ODA(政府開発援助)

2019(令和元年)年12月13日発行
令和元年12月13日

カンボジアの小中学校で「環境を教える」教員の育成を支援
環境教育に貢献する日本のNGO

特定非営利活動法人 Nature Center Risen

  • (画像1)カンボジア王国

 カンボジアは東南アジアの中央に位置し,大河メコン川の恵みを受けて発達したアンコール文明の流れをくむ歴史ある国です。ベトナムやタイ,ラオスとの国境には,希少な動植物が生息する原生林が広がる自然豊かな国でもあります。しかし1970年代には,ポル・ポト独裁政権による自国民の大虐殺という辛い歴史があり,知識層を中心に何百万人もの人々が命を落としました。

 近年めざましい経済発展を遂げる東南アジアの中で,カンボジアも都市化や電化,車社会や大量生産,消費などのライフスタイルの急激な変化が訪れています。それと同時に,生活圏のすぐ近くに積み上がるごみ,街中や川沿いに廃棄されるプラスチック,道路沿いの排気ガス,農薬や化学肥料の誤使用による病気,川の汚れや魚の大量死,森林の不法伐採など,さまざまな環境問題が引き起こされています。しかし,一度教育全体が壊滅的な打撃を受けたカンボジアでは,新しいライフスタイルの中で,何が良くて何が悪いことなのか,きちんと指導できる人が,地域にも学校にもいないのが現状なのです。

  • (写真1)分別されずに積み上がるごみの様子
    分別されずに積み上がるごみ
    (c)(特活)Nature Center Risen
  • (写真2)投棄されたごみで汚染される河川の様子
    投棄されたごみで汚染される河川
    (c)(特活)Nature Center Risen

環境の大切さを知ってもらうためには,教員の育成が重要
日本に教官を招き,日本の公害やゴミ問題の経験を伝える研修を行う

 そこで当法人では,2013年からカンボジア教育・青少年・スポーツ省(以下,教育省)と協力し,カンボジアの小中学校の教員を育てる「教員養成校」で,環境教育を教えることのできる教師を育てる支援を行ってきました。2018年には,日本政府の日本NGO連携無償資金協力を活用し,カンボジアで初めての4年制教員養成大学の設立に際して,環境教育の教科書の作成や授業内容作り,教官の育成を行いました。

 その際,私たちは何人かの教官を日本に招へいして研修を行いました。教師を育てる立場の教官には,教育者としての揺るぎない信念を持って環境の大切さを語ってもらう必要があります。そのために,日本の公害の歴史やごみ戦争といった私たちが体験してきた多くの深刻な問題や,それを乗り越えようとしてきた努力,その根底に,日本の人々の多くが環境について学び,大切さを実感してきた環境教育の力があることを,実際に日本で感じてもらいました。参加した教官は,「自分自身がやらないと学生はやらないから,自分が彼らの見本にならなければいけない」,「学生に自分たちができる事,例えば,ごみの掃除,分別の大切さを指導し,さらに植樹を行うなど身近なことから改善するよう,指導していきたい」などの感想があり,研修を終えた帰国後には教員養成大学に,教官や学生がともに自分たちが学ぶ学校の環境を考えて行動する環境委員会ができるなど,実際に目に見える変化が現れました。

 そして,2019年度からは,同大学の一般教養課程における環境教育の授業時間が大きく増えて年間を通じた1単位の授業となり,小中学校の教員を目指す全ての大学生が実践的な環境教育を学ぶ仕組みが整備されました。

  • (写真3)環境教育授業の様子
    環境教育授業「校庭の自然観察」
    (c)(特活)Nature Center Risen
  • (写真4)教師を目指す学生たち
    教師を目指す学生たち
    (c)(特活)Nature Center Risen
  • (写真5)技術研修の様子
    日本人講師による教員養成大学
    環境教育教官への技術研修
    (c)(特活)Nature Center Risen
  • (写真6)環境教育の授業の様子
    教員養成大学環境教育教官が見守るなか,
    生徒たちがグループワークを行う
    環境教育の授業の様子
    (c)(特活)Nature Center Risen

