ODA(政府開発援助)

2018年5月23日発行
平成30年5月24日

ODAメールマガジン第374号は,ザンビア共和国からシリーズ「SDGs 誰一人取り残さない日本の取組」第8弾として「治療が必要なすべての人々に 地域住民と共に取り組む結核対策」を,クック諸島から「クック諸島における漁業,海洋資源保護の取組と日本の支援」を,ナミビア共和国から「日本とのつながりが育つ,ナミビアの小学校」を,またジャパン・プラットフォームから「ジャパン・プラットフォームによる緊急人道支援【第6弾 緊急性と生活再建ニーズに応えるイエメン支援】」をお届けします。なお,肩書は全て当時のものです。

  • (画像)ザンビア共和国,クック諸島,ナミビア共和国

治療が必要なすべての人々に 地域住民と共に取り組む結核対策

原稿執筆:財団法人結核予防会(JATA)ザンビア事務所 松岡 裕子,小栗 清香

世界三大瀑布の一つ,ビクトリアの滝を有するザンビアは,南部アフリカに位置する内陸国。8つの国に囲まれ,日本の2倍の国土に約1,600万人が暮らしています。
ザンビアは73の民族からなる多民族国家であり,独立以来一度も紛争が起きていないため,ザンビア人は平和で穏やかな国民性を持っていると言われています。

ドコドコドコドコ…!
軽快な太鼓の音色を聞きつけ,人々が集まってきました。
結核ボランティアによる地域啓発活動では,月に一度コミュニティを訪れて,結核に関する正しい知識を普及するためのダンス・寸劇を行っています。

  • (写真1)太鼓の音を聞きつけて啓発活動に集まってきた村の子ども達
    太鼓の音を聞きつけて啓発活動に
    集まってきた村の子ども達
  • (写真2)訓練を受けた結核ボランティアの寸劇による普及啓発活動
    訓練を受けた結核ボランティアの
    寸劇による普及啓発活動

ザンビアはWHOが定める結核高蔓延国の一つで,国内には63,000人の結核患者がいると言われています。しかし,HIVも蔓延するこの国では,エイズへの根強い偏見や差別のため,結核だと分かっても,HIVにも感染しているかもしれないという恐れから,検査や治療から遠ざかってしまう人も少なくありません。そのため,結核ボランティアによる草の根レベルでの地道な活動がとても大切です。

また,せっかく医療施設にたどりついても,病院に検査機器や備品が不足していたり,スキルを持った人材が少なかったりすると,治療を必要とするすべての人々に適切に医療を届けることが難しくなります。

  • (写真3)結核ボランティアによる家庭訪問では患者の服薬継続をフォローアップ
    結核ボランティアによる家庭訪問では
    患者の服薬継続をフォローアップ
  • (写真4)プロジェクトで供与した高感度結核菌検査装置(GeneXpert)
    プロジェクトで供与した
    高感度結核菌検査装置(GeneXpert)

そこで,私たち結核予防会のプロジェクトではコミュニティ支援に加え,必要な機材の供与や,日本人専門家による医療従事者への能力強化研修を実施しています。例えば,検査技師が結核菌の有無を正しく調べられるように,放射線技師が質の高いX線写真を撮影できるように,また医師がその画像を見て正常・異常を正しく判別できるように,実践的な研修を行います。さらに,正しく情報が記録されているかを確認するために,記録台帳のモニタリングも定期的に行っています。

  • (写真5)日本人専門家による結核菌検査室研修
    日本人専門家による結核菌検査室研修
  • (写真6)日本人専門家によるX線読影研修
    日本人専門家によるX線読影研修
  • (写真7)医療施設を巡回し記録台帳のデータをモニタリング
    医療施設を巡回し記録台帳の
    データをモニタリング

結核蔓延の深刻な状況をコミュニティレベルから少しでも改善するために,私たち結核予防会では,2008年から首都近郊のルサカ州各地で結核対策を続けてきました。今年は国連結核ハイレベル会合も予定されており,これからも地域住民と共に世界の結核の制圧のために邁進していきます。

公益財団法人結核予防会の活動について詳しく知りたい方はこちら!

