ODA(政府開発援助)

ODAメールマガジン第349号

2017年5月10日発行

平成29年5月11日

ODAメールマガジン第349号は,シリーズ「世界を変える日本の技術」第8弾としてフィリピン共和国から「フィリピン野菜生産販売技術改善プロジェクト」と,シリーズ「質の高いインフラ支援」第4弾としてスリランカ民主社会主義共和国から「世界とスリランカをつなぐ日本のインフラ 連結性の構築を通じたスリランカの発展への貢献」をお届けします。

  • (画像1)フィリピン共和国,スリランカ民主社会主義共和国

フィリピン野菜生産販売技術改善プロジェクト

原稿執筆:在フィリピン日本国大使館 寺田 憲治 一等書記官

フィリピンは,7,109の島からなる島嶼国で,国土面積は約30万平方キロメートルであり,日本の総面積から北海道を除いた面積に相当します。地形としては標高2,000メートルを超える山岳地帯から熱帯気候の地域まであり,多種多様な農産物を栽培することが可能な環境があります。

一方で,フィリピン国内に多くの種類の農産物が栽培されているのにもかかわらず,それら農産物がマニラ,セブ及びダバオといった大消費地に運べない,運べたとしても品質が劣化し,消費者価格が高いのが状況です。その原因は,荷扱いの煩雑さ及び流通システムの問題にあります。具体的な例をあげますと,ルソン島北部のベンゲット州は,標高1,500メートルを超える高冷地で野菜の一大産地であり,葉物野菜等が多く栽培されています。

現在の流通システムは,
(1)生産者が農産物を収穫し,多くの場合,畑付近にて輸送業者に直接渡します。
(2)輸送業者は運んだ目方によって報酬が決まっているため,輸送車両にできるだけ多くの農産物を載せて町の市場に運びます。
(3)町の市場では,葉物野菜等を中心に輸送中に傷んだ部分をトリミングしてビニール袋に詰めて市場で販売します。この際,トリミングする量は運搬する前の農産物の3分の1になることもあります。
(4)都市部から仲買人が市場に買いに来て,ビニール袋に詰めた野菜を大型の輸送車両にビニール袋に包装された状態で満載にして都市の市場に持って行くといった流れで,流通していくものです。輸送車両には冷蔵設備はなく,途中で冷蔵施設に入れるようなこともしていません。

  • (写真1)農産物の輸送の様子
    農産物の輸送
  • (写真2)傷んだ部分をトリミングしている様子
    傷んだ部分のトリミング

上記の流通システムでは,多くのロスが発生すること,途中の荷痛み及び常温管理によって品質が劣化すること,流通に介在する者が多く流通コストがかさむこと等により,結果として生産者の売渡し価格は安く,かつ消費者価格が高くなることに繋がっています。特に首都圏マニラにおいては,野菜によっては消費者価格が日本よりも高かったり,時期によっては入手することが困難だったりする状況となっています。

  • (写真3)仲買業者による輸送の様子
    仲買業者による輸送

当地の農産物流通を改善するには,生産者をはじめとする関係者が現流通システムの課題及び改善することによるメリットを認識し,自ら改善に取り組むようになることが重要です。このことから,我が国の高冷地野菜の生産地である長野県南佐久郡南牧村と公益社団法人国際農業者交流協会が連携して,我が国の農産物流通のノウハウを活用した農産物流通の改善の取り組みを2016年12月から草の根技術協力プロジェクトとして行っています。

具体的には,
(1)畑において収穫した農産物のサイズ及び品質によって分別し,段ボール箱やプラスチックコンテナに包装して市場に輸送します。
(2)受け取った市場側は,分別され包装された農産物を容器から取り出すことなく,そのまま売買し流通させます。
(3)流通においては冷蔵車及び冷蔵施設を活用します。南牧村と国際農業者交流協会は,フィリピンの現地生産者及び関係者を研修員として南牧村に受入れ,また,我が国の専門家をフィリピンに派遣して現地で直接指導することを通じて,収穫から選別,包装,流通及び販売の一連の工程を日本方式で改善させることを目指しています。

  • (写真4)生産者の様子
    生産者による分類,選別,包装
  • (写真5)プラスチックコンテナの様子
    プラスチックコンテナによる流通
  • (写真6)輸送に利用する冷蔵車
    輸送に利用する冷蔵車

今後,我が国が誇るこの経験及びノウハウが広くフィリピン全土に普及することで,フィリピン国民の生計向上及び食卓環境の改善につながっていくことが期待されます。

世界とスリランカをつなぐ日本のインフラ 連結性の構築を通じたスリランカの発展への貢献

原稿執筆:在スリランカ日本国大使館 伊藤 久仁良 二等書記官

インド洋に浮かぶ島国であるスリランカはアジアと中東・アフリカ・ヨーロッパの中間に位置し,古くより香辛料の貿易港として栄えると共にアジアとヨーロッパを結ぶ経済・文化の中継地として重要な役割を果たしてきました。