現場の支援や,環境教育図書の作成など,活動を広げ
カンボジア全国の学校で環境教育が行われる日を目指して

 今後は,引き続き教員養成大学の教官たちの授業参観やフォローアップ研修で彼らを支援するとともに,全国の,現場の小中学校で実際の環境教育を行う人たちを支援する活動を広げていきたいと考えています。そのひとつが,環境教育図書(副読本)の作成です。日本と同様,カンボジアの小中学校には「環境」という科目はありません。各教師が,理科や社会科などの中で環境に関係するテーマがあったときに上手に環境を教えていくのです。そんな現場の教師を支援するために,子どもたちが親しみやすいイラストをたくさん使った物語の本を作成しています。

 また,「幼稚園教員養成校」の支援も行っています。幼い頃から一貫して,身近な自然に愛着を持ち,環境を大切にする心を育むことが大切です。そして,地域の小学校の中から,モデル校として指定されて環境教育に取り組んでいる「エコ・スクール」とよばれる小学校での,子どもたちへの実際の授業も始まりました。子どもたちのはじけるような笑顔は,教員を養成する私たちの活動が間違っていないことを改めて教えてくれる,貴重な時間です。

 私たち日本人は公害などの問題をカンボジアよりも少しだけ早く経験しましたが,昔から自然の恵みを受けて生活してきたことはどちらの国でも同じです。今,経済的豊かさを求める彼らの生活は,昔から森や湖や川などの自然の近くでおおらかに暮らしてきた生き方からは,少しずつ遠ざかっていくでしょう。そんな中で,今後将来を担う人たちと自然との関係を考え続けることができるのは,人間ならではの想像する力です。私たちはこれからも,カンボジアの子どもたちが身近な自然に愛着を感じ,遠くの人のことも思いやれるような想像力を育てる教育を続けていきたいと考えています。

  • (写真7)幼稚園教員養成校付属幼稚園での環境教育の様子
    幼稚園教員養成校付属幼稚園での
    環境教育(中央が理事長岩間)
    (c)(特活)Nature Center Risen
  • (写真8)環境モデル小学校エコ・スクールでの授業の様子
    環境モデル小学校「エコ・スクール」での
    からだを使って学ぶ授業
    「ハチクマ(渡り鳥)になって日本に渡ろう」
    (c)(特活)Nature Center Risen
今回紹介したプロジェクト

職業訓練を通じて,トンガの将来と日本をむすぶ

在トンガ日本国大使館

  • (画像1)トンガ王国

 南太平洋に浮かぶトンガをご存じでしょうか。東京から約7,900キロ南に位置するトンガは,約180の島々で構成され,そのうち30余りの島に約10万人が暮らしています。読者の皆様の中には,世界各国の王室からの出席者が紹介された即位の礼の報道で,オセアニア唯一の王国であるトンガを知ったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。或いは,ラグビーW杯日本代表チームで活躍したトンガ出身選手がきっかけで知ったという方もいらっしゃるでしょう。

 そのトンガで日本は近年,年間7から8件の「草の根・人間の安全保障無償資金協力(以下「草の根無償」)」を実施しており,1990年の制度開始以来,これまでに完了したプロジェクトは289案件にも上ります。案件の半数に当たる145件が学校教育現場を支援対象にしており,次いで給水施設の新設・改修案件が,101件にのぼります。この2つを合わせると全案件の8割を占め,学校教育の充実と安全で安心して飲める水の提供がこのトンガの人々が願う最も切実な願いであることがわかります。

  • (写真1)祝いするアラキフォヌア村の女性たちの様子
    給水施設の竣工式で清潔な水を安定的に供給できるよう
    になったことを祝うアラキフォヌア村の女性たち
  • (写真2)リサイクル救急車を供与した時の様子
    離島で使用するリサイクル救急車を供与したことも

