ODA(政府開発援助)

2017年6月28日発行
平成29年6月29日

ODAメールマガジン第352号は,シリーズ「世界を変える日本の技術」第9弾としてインドネシア共和国から「バリでゴミ問題に挑む 沖縄企業の挑戦」と,シリーズ「国際機関と開発協力」第9弾として国連国際防災戦略事務局(UNISDR)欧州地域事務所から「日本の防災が世界の価値観をリード」をお届けします。

  • (画像1)インドネシア共和国

バリでゴミ問題に挑む 沖縄企業の挑戦

原稿執筆:JICAインドネシア事務所 木下 真人 企画調査員

日本人にもなじみの深いインドネシアのビーチリゾート,バリ島。
今,その美しさの影で大きな問題を抱えています。その問題とは,ごみです。

急速な経済成長,人口増加により,莫大なごみが発生し,その処理が追い付かない状況が続いています。最終処分場では,毎日約千トンものごみが運ばれ続け,積み上がったごみの山の崩落を何とか食い止めている状況です。現在,バリ島に限らず,インドネシアの最終処分場はごみの分別やリサイクルが十分に進んでおらず,処分可能量が限界に達している状況です。

  • (写真1)ゴミであふれるバリ島デンパサール市の一般廃棄物処分場の様子
    ゴミであふれるバリ島デンパサール市の一般廃棄物処分場

こうしたごみ処理問題の中で,大きな課題の一つとなっているのは,医療廃棄物が一般廃棄物に混ざり,不適切に捨てられていることがあることです。バリ島を含むインドネシア各地の処分場では,ごみを拾って生活している人達がおり,こういった人たちを通じ,感染性の高い病原菌が蔓延するおそれもあり,早急な適正処理システムの確立が求められています。

国土の広いインドネシアですが,病院内で処理できない医療廃棄物を受け入れることのできる処分場は一箇所しかなく,そこはバリ島から離れているため,医療廃棄物の運搬に多大なコストがかかることも不適切な処分の要因となっています。

  • (写真2)焼却炉に持ち込まれる医療廃棄物
    焼却炉に持ち込まれる医療廃棄物

このような中,沖縄県のトマス技術研究所は,JICAが実施する,ODAを活用した「中小企業海外展開支援普及・実証事業」に採択され,2016年12月より,バリ島デンパサール市のワンガヤ病院にて小型焼却炉「チリメーサー」による医療廃棄物処理に取組んでいます。

「チリメーサー」は,投入されるごみによって自動で燃焼温度を調整でき,完全燃焼させることで安全な焼却処理が可能です。また,がんや呼吸器系障害の原因にもつながる黒煙を出さず,ダイオキシンも日本の排出規制値の50分の1に抑えることが出来る高い環境性能を有しており,インドネシアの廃棄物問題及び環境問題を同時に解決できる技術として現地の期待も高まっています。

  • (写真3)現地作業員に廃棄物管理を指導するトマス技術研究所関係者の伊佐治賀久氏(左)
    現地作業員に廃棄物管理を指導する
    トマス技術研究所関係者の伊佐治賀久氏(左)

特に,沖縄と同じく多くの島々からなるインドネシアにおいては,離島部などでの安全な廃棄物処理方法が必要であり,小型ながら環境性能の高い「チリメーサー」が適していることから,コミュニティごとに分散設置する等のアイデアも検討されつつあります。

今後,インドネシアにおいて,沖縄生まれの焼却炉「チリメーサー」が各地に広く普及し,ごみ問題の解決に大いに貢献する事が期待されています。

  • (写真4)トマス技術研究所の福富健仁社長(左)とワンガヤ病院
    トマス技術研究所の福富健仁社長(左)とワンガヤ病院

日本の防災が世界の価値観をリード

原稿執筆:国連国際防災戦略事務局(UNISDR)欧州地域事務所
河本 孝志 アソシエイト・プログラムマネジメント・オフィサー

UNISDRの紹介

国連国際防災戦略事務局(UNISDR)は,国連事務局の一部でスイスのジュネーブに本部を構える組織です。世界各国における自然災害による被害・損失の減少,災害リスクの軽減を目指し,災害に強い国やコミュニティ構築を推進しています。防災政策は,開発問題や気候変動問題への解決に直結するという視点から,世界各国政府に対して防災政策の導入,防災目標の目線合わせ等の働きかけをしています。

  • (写真1)ブリュッセルのUN Houseビルの前の様子
    様々な国連機関が入るブリュッセルのUN Houseビルの前にて

1 防災と国連?

