第2節 日本の国際協力(開発協力と地球規模課題への取組)
2024年は、国際社会がロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の悪化、地球規模課題などが相まった複合的危機に直面する中、こうした諸課題に対応するための開発協力の重要性が一層認識されるとともに、国内では、日本が政府開発援助(ODA)(1)を開始してから70周年を迎える節目の年として、各種事業が展開された。
1 開発協力
(1)開発協力大綱と日本のODA実績
ア 開発協力大綱の改定
開発途上国への関与を強化し、外交の最も重要なツールの一つである開発協力を一層効果的・戦略的に活用していくため、2023年6月、開発協力の新たな方向性を示す「開発協力大綱」(2)が閣議決定された。大綱では、開発途上国を始め様々な主体を巻き込み、互いの強みを持ち寄り、新たな解決策を共に創り上げていく「共創」を基本方針の一つとして掲げた。その施策の一つとして、オファー型協力(外交政策上、戦略的に取り組むべき分野において、ODAとその他公的資金(OOF)(3)や民間資金も含む形で、日本の強みをいかした魅力的な協力メニューを提案するもの)を打ち出した。
具体的には、2024年7月の日・フィジー首脳会合で、フィジーにおける防災分野・気候変動対策分野に係るオファー型協力で一致し、同年10月の日・ラオス首脳会談では、ラオス及びその周辺国の電力連結性強化及びクリーン電力による脱炭素化の促進に向けたオファー型協力の活用も検討することで一致した。
また、開発途上地域への民間資金の流れがODAを含む公的資金を大きくしのぐ現状において、新たな資金動員を通じ開発効果を最大化することがますます求められることから、外務省は3月、新しい資金動員の方策を検討するため、上川外務大臣の下に「開発のための新しい資金動員に関する有識者会議」を立ち上げ、全3回にわたり会合を開催した。7月には、同会議でまとめられた提言書「サステナブルな未来への貢献と成長の好循環の創造に向けて」が外務大臣に提出された。
イ 日本のODA実績
2023年の日本のODA実績(4)については、「贈与相当額計上方式」(5)によると、対前年比12.00%増の約196億37万ドルとなった。これは経済開発協力機構・開発援助委員会(OECD/DAC)(6)メンバーの中では、米国、ドイツに次いで第3位である。この計上方式での対国民総所得(GNI)(7)比は0.44%となり、OECD/DACメンバー中第12位となっている(出典:OECDデータベース(OECD Data Explorer.)(2024年12月))。
(2)2024年の開発協力
2024年、日本は以下アからエを中心に取り組んだ。
ア ウクライナ支援とパレスチナ支援、グローバル・サウス支援、及び人道危機への対応
日本はこれまで、ウクライナ及びその周辺国など影響を受けた関係国に対し、人道、財政、食料、復旧・復興の分野で、総額120億ドル以上の支援を着実に実施してきている。ロシアによるウクライナ侵略開始直後から、ウクライナ避難民向けの医療・保健、水・衛生、シェルター、食料、女性・子どもの保護などの人道支援を行い、財政支援も迅速に実施してきた。ロシアによる攻撃により多くのエネルギー・インフラ施設が破壊され、各地で大規模な停電が発生していることを受け、2024年1月に上川外務大臣がウクライナを訪問した際、国連開発計画(UNDP)(8)を通じた大型変圧器7基の輸送支援、UNDP及び独立行政法人国際協力機構(JICA)を通じた日系企業製を含むガスタービン発電機5基の供与に係る式典を開催した。また11月に岩屋外務大臣が同国を訪問した際には、UNDPを通じたガスタービン1機及び給水ポンプ設備用可変周波数ドライブ15台、ガスピストン2台の供与並びにJICAを通じた小型発電機32台の供与式を行った。さらに、地雷対策については、7月、20年以上にわたり日本が地雷対策に協力してきたカンボジアにおいて、ウクライナ非常事態庁職員を対象に、ウクライナに供与した地雷除去機の運用と維持管理のための研修を実施した。
また、2023年10月に発生したハマスなどによるイスラエルに対するテロ攻撃を発端とするガザ情勢を受けて、同月から2024年11月までに、日本はパレスチナに対して総額約1億3,000万ドルの支援を実施し、12月末には追加で総額約1億ドルの支援を決定した。特にガザ危機への対処として、食料、毛布、医薬品の提供などの人道支援を実施した。
なお、対パレスチナ難民支援において不可欠の役割を果たしている国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)については、1月に発覚した職員のテロ行為への関与疑惑を受け、日本は資金拠出(約3,500万ドル)を一時停止したが、4月、日本の支援によるプロジェクトの適正性を確保することを目的として、(ア)「日本・UNRWAプロジェクト管理・モニタリングメカニズム」の設置、(イ)UNRWAのガバナンス改革などにおける女性のリーダーシップ層への参画の促進、(ウ)不正な使用があった場合に、日本が必要なあらゆる措置を講じることなどを改めて確認した上で、拠出を再開した。