クック諸島における漁業,海洋資源保護の取組と日本の支援

原稿執筆:在ニュージーランド日本国大使館 田中 紀子 一等書記官

15の島から成るクック諸島の陸地面積は240平方キロメートル(日本の鹿児島県徳之島ぐらいの大きさ)ですが,同国を取り囲む排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)は,日本の国土面積の5倍近くに相当する約180万平方キロメートルにも及ぶ海洋国家です。

かつて,木造のカヌー二艘(そう)を繋げた船で沖合に出て漁を行っていたクック諸島の人々は,海から取れる資源と文化を大切にして暮らしてきました。そのような人々が住む島の一つが離島のプカプカ島(「プカプカ」は現地の言葉で小さな丘の土地という意味)です。現在,同島の一部の人々はクック諸島最大のラロトンガ島に住み,観光客向けの近海魚を供給するため,昔ながらの漁業で生計を立てています。

日本は,対クック草の根・人間の安全保障無償資金協力「ラロトンガ在住プカプカ島民に対する食糧安全保障及び漁業研修のための漁船整備計画」として,2017年9月,漁船や機材等を供与しました。式典では,地元の漁業関係者や政府関係者から,「漁業はプカプカ島民の歴史及び文化を反映するものであり,日本からの支援によってその伝統を継続していくことが可能となる」と,日本の支援に対する感謝の言葉が述べられました。

  • (写真8)漁船や機材等の引き渡し式典(2017年9月)(写真9)漁船に書かれた「YEWOLEA」は現地の言葉で「不敗・不沈」を意味し,プカプカ島民が困難にも負けず漁業を続けられるよう願いを込めて名付けられました
    漁船や機材等の引き渡し式典(2017年9月)
    漁船に書かれた「YEWOLEA」は現地の言葉で「不敗・不沈」を意味し,
    プカプカ島民が困難にも負けず漁業を続けられるよう願いを込めて名付けられました

広大な海に囲まれたクック諸島は,気候変動問題や海洋資源について高い関心をもっています。プカプカ島民のように昔ながらの漁業を大切にするとともに,太平洋島嶼(しょ)国における海洋の安全保障や資源管理のベストプラクティスを確立しようと,国内外の取り組みを進めています。例えば,領海の海底には重要な資源である多金属団塊や多金属硫化物,コバルトやマンガンを含む鉱床があるため,海底資源局はクック諸島海底資源法に基づき資源保護と開発,地元コミュニティを調整する役割を果たしています。

また海洋資源省は,領海の海洋資源保護のため違法漁業の取り締まりを行っていますが,外国籍の船による違法漁業については,国連海洋法条約などの専門的知識が必要となることから,日本の内閣法制局にあたるクック諸島法務局が取締りを行っています。そのような取組を支援するため,2018年1月,太平洋島嶼国若手行政官グループ招へい(経済発展・防災・海洋)として同局の若手職員を日本へ招待しました。海洋法を専門とする同職員は,この招へいプログラムを通じて外務省,日本貿易振興機構(JETRO),国際協力機構(JICA)等の関係省庁及び関係機関が取り組んでいる日本の離島振興・防災・海洋等の分野の課題について学びました。また,クック諸島の海洋法専門家は数名しかいないため,同プログラムに参加した他の太平洋島嶼国関係者との交流は,島嶼国が抱える課題に関する情報共有や協力関係を強化するうえで大きく役立っています。

  • (写真10)クック諸島から「太平洋島嶼国若手行政官グループ招へい(経済発展・防災・海洋)」に参加したヘルマンさん(写真11)ヘルマンさんは,ニューヨークで開かれた国連海洋法会議にも参加し,国際的な協力や取組について議論を行いました
    クック諸島から「太平洋島嶼国若手行政官グループ招へい(経済発展・防災・海洋)」に参加したヘルマンさんは,ニューヨークで開かれた国連海洋法会議にも参加し,国際的な協力や取組について議論を行いました

