ODA(政府開発援助)
ODAメールマガジン第418号
ポン菓子でソマリアから暴力主義を追い出せ

国連工業開発機関(UNIDO)アグリビジネス部 石川 明美
ソマリアの人々に影を落とす存在


国際労働機関(ILO)によると,ソマリアの人口の70%は16歳から34歳までの若者で,その失業率はソマリア南中部で約25%もあります。なかでも若い女性は,財政的に最も困窮した状況にあり,治安当局が「疑わしい若しくは危険な」存在として認識していないことから,暴力的な過激組織に勧誘されやすい傾向にあります。彼女たち自身が戦闘員や自爆テロ犯となることもありますが,その多くは戦闘員の勧誘や後方支援など,直接戦闘に関係のない役割を担っています。
アル・シャバーブは,アルカイーダに忠誠を誓う,ソマリア南部を中心に活動するジハード主義のイスラム原理主義グループです。アル・シャバーブのメンバーは,若者たちに甘い言葉を囁き,コミュニティに容易に入り込みます。地元では,ほとんど雇用機会のない彼らにとって,アル・シャバーブが提供する安定的で十分な額の収入は,非常に魅力的なものです。
社会安定化を目指した研修

このような状況の下,日本政府は暴力的な過激組織への若者たちの参入を減らし,地域の社会的安定化に貢献すべく,UNIDOが提案した『ヒー=シャベリの安定化及び若年層に広がる暴力的過激主義の予防のためのコミュニティ復興支援』プロジェクトを採択しました。プロジェクトの対象地であるベレトウェインは,ソマリア南中部に位置する農業の盛んな地域で,2016年にソマリアの最も新しい自治州となったヒー=シャベリ自治州の州都です。
UNIDOは,これまでのソマリアでの経験と実績を元に,本プロジェクトでは,「職業技術訓練」と「暴力的過激主義予防・対策」といった2つのアプローチをとることにしました。「職業技術訓練」では,既存の4つの技術・職業技能訓練所の改修と機材供与,技術訓練の提供を通じ,暴力的な過激組織への参入の代わりとなる,雇用機会と生計手段の創出を目指しました。「暴力的過激主義予防・対策」では,特定非営利法人日本紛争予防センター(JCCP)と協力して,若者たちが自らの意思で暴力的な過激組織への参入の是非を問えるようになるよう,情報を与えるためのネットワークの構築を目指しました。この結果,10人の若者が「指導員となるための暴力的過激主義予防・対策研修」を,166人の若者が「職業技術訓練」および「暴力的過激主義予防・対策研修」を修了しました。
現地で作れるポン菓子で収入向上をはかる

女性専用カシャタ製造所

UNIDOは新製品の導入こそが経済を活性化し,雇用機会を創出するのに最も効果的であると考え,「職業技術訓練」の中でポン菓子製造のための機材供与と技術研修を企画しました。あの素朴な味のひなあられにも入っているポン菓子です。新製品は現地に合ったものでなくてはならないと考え,UNIDOは2017年に,国際農林業協働協会(JAICAF)および国際生物多様性センター(バイオバーシティ・インターナショナル)のプロジェクトの一環としてケニアで製造された穀物膨張機,つまりポン菓子製造機に目をつけました。このプロジェクトは,ケニア農村部で地域農産物に付加価値をつけることで,住民の収入向上に結び付けることを目的としていました。UNIDOは,このケニアでのプロジェクトの実績を元に,日本の「おこし」に似た地元のお菓子,カシャタ製造の研修を行うと共に,「職業技術訓練」で行われている「建設技術研修」の実務訓練の一環として,女性専用カシャタ製造所を建設することにしました。

研修では,ポン菓子製造機の使い方や現地で調達可能なとうもろこし,ソルガムなどの材料を利用しマンゴー,はちみつ,シナモン,カルダモンといった現地で馴染みのある味付けをしたカシャタの作り方を女性たちに指導しました。プロジェクトで建設された女性専用の製造所は,女性たちに生産拠点を提供しているほか,社交の場にもなっています。
カシャタの製造・販売により,女性たちの平均収入は,約20%も増加しました。彼女たちが初めて製造したカシャタは完売となり,ホテル,レストラン,子どもたちに人気を博しているほか,国連世界食糧計画(WFP)がその流通に関心を持っています。

本当におこしみたいですね!
横で味見している人も…。
女性たちの過激主義の予防とその対応における役割を侮ってはいけません。ある女性は,ベレトウェインから30キロメートル離れたアル・シャバーブの過激派キャンプから二人の甥を救い出すのに成功したのですから!
これからも,UNIDOは,現地に根ざした経済的自立性を高める試みを支援し,暴力的過激主義の誘いに惑わされない社会を作ることに貢献していきます。
「2019年版開発協力白書」の公表
世界を結び,未来を紡ぐ日本の国際協力
外務省 国際協力局 開発協力企画室
外務省では,毎年,日本の開発分野での取組や開発協力の実績などをまとめた開発協力白書を発行しており,この度,「2019年版開発協力白書 日本の国際協力」を公表しました。
今回の白書の見どころは以下のとおりです。
- 「世界を結び,未来を紡ぐ」という副題を付け,G20大阪サミット,TICAD7や,これらの会議で打ち出された質の高いインフラ,教育・人材育成やイノベーションなどの取組について特集しています。
- コラム記事では,国際協力の現場で活躍する日本人や,日本の中小企業の活躍などを紹介しています。
- 「参加型白書」を目指して題材を公募し,採用されたコラムも掲載しています。一般の方が撮影した「グローバルフェスタJAPAN2019」写真展展示作品の特集ページもあります。
是非ご覧ください!

「ODA評価年次報告2019」の発行

デザインを見直し,読みやすい分量にまとめ,
わかりやすい説明を目指しました
外務省 大臣官房ODA評価室
読者の皆さんは,ODAについて評価が行われていることをご存じでしょうか?
日本は,国際社会に貢献するために政府の資金であるODAを使って,開発途上の国々に対する開発協力を行っています。そのODAが適切に実施され,効果が上がっているかどうかを確認し,その結果をODAの改善につなげていく作業がODA評価です。外務省では,この一連のODA評価作業を「ODA評価年次報告2019」として発行しました。
2018年度に実施したODA評価の全体像を紹介するとともに,2017年度に実施したODA評価結果のフォローアップ状況をとりまとめています。今回は,“ODA評価を考える”と題し,4人の専門家へのインタビューも掲載していますので,ぜひご覧ください。
- 【外務省ODAホームページ】
また,この年次報告で紹介している外務省による各ODA評価の個別報告書も,外務省ODAホームページに掲載しておりますので,ぜひこちらもご覧ください。