わせることでトルクメニスタンの発展に大きく貢献できると発言があり、両首脳は様々な課題について協力していくことで一致した。
12月にはミルジヨーエフ・ウズベキスタン大統領、カミーロフ外相ほかが訪日した。このうち、ミルジヨーエフ大統領は初の訪日となり、名古屋・東京を訪問するとともに、安倍総理大臣と初の首脳会談を行った。安倍総理大臣は、伝統的な親日国であるウズベキスタンとの友好関係を改めて確認し、改革が進む同国の発展のため電力・農業分野などでの新たな支援(総額約1,900億円の円借款を含む。)を表明し、両首脳は経済面を始めあらゆる分野での交流・協力を拡大させることで一致した。また、両首脳は、日本とウズベキスタンとの間の戦略的パートナーシップの更なる深化及び拡大に関する共同声明に署名した(この機会に、日・ウズベキスタン租税条約及び税関相互支援協定にも署名)。

(12月19日、東京 写真提供:内閣広報室)
日本からは、5月に河野外務大臣がタジキスタンを訪問し、「中央アジア+日本」対話・第7回外相会合に出席した。同会合では、日本と中央アジアの協力の実績・方向性を再確認するとともに、新たな実践的協力の分野として「観光」に焦点を当てた議論が行われた。また、貿易・投資・開発分野についても議論し、共同声明及び地域協力行動計画を採択するとともに、地域のビジネス環境改善を後押しすること及び地域安全保障における地域協力の重要性が確認された。

(5月18日、タジキスタン・ドゥシャンベ)
また、この機会を利用して、タジキスタン、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス及びアフガニスタンとの外相会談を行った。
このほか、中央アジア諸国からは、3月にサリムゾーダ・タジキスタン日本友好議員連盟会長一行及びイシムバエヴァ・カザフスタン下院副議長一行、ベルディムハメドフ・トルクメニスタン・アハル州副知事、7月にガニーエフ・ウズベキスタン副首相、10月にウムルザーコフ・ウズベキスタン投資・対外貿易相、サファーエフ・ウズベキスタン上院第一副議長が訪日した。
近年、中央アジア諸国の間では、地域協力を推進しようとする動きが見られる。6月にアジア信頼醸成措置会議(CICA)第5回首脳会合、上海協力機構(SCO)第19回首脳会合、10月に独立国家共同体(CIS)首脳会合、11月に集団安全保障条約機構(CSTO)首脳会合が開催された。また、11月には1年半ぶりに第2回中央アジア諸国首脳協議会合がタシケント(ウズベキスタン)で開催され、前回欠席したトルクメニスタン大統領を含む全5か国の首脳級が出席し、同会合では、経済、運輸、地域安全保障、環境などでの域内協力を謳(うた)った共同声明を採択するとともに、首脳・外相会合の定例化を決定した。
(3)コーカサス諸国
コーカサス地域には、ジョージアにおける南オセチア・アブハジアや、アルメニアとアゼルバイジャンとの間のナゴルノ・カラバフをめぐる紛争が依然として存在するが、同時に同地域は、アジア、欧州、中東をつなぐゲートウェイ(玄関口)としての潜在性と国際社会の平和・安定に直結する戦略的重要性を有している。河野外務大臣は、2018年にコーカサス諸国を訪問した際、同地域に対する日本外交の基本方針として、①国造りを担う人造り支援(人材育成)及び②魅力あるコーカサス造りの支援(インフラ支援及びビジネス環境整備)の2本柱から成る「コーカサス・イニシアティブ」を発表し、2019年は各国との間で以下のとおり協力を進展させた。
アゼルバイジャンとの関係では、3月にジャバロフ国税相が訪日し、うえの賢一郎財務副大臣や阿部俊子外務副大臣との会談などを行った。日本からは、山田賢司外務大臣政務官が9月にアゼルバイジャンを訪問し、アリエフ大統領臨席の下、日本の有償資金協力により建設された「シマル・ガス火力複合発電所2号機」開所式に出席した。また、マムマドフ首相へ表敬を行うとともに、メメディヤロフ外相との会談及びババエフ環境・天然資源相兼日・アゼルバイジャン経済合同委員会委員長との会談を行った。

アルメニアとの関係では、5月に日・アルメニア投資協定が発効した。これにより、両国間の投資促進及び経済関係の一層の緊密化が期待される。10月の即位礼正殿の儀に際しては、サルキシャン大統領が参列のため訪日し、安倍総理大臣と会談を行った。両首脳は、両国の経済分野での協力に触れつつ、今後の新たな協力に向け緊密に連携することで一致した。
ジョージアとの関係では、3月にバフタゼ首相が訪日した。バフタゼ首相は大阪・東京を訪問し、河野外務大臣との間で両国投資協定の本文についての実質的な交渉妥結を確認・歓迎するとともに、麻生太郎副総理兼財務大臣との会談などを行ったほか、都内で開催された日・ジョージア・ビジネスフォーラム及びジョージア・ワイン展のオープニング式典に出席した。また、同行のコブリア経済・持続的発展相は日本企業とジョージア経済・持続的発展省との間の協力に関する覚書に署名した。10月の即位礼正殿の儀に際して訪日したズラビシヴィリ大統領は安倍総理大臣との会談において、安倍総理大臣が述べた投資協定の重要性に賛意を示しつつ、更なる関係強化への期待を述べた。

4 日本は中央アジアの安定と発展には地域共通課題の解決に向けた地域協力が不可欠との観点から、日本が「触媒」として地域協力を促していくために「中央アジア+日本」対話の枠組みを2004年に立ち上げた。これまで7度の外相会合のほか、有識者やビジネス関係者の参加も得て様々な議論を実施してきている。設立から15年以上が経ち、近年は実践的な協力に重点を置いている。