このような海洋資源の保全や海洋安全保障を含む問題は,3年ごとに日本で開催される太平洋・島サミット(PALM)でも議論され,5月18日,19日に行われた第8回太平洋・島サミットでは首脳宣言に盛り込まれました。クック諸島をはじめとする太平洋島嶼国と日本との間の協力関係は,第8回太平洋・島サミットを通じて,更なる強化を遂げています。

日本とのつながりが育つ,ナミビアの小学校

原稿執筆:JICAナミビア支所 青年海外協力隊(小学校教育) 山本 由紀子

世界一美しいと有名なヒンバ族をはじめ,個性豊かな民族が暮らす,ナミビア北西部の町「オプウォ」。

ここオプウォにあるカメル小学校の子ども達からは,日本語で元気に「おはようございます」という声が聞こえてきます。

カメル小学校と日本のつながりは,2012年度の草の根・人間の安全保障無償資金協力(以下,草の根無償)による実験室建設から始まりました。2014年には青年海外協力隊の派遣が始まり,もうすぐ3代目の隊員が派遣される予定です。

  • (写真12)ヒンバ族の女性
    ヒンバ族の女性
  • (写真13)草の根無償で建設された実験室
    草の根無償で建設された実験室

現在,私は芸術(図工・音楽・演劇等)と算数の授業を担当し,現地の教員と共に授業案を考えたり教材作成の補助をしたりしています。
特に,芸術の授業は,画材等を購入する予算が不足している上,教員自身が芸術教育を受けていないという事情から,指導要領はあるものの実践が難しい状況でした。当初は現地教員の関心も低かったため,「描き方が分からない」と言って絵を描きたがらない子どもが多くいました。

そこで,表現活動を「したくなる」授業内容や他教科との関連を意識して教える工夫をしたところ,徐々に豊かな表現が見られるようになりました。

例えば,算数の図形学習と関連させたパズル遊びが挙げられます。パズルを解きながら各図形の特徴を学びつつ,自分で形を組み合わせてオリジナルの絵を完成させることで,表現活動に積極的になり,創造力を育てることができました。今では,芸術教育に対する教員の理解が深まりつつあり,様々な質問や相談を受けるようになりました。子どもたちの主体性を重視した教授法は,算数や他教科でも実践されるようになり,地域の研究会では他校の教員にも評判です。さらに,校内や地域の見本市に子どもの作品を展示することで,保護者からの芸術に対する関心も高まりました。

  • (写真14)算数と関連させた芸術の授業
    算数と関連させた芸術の授業

日々の授業の他にも,SNSを用いて授業のアイディアを地域や教員同士で共有する仕組みづくりにも協力しています。教員が教科書の内容を黒板に丸写しする授業から,子ども達が主体的に学べる授業を目指すようになり,意識の高まりが感じられます。特に,草の根無償で建設された実験室は理科教員によって活用され,主体的な学びに生かされています。昨年の理科の授業では,小さな菜園を作りほうれん草を育てたり,太陽光を集める実験装置で卵を調理したりといったように,子ども達が体感しながら学習している様子が見られるようになりました。この実験室には,用具を保管するスペースや水道があるので,多様な活動がしやすくなっています。

  • (写真15)実験室内での授業の様子
    実験室内での授業の様子
  • (写真16)ほうれん草を育て試食・販売(理科)
    ほうれん草を育て試食・販売(理科)

放課後は日本文化の体験活動や日本の子ども達との交流活動を行なっています。
その一例が,Japan Art Mile別ウィンドウで開く(ジャパンアートマイル)という共同学習プロジェクトへの参加です。このプロジェクトでは,兵庫県赤穂市の原小学校と互いの伝統・文化について学び,動画を通して交流し,調べたことを発表し合いました。そして,プロジェクトのまとめとして一枚の壁画を制作しました。まず,原小学校の子ども達が半分描き,カメル小学校に送付。約1か月半後に到着した壁画の,もう半分をカメル小学校が描きあげました。一本の木に広がる様々な絵は「私達は皆美しい伝統・文化を持っている」ことを表しています。完成した壁画は日本に返送され,東京オリンピックの会場をはじめとする様々な場所に展示される予定です。活動を通して子ども達は,日本に対して関心を持つとともに,自身の伝統・文化に改めて誇りを感じることができました。「絵を通して世界中の人に私達のことを知ってもらえるなんてワクワク!」と言っています。