  • (画像1)地図
    スリランカはアジアと中東・アフリカ・ヨーロッパの中間に位置する

故ジャヤワルダナ元大統領は,1951年のサンフランシスコ講和会議にセイロン代表(当時蔵相)として出席し,「憎悪は憎悪によって止むことなく,愛によって止む(hatred ceases not by hatred, but by love)」という仏陀の言葉を引用し,対日賠償請求権の放棄を明らかにするとともに,わが国を国際社会の一員として受け入れるよう訴える演説を行いました。この演説は,当時わが国に対し厳しい制裁処置を求めていた一部の戦勝国をも動かしたと言われます。

こうした背景を踏まえ,わが国は,1954年のコロンボ・プラン加盟以降,1960年代の有償資金協力の実施に始まり,1980年の青年海外協力隊(JOCV)派遣取極,2005年の技術協力協定締結等,60年余にわたり,同国の経済社会の基盤整備及び人材育成等に重要な役割を果たしてきています。近年では,2009年の紛争終結以降,同国の堅調な経済成長の促進とともに,紛争影響地域の復興・開発に大きく寄与してきています。

こうした中,スリランカの一層の成長と安定化を促すため,わが国は経済成長のための基盤整備を中核とした支援を行うことを基本方針の一つとしています。具体的には,コロンボを中心とする国内の物流の改善や国際的な連結性の向上のための運輸インフラの整備として,空の玄関であるバンダラナイケ国際空港や海の玄関であるコロンボ港の整備,また国内物流改善のため,スリランカで初めての高速道路の建設を支援してきました。

1990年代,スリランカ唯一の国際空港であるバンダラナイケ国際空港は,国の玄関口として機能し,航空需要も増加していました。しかし,同空港の施設の多くは,建設以降大規模な改修は行われておらず,施設の老朽化,誘導路及び駐機場の劣化が目立っていました。

そこでわが国は,同空港の拡張と老朽化した施設の改修,航空管制設備の近代化及び貨物ターミナルビルの建設を支援し,急増する航空貨物需要への対応と施設利用者の利便性及び安全性の向上を図り,経済発展に寄与しました。

しかし,すでに旅客取扱数が旅客ターミナルの取扱能力を超過しており,早急なターミナルの拡張が必要とされています。この協力では,同空港において旅客ターミナルビルおよび駐機場の増設,ターミナルへの高架アクセス道路や下水処理施設などの整備を支援します。

  • (画像2)新しい空港ターミナル完成イメージ
    新しい空港ターミナル完成イメージ

スリランカ西岸に位置するコロンボ港は,立地条件や自然条件等に恵まれ,古くから国際海上輸送において大きな役割を果たしてきました。わが国は1980年以降円借款を通じて同港の貨物取扱能力の拡張に貢献してきましたが,近年予想を上回る貨物取扱需要の伸びに伴って貨物取扱能力の不足が顕在化し,深刻化していました。

こうした状況を踏まえ,わが国は,コロンボ港の既存埠頭(北埠頭及びクイーンエリザベス埠頭)の開発及び北航路の浚渫等を支援し,貨物取扱量の増加,船舶待ち時間の削減ならびに港湾の利便性・安全性確保に貢献し,国の経済発展に寄与しました。

  • (写真1)2003年当時のコロンボ港
    2003年当時のコロンボ港

スリランカのコロンボから南部地域へのアクセス手段である国道A2は,南部地域への唯一の国道ですが,交通量が激しいうえ,不十分な道路幅員などにより歩行者や低速車両が円滑な交通を慢性的に妨げ,経済活動を阻害する要因となっていました。

そこでわが国は,アジア開発銀行との協調融資で,コロンボ近郊から南部地域までの全長約125キロメートル(うち,JICA担当区間約67キロメートル)にわたる高規格自動車専用道路の新設を支援しました。これにより,コロンボ都市圏と南部地域との間の交通が円滑になり,同国南部の経済発展に寄与しました。

  • (写真2)南部高速道路(2014年)
    南部高速道路(2014年)

一連の支援・協力により,スリランカの国際的な人・貨物の移動は飛躍的に増加しました。来訪観光客数も2016年に初めて200万人を突破しました。国際的な貨物の取扱も飛躍的に増加し,コロンボ港は世界の港ランキングで2016年は23番目にランクインしました。空・海の国際的な玄関窓口としての機能向上に大きな貢献を果たしています。

また,スリランカで初めての高速道路として整備された南部高速道路により,南西海岸や世界遺産のあるゴールとのアクセス向上に貢献し,外国人観光客のみならず,スリランカ国民の域内交流,物流強化に大きく貢献しています。

スリランカ政府は現在,南部高速を起点に大コロンボ圏環状道路の整備を計画しており,南部高速道路自体も延伸が計画されています。さらに南西地域から南部への主要都市を結ぶ道路インフラを整備する「南西モンスーン回廊の構築」が構想されています。この構想の実現により,観光客の更なる増加,また農産品輸出の促進を通じた雇用の創出・所得水準の向上が期待されています。

着実に続くスリランカの発展の礎には,わが国による連結性の向上に着目した貢献が息づいているのです。