ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和8年2月9日
評価年月日:令和7年11月18日
評価責任者:国別開発協力第二課長 廣瀬 愛子
1 案件名
1-1 供与国名
パキスタン・イスラム共和国(以下、「パキスタン」という。)
1-2 案件名
南パンジャブ地域における小児保健医療施設整備計画
1-3 目的・事業内容
パンジャブ州ムルタン県のムルタン小児病院において、ハイリスク新生児・小児に対する診断・治療に必要な施設及び医療機材の整備を行うことにより、同病院における診断・治療体制の強化及び災害拠点病院としての機能向上を図り、もって小児保健医療サービス全体の質の向上及びパキスタンにおける人間の安全保障の確保と社会の強靱化に寄与するもの。
供与限度額は29.10億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、「国際協力機構 環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月交付公布)におけるカテゴリCであり、環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- パキスタン(一人当たり国民総所得(GNI)1,430ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類される。
- パキスタンの千人当たり新生児死亡率は38(世界平均17)と世界で二番目に高く、千人当たり乳児死亡率は50(世界平均27)、千人当たり5歳未満児死亡率は58(世界平均37)である(UNICEF、2023年)。パンジャブ州南部の母子保健指標は同州北部と比較して低く、特に乳児死亡率、5歳未満児死亡率は国家平均・州平均を大きく上回る県が多く存在し、その改善は喫緊の課題となっている。パンジャブ州政府は、「パンジャブ州保健セクター戦略(2019-2028)」において、質の高い母子保健サービスへのアクセス向上に向けた、包括的緊急産科ケアを提供するための医療施設のサービス提供体制の強化や、第三次医療施設における質の高い患者中心ケアの強化の必要性を掲げている。
- パンジャブ州の第三次医療施設であり、新生児・小児専門病院である「ムルタン小児病院」では、パンジャブ州南部の他、近隣州を含めた広範囲の重症患者の受入れに加え、新生児・小児医療の最後の砦として、同域内の別の第三次医療施設からも患者の紹介・搬送があり、施設の受け入れ可能な範囲を超えて、救急・外来・入院を受け入れている。特に病床や救急・外来の受入スペース等が不足しており、未熟児等のハイリスク新生児の集中治療室では、既存の機材が不十分であるため、1つの保育器に2名の新生児を入れてケアが提供されている。また、同病院は災害拠点病院としての機能も果たし、2022年の洪水発生時には他州から延べ約2,300人の患者を同病院で受入れるとともに、同病院の医療従事者等を近隣州の被災エリアに派遣し、医療キャンプの設置・緊急医療支援等を行った。今後も災害拠点病院として同病院が果たす役割は大きく、緊急時における新生児・小児に対する医療サービスの質向上を図ることが求められている。
- 本計画は、パキスタンの開発課題・政策及び我が国開発協力方針に合致する。自由で開かれたインド太平洋(FOIP)では、国際保健への取り組みが挙げられており、同地域の保健医療分野における連携協力による「強靭・持続可能な社会」の実現を目指している。更に、COP27(2022年11月)及び洪水復興支援国会合(2023年1月)では2022年に発生した大規模洪水の復興支援が呼びかけられ、同国外務大臣来日時(2023年7月)には、災害対策の一環として保健分野に対する支援要望が寄せられた。本事業はこれら戦略にも合致する。
また、本計画は、母子保健の向上に必要な施設及び医療機材の整備を通じてSDGsのゴール3(健康な生活の確保と福祉の推進)、ゴール5(ジェンダー平等の達成)、また将来的な災害に備えた医療施設の機能強化を通じてゴール13(気候変動とその影響への緊急の対処)に貢献する。
2-2 効率性
JICAが実施中の技術協力「パンジャブ州母子保健強化プロジェクト」(2021年~2025年)を通じ、第一次医療施設の医療従事者、女性保健訪問員等の妊産婦・新生児ケアに関する能力強化に加え、同州の保健行政担当者の監督機能強化に取り組んでいる。本計画にて、ムルタン小児病院に対する施設整備及び機材調達を行うことにより、新生児に対する保健医療サービス強化のための研修の質の向上や、第一次・第二次医療施設から搬送された患者が同病院で質の高い医療サービスを享受し、新生児期から幼児期までの包括的なケア体制の構築に寄与することが期待される。
2-3 有効性
本計画の実施により、2024年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2031年の目標値と比較すると、主に以下のような成果が期待される。
- 定量的効果
- 新生児・小児を対象とした緊急手術件数(件/年):2,958から5,170
- 先天性心疾患等の小児を対象とした心臓外科手術件数(件/年):112から300
- 新生児集中治療室における患者の生存率(%):71から81
- 小児集中治療室における患者の生存率(%):67から76
- 定性的効果
- 精密検査機器の導入、治療設備の拡充及び効率的な動線の実現により、重篤な患児への診断と治療の質が向上する。
- 高度医療サービスへのアクセス向上により、患者及びその家族の身体的・経済的負担が軽減される。
- 臨床研修環境の改善により、新生児・小児専門医療に関する医師や看護師等の能力が向上する。
- 災害拠点病院としての機能強化により、災害発生時の救急対応力が向上する。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- パキスタン政府からの要請書
- JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)