 毎年のようにサイクロンの大きな被害を受けるトンガの経済は持続的に好調とは言えず,多くの人が働きたいのに満足した仕事を得られない状況が長く続いています。こうした悩みを少しでも解決するために,いまトンガが国を挙げて取り組んでいるのが,今回ご紹介するタクイラウ・カレッジのような職業訓練学校の充実なのです。国土も人口も小さく天然資源にも恵まれないトンガにとって,唯一の国造りの財産である「国民」のために,学校教育の支援が求められているのです。技術を身につけて国内で仕事を見つけたり,海外で更なる勉強したりするためには,基礎的な技術や知識の習得が欠かせません。職業訓練学校は,学生たちにそうした技術や知識を教えています。卒業生の中には海外へ出て技術や知識を更に磨いてトンガへ帰り,会社を興して,国の発展に貢献している人や,日本の援助で作られた風力発電所や国内輸送船用の埠頭の建設現場で働き,日本式の質の高い建築技術に触れて腕を磨く人もいます。

  • (写真3)中・高等学校技術・職業訓練教育施設の教室棟
    草の根無償で新築されたタクイラウ・カレッジ
    中・高等学校技術・職業訓練教育施設の教室棟
  • (写真4)タクイラウ・カレッジの生徒たちの様子
    竣工式で両国の旗を振り
    日本の支援への感謝を込めて歌う
    タクイラウ・カレッジの生徒たち
  • (写真5)引渡式を終えての記念写真
    引渡式を終えての記念写真。
    新しく建てられた教室棟の中で(中央:石井大使)

 タクイラウ・カレッジでは,草の根無償によって職業訓練用の教室棟を新築しました。現在,この教室棟を利用して,配管,電気,木工,自動車整備の4学科に所属する約80名の高校生が学び,将来の可能性を広げようと日々努力を続けています。

 日本を含めた多くの援助国は,再生可能エネルギーやインフラ設備などの分野でそれぞれ国家ベースの大規模な援助を行っていますが,直接地域のニーズに応える小規模な援助方式を持つ援助国は意外に少なく,予算規模も100万円程度のものが主流です。こうした中,1案件あたり1,000万円の予算規模と1年以内にプロジェクトが完結する機動性の両方を兼ね備えた草の根無償は,トンガで草の根の人々のニーズに効果的に応えうる,日本独自の援助方式として認識されています。さまざまなODA事業がある中で,この草の根無償こそがトンガにおいて日本の代名詞となっていると言っても過言ではないでしょう。

 しかし,トンガの人たちも決して日本に助けられてばかりではありません。日本の支援を受けると共に,自分たちでも資金を集め,日本と共にプロジェクトを完成させる場合が多いのです。そして,今後は日本のODAプロジェクトの完成には,職業訓練校で技術を身につけた更に多くのトンガ人労働者が協力してくれることでしょう。日本人とトンガ人はこれからも手を取り合って持続可能な発展を追求していきます。

ボスニア・ヘルツェゴビナの教育に
日本のODAで暖かさを吹き込む

在ボスニア・ヘルツェゴビナ大使館 経済・開発協力班 田中 清隆

  • (画像1)ボスニア・ヘルツェゴビナ

 ボスニア・ヘルツェゴビナと言えば,1984年に冬季五輪が開催された首都の「サラエボ市」,または長く続いた民族紛争のイメージが日本国内では強いかも知れません。文字どおりの国名は「ボスニアとヘルツェゴビナ」ですが,ここには自治共和国に相当する2つのエンティティと1つの特別区があり,その内の1エンティティにはさらに10の県(カントン)があります。国内には主に3民族が居住しています。

冬場も暖かい教室で授業を受けられるよう
100校近い教育施設の整備を支援

 北海道と大体同じ緯度にあるボスニア・ヘルツェゴビナの冬は,最高気温が氷点下になることも珍しくないほど寒さが厳しい環境です。老朽化により建て付けが悪くなっている小学校の校舎では隙間風が入り込み,生徒にコートを着たまま授業を受けさせている小学校もあります。

 在ボスニア・ヘルツェゴビナ日本国大使館は,生徒たちが「寒さ」や「風邪」「疾病」などの不安要素から解放され,安心して授業を受けられるよう健康で文化的な教育環境整備の支援に尽力しています。日本政府は,1996年から草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じ,ボスニア・ヘルツェゴビナの100校近い9年制学校(日本の小学校と中学校に相当)に対して,総額約2,800万ユーロ(約36億円)の支援を続けています。こうした支援は,同国国民に幅広く知られており,日本と日本人への大きな信頼につながっています。

