ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:令和7年10月6日
評価責任者:国別開発協力第一課長 加藤 要太
1 案件概要
供与国名
カンボジア王国(Kingdom of Cambodia)
案件名、実施機関、供与限度額、供与条件
| 案件名 | 実施機関 | 供与限度額 | 金利(注) | 償還(うち据置)期間 | 調達条件 |
|---|---|---|---|---|---|
| プノンペン首都圏送配電網拡張整備計画(フェーズ3)(第一期) (Phnom Penh City Transmission and Distribution System Expansion Project (Phase 3) (I)) |
カンボジア電力公社 (Electricité du Cambodge: EDC) |
229.11億円 | TORF+40bp | 30(10)年 | アンタイド |
- (注)一般条件(変動・基準)を適用。
- (注)コンサルティング・サービス部分は金利0.65%とし、償還期間及び据置期間並びに調達条件は本体部分と同様とする。
目的・事業概要
本計画は、電力需要が集中、拡大するプノンペン首都圏において、変電所及び送配電網を整備することにより、首都圏の電力供給の安定化および再生可能エネルギー導入促進を図り、もってカンボジアの経済発展に寄与するもの。
2 実施意義/資金協力案件の評価
(1)外交的意義
カンボジアはメコン地域の中心に位置し、地域の連結性と域内の格差是正の鍵を握る重要な国であり、我が国は、同国内戦後の和平・復興・開発への貢献や活発な要人往来、国際場裡での協力等を通じ、同国との関係を強化してきた。近年は、二国間の経済関係も緊密化しており、我が国から同国への民間投資が増大している。またカンボジアは、我が国が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」についてASEAN諸国の中で最初に支持を表明しているほか、2022年11月には2023年の外交関係樹立70周年の機会に両国関係を「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げすることで合意し、両国関係を更に飛躍させていくことで一致している。
また、本計画は同国における送変電・配電設備の増強を行うことで安定的な電力の供給体制の構築するものであり、「自由で開かれたインド太平洋」のための新たなプランにおける柱の一つである「インド太平洋流の課題対処」の取組に位置付けられる。本計画は、SDGsのゴール7(持続可能な近代的エネルギーへのアクセス確保)、ゴール8(持続的、包摂的で持続可能な経済成長)及びゴール9(強靭なインフラの構築)にも貢献する。
(2)開発ニーズ/有効性
ア 開発ニーズ
カンボジアは実質GDP成長率がコロナ禍前の10年間(2010~2019年)で平均7%を超えており、自動車部品産業等、縫製業以外の製造業の立地が増加している。こうした堅調な経済成長に伴い、電力需要も急速に増加しており、2012年以降10年間で約3.6倍、年平均16.6%の伸びを示し、これに対応するため安定的な電力の供給体制の構築が課題となっている。特に、カンボジア経済の中心かつ人口及び産業立地が集中し、国内電力需要の5割以上を占める首都プノンペンにおいては、送変電・配電設備の容量不足により、更なる電力需要の拡大に合わせて供給量を増やすことができない状態にあり、変電所の増強・新設と、それに伴う送配電網の拡張が喫緊の課題となっている。
イ 有効性
- 定量的評価
本計画の実施により、2023年の実績値を基準として、事業完成2年後の2034年の目標値と比較すると、以下のような成果が期待される。- 新設する7変電所の変圧器設備稼働率が0%から65%以上になる
- 新設するGS Russei Keoが接続予定の既設変電所(GS5)の変圧器設備稼働率が83.1%から65%~80%になる
- 新設するGS New DKRが接続予定の既設変電所(GS8)の変圧器設備稼働率が76.6%から65%~80%になる
- 新設する7変電所の送電端電力量が0メガワット時/年から625,201メガワット時/年以上になる
- 新設する7変電所の変電所全停電回数が、0回/年になる
- 定性的評価
国内電力供給安定化、投資促進・産業活性化、経済発展、再生可能エネルギーの導入促進、気候変動対策促進等
(3)我が国の基本政策との関係等
我が国は、対カンボジア王国国別開発協力方針(2024年4月)において「経済成長をもたらす産業の変革と発展」を重点分野の一つとして位置付け、「電力を始めとするエネルギーの安定供給と炭素中立化の両立を実現するための支援に取り組む」としており、本事業は当該方針に合致する。また、2023年9月に発表した「日ASEAN包括的連結性イニシアチブ」においても、取組の一つに電力連結性として安定的な電力供給の確保を掲げており、同方針にも合致する。さらに、カンボジア政府は2023年8月にフン・マネット新政権が発表した開発戦略「第一次五角形戦略」においても、エネルギー分野における連結性と効率性の向上に取り組むことを掲げており、こうした先方政府が引き続き重要視する分野において支援を行うことは、両国の更なる関係強化に資するなど外交的意義が大きい。
3 環境社会配慮、外部要因リスク等留意すべき点
本計画は「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月制定)に掲げる影響を及ぼしやすいセクター・特性及び影響を受けやすい地域に該当しないため、カテゴリBに該当する。
水路上での変電所建設においては、適切な工法を選択することで土壌流出は最小限に留められ、下流水域の水質の悪化は想定されない。工事中は大気質、騒音等について、同国国内の排出基準及び環境基準を満たすよう、コントラクターにより対策がとられることにより、環境への望ましくない影響は最小限とされる予定。廃棄物処理や土壌汚染等による負の影響は想定されない。
事業対象地域は保護地域や野生動物保護区、原生林、熱帯雨林、生態学的に価値のある生息地および貴重種の生息地等を含まず、自然環境への望ましくない影響は最小限である。
本計画は、約4.3ヘクタールの用地取得、57人(13世帯)の非自発的住民移転を伴い、同国国内手続き及びJICA環境社会配慮ガイドラインに沿って作成された住民移転計画に沿って取得が進められる。ステークホルダー協議では、適切な補償の実施、交通渋滞対策、安全対策を求める意見が得られた。適切な補償の実施については、詳細設計段階で詳細調査(DMS)および再取得価格調査(RCS)を再度行い、送電線の線形確定と被影響住民の特定を行った上で、移転前に被影響住民への補償を行う予定である。交通渋滞対策については、交通規制と迂回路の案内、交通誘導員配置、緊急車両の通行確保、地中送電線用のトレンチ工事をブロックごとに実施する等により都市部での交通渋滞を最小限に抑える等の施策を行う予定である。安全対策については作業員の安全教育、施工中の危険箇所の表示・警告、転落防止柵の設置、夜間作業時の照明確保、緊急時対応計画の策定、地中送電工事でのマンホール他設置時の転落事故を防ぐ工法の採用等を行う予定である。
工事中はEDCの監理およびコンサルタントの監督の下、コントラクターが大気質、騒音、水質等についてモニタリングを、供用時はEDCが安全管理や土壌・水質汚濁等についてのモニタリングを実施する。用地取得状況のモニタリングはEDCが行う。
4 事前評価作成に用いた資料、有識者の知見等
要請書、カンボジア国別評価報告書(2017年度・第三者評価)、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料等。