アフリカを含むグローバル・サウスの国々では、ロシアによるウクライナ侵略の影響も受けたインフレの拡大、サプライチェーンの混乱などにより、食料不安・不足が深刻化し、人道危機の更なる悪化にさらされている。こうした状況を受け日本は、グローバルな食料安全保障への対応として、二国間、国際機関及び日本の非政府組織(NGO)経由での食料支援や生産能力強化支援などを行った。
イ 「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現
世界の活力の中核であるインド太平洋地域及びビジョンを共有する幅広い国際社会のパートナーと共に「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を実現するため、引き続き、ODAを戦略的に活用しながら具体的な取組を進めている。
日本は従来、地域の連結性強化のための「質の高いインフラ」整備、法制度整備支援、債務管理・マクロ経済政策分野の能力強化、海上安全の確保のための海上法執行機関の能力強化(巡視船や沿岸監視レーダーなどの機材の供与、人材育成など)を実施しており、引き続きこれらを推進していく。
とりわけ、質の高いインフラの整備は、FOIP実現に向けた重要な基礎である。この点、2019年のG20大阪サミットで承認された「質の高いインフラ投資に関するG20原則」に含まれる、開放性、透明性、ライフサイクルコストを考慮した経済性、債務持続可能性などの諸要素を確保し、これらを国際スタンダードとして引き続き普及・実施していくことが重要である。2023年3月に発表されたFOIPの新たなプランでは、FOIPを実現するための取組を強化することとし、2030年までにインフラ面で官民合わせて750億ドル以上の資金をインド太平洋地域に動員し、各国と共に成長していくことを発表した。
また、2022年のG7エルマウ・サミットで立ち上げられた、質の高いインフラ投資を促進するためのイニシアティブである「グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)」(9)に関し、2023年のG7広島サミットに引き続き、2024年6月のG7プーリア・サミットにおいても、G7に加え民間セクターも参加するサイドイベントが開催され、G7各国は、アフリカにおける連結性を強化する取組の紹介や、PGIIの下で民間資金を含むインフラ投資が推進されることへの期待を表明した。岸田総理大臣からは、アフリカやアジアにおける連結性の向上に係る日本の取組を紹介した上で、PGIIの成果を2025年夏に開催予定である第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)(10)にもつなげていくことを述べた。
ウ 地球規模課題への取組
日本は、開発協力大綱において、新しい時代の人間の安全保障(11)の理念を指導理念として位置付け、2023年12月に改定された持続可能な開発目標(SDGs)実施指針(12)
の下、SDGsの達成を含む地球規模課題の解決に向けた取組を進めている。引き続き、人道支援を含む、保健、食料、栄養、ジェンダー、教育、防災、水・衛生、気候変動・地球環境問題などの分野における「人間中心の国際協力」を積極的に進めていく。これに際しては、日本の国際協力NGOとの連携も活用しつつ、顔の見える開発協力を推進する。また、人道危機が長期化・多様化する中、人道と開発に加えて紛争の根本原因への対処を強化し、平和の持続のための支援を行う「人道・開発・平和の連携」の理念に基づいて、難民・避難民支援を含む人道支援、貧困削減・経済社会開発、平和構築・国造り支援を推進していく。
エ 日本経済を後押しする外交努力
開発途上国の発展を通じて日本経済の活性化を図り、共に成長していくための取組を推進している。
具体的には、今後、改定された開発協力大綱で打ち出した、日本の強みをいかした魅力的なメニューを提案するオファー型協力や、民間資金動員型ODAなどを活用した官民連携を促進していく。また、日本の優れた技術を開発途上国の開発に活用するため、官民連携型の公共事業への無償資金協力などを通じ、日本企業の事業権・運営権の獲得を推進し、さらに、貿易円滑化や債務持続性の確保といった、質の高いインフラ投資に資する技術協力を促進していく。加えて、中小企業・スタートアップを含む日本企業の海外展開のため、JICAの民間連携事業により開発途上国におけるニーズ確認やビジネスモデルの策定を支援することで、日本企業の海外展開による開発途上国の課題解決を促進する。
