ODA(政府開発援助)

2023(令和5年)年9月28日発行
令和5年9月28日

ICPD30とSDGs:80億人の世界における課題

国連人口基金(UNFPA)駐日事務所

 2015年に策定された「持続可能な開発目標(SDGs)」は今年、中間点を迎えました。2030年の達成期限を見据えた今、進捗状況を振り返ることは極めて重要です。このメールマガジンの読者の方々は良くご存知だとは思いますが、SDGsは貧困、不平等、環境の持続可能性など、17の野心的な目標により構成され、地球規模の課題に取り組むことを目指しています。しかし、それぞれの課題の進捗状況には大きな差があり、特に目標3に含まれる、妊産婦の死亡率の削減に関しては、目標達成までにはほど遠いという深刻な課題が私たちの前に立ちはだかっています。

深刻な妊産婦死亡率の現実

UNFPAは、世界各国で助産師や看護師に妊産婦ケアの研修を提供しています。 【写真提供:UNFPA/Luis Tato

 国連人口基金を含む、複数の国連機関が今年共同発表した報告書(注1)によると、推定で1日に約800人の女性が妊娠・出産の合併症が原因で亡くなっています。また、2000年に339件(出生10万対)であった妊産婦死亡率は、2015年には227件に減少したものの、2020年には223件と、この5年間の平均年間減少率はわずか0.04%に留まっています。この厳しい現実を見る限り、「世界の妊産婦死亡率を出生10万人当たり70人未満に減少させる」というSDGsのターゲット3.1は、依然として達成困難であると言わざるをえません。

  • 避難生活を送る人々妊娠3か月のザイブの様子
    パキスタンの洪水被害に遭い、仮設住宅で避難生活を送る妊娠3か月のザイブ。
    マラリアを患っているものの、必要な薬を買うためのお金がありません。
    【写真提供:UNFPA/Shehzad Noorani

 妊産婦死亡率は、特に低中所得国(LMICs)において大きな課題となっています。医療インフラが不十分なために質の高い妊産婦ケアへのアクセスが限られていることが、これらの地域で妊産婦死亡率が高止まりしている一因となっています。そのため、様々な国際的な取り組みが行われているのにもかかわらず、この目標の達成はSDGsの中で最も困難であるとみなされています。

(注1)“Trends in maternal mortality 2000 to 2020”(英語)(PDF)別ウィンドウで開く(WHO、2023)より

求められる課題解決への財政的コミットメント

 この課題に取り組むためには、何よりも財政的コミットメントが必要です。UNFPAは、予防可能な妊産婦死亡を無くすために1,155億米ドル、家族計画の未充足ニーズを満たすために685億米ドル、またジェンダーに基づいた暴力をなくすために420億米ドルという膨大な費用が必要だと見積もっています(注2)。これらの数字は、妊産婦の健康を守り、ジェンダーの平等を推進することの経済的な規模の大きさを示しています。

  • Table 2. Achieving the three transformative results: cost and funding gap
    UNFPAのマンデート達成に必要な資金

(注2)“Costing the Three Transformative Results”(英語)(PDF)別ウィンドウで開く(UNFPA、2020)より

ICPDと性と生殖に関する健康・権利の問題への取組

1994年にカイロで開催された国際人口開発会議 【写真提供:UN Photo

 国際社会が性と生殖に関する健康・権利の問題に取り組むようになった原点は、1994年にカイロで開催された国際人口開発会議(International Conference on Population and Development:ICPD)にあります。ICPDでは、世界中の人口問題および性と生殖に関する健康に取り組むあらゆる人々にとって重要な節目となりました。また、子供を産むか産まないかを選ぶ権利は、全ての人が持つ基本的人権であり、他者や政府ではなく個人の意思決定が尊重される必要性が、国際会議の場で初めて認められたのです。また、ジェンダーの平等が持続可能な開発のために不可欠であることも指摘されました。

ジェンダー平等の重要性:からだの自己決定権や人口問題との関連

妊娠9か月のシャンティは次の子供も男の子が欲しいと話します。「男の子はお金を稼ぎ、親の面倒を見てくれます。でも女の子は何をもたらすと言うんですか?」 【写真提供:UNFPA/Shehzad Noorani

 しかし、現在でも世界中の多くの女性が、自らのからだの自己決定権を保障されていません。さらに、この課題は途上国に限ったことではありません。米国のような先進国でさえも、昨年来の人工妊娠中絶の権利に対する規制に見られるように、女性のからだの自己決定権に対する懸念が高まっています。国や地域により、その状況は様々であるものの、女性の性と生殖に関する健康・権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)に対する障壁は、途上国、先進国に関わらず、全ての国が抱えている世界共通の課題です。

 また、人口問題とジェンダー問題はどのように関わっているのでしょうか。人口動態とジェンダーの平等は、一見直接的な関連が無いように見えるものの、実は表裏一体の関係にあります。例えば、中国、インド、東欧諸国などで見られる新生児の「ジェンダーに基づく性選択(Gender-based sex selection)」です。これらの地域では、男児選好により新生児の男女比が歪められ、ジェンダーの不平等が浮き彫りにされています。

UNFPAを通じて、家族計画サービスを得ることができたブラジルの先住民・マクシ族のレティシア。生みたい子供の数を自ら決められることにより、学校の先生として先住民族の文化を継承する夢も追求できるようになったと話します。 【写真提供:Newsha Tavakolian/Magnum Photos For UNFPA

 さらに、ジェンダー不平等の影響は出生率にも現れます。出生率が高い国では、家族計画サービスへのアクセスが不十分なため、本来望んでいるより多くの子供を産んでいる現状があります。一方で、日本を含む少子化が進む国では、本来望む数の子供を現実に持つことができていないことがしばしばあります。この問題の背景には、育児や家事に関して極端に不平等な役割分担があったり、女性(と母親)が差別されるような職場環境がある場合には、女性にとっての機会費用(opportunity cost)が高くなることが一因として挙げられます。途上国や先進国に関わらず、女性が望む数の子供を持つことが出来ない二極化した現状は、世界中の女性がリプロダクティブ・ヘルスに関する自己決定権が保障されていないという現実を示しているのです。

SDGs達成に向けて一層重要になる性と生殖に関する権利・健康

パキスタンの洪水被害を受け、避難所で子供5人を育てるハディア。地球温暖化による気候被害は女性により大きな負担を強いることが分かっています。 【写真提供:UNFPA/Shehzad Noorani】

 妊娠、出産に関する決定は、私たち人間の最も基本的な人権であり、徳に女性のライフコースや健康と密接に関連しています。したがって、性と生殖に関する健康(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス)の保障は、個人とりわけ女性の権利の保護とともに、開発に不可欠な要素となっています。2030年までのSDGs達成に向けた困難な道のりを進む中で、妊産婦死亡率の削減、ジェンダーの平等の推進、そして個人のからだの自己決定権に優先的に取り組むことが重要です。このように、約30年前にこれらの原則を提唱したICPDの行動計画は、世界人口が80億人を超えた現在においても、すべての人にとってより公平で持続可能な世界を目指す私たちの道のりを照らす指針としての役割を果たし続けています。その実現のためにすべきことは、まだ多くありますが、SDGsそしてICPDの行動計画の達成に対する私たちの取り組みは揺らぐことはありません。

ODA(政府開発援助)
ODAとは?
広報・イベント
国別・地域別の取組
SDGs・分野別の取組
ODAの政策を知りたい
ODA関連資料
皆様の御意見
ODAエピソード集へ戻る