 平成29年度「ビシェグラード市ブーク・カラジッチ小学校修復計画」では,老朽化により校舎の窓・窓枠が建物からはみ出てしまったため教室内に冷気が入り込み,またこうした古い設備によって児童が怪我をする危険性があったため,これを改修。冬には冷気により室温が0℃以下になることが多かった体育館には暖房設備を導入しました。

  • (写真1)整備前のブーク・カラジッチ小学校
    整備前のブーク・カラジッチ小学校。築45年の建
    物の老朽化のため,安全面でも危険性が高かった。
  • (写真2)整備されたブーク・カラジッチ小学校
    整備されたブーク・カラジッチ小学校。暖房設備が
    導入され,安全に暖かい環境で児童が勉強できる環
    境が整えられた。

 平成29年度「ロガティツァ市スベティ・サバ小学校修復計画」では,校舎の窓が落下して教職員が怪我をする事故が発生したことを受け,児童の安全のために一刻も早い整備が望まれていた二重窓の改修を実施。その結果,教室内の熱効率も改善されました。

  • (写真3)整備後のスベティ・サバ小学校の教室内
    整備後のスベティ・サバ小学校の教室内。整備
    によって折り紙作品が展示できる,安全な窓に
    生まれ変わりました。
  • (写真4)歓迎のダンスの様子
    整備されたスベティ・サバ小学校で,児童た
    ちが日本の支援に対して歓迎のダンスを披露
    してくれました。

 平成28年度「トゥズラ市ノビ・グラード小学校修復計画」では,窓の木枠が老朽化と湿気によって腐り,窓ガラスの3分の1が破損している状況でした。強風によるガラスの落下や割れたガラスによって生徒や教職員が怪我をする危険な環境であったため,窓・窓枠を改修することで,生徒に安全な教育環境を提供することができました。

  • (写真5)整備後のスベティ・サバ小学校の教室内
    ノビ・グラード小学校の教室内。整備された窓
    には,日本のODAシールが貼られています。
  • (写真6)歓迎のダンスの様子
    整備されたノビ・グラード小学校で坂本大使を
    囲み,児童たちが日本の援助に対して笑顔で歓
    迎してくれました。

ODAを通じて教育カリキュラムへの支援を後押し
学校に民族間の温かな交流を

 寒さは教室の中だけではありません。ボスニア・ヘルツェゴビナでは,教育方針をはじめあらゆる政策については,国(中央政府),2つのエンティティおよび特別区,10の県(カントン)がそれぞれの権限を持ち,積極的な権限争いもあれば,消極的な押し付け合いもあります。紛争後の民族融和の道は険しく,民族によって異なるカリキュラムでの分離教育が今なお存在します。

 こうした現状を受けて,教育分野では,国際社会による共同支援の下,国レベルで共通コア・カリキュラム作りが進んでいます。日本はJICAの技術協力により,「保健体育」カリキュラムの策定を支援しました(技術協力プロジェクト「スポーツ教育を通じた信頼醸成プロジェクト」別ウィンドウで開く)。また日本人専門家のアドバイスにより,子どもたちの健全な育成とスポーツを通じた交流促進の観点から,よりレクリエーション的な要素を重要視した日本の「運動会」を紹介しました。誰もが簡単にできる楽しい競技を取り入れ,スポーツが得意な子どもだけでなく,苦手な子や,小学校低学年の生徒や障害者の人々も参加し,スポーツの楽しさを広く伝えることができました。「Sport for Tomorrow」のスローガンの下,スポーツの価値を大切にする支援は,日本ならではと言えます。

 教育は,いわば未来への投資であり,初等教育の充実は子どもたちの将来のみでなく,その国の発展に向けた土台となります。近い将来,この国の子どもたちが,ボスニア・ヘルツェゴビナという「国のあり方」や「国の発展」について,1つの暖かな教室で民族の垣根を越えて将来を熱く語り合う時代が来ることを願ってやみません。

今回紹介したプロジェクト

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