(3)主な地域への取組
ア 東・東南アジア
東・東南アジア地域の平和と安定及び繁栄は、日本の安全保障や経済発展に直結するものであり、日本にとって重要である。日本はこれまで、開発協力を通じ、同地域の経済成長や人間の安全保障を促進することで、貧困削減を含む様々な開発課題の解決を後押しし、地域の発展に貢献してきた。
中でも、東南アジア諸国連合(ASEAN)はFOIP実現のための要であり、日本は、ASEANが抱える課題の克服や統合の一層の推進を支援している。2020年の日・ASEAN首脳会議で、「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」(13)がFOIPと本質的な原則を共有していることが確認されたことも踏まえ、日本は、AOIPの重点分野である海洋協力、連結性、SDGs、経済などに沿った日・ASEAN協力を引き続き強化していく考えである。2023年9月に発表した、「日ASEAN包括的連結性イニシアティブ」は、連結性強化の取組をハード・ソフトの両面で一層推進する取組であり、例えば、マニラ首都圏の旅客鉄道(フィリピン)、ビエンチャン空港の整備(ラオス)などの物理的なインフラ・プロジェクトや、日・ASEANサイバーセキュリティ能力構築センター(AJCCBC)を通じたソフト面での連結性強化への支援を推進している。

また、2023年12月の日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議において採択された「日本ASEAN友好協力に関する共同ビジョン・ステートメント」及びその実施計画を踏まえ、幅広い具体的な協力を推進している。例えば、共創による課題解決のための官民連携の新たな取組として、2023年12月にカンボジアと合意した「オファー型協力」について、2024年3月、官民ラウンドテーブル会議を開催するなど、民間企業を始めとする様々な主体と連携しながらデジタル面での協力を加速している。
さらに、自由で開かれた国際秩序を構築するため、日本のシーレーン上に位置するフィリピンやベトナムなどに対し、巡視船や沿岸監視レーダーを始めとする機材供与、専門家派遣や研修による人材育成などを通じて、海上法執行支援を積極的に実施している。そのほか、域内及び国内格差是正、防災、環境・気候変動、エネルギー分野など、持続可能な社会の構築のための支援も着実に実施している。2024年には、海洋プラスチックごみ対策、国際公法、フードバリューチェーン開発、税関行政、感染症対策などに関する研修を実施した。また、メコン地域に対しても、日・メコン協力の枠組みを通じて協力を行ってきており、引き続きメコン諸国の発展に貢献していく。

ミャンマーについては、2021年2月に発生したクーデター以降の人道状況悪化を受けて、国際機関やNGOなどを通じた、ミャンマー国民に直接裨(ひ)益する形での人道支援(食料、医療用品など)を実施してきている。
イ 南西アジア
南西アジアは、東アジア地域と中東地域を結ぶ海上交通の要衝に位置し、戦略的に重要な地域である。また、高い経済成長や大規模なインフラ需要が期待されるなど、大きな経済的潜在力を有しており、日本企業にとって重要な市場、生産拠点及び投資先として注目を集めている。一方、地域によっては深刻な貧困状況や、教育・保健医療などの基礎的な社会インフラの未整備、頻繁に発生する自然災害への対策、産業インフラ整備の遅れなどの課題を抱えている。日本は、人間の安全保障、SDGsの目標達成、日本企業の投資環境整備を含め、ODAを通じ、課題解決に向けた支援を行っている。
近年目覚ましい経済成長を遂げるインドに対する開発協力は「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」の重要な構成要素であり、日印双方の強みを持ち寄り、新たな価値を共創することを通じ社会的課題の解決を図ることで、日印双方の利益に資するような開発協力を推進している。地球規模課題への取組の観点からも、多くの人口を抱えるインドにおける経済社会開発の必要性が依然として非常に大きいことを踏まえ、インドの包摂的かつ持続可能な経済成長の実現を後押ししている。
2024年には、共創による産業の発展強化を目指した起業家や中小零細企業に対する支援のほか、多層的な連結性を強化するための道路、橋梁(りょう)などの建設や、クリーンな経済社会開発に資する医科大学病院の建設、都市上水道整備、森林・生物多様性保全などの支援を実施している。
