ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和7年8月27日
評価年月日:令和6年10月18日
評価責任者:国別開発協力第三課長 東 邦彦
1 案件名
1-1 供与国名
エジプト・アラブ共和国(以下、「エジプト」という。)
1-2 案件名
潜水作業支援船建造計画
1-3 目的・事業内容
本計画は、スエズ運河庁に対し、ソナー付の潜水作業支援船及び関連機材を供与することにより、スエズ運河の拡張計画に貢献するとともに、スエズ運河における平時の維持管理業務及び事故時の対応強化を図り、もって同運河の持続的・安定的な運営を通じた同国の持続的経済成長に寄与する。
供与限度額は、34.78億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)に掲げる影響を及ぼしやすいセクター・特性及び影響を受けやすい地域に該当せず、環境への望ましくない影響は最小限であると判断されるため、カテゴリCに該当する。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)エジプト(一人当たり国民総所得(GNI)3,900ドル(世銀2023年))は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類されている。
- (2)エジプトはアジア・アフリカ・欧州の結接点にあり、スエズ運河を擁する地政学的な要衝に位置し、中東・アフリカ地域全体の平和と安定のため、政治・経済・外交面で重要な役割を果たしている。同国の開発課題への取組を支援し、同国の安定化に貢献することは、地域の安定化に資する。また、同国は国際社会において我が国と協力関係にあり、2023年4月の岸田総理大臣の同国訪問時に行われた首脳会談では、両国関係を「戦略的パートナーシップ」に格上げし、二国間関係を深化させていくことで一致したことからも本計画の実施意義は高い。
- (3)エジプトの国家開発戦略である「Egypt Vision 2030」では、スエズ運河を含むインフラ整備が戦略目標の一つに掲げられており、同運河の開発及び維持管理を担うスエズ運河庁(SCA)は同戦略に基づき、運河の更なる拡張及び複線化に向けた計画を進めている。1956年にスエズ運河がエジプトで国有化されて以降、SCAは浚渫船等を用いて度重なる運河の拡張を行ってきた。一方、運河拡張に伴う昨今の通航量増大の影響を受け、スエズ運河における安全な通航の確保には、一層の維持管理の強化が必要となり、測量調査や潜水調査といった対策が求められているが、SCAは測量船や潜水作業支援船を保有しておらず、安全かつ効率的な調査が実施できていない。
- (4)2021年に生じた日本船舶「エバーギブン」の座礁事故では、スエズ運河が1週間近く封鎖され、海上物流に大きな影響が生じた他、同運河では砂嵐や豪雨等の影響により、船舶事故が度々発生しており(2022年には25件)、事故発生時の迅速な対応が喫緊の課題である。特に座礁事故では、多くの場合、船底の座礁状況及び損傷状況の確認や簡易補修に係る潜水作業が必要であり、スエズ運河の過酷な水中環境下での潜水作業は困難性・危険性が高く、ソナー等の機材を搭載した潜水作業支援船の整備が不可欠である。
- (5)本計画のプロジェクトサイトとなるスエズ運河は、アジア・アフリカ・欧州の結接点にある国際海運の要所であり、本計画の実施は、日本政府が2023年3月に発表した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)のための新たなプラン」の4つの柱のうち、第四の柱「『海』から『空』へ拡がる安全保障・安全利用の取組」の推進に資するものであり、外交的意義が大きい。また、本計画ではディーゼルとLNGの両方を燃料とし、従来型の船舶よりCO2排出量を低く抑えることができるデュアルフューエルエンジンを採用した潜水作業支援船の供与を行う予定であり、エジプト政府の環境分野における取組に寄与するものである。
- (6)我が国は、対エジプト国別開発協力方針(2020年9月)において、「持続的経済成長の促進」を重点分野の1つとして定めており、本計画は同方針に合致するとともに、SDGsゴール9(インフラ、産業化、イノベーション)及びゴール11(持続可能な都市)にも貢献するものである。また、我が国は、2022年8月のTICAD8において、脱炭素への構造転換を見据えた「グリーン成長」への支援を行う旨を表明しており、本計画はこうした我が国の重要政策を具体化するものである。
- (7)本計画は上記のとおり、スエズ運河における安全な通航の確保や安全かつ効率的な調査実施に資するものであり、緊急性・迅速性が認められる。また、本計画はFOIPやグリーン成長の取組促進にも貢献することから、外交的観点や重要政策との関係及び地球規模課題への対応が十分に踏まえられており、無償資金協力の実施は適当である。
2-2 効率性
SCAからは、供与される船舶は地中海及び紅海における国際航海にも従事できるような仕様として欲しい旨の要請があったものの、本計画では船舶をスエズ運河に特化した仕様とし、事業費抑制に努めた。
2-3 有効性
本計画の実施により、2023年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2031年の目標値と比較すると、他の援助機関によるプロジェクトと合わせ、以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果
- ア 事故発生時の対処開始までの平均所要時間が、13.1時間から8.8時間短縮され、4.3時間となる。
- イ 事故発生によるスエズ運河閉鎖時間が、2023年実績を100とした場合、1/3に短縮される。
- (2)定性的効果
スエズ運河の拡張計画の作成に貢献する。スエズ運河を航行する世界の物流が滞りなく運搬される。平時の点検により座礁等の事故が未然に防げるようになる。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)エジプト政府からの要請書
- (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)エジプト国別評価報告書(2023年度・第三者評価)