ODA(政府開発援助)

令和7年10月16日

評価年月日:令和7年10月6日
評価責任者:国別開発協力第一課長 加藤 要太

1 案件概要

供与国名

 カンボジア王国(Kingdom of Cambodia

案件名、実施機関、供与限度額、供与条件

案件名 実施機関 供与限度額 金利(注) 償還(うち据置)期間 調達条件
ニロート上水道拡張計画(第一期)
Nirodh Water Supply Expansion Project (I)
プノンペン水道公社
Phnom Penh Water Supply Authority
215.26億円 TORF+40bp 30(10)年 アンタイド
  • (注)一般条件(変動・基準)を適用。
  • (注)コンサルティング・サービス部分は金利0.65%とし、償還期間及び据置期間並びに調達条件は本体部分と同様とする。

目的・事業概要

 本計画は、水需給が逼迫する首都プノンペンにおいて、上水道施設を拡張するもの。

2 実施意義/資金協力案件の評価

(1)外交的意義

  1. カンボジアはメコン地域の中心に位置し、地域の連結性と域内の格差是正の鍵を握る重要な国であり、我が国は、同国内戦後の和平・復興・開発への貢献や活発な要人往来、国際場裡での協力等を通じ、同国との関係を強化してきた。近年は、二国間の経済関係も緊密化しており、我が国から同国への民間投資が増大している。またカンボジアは、我が国が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」についてASEAN諸国の中で最初に支持を表明しているほか、2022年11月には来年の外交関係樹立70周年の機会に両国関係を「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げすることで合意し、両国関係を更に飛躍させていくことで一致している。
  2. また、本計画は同国における浄水場と配水管網の拡張を行うことでSDGsゴール6「安全な水とトイレを世界中に」に貢献すると考えられることから、本事業の実施を支援する必要性は高い。

(2)開発ニーズ/有効性

ア 開発ニーズ
  1. カンボジア政府は、2023年発表の「第一次五角形戦略」で2030年までに給水率100%を目標に掲げ、上水道施設の整備に取り組んでいる。プノンペンでは1993年以降、我が国と他ドナーが連携して浄水場や送配水管網の建設・改修や運転維持管理等の技術支援を行い、24時間給水と90%以上の給水率を実現した。一方、近年の経済成長に伴う市街地の拡大や商業施設の急増により、プノンペン水道公社(Phnom Penh Water Supply Authority、以下「PPWSA」という。)の配水区域は拡大し、2022年の平均水需要は66万立方メートル/日に達し供給能力59.2万立方メートル/日を上回った。また、PPWSAが2022年に更新した第三次マスタープラン(以下、「M/P」という。)では、プノンペンの人口は2030年までに約300万人に達し、平均水需要は157.8万立方メートル/日に増加すると予測されている。PPWSAはカンボジア政府からより広域な給水サービスの早期実現を求められており、給水能力の増強が喫緊の課題となっている。また、プノンペンの一部の配水区域では、大規模商業施設の急増等に伴う水需要の集中により、朝晩のピーク時を中心に水圧の低下が発生している。こうした事態に対し、利用者は違法に独自の吸引ポンプを設置して配水管から水を吸引しており、水圧をさらに低下させている。水圧の低下は水質悪化を引き起こすことから、安定的な水供給のために給水能力を増強して適切な水圧を確保することも喫緊の課題である。
     都市化が進むプノンペン中心部では、新たな浄水場の建設用地を確保することが困難であるため、PPWSAはM/Pに基づき、中心部近隣(市中心部より南東約8キロメートル)に位置し、十分な敷地を有するニロート浄水場の拡張を優先事業の一つと位置付けた。ニロート浄水場については、フランス開発庁との協調融資による円借款「ニロート上水道整備計画(2008年度E/N署名)において整備している。同浄水場の配水区域であるプノンペン南東部は、近年の急激な人口増加に伴い大規模な宅地開発や商業施設の建設が計画され、市街地の拡大が見込まれることから、PPWSAは、同浄水場の配水対象地域を既存の約34.2平方キロメートルから219.4平方キロメートルに拡張する計画としている。カンボジア政府の目標である給水率100%達成に貢献すべく、配水管網が未整備な地域が多いプノンペン南東部において、拡張された配水対象地域における配水管網の整備を進める必要がある。
  2. 本計画は、ニロート浄水場及び配水管網を拡張することにより、プノンペンにおける水需給が逼迫している状況の改善を図り、安定的な水供給の実現及び住民の生活環境の向上に寄与するものであり、2022年M/Pにおいてもカンボジア首都圏の経済成長に不可欠な優先度の高い事業として位置付けられている。
イ 有効性
  1. 定量的評価
    運用・効果指標
    指標名 基準値基準値
    (2023年実績値)
    目標値(2034年)
    【事業完成2年後】
    ニロート浄水場からの給水人口(人) 1,197,700 1,866,100
    ニロート浄水場からの給水量(立方メートル/日) 日平均:260,400
    日最大:291,400
    日平均:425,800
    日最大:489,600
    ニロート浄水場における施設稼働率(%)(注) 日平均:100%
    日最大:112%
    日平均:92%
    日最大:106%
    • (注)既存のニロート浄水場は過稼働状態であるため、本計画にて施設稼働率を適正化
  2. 定性的評価
    PPWSA 給水区域内住民の生活環境と健康状態の改善、都市の商業・経済活動の円滑化

(3)我が国の基本政策との関係等

 「対カンボジア王国国別開発協力方針」(2024年4月)では、重点分野の「持続可能で公平な成長の実現」に上水道の支援が定められており、「対カンボジア王国JICA国別分析ペーパー」(2014年3月)では重点分野の「社会開発の促進」に上水道インフラの整備の必要性が分析されている。また、2022年4月に第4回アジア・太平洋水サミットで岸田総理が発表した「熊本水イニシアティブ」では、アジア太平洋地域をはじめとする世界の水関連の取組を加速化するとしており、本計画は同イニシアティブに貢献する。

3 環境社会配慮、外部要因リスク等留意すべき点

 本計画は「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月制定)に掲げる影響を及ぼしやすいセクター・特性及び影響を受けやすい地域に該当しないため、カテゴリBに該当する。
 工事中は大気質、水質、騒音等について、散水、回収と排水処理、及び作業時間の制限等の対策を行う予定。供用時の排水については、排水水質調査を実施した上で、カンボジア及び日本国内の有識者による検証を経て、周辺環境への影響はほとんどないことが確認されている。
 事業対象地域は国立公園等の影響を受けやすい地域又はその周辺に該当せず、環境や社会への望ましくない影響は最小限であると想定されている。
 本計画において新たな用地取得や土地収用、住民移転は発生しない。他方、送配水管の一部が私有地を通過するため、土地所有者の合意が必要となる。カンボジアの法令に準拠した住民移転計画に相当する文書を作成し、また、土地所有者を含むステークホルダー協議を実施した結果、事業に係る特段の反対意見は出ていない。
 工事中は施工業者が、供用開始後はPPWSAが、水質、廃棄物、騒音・振動等についてモニタリングを実施する。

4 事前評価作成に用いた資料、有識者の知見等

 要請書、カンボジア国別評価報告書(2017年度・第三者評価)、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料等。

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