2023年に日本とバングラデシュとの関係が「戦略的パートナーシップ」に引き上げられ、日本は同国の2026年の後発開発途上国(LDC)卒業に向け、引き続き「ベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)」及びFOIPの新たなプランに基づく「ベンガル湾からインド北東部をつなぐ産業バリューチェーン」の両構想の下、国内及び近隣地域の連結性向上やインフラ整備、投資環境の改善などの支援を進めている。また、日本は教育や保健分野での長年にわたる支援を維持し、また急激な都市化や気候変動などの迅速な対応が必要な課題解決も支援している。このほか、日本は、2017年以来、ミャンマーからバングラデシュに大量流入し、現在も同国に滞在している避難民に対し、バングラデシュ政府や国際機関と協力して人道支援を続けている。
スリランカでは、2022年4月の対外債務の一時的な支払停止以降の、急速な外貨不足による輸入資材の欠乏などの経済危機により人道状況が悪化した。日本は、債権国会合の共同議長として、スリランカの債務再編プロセスを主導し、2024年7月には、債権国会合のメンバーとスリランカとの間で債務再編に関する覚書の署名が完了した。また、日本とスリランカとの間の二国間合意の迅速な締結に向けたスリランカ政府の意思が文書で確認されたことから、円借款事業の貸付実行などの再開を決定した。このほか、日本は廃棄物処理機材整備のための3億円の無償資金協力などの環境対策、経済成長のための基盤整備などの支援を継続している。
パキスタンでは、2022年の大洪水からの復旧・復興支援の継続を中心に、ハイバル・パフトゥンハー州の被災地域の母子保健機材整備(15.03億円)や、インダス川流域における洪水管理強化(28.31億円)などの協力を決定した。
ネパールでは、自然災害対策や、交通インフラの整備などを中心に協力した。特に、166.36億円の円借款を供与し、同国初の山岳交通道路トンネルとなるナグドゥンガ・トンネルの開通に貢献した。

ウ 太平洋島嶼(しょ)国
太平洋島嶼国は、日本にとって太平洋で結ばれた「隣人」であるばかりでなく、歴史的に深いつながりがある。また、これらの国は広大な排他的経済水域(EEZ)(14)を持ち、日本にとって海上輸送の要となる地域である。また、かつお・まぐろ遠洋漁業にとって必要不可欠な漁場を提供している。このため、太平洋島嶼国の安定と繁栄は、日本にとって非常に重要である。
太平洋島嶼国は、経済が小規模であること、領土が広い海域に点在していること、国際市場への参入が困難なこと、自然災害の被害を受けやすいことなど、小島嶼国特有の共通課題を抱えている。このような事情を踏まえ、日本は太平洋島嶼国の良きパートナーとして、自立的・持続的な発展を後押しするための支援を実施してきている。
7月に開催された第10回太平洋・島サミット(PALM10)には、19か国・地域の首脳など及び太平洋諸島フォーラム(PIF)事務局長が参加し、「第10回太平洋・島サミット(PALM10)日本・PIF首脳宣言」及び「第10回太平洋・島サミット(PALM10)共同行動計画」を採択した。PIFは「2050年戦略」において7分野((ア)政治的リーダーシップと地域主義、(イ)人を中心に据えた開発、(ウ)平和と安全保障、(エ)資源と経済開発、(オ)気候変動と災害、(カ)海洋と環境、(キ)技術と連結性)を重点分野に掲げており、「共同行動計画」もそれら7分野を重点協力分野と位置付けた。また、岸田総理大臣はPALM10において、太平洋島嶼国地域にとって「存続に関わる唯一最大の脅威」である気候変動に対して、(ア)防災能力の強靱(じん)化、(イ)脱炭素化の推進、(ウ)島嶼国自身の取組の支援の3本柱から成り、日本の技術・ノウハウ・資金を総動員したオールジャパンの取組である「太平洋気候強靱化イニシアティブ」を表明した。例えば、インフラ整備分野では、パラオのミナト橋架け替えやマーシャルの国際空港旅客ターミナルビル建設、海洋分野では、ナウルの警備艇、ミクロネシア連邦の漁業調査監視船の供与、ソロモン諸島の国立大学水産産業研究センター整備、さらに気候変動分野では、フィジーの災害復旧スタンド・バイ借款などへの支援を表明した。


また、日本政府は、若手行政官を日本の高等教育機関への留学を通じて育成する無償資金協力事業「人材育成奨学計画(JDS)」を太平洋島嶼国の一部でも実施することとした。さらに米国などと連携して、海底ケーブルに関連する協力を進めるなど、経済安全保障に資するような新しい分野での協力も強化してきている。
エ 中南米
中南米は、日本と長年にわたる友好関係を有し、約310万人の日系人が在住するなど、歴史的なつながりが深い。また、資源・食料の一大供給地域であると同時に、約6.25兆ドル規模の域内総生産を有する有望な新興市場である。一方、気候変動に伴う防災分野、保健・医療分野の脆(ぜい)弱性、貧困など、国際社会共通の課題において大きな開発ニーズを抱えており、日本は、各国の事情を踏まえ、様々な協力を行っている。