自然災害が頻発する日本にとり防災は非常に身近なテーマですが,世界を見渡すと災害の種類,頻度等がまちまちで,必ずしも多くの国が防災という取り組みを重視している訳ではありません。更に,防災と一口に言っても,「何を守るのか」,「なぜ重要なのか」,「どの方法が良いのか」,「誰がリードすべきか」の考え方がバラバラです。

そこで,国連が主導してこれまでバラバラだった防災という考え方を一つの共通項に取りまとめました。これが2015年に世界防災会議で「兵庫行動枠組2005-2015」の後継枠組として策定された「仙台防災枠組2015-2030」です。

これは「防災とは何か」,「いつまでに何を達成すべきか」,「どの様な方法が有効か」,「誰がリードすべきか」について合意したもので,現在,UNISDRは世界各国の政府に対して,この仙台防災枠組の実行を働きかけることで「防災の主流化」を推進しています。

  • (写真1)第3回国連防災世界会議の様子
    第3回国連防災世界会議【写真提供:内閣広報室】

2 防災大国・日本と価値観づくり

実は,この仙台防災枠組の策定過程で「防災大国・日本」が重要な役割を果たしていました。仙台防災枠組で定義されている4つの重要なアクションの一つに,「Build Back Better(災害発生後の復興段階において,より強靭な地域づくりをする)」がありますが,これは日本がこれまでの多くの自然災害を生き抜いてきた中で培った強みをグローバルな価値観の中に入れ込むことができた事例の一つです。

更に,この日本の得意とする防災という切り口での国際協力は,開発問題,気候変動等の社会課題の解決にも直結します。気候変動によって様々な災害が起こり得る中で,経済発展を重視したい新興国では,災害ダメージを軽減するための都市・インフラ設計が疎かになりがちです。

その上,経済発展の目覚ましい都市部には多くの人口が集中する傾向にあり,災害時には多くの死傷者(特に貧困層,女性,子供等の弱者)が出てしまう可能性が高まっています。まさに,「防災なくして開発,気候変動対応なし」です。

この様に,防災という分野は,開発問題とは一見離れているかのようで実はリンクしている非常に重要なソリューションなのです。しかも,防災という分野は,建築・設計,センサー,データサイエンス等の技術が有機的に融合していくテーマなので,今後イノベーションの潤滑油として活用できる可能性を秘めています。

  • (写真1)津波で運ばれてきたと言われる津波石
    津波で運ばれてきたと言われる津波石
    【写真提供:JICA】
  • (写真2)津波に流された船(インドネシア・アチェ)
    津波に流された船(インドネシア・アチェ)
    【写真提供:JICA】
  • (写真3)インドネシアで整備した津波避難施設
    インドネシアで整備した津波避難施設
    【写真提供:JICA】
  • (写真4)宮崎での津波避難訓練の様子
    宮崎での津波避難訓練
    【写真提供:JICA】

3 欧州地域事務所での仕事

私は,欧州全域と中央アジア諸国を担当する欧州地域事務所で働いています。欧州地域事務所は,ベルギー・ブリュッセルに拠点を置き,EU機関,ヨーロッパ・中央アジアの各国政府に対して,仙台防災枠組の実行を働きかける仕事をしています。

  • (写真1)ベルギー・ブリュッセルに所在する欧州委員会本部
    ベルギー・ブリュッセルに所在する欧州委員会本部
  • (写真2)韓国研修センターでの様子
    韓国研修センターにて
    世界各地の地域事務所から出席した同僚と

私はこれまでの経歴が外交政策と経営コンサルティングだったことから,中でも欧州の民間企業を対象に官民連携を促進する戦略作りを担当しています。欧州は,自然災害が少なく先進国ですら日本のようなインフラが整備されていないため,今後の気候変動等を加味すると防災を考慮した街づくりが必要になってきますが,ここにも日本のノウハウが活きる可能性が大いにあると感じています。

  • (写真3)職場にて上司(欧州地域事務所長)と筆者
    直属の上司(欧州地域事務所長)と職場で
  • (写真4)執務室にて資料作成する筆者
    執務室にて資料作成する筆者
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