ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:令和元年11月21日
評価責任者 国別開発協力第一課長 渡邊 滋
1 案件概要
(1)供与国名
ミャンマー連邦共和国(以下,「ミャンマー」という。)
(2)案件名
ヤンゴン下水道整備計画
(3)目的・事業内容
ヤンゴン市における下水処理場の改築・増設及び下水管の更新・新規敷設を行うことにより,同市内の下水道サービスの改善を図り,もって同地域住民の生活環境の改善に寄与するもの。
- ア 主要事業内容
- 下水処理場の改築・増設
- 下水管の更新・新規敷設
- 路地裏排水の分流化及び路地裏排水管の更新
- コンサルティング・サービス
- イ 供与条件
供与限度額 金利 償還(据置)期間 調達条件 459億円 年0.01% 40(10)年 一般アンタイド
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価:本計画は「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」に掲げる影響を及ぼしやすいセクター・特性及び影響を受けやすい地域に該当せず,環境への望ましくない影響は重大でないと判断されるため,カテゴリBに該当する。
- イ
- 用地取得及び住民移転:本計画では,既存の下水処理場敷地内及びその他公有地で実施される事業であるため,用地取得は発生しない。非自発的住民移転の対象にはならないものの,下水処理施設内に居住する職員及びその家族を対象とした転居が発生する見込みだが,従前の生活・生計を維持できる住居が確保されるため,影響は最小限となる見込み。
- ウ
- 外部要因リスク:特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
ミャンマーでは,2011年の民政移管・経済の自由化以降,高い経済成長を続けており,特に,同国の経済活動の中心地であるヤンゴン都市圏には国内外からの投資が集まり,急速に開発が進んでいる。その結果,同国最大の商業都市であるヤンゴン市には,全人口5,141万人(2014年)の約1割にあたる521万人が集中し,約500,000 立方メートル/日(2011年(ヤンゴン市上下水道改善プログラム協力準備調査))の下水(し尿,生活雑排水,事業所排水)が発生している。
このうち,し尿処理については,同市の中心商業地区(人口約25万人(2014年),約43,000 立方メートル/日(2014年)の下水が発生)において,19世紀末の英国植民地時代に整備されたし尿回収管路があり,当該管路につなぐ形で,2005年に同国政府が自己予算で下水処理場(処理能力約15,000立方メートル/日)を建設している。他方,し尿回収地域の拡張は進んでおらず,また,し尿回収管路の圧送ポンプの故障や老朽化した管からの漏水等により,下水処理場への汚水流入量は推定630 立方メートル/日程度に留まっている。さらに,同下水処理場についても,水位・水質・水温の計測はされておらず,1日4時間の運転期間中,短時間に大量の汚水を処理施設に流入させており,水質の負荷変動が大きい。中心商業地区以外におけるし尿処理については,その大半は腐敗槽などの個別排水処理施設で処理を行っているが,汚泥の引き抜きや清掃等の適切な管理が行われていない。その他のし尿は,未処理で雨水排水路に排出されている。
生活雑排水,事業所排水の処理については,中心商業地区も含めて未処理のまま雨水排水路に排出され,同市内の河川・湖に流入して水質悪化を招いている。また,雨季には雨水排水路から下水が混入した水が同市内に溢れて浸水被害が起きており,衛生環境の悪化を招いている。
このような状況下,有償資金協力「ヤンゴン都市圏上水整備事業(フェーズ2)」により,中心商業地区内の上水道整備が進むこと等に伴い,同地区内の下水量は将来的に約112,000立方メートル/日に達することが見込まれており,下水処理場の改修・拡張が喫緊の課題となっている。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
2012年4月に見直した我が国の対ミャンマー経済協力方針では,「持続的経済成長のために必要なインフラや制度の整備等の支援」を重点分野の一つとしており,本計画は同方針に合致している。また,2016年11月の安倍内閣総理大臣とアウン・サン・スー・チー・ミャンマー国家最高顧問との会談において安倍内閣総理大臣が表明した「日本・ミャンマー協力プログラム」では,「都市開発・都市交通」は重要な協力プログラムの一つとして掲げられている。我が国はこれらプログラム実施のために官民合わせて2016年度から5年間で8千億円規模の貢献を行う旨表明しており,本計画はそれを具体化するものであり,二国間関係の強化に資するとともに,同国における我が国のプレゼンス向上にもつながることから,外交上の意義も大きい 。
(2)効率性
ヤンゴン市の水セクター支援として,有償資金協力「ヤンゴン都市圏上水道整備事業」及び「ヤンゴン都市圏上水整備事業(フェーズ2)」により,中心商業地区を含む同市内及びティラワ経済特区への給水を支援。また,技術協力「ヤンゴン市開発委員会水道事業運営改善プロジェクト」を通じて,本計画の実施期間の上水道部門の運営・維持管理能力の強化を支援中。これら他スキームとの連携により本計画の効率性を確保する。
(3)有効性
本計画の実施により,未処理の生活排水による汚濁負担の軽減を図る。事業完成2年後の2030年には事業対象地域における汚水処理人口256,107人(2017年実績値:106,330人),汚水処理量86,823立方メートル/日(同:630立方メートル/日),下水処理能力112,000立方メートル/日(同:15,000立方メートル/日)及び下水道普及率96%(同:42%)となる見込みであり,ミャンマー国民の生活環境の改善に寄与する。
3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用
要請書,「メコン地域のODA 案件に関わる日本の取組の評価(第三者評価)」報告書(2014年度)(PDF),「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」( 2010年4月制定)
,その他国際協力機構より提出された資料。
本計画に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお,本計画に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。