第6節 中東と北アフリカ
1 概観
中東・北アフリカ地域(以下「中東地域」という。)は、欧州、サブサハラ・アフリカ、中央アジア及び南アジアの結節点という地政学上の要衝に位置する。世界の石油生産の約5割、天然ガス埋蔵量の約5割を占め、世界のエネルギーの供給地としても重要であることに加え、近年では高い人口増加率(過去10年間で17.3%)を背景に、湾岸諸国を中心に経済の多角化を進めており、市場としても高い潜在性を有している。
同時に中東地域は、歴史的に様々な紛争や対立が存在し、今も多くの不安定要因・課題を抱えている。イランをめぐり地域の緊張が高まっていることに加え、2011年に始まった「アラブの春」以降の政治的混乱も各地で継続している。シリアにおいて戦闘が継続し、大量の難民・国内避難民が生まれ、周辺国も含めた地域全体の安定に大きな影響を及ぼしているほか、イエメンにおいても、イエメン政府及びアラブ連合軍(イエメン政府の要請を受け、サウジアラビアなどが主導)と、ホーシー派との間での衝突により、厳しい治安、人道状況が継続している。また、1948年のイスラエル建国以来の歴史的課題である中東和平問題に加え、「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」に代表されるような暴力的過激主義の拡散のリスクも今なお各地に残存している。こうした課題を解決し、中東地域の平和と安定を実現することは、日本を含む世界全体の平和と安定にとって極めて重要である。
日本は、原油の約9割を中東地域から輸入しており、日本の平和と繁栄のためにも、中東地域の平和と安定を促進し、中東地域諸国との良好な関係を維持、強化していくことが、極めて重要である。こうした観点から、日本は、近年、経済のみならず、政治・安全保障、文化・人的交流を含めた幅広い分野で、中東地域諸国との関係強化に努めている。2019年には中東地域における緊張の高まりを受け、6月の安倍総理大臣のイラン訪問や、12月のローハニ・イラン大統領の訪日を含め、日本は積極的な外交努力を行った。また、日本関係船舶の航行の安全を確保するため、12月、政府として、地域の緊張緩和と情勢の安定化に向けた更なる外交努力、航行安全対策の徹底とともに、情報収集態勢強化のための自衛隊の活用を行う方針を閣議決定した。