保健・医療分野では、パラグアイに対して、過去にODAにより建設されたアスンシオン大学病院の母子保健センターを含む公的医療機関に医療機材を整備し、母子を中心とした低所得層の保健医療アクセスの改善を図る約5億円の無償資金協力の実施を決定した。また、自然災害に際する緊急人道支援としては、豪雨被害に見舞われたブラジルに対して、JICAを通じ、緊急援助物資を供与した。
気候変動・環境分野では、日本政府は、ドミニカ共和国に対して、首都サントドミンゴ特別区北西部に位置する区内唯一の廃棄物最終処分場であるドゥケサ処分場の場内整備や技術支援などを通じて廃棄物管理の改善を図る、66.6億円を限度とする円借款「統合的な固形廃棄物管理改善計画」の供与を決定した。また、日本政府は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)(15)を通じて約13.3億円を供与し、ベネズエラ難民・移民を多数受け入れているエクアドル、コロンビア、ブラジル及びペルーにおいて、難民・移民の保護強化及び生活立ち上げの支援を行い、難民・移民の人道支援及び社会経済的包摂を図る支援を行っている。

このほか、ハイチにおいて武装集団(ギャング)による暴力や人権侵害が頻発し、治安・人道状況が急激に悪化した事態を受けて、日本は、ハイチ情勢の安定化に貢献するため治安分野支援と人道支援を両輪とする支援を実施している。10月には、国連女性機関(UN Women)を通じて、ジェンダーに基づく暴力の被害を受けた女性を保護・支援し、その予防措置を講じるとともに、女性に対するエンパワーメントを推進するための約4億円の無償資金協力の実施を決定した。
また、日本は、ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、チリとパートナーシップ・プログラムを交わし、防災、警察制度などの分野において、三角協力(16)を通じて中南米諸国やアフリカなどにおいて人材育成を進めている。
オ 中央アジア・コーカサス
中央アジア・コーカサス地域は、ロシア、アジア、欧州に囲まれ地政学上の重要性を有するほか、東アジアと欧州を結ぶ輸送路であることから、この地域の発展と安定は、日本を含むユーラシア地域全体の発展と安定や連結性の要として重要である。高い成長と人口増を続けるこの地域との協力は、国際的な環境が急激に変化していく中で、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化する観点からも重要性を増している。
連結性の強化では、日本はカスピ海ルートの整備に取り組んでいる。例えば、2024年、税関分野での国際協力に取り組む世界税関機構(WCO)(17)と連携して、この地域の税関職員を対象とした通関の効率化につながる協力を開始した。
また、無償資金協力「人材育成奨学計画(JDS)」により、将来、政府中枢において政策立案にリーダーシップを発揮することが期待される政府職員の人材育成に貢献している。このほか、経済・社会インフラ分野では、タジキスタンでの安全かつ安定的な給水サービスの確立に向けた送配水管網の建設や、ウズベキスタンやキルギスにおける医療機材の供与を決定した。さらに、アフガニスタンと国境を接する中央アジア地域における国境管理の能力強化に関する支援を行っている。

カ 中東・北アフリカ
欧州、サブサハラ・アフリカ及びアジアの結節点という地政学上の要衝に位置する中東・北アフリカ地域の平和と安定の確保は、日本のエネルギー安全保障のみならず世界の平和と安定のためにも重要である。こうした観点から日本は、同地域の平和と安定に向けた支援を行ってきている。
レバノンに対しては、2024年9月中旬以降のイスラエルによる大規模空爆により、100万人以上の国内避難民が派生し、人道状況が急激に悪化したことを受けて、日本は新たに1,000万ドルの緊急無償資金協力の実施を決定した。
シリアに対しては、日本は困難に直面する全てのシリアの人々に人道支援を提供するとの支援方針の下、シリア及び周辺国に対して2012年以降総額約35億ドルの支援を行ってきている。さらに、就学機会を奪われたシリア人の若者に教育の機会を提供するため、2017年以降、シリア人留学生144人を日本に受け入れている。また、2024年9月中旬以降、レバノン情勢悪化の影響から、レバノンから多くの避難民がシリアに流入したことを受けて、新たに1,000万ドルの緊急無償資金協力の実施を決定した。
厳しい人道状況が継続するイエメンに対しては、日本は2015年以降、合計約4億ドル以上の支援を実施してきた。2024年、日本は、国際機関とも連携し、特に人道ニーズが高い食料、保健・医療及び難民保護などの分野における人道支援に加え、中長期的な視点から、アデン港における作業場の改修や係留船の供与、JICAによる研修を通じた人材育成などの協力を行った。
