ODA(政府開発援助)

令和7年12月8日

作成年月日:令和7年12月4日
評価責任者:国別開発協力第三課長 東 邦彦

1 案件概要

(1)供与国名

 モロッコ王国(以下、「モロッコ」という。)

(2)案件名

 ガルブ平野南東地域農業用水整備計画

(3)目的・事業内容

 本計画は、ガルブ地域の農業用幹線水路、ポンプ場等の建設及び付帯施設の機材調達等を行うことにより、水資源利用の効率化及び農業生産の増大・安定化を図り、もって同国における気候変動に適応した農業開発の推進に寄与するもの。

  1. 主要事業内容
    • 一次幹線水路、ポンプ場、二次幹線水路、貯水池の建設、機材調達等
    • コンサルティング・サービス
  2. 供与条件
    供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件
    645.77億円 2.20% 30(10)年 一般アンタイド
    • (注)コンサルティング・サービス部分の金利は0.40%を適用

(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

  1. 環境影響評価(EIA):本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定、以下「JICAガイドライン」という。)に掲げる農業セクター、影響を及ぼしやすい特性に該当するため、カテゴリAに分離される。本計画のEIA報告書は、2024年3月にモロッコ農業・海洋漁業・地方開発・水・森林省の承認を取得済み。
  2. 用地取得及び住民移転:本計画は、約124ヘクタールの用地取得及び8世帯33人の非自発的住民移転を伴い、モロッコ国内手続及びJICAガイドラインに沿って手続が進められている。
  3. 外部要因リスク:特になし。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

  1. 開発ニーズ
     農業セクターはモロッコの重要産業であり、地方部では人口の8割が農業により収入を得ているが、農耕可能地の大部分が乾燥・半乾燥地域であり、84%が天水農業であるため、降雨量による影響を受けやすい。モロッコ有数の農業地帯であるガルブ平野は、灌漑可能面積(22.4万ヘクタール)のうち、約5割(11万ヘクタール)で灌漑施設が整備されておらず、枯渇しつつある地下水や不安定な天水に依存しているため、干ばつ等の影響を受けやすい。気候変動による気温の上昇、干ばつの進行に伴い、今後も限られた水資源への圧力が高まることが予想され、農業生産の安定化のためには、より効率的で持続可能な水資源の活用が求められている。
     モロッコ政府は、モロッコ長期国家開発戦略に位置づけられる「新発展モデル」(2021-2035年)において、気候変動に対する農業生産の安定化を考慮した食料安全保障の向上や、限られた水資源をより効率的に活用することの重要性を強調している。また、国家農業計画「グリーンジェネレーション2020-2030」においては、農業セクターのGDP向上や水保全プログラムの推進等を通じた「持続可能な農業の推進」を優先取組事項の一つとして掲げている。さらに、国家給水・灌漑計画「国家飲料水供給・灌漑プログラム2020-2027」においては、「農業部門における需要の管理と水の有効利用」を重点分野の一つとして2027年までに節水灌漑を全灌漑農地の60%に到達させることが計画されている。同国政府は、ガルブ平野の豊富な水資源を有効活用し、農業生産性の向上、生産量増大及び安定化を図ることを目的に、ガルブ平野約7.2万ヘクタールの灌漑施設の整備を灌漑プログラムの優先事業の一つとして計画し、本計画は同優先事業の一部に位置づけられている。
  2. 我が国の基本政策との関係
     我が国の対モロッコ国別開発協力方針(2020年9月)は、重点分野の一つとして「経済競争力の強化」を掲げており、「農水産業の生産性・競争力の強化を推進する」こととしている。また、モロッコJICA国別分析ペーパー(2014年11月)では、「経済競争力の強化・持続的な経済成長」の重点分野において農水産業への支援を挙げ、農水産業の付加価値向上に資する協力を展開することと分析されている。JICAグローバル・アジェンダ(課題別事業戦略)「農業・農村開発(持続可能な食料システム)」でも、食料の安定的な生産・供給を通じ、食料安全保障を確保することが挙げられていることから、本計画は、これらの方針に合致する。
     また、中東・アフリカにおける安定した友好国である同国との間で二国間関係の強化を図ることは、国際社会や中東・アフリカ地域における我が国の活動にも大きく寄与する。さらに、本計画は、SDGsゴール2(飢餓)及びゴール13(気候変動)にも貢献すると考えられることから、事業の実施を支援する必要性は高い。

(2)効率性

 我が国は、国別研修「節水灌漑システム普及」(2019年~2023年)を通じ、モロッコの節水灌漑システム普及促進と水利組合の能力強化に向けた施策に関する研修を実施しており、本計画の実施機関であるガルブ地方農業開発公社(ORMVAG)からの本研修参加者が節水灌漑技術普及や効率的な水利組合強化等の役割を担う予定。

(3)有効性

 本計画の実施により、事業が完成する3年後(2032年)には、2022年比で以下のような成果が期待される。

  1. 定量的効果
    1. 一次幹線水路から二次幹線水路までの送水効率が90%に改善される。
    2. 本計画で整備する施設から導水する表流水により灌漑される農地面積が20,000ヘクタールとなる。
    3. 乾期における計画作付け比率が62.1%に改善される。
  2. 定性的効果
     食料安全保障及び気候変動対策(適応策)への貢献、農村地域の経済・産業活性化等、地下水利用減少による水資源保全が期待される。

3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用

 要請書、モロッコ国別評価報告書(2015年度・第三者評価)、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
 案件に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース別ウィンドウで開く及び事業事前評価表別ウィンドウで開くを参照。
 なお、本計画に関する事後評価は実施機関であるJICAが行う予定。

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