  • (写真17)毎週水曜開催の日本クラブ鶴も上手に折れます!
    毎週水曜開催の日本クラブ
    鶴も上手に折れます!
  • (写真18)日本の小学生と共同制作した壁画
    日本の小学生と共同制作した壁画

カメル小学校の子ども達やオプウォの人々にとって,日本はとても近い国になっています。

今後も日本とのつながりを通して,伝統・文化を大切にしつつ一緒に成長していけることを期待しています。

ジャパン・プラットフォームによる緊急人道支援
【第6弾 緊急性と生活再建ニーズに応えるイエメン支援】

原稿執筆:ジャパン・プラットフォーム 助成事業推進部 モシニャガ アンナ

ジャパン・プラットフォーム(JPF)によるイエメンでの緊急人道支援

もともと中東の最貧国の一つといわれるイエメンでは,2015年3月以降の紛争激化に伴い,国内の状況が著しく悪化し,人々の生活は壊滅的な影響を被っています。人口の76%にあたる2,220万もの人々が生き延びるために人道支援を必要としており,このうち1,130万人は特に深刻な状況に陥っているため,命を繋げるための緊急支援を必要としています。地域差はあるものの,食糧事情は特に深刻で,人口の60%以上が次にいつ食糧を入手できるかわからない状況に陥っています。

  • (写真19)JPF加盟NGOが食糧支援をしているイエメン国内タイズ州の様子【写真提供】ICAN
    JPF加盟NGOが食糧支援をしているイエメン国内タイズ州の様子
    【写真提供】ICAN

小規模ながらも堅実に支援を届けようと,JPF2015年10月にイエメンでの人道支援プログラムを開始してから,3年目に突入しました。現在は,JPF加盟NGOのうち3団体がイエメン西部で活動を続けています。紛争は現在も継続しているものの,他地域での戦闘で家を追われた国内避難民や,一旦避難した後にもともと住んでいたところへ戻ってきた帰還民の多い地域があるため,命を繋ぐために欠かせない食糧や水・衛生分野での支援を続けています。

同時に,過酷な状況が続くなかで,何とか日常を取り戻そうとする人々を後押しするため,教育や生計回復支援分野における活動も展開していきます。この活動は,国連人道問題調整事務所(OCHA)が各支援機関と協議・調整を重ねた上で発行する「イエメン人道対応計画2018」で掲げられている,「人々の生存に必要な支援を届けると同時に,可能なところから生活再建に繋がる支援にも取り組む」という方向性とも一致しています。

しかし,戦闘情勢と治安状況が日々変化するため,そうした支援を実現することは,経験豊富で規模の大きな国連の人道支援機関にとっても困難を極めます。イエメン全域が外務省からの退避勧告の対象になっていることもあり,JPF加盟NGOによる事業は全て現地NGOなどと提携しながら,遠隔管理で行われています。そのため,日本に本拠地があるNGOにとっては,ハードルがより一層高いのです。

また,元来部族意識が強く,独特の社会行動様式があるイエメンでは,部族間と出身地の関係に気をつけながら,事業を計画・実施することが求められます。こうしたなか,安全かつ確実に支援を届けるため,提携団体との綿密な協議や調整を通した関係構築と,その提携団体の地元ネットワークを活用した情報収集と分析が欠かせません。
その結果次第では,必要に応じて支援内容や実施方法を変更するなど,臨機応変に対応することも求められます。このように様々な面から活動の制約があるなかで,JPF加盟NGOは,対象地域や裨益者数の面で事業規模を絞りながらも,先の見えない紛争下での緊急ニーズと生活再建ニーズの両面にわたって支援に取り組んでいます。

  • (写真20)食糧を受け取るための引換券を配布している様子【写真提供】ADRA
    食糧を受け取るための引換券を配布している様子
    【写真提供】ADRA

JPFの活動について詳しく知りたい方はこちら!

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