アフガニスタンでは、2021年8月のタリバーンによるカブール制圧以降の深刻な人道危機の状況を踏まえ、日本は、基本的人道ニーズへの支援を含む保健・教育・食料分野などに関する人道支援を国際機関などと連携しながら実施している。また、2024年5月のアフガニスタン北部における洪水被害に対しては、JICAを通じたテントや毛布などの緊急援助物資供与を行うとともに、国際機関を通じた食料や保健などの分野における300万ドルの緊急無償資金協力を実施した。
中長期的な中東地域の安定化のためには人材育成が不可欠である。一例として、エジプトでは、エルシーシ大統領主導の下、エジプト日本学校(EJS)やエジプト日本科学技術大学(E-JUST)などに日本式教育が導入され、就学前教育から大学院にわたる、未来の教育・人材育成分野での協力にも力を入れている。また、12月に同国のアルマシャート計画・経済開発・国際協力相が訪日した際、藤井比早之外務副大臣との間で、民間セクター開発及び経済多角化支援のための350億円を限度とする円借款、農機貸出センターデジタル化関連機材を整備するための5億円の無償資金協力、国立文化センターにおける機材整備のための1.8億円の無償資金協力に係る計3件の交換公文に署名がされた。ガザ情勢悪化などの国際情勢を受け、中東地域全体の平和と安定におけるエジプトの重要性は一層高まっており、日・エジプトの戦略的パートナーシップの下、二国間の一層の包括的な協力強化が期待される。
トルコに対しては、2023年2月のトルコ南東部を震源とする地震により、被災した中小零細企業を対象とする緊急支援として、日本政府は、2023年12月に200億円、被災地のインフラ復旧・復興支援として2024年4月に600億円、計800億円の円借款を決定した。
キ アフリカ
アフリカは、54か国に約14億人の人口を擁し、世界の成長の原動力となり得る高い潜在性と豊富な天然資源により、引き続き国際社会の注目と期待を集めている。一方、貧困、脆弱な保健システム、テロ・暴力的過激主義の台頭など、様々な課題にも直面している。こうした中、日本は、二国間及び国際機関を通じた支援やTICADなどを通じて、長年にわたり、アフリカの発展に貢献してきた。
4月、上川外務大臣はマダガスカルを訪問し、同国のトアマシナ港拡張計画を通じて連結性を強化することや、オファー型協力を活用してマダガスカルの多角的な開発に取り組むことで同国と一致した。その後訪問したコートジボワールでは、UN Womenとの協力案件の開始式への出席や、日本が建設・改修などの支援を実施したココディ大学病院の視察などを通じて、同国との協力関係の強化を確認した。続くナイジェリア訪問では、スタートアップのアクセラレーター・ハブであるVentures Parkを視察したほか、国際避難民女性らとの対話を行い、女性・平和・安全保障(WPS:Women, Peace and Security)の観点もいかしつつ引き続きナイジェリア北東部の安定化に向けた取組を支援していく決意を表明した。8月には、TICAD閣僚会合を東京で開催し、アフリカ47か国に加え、国際機関、民間企業、国会議員、市民団体の代表などが出席した。同会合では、「革新的解決の共創、アフリカと共に」のテーマの下、2025年のTICAD 9を見据え、未来志向の課題解決、若者と女性、連結性と知のプラットフォームの三つの視点を意識し、社会、平和と安定、経済の三つの柱について議論を行った。日本は、これまで長きにわたり、アフリカの成長を推進するとのコミットメントを、アフリカに寄り添いながら具体化してきており、アフリカと「共に成長するパートナー」として、「人」に注目した日本らしいアプローチで取組を推進し、アフリカ自身が目指す強靭なアフリカを実現していく。
(4)適正かつ効果的なODA実施のための取組
ア 適正なODA実施のための取組
ODA事業の透明性確保及び事業計画の改善のため、実施の各段階で、外部有識者の意見を聴取し、その意見を踏まえた案件形成を行っている。案件候補の計画段階では、開発協力適正会議を一般公開形式で開催し、関係分野に知見を有する独立した委員と意見交換を行い、事業の妥当性を確認している。また、事業完了後には、JICAが実施した事業規模2億円以上の案件について、JICAが事後評価を実施して、結果を「ODA見える化サイト」で公表しており(2024年12月31日時点で5,405件掲載)、また、事業規模10億円以上の案件については、第三者による事後評価を行っている。さらに、外務省は、ODAの管理・改善と説明責任の確保を目的として、第三者による政策レベルの評価(国別評価、課題・スキーム別評価など)及び外務省が実施した案件の事後評価(事業規模2億円以上10億円未満の案件については内部評価、事業規模10億円以上の案件については第三者評価)を実施している。評価を通じて得られた提言や教訓は、今後のODAの政策立案や事業実施にいかし、事業の透明性を確保するため、評価の結果を外務省ホームページ上で公表している。
