ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和7年6月20日
作成年月日:令和7年3月15日
評価責任者:国別開発協力第一課長 榎下健司
1 案件名
1-1 供与国名
パプアニューギニア独立国(以下、「パプアニューギニア」という。)
1-2 案件名
国立水産大学の施設及び訓練機材整備計画
1-3 目的・事業内容
国立水産大学において、臨海教育施設及び訓練船を含む関連機材を整備することにより、水産訓練の安全水準と効率性の向上を図り、もってパプアニューギニアにおける水産業振興に寄与するもの。供与限度額は32.55億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)におけるカテゴリBであり、環境への望ましくない影響は重大ではないと判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- パプアニューギニア(一人当たり国民総所得(GNI)2,820米ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類されている。
- パプアニューギニアは、南太平洋最大の240万平方キロメートルの排他的経済水域を持ち、世界のかつお・まぐろの約18%を供給(同国漁業戦略計画2021-2030)しており、日本の漁船にとっても最大の海外漁場のひとつである。一方で、かつお・まぐろ以外の漁業は未開発であることから、同国政府は市場の建設、水産加工の強化や養殖業の推進を進めているが、開業資金不足、漁民の事業管理能力と起業家スキル不足、高い燃料代、漁業を支えるインフラの不足等、多くの課題がある。
- 同国開発戦略計画2010-2030では、海上監視能力の不足、違法漁業の過少報告により多大な経済的損失が発生していることが指摘されるなど、漁業資源管理の実施体制にも課題を抱えている。我が国漁船の最大の海外漁場でもある同国海域で、近年急激な外国籍漁船の増加とそれに伴うカツオ・マグロの乱獲が報道されており、このことは日本近海漁船の漁獲量減少が報告されており(農林水産統計)、我が国水産業界にとっても深刻な事態として捉えられている。
- 国内北東部ニューアイルランド州ケビエン市には、国内唯一の高等教育機関である国立水産大学(以下、「NFC」という。)が存在し、沖合企業型漁業の船員や監視員養成のためのカリキュラムに加え、近年は政府政策に沿って小規模漁業者や水産加工従事者などを対象とした短期コースも提供し、国内で唯一の広範な漁業人材育成を行っている。NFCでは、水産関係者の能力強化のため、カリキュラム内容の向上やコースの拡大計画を進めており、海外漁業協力財団(以下「OFCF」という。)もソフト支援を行っている。一方、実践訓練を支える既存桟橋やスリップウェイは、老朽化のため安全性に問題が生じており、満潮時には海水面下になる等、構造上の問題もある。係留桟橋も、手狭で実習効率性が悪く、再整備が必要となっている。また、現在IUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)の取締りにも活用されている唯一の訓練船は、建造後20年以上が経過し、修理に要する時間と経費が増加し、NFCの訓練に大きな支障をきたしている。
- 本事業は、国立水産大学において、臨海施設及び訓練用船舶を含む機材を整備するものである。
- 第10回太平洋・島サミット(PALM10)(2024年7月)において、我が国が表明した7つの重点分野のうち、「海洋と環境」及び「資源と経済開発」に合致し、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の柱の一つである『「海」から「空」へ拡がる安全保障・安全利用の取組』に資する案件である。また、対パプアニューギニア独立国国別開発協力方針(2024年4月)の重点分野「経済成長基盤の強化」に合致する。さらに、SDGsゴール14「海の豊かさを守ろう」に貢献する。
- パプアニューギニアの所得水準は相対的に高いことから、「所得水準が相対的に高い国に対する無償資金協力の効果的な活用について」に基づき、無償資金協力の供与の適否について精査が必要である。
同国は島嶼国であり、気候変動や自然災害に対する脆弱性を抱えている(「環境的脆弱性」)ことに加え、天然ガス、金、銅、石油等の天然資源が輸出の大部分を占めることから、安定的な資源生産・輸出が阻害される地震等の自然災害の発生や、資源価格の変動に脆弱である(「経済的脆弱性」)。
上記を踏まえ、無償資金協力として本計画を実施する意義は高い。
2-2 効率性
設計手法において、桟橋の防舷材をHDPE(高密度ポリエチレン)製から空気式として反力を軽減し、構造(杭本数・寸法)を縮減する、外構舗装対象エリアを土木・建築配置の検討により縮減する、訓練施設建物について構造・仕上材の軽量化等により基礎構造を縮減するなど、効率的・合理的な施設建設となるよう、コスト縮減を目指した。
2-3 有効性
本計画の実施により、2024年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2031年の目標値を比べて、以下のような成果が期待される。
- 定量的効果
- PNGの漁船に乗船するSTCWに準拠した有資格者が、28名/年から80名/年となる。
- 航海訓練での1回あたりの最大航続期間及び乗船訓練生数が、3日・4人/回から10日・20人/回となる。
- NFC施設で可能になるダビット、救命艇を使用したSOLAS準拠の救命艇訓練の実施回数及び訓練生数が、0回・0人/年から3回・45人/年となる。
- (注)STCW:
- The International Convention on Standards of Training, Certification and Watchkeeping for Seafarers「船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約」
- (注)SOLAS:
- The International Convention for the Safety of Life at Sea「海上における人命の安全のための国際条約」
- 定性的効果
- 訓練船を利用したIUU漁業の監視・取締りが行われ、より広域でのIUU漁業の抑止効果が高まる。
- 訓練船を利用した水産資源調査が行われ、より広域での水産資源量の把握が可能となる。
- 臨海施設、訓練船に女性用トイレ、シャワー等が整備されることにより、女性の水産業界への進出が促進される。
- 訓練船・桟橋・実習棟・機材が整備されることにより、訓練の安全性及び効率が高まる。
- 訓練修了者に対する民間企業等からの評価が高まる。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- パプアニューギニア政府からの要請書
- JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- 太平洋島嶼国のODA案件に関わる日本の取組の評価(2015年度・第三者評価)