ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和7年12月23日
評価年月日:令和7年11月17日
評価責任者:国別開発協力第二課 廣瀬 愛子
1 案件名
1-1 供与国名
キルギス共和国(以下、「キルギス」という。)
1-2 案件名
南部地域における中核病院医療機材整備計画
1-3 目的・事業内容
キルギス南部3州(オシュ州、ジャララバード州及びバトケン州)をカバーする公的医療サービス提供の拠点となるオシュ市の中核病院において、循環器疾患及びがんの診断・治療のための医療機器の整備を行うことにより、非感染症疾患(NDCs)に対する診断・治療体制の強化を図り、もって保健医療サービスの質の向上を通じた、同国における社会サービスの向上に寄与する。供与限度額は18.01億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本事業は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)におけるカテゴリCであり、環境や社会への望ましくない影響が最小限かあるいは、ほとんどないと考えられる協力事業と判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- キルギス共和国(一人当たり国民総所得(GNI)2,150ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類されている。
- 日本は、1991年の同国の独立以来の長きに亘り、人材育成を始めとする国造りに貢献してきており、極めて良好な関係を築いている。同国とこれまでの友好関係を維持・発展させていくためには、公共サービスが行き届きにくい同国民生活に直結する保健・医療分野での協力が大きな効果を発揮しうる。2023年11月に行われた日・キルギス首脳会談の共同声明において、岸田総理(当時)とジャパロフ大統領の両首脳は医療分野における協力に満足の意を表明した。
また、我が国は、2023年5月のG7広島サミットやG7長崎保健大臣会合等においてユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成を含む国際保健に貢献していくことを表明し、本事業でこうした決意表明を具体的にフォローすることが重要である。 - キルギスは1991年の独立以降、旧ソ連の崩壊に伴う医療サービス体制の解体と政治の混乱や経済不況により保健医療サービスの質・量が低下したものの、同国政府の保健セクター改革による感染症対策や我が国も協力した母子保健の強化により、5歳未満児死亡率の減少、ポリオやマラリアの撲滅といった成果を上げてきた。他方、同国では非感染性疾患(Non-communicable diseases)(以下、「NCDs」という。)の全死因に占める割合が若年層も含め約8割(世界保健機関(以下「WHO」という。)Mortality Database、2021年)となっており、世界全体の平均(約7割)よりも高い。特に循環器疾患の死因の割合が高く(51.6%、キルギス統計委員会、2021年)、がんが死因に占める割合も2010年の8.8%から2019年には12.2%(WHO)に増加している。
- こうした課題に対処すべく、同国政府は「国家公衆衛生保護・保健システム発展プログラム(2019-2030年)」(以下、「公衆衛生プログラム」という。)において、NCDs対策を保健政策の重点分野に位置づけ、特に2030年までにNCDsによる若年死亡率を3分の1に減少させることを目標として掲げている。
- NCDsの死亡率を低減するためには、各医療施設が役割に応じた機能を有し、適切な医療施設間のリファラル(搬送)体制が整備されることにより、適時・適切な医療サービスを提供する必要がある。このため公衆衛生プログラムでは「病院システムの改善・合理化」を政策の柱の一つとして掲げており、保健省は、地域の中核となるビシュケク市とオシュ市の病院をそれぞれ北部、南部のトップリファラル病院とし、三層から成る医療施設間のリファラル体制の整備を進めている。同プログラムに基づき、世銀の支援により2020年に策定されたマスタープラン「Healthcare Delivery Optimization Plan for the Kyrgyz Republic」では、両市の病院を中心に、病院システムの適正化の実現に向けた医療機器の整備計画が策定されている。
- 我が国は、上記マスタープランに基づき、チュイ州及びビシュケク市を対象に、技術協力「非感染性疾患の早期発見・早期治療のためのパイロットリファラル体制強化プロジェクト」(2022年~2026年)によりリファラル体制の強化と主に一次医療施設への機材整備を支援し、また、無償資金協力「ビシュケク市及びチュイ州における医療機材整備計画」(2023年2月贈与契約署名)により主に二次医療施設の医療機器、「ビシュケク市内三次病院における医療機材整備計画」(2024年8贈与契約署名)により三次医療施設の医療機器の整備を支援するなど、NCDsの診断・治療体制及びリファラル体制の強化に寄与している。
- 他方、キルギスにおけるリファラル体制の更なる強化のためには、首都ビシュケク市と並ぶもう一つの主要都市であるオシュ市内に所在し、人口が集中するフェルガナ盆地に位置する3つの州(オシュ州、ジャララバード州及びバトケン州)から患者を受け入れる、同国南部の主要病院のNCDsに係る診断・治療に必要な医療機器の整備が不可欠である。これらの州では、キルギス国内全体の死亡者数のうち循環器疾患では約5割(全国17,188人のうち8,594人)、がんでは約4割(全国4,138人のうち1,718人)を占め、高血圧症の死亡者もキルギス全土の約7割(全国1,222人のうち920人)を占める(キルギス共和国の公衆衛生と保健機関の活動、2022年)。こうした背景から、キルギス政府は同国全体の医療体制を構築するために、北部の拠点となるビシュケク市の医療施設と併せて、南部3州の地域中核病院としてオシュ市の医療施設を強化する方針を表明している。
- しかしながら、現在、オシュ市に位置するオシュ広域統合臨床病院(以下、「統合病院」という。)及びオシュ広域腫瘍センター(以下、「腫瘍センター」という。)では、専門医の資格を有し、海外での研修等を受け高い技術を有する医療従事者がいる一方で、医療機器が不足・老朽化しており、南部地域におけるNCDs重症患者に対する適時・適切な医療サービス提供が困難な状況にある。
- 上記を踏まえ、南部地域における中核病院医療機材整備計画(以下、「本事業」という。)は、キルギス南部地域で公的医療サービス提供の拠点となる中核病院である統合病院及び腫瘍センターにおいて、特に循環器疾患及びがんの診断・治療に必要な医療機器を整備するものであり、同国政府が目指す保健医療体制改善に不可欠な優先度の高い事業として位置づけられる。さらに、SDGsゴール3(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する)にも貢献する。
2-2 効率性
キルギス政府の要請を踏まえつつ、現地調査を通じ、支援対象の絞り込みを実施した。その結果、対象病院を3病院よりニーズの高い2病院に絞ったほか、医療機材も非感染性疾患の検査・治療に必須なものに絞り込んだ。特に、医療機材は、各病院が未所有のものや、故障・老朽化した旧ソ連時代からの機材の更新を優先した。
2-3 有効性
- 定量的効果:(2024年実績値)・目標値(2030年)
- 統合病院
- 他病院からリファーされる循環器疾患患者数(人/年) 296から592に増加
- 血管神経科における平均入院日数の削減(対計画日数)(%) 90.5から85.9に削減
- 脳神経外科における平均入院日数の削減(対計画日数)(%) 88.6から83.6に削減
- 脳神経外科において手術を受けた患者数(人/年) 673から1,348に増加
- 腫瘍センター
- 乳がん早期発見率(%) 61から80に増加
- 胃がん早期発見率(%) 24から36に増加
- 手術件数(件/年) 1,296から1,918に増加
- 統合病院
- 定性的効果(統合病院、腫瘍センター共通)
- 医療サービスの質改善
- 患者満足度の向上
- 病院職員のモチベーション向上
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- キルギス政府からの要請書
- JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- キルギス国別評価報告書(2011年度・第三者評価)