また、開発協力に携わる人員の安全を確保する観点から、外務省及びJICAでは、「国際協力事業安全対策会議」の最終報告(2016年8月発表)で策定された安全対策の実施に取り組み、国際協力事業関係者の安全対策の実効性を確保するための対応を継続・強化している。
イ 効果的なODA実施のための取組
高い事業効果を発現し得るODAの案件形成を推進するため、外務省は、日本の開発協力大綱の重点政策と開発途上国当事国が考える課題の優先度や開発計画を総合的に検討しつつ、ODAの事業対象国ごとに重点分野や方針を定めた国別開発協力方針を策定している。また、国別開発協力方針の別紙として、実施決定から完了までの段階にある案件を一覧化した事業展開計画を策定し、個別案件が方針のどこに位置付けられ、他案件とどう相関しているかを視覚化している。こうした取組により、限られたODA予算が、日本も被援助国も重視する事業に戦略的に投入され、複数案件が有機的に関連し合う形で実施されて効果を上げることを確保している。
ウ ODAの国際的議論に関する取組
日本はODAに関する国際的な議論に積極的に貢献している。OECD/DACではODAを触媒とした民間資金の動員の促進や、気候変動問題などに関する援助の在り方について議論が行われている。また、新興ドナーが行う開発途上国支援が、国際的な基準や慣行と整合する形で説明責任と透明性を持って行われるよう、OECD/DACとして相互学習の機会を設けるなどの働きかけを行っている。
エ ODAへの理解と支持の促進のための取組
開発協力の実施に当たっては国民の理解と支持が不可欠であり、このため外務省は効果的な情報の発信を通じて国民の理解促進に努めている。外務省ホームページやODA広報X(旧ツイッター)などのSNS、YouTube動画、メールマガジンやコンテンツの制作などを通じて、幅広い層を対象に、分かりやすい政策広報に取り組んでおり、国際協力の現場を舞台としたテレビドラマシリーズ「ファーストステップ3」などを新たに制作した。さらに、2024年は日本がODAを開始してから70年の節目に当たることから、各種記念事業が開催された。外務省は、JICAなど関係機関と連携し、国際協力70周年記念事業キックオフ・イベント in Kobe(3月)、国際協力ミライ会議(5月)、国際協力70周年記念シンポジウム(12月)を開催したほか、33回目となるグローバルフェスタJAPAN2024(9月)は、対面・オンライン配信を併用したハイブリッド形式で開催し、2日間で7万4,000人の来場・視聴者を得た。また、教育機関などで外務省員が講義を行うODA出前講座の実施など、若者などに向け積極的な開発協力への理解促進も図っている。海外に向けた広報としては、日本の開発協力に関する現地での報道展開を目指してODA現場での視察ツアーを実施するほか、英語や現地語などによる広報資料の作成も行っている。




2024年は、1954年(昭和29年)に日本が政府開発援助(ODA)を開始してから70年目の節目の年であり、年間を通して国際協力への関心を高めるための様々な記念事業を実施してきました。3月の国際協力70周年記念事業キックオフ・イベント in Kobeを皮切りに、5月に国際協力ミライ会議、9月には第33回目となるグローバルフェスタJAPAN2024を開催しました。また、12月には、70周年記念事業の最後のイベントとして、国際協力70周年記念シンポジウムを会場とオンラインでのハイブリット形式で開催し、多くの方に参加いただきました。
また、新しいODAの方策を検討するため、上川外務大臣の下「開発のための新しい資金動員に関する有識者会議」を立ち上げ、国内の様々な関係者の意見を得つつ検討を行いました。
「共創と連帯、そして未来へ─自由で開かれた国際秩序と新たな時代の開発協力─」をテーマとし、冒頭に小渕優子衆議院議員(JICA議員連盟会長)からの挨拶、岩屋外務大臣(宮路拓馬外務副大臣が代読)及びアヒム・シュタイナー国連開発計画(UNDP)総裁が、それぞれ基調講演を行いました。その後、ラニア・アルマシャート・エジプト計画・経済開発・国際協力相、ポーンワン・ウタヴォン・ラオス計画投資省副相、フセイン・ニヤズ・モルディブ外務省経済協力担当次官、ジャン・アントワーヌ・デュフ駐日セネガル大使、アハメッド・シャッフラ駐日チュニジア大使を始めとする国内外・国際機関の要人や有識者の出席を得てパネルディスカッションを行いました。第1部では、日本の国際協力70年への評価、地球規模課題や国際情勢の変化を踏まえた各国・国際機関の課題、日本の国際協力が将来果たす可能性、今後の世界の在り方への期待・希望について意見が交わされ、第2部では、「新しい国際協力」をテーマとし、国際的な共通課題や日本国内の課題の解決に当たって国際協力が持つ意義・可能性など、新しい国際協力の在り方について議論が行われました。最後に、アヒム・シュタイナーUNDP総裁の閉会の辞をもって、本シンポジウムは終了し、年間を通して行われた国際協力70周年記念事業が締めくくられました。

同会議から提出された提言では、日本と開発途上国が多様化する社会課題に共に取り組む上で、課題解決力を有する民間企業など、多様な主体との連携がますます重要であるとの問題意識が示されました。連携を高めるためには、ODAを触媒として、民間企業・投資家自身が経済合理性に基づく投資を行うことで、結果的に開発途上国の開発へとつながっていくようなエコシステム作りが重要であり、その方策として、持続可能な社会を実現するための金融メカニズムである「サステナブルファイナンス」1とODAとの連携強化が重要であるとされました。加えて、同提言では、JICA海外協力隊経験者への帰国後支援などを通じた日本経済・社会への環流の重要性なども提言されました。今後、本提言も踏まえてODAの制度を見直し、昨今の環境変化に対応した「新しい国際協力」の仕組みの実現を目指していきます。
1 詳細については金融庁が立ち上げた「サステナブルファイナンス有識者会議」報告書を参照
https://www.fsa.go.jp/singi/sustainable_finance/index.html

(1) ODA:Official Development Assistance(政府開発援助)
開発協力を進めるための公的資金のうち、開発途上国の経済開発や福祉の向上に役立つことを主目的としたもの
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo.html

(2) 開発協力大綱については外務省ホームページ参照:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/taikou_202306.html

(3) OOF:Other Official Flow
(4) 日本のODAの主な形態としては、無償資金協力、債務救済、国際機関等経由及び技術協力である贈与、政府貸付等、国際機関向け拠出・出資などがある。
(5) 「贈与相当額計上方式」(Grant Equivalent System:GE方式)は、経済協力開発機構・開発援助委員会(OECD/DAC)が標準のODA計上方式として2018年の実績から導入したものであり、政府貸付等について、贈与に相当する額をODA実績に計上するもの。贈与相当額は、支出額、利率、償還期間などの供与条件を定式に当てはめて算出され、供与条件が緩やかであるほど額が大きくなる。以前のOECD/DACの標準であった純額方式(供与額を全額計上する一方、返済額はマイナス計上)に比べ、日本の政府貸付等がより正確に評価される計上方式と言える。(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/100053766.pdf)

(6) OECD/DAC:Organisation for Economic Co-operation and Development /Development Assistance Committee
(7) GNI:Gross National Income
(8) UNDP:United Nations Development Programme
(9) PGII:Partnership for Global Infrastructure and Investment
(10) TICAD:Tokyo International Conference on African Development
(11) 人間の安全保障:個人の保護と能力強化により、恐怖と欠乏からの自由、及び一人一人が幸福と尊厳を持って生存する権利を追求するという考え方
(12) 持続可能な開発目標(SDGs)実施指針(2023年12月19日SDGs推進本部決定)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/kaitei_2023_jp.pdf

(13) AOIP:ASEAN Outlook on the Indo-Pacific
(14) EEZ:Exclusive Economic Zone
(15) UNHCR:The Office of the United Nations High Commissioner for Refugees
(16) 三角協力:先進国やドナー、国際機関が、開発途上国間の協力を人材、技術、資金、知識などを活用して支援すること
(17) WCO:World Customs Organization