ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和7年3月13日
評価年月日:令和5年11月6日
評価責任者:国別開発協力第三課長 井土 和志
1 案件名
1-1 供与国名
ガーナ共和国(以下、「ガーナ」という。)
1-2 案件名
タマレ市における電力供給安定化計画
1-3 目的・事業内容
本計画は、ガーナ北部の基幹都市であるノーザン州タマレ市において変電所及び配電網を新設することにより、同市の電力供給の安定化を図り、もって同国のインフラ開発に寄与するもの。
供与限度額は、19.92億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)に掲げる影響を及ぼしやすいセクター・特性及び影響を受けやすい地域に該当せず、環境への望ましくない影響が重大でないと判断されるため、カテゴリBに該当する。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)ガーナ(一人当たり国民総所得(GNI)2,350ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類されている。
- (2)ガーナは情勢が不安定な国が多い西アフリカ地域において、政治的・社会的安定を保ち、西アフリカにおける民主主義の牽引役を担っていることから、地域全体の安定と繁栄に重要な役割を果たしている。加えて、アフリカ連合(AU)及び西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の主要国であり、日本との貿易額が西アフリカ諸国の中でも高い水準にある。また、同国は国際社会において我が国と協力関係にあり、第8回アフリカ開発会議(TICAD 8)を除いて過去7回のTICADには全て大統領が参加しているほか、2016年や2018年には大統領が訪日、2023年5月には岸田総理大臣が同国を訪問して首脳会談を行うなど、良好な関係が築かれており、二国間関係及び国際社会における協力を強化する意味でも本計画の実施意義は高い。
- (3)ガーナの中期国家開発計画(2022-2025)においては、産業振興のため電力を含めたインフラ整備が重点課題の1つに掲げられており、同国のエネルギー政策(2020年更新版)に基づき、同国政府は電化エリアの拡大及び電力供給の安定化に向けた取組を進めている。同国での電力最大需要3,090MWに対し、国内の発電設備容量は5,212MW(2020年)となっており、発電能力は十分な水準にある。一方、送配電については、全国を網羅する送電網を管轄するガーナ送電会社(GRIDCo)、大都市圏を含む南部地域の配電を管轄するガーナ配電公社(ECG)及び北部地域の配電を管轄するガーナ北部配電会社(NEDCo)が運営を行っているが、送配電容量の不足とともにそれに起因する送電ロスは4.5%(2020年)、ECGの配電ロスは24.4%(2016-2020平均)、NEDCoの配電ロスは29.2%(2016-2020平均)となっており、サブサハラ・アフリカ平均(南アフリカを除く)の15%(世界銀行、2016年)からも大きく遅れている。
- (4)本計画のプロジェクトサイトとなるタマレ市は、アクラ市、クマシ市及びタコラディ市から成るガーナ国内の4基幹都市の1つであり、TICADプロセスにおいて我が国が支援を表明した三重点地域のうちの1つである西アフリカ「成長の環」のうちブルキナファソとアクラ市を南北に結ぶ回廊上に位置する商業都市で、交通の要所でもある。ノーザン州を含む北部三州は特に貧困率の高い地域でもあり、同国政府も南北格差是正に向け北部地域の開発に取り組んでいる。北部三州における中核都市であるタマレ市では、急増する電力需要に対し配電網の容量不足とそれに起因する配電ロスが不安定な電力供給の一因となっており、タマレ市内の行政機関、商業施設の他、州立病院であるタマレ中央病院においても安定した医療行為に影響が出るなど、社会経済活動に影響を及ぼしている。
- (5)我が国は、対ガーナ国別開発協力方針(2019年9月)において、「インフラ開発」を重点分野の1つとして定めており、本計画は同方針に合致するとともに、SDGsゴール1(貧困削減)、ゴール7(安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保)にも貢献するものである。また、我が国は、2022年8月のTICAD 8において、脱炭素への構造転換を見据えた「グリーン成長」への支援を行う旨表明しており、本計画はこうした我が国の重要政策を具体化するものである。
- (6)なお、本計画は上記(4)のとおり、南北格差是正に資するものであることから人道上のニーズに応えるものであり、また、上記(2)のとおり、外交的観点からの意義も大きい。さらに、同国の債務状況に鑑み、新たな債務負担を課すことは適当でないと考えられるため、本計画は無償資金協力による実施が必要である。
2-2 効率性
既設タマレ境界変電所(BSP)での配電盤増設(州政府評議会一次変電所向け)については、既存の予備フィーダーを利用することで対応不要とすることにより、工事費抑制に努めた。
2-3 有効性
本計画の実施により、2022年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2028年の目標値と比較すると、他の援助機関によるプロジェクトと合わせ、以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果
- 配電設備容量が、5倍(50メガボルトアンペアから250メガボルトアンペア)に増加する。
- 既設タマレBSP変圧器需要率が、120%から46%に減少する。
- 需要家1軒当たりの平均停電時間が、71時間/年から41.3時間/年に短縮する。
- 需要家1軒当たりの平均停電回数が、51.4回/年から31.4回/年に減少する。
- (2)定性的効果
ノーザン州タマレ市における電力供給の安定化による同市の保健・医療等の行政サービスの改善、経済活動の活性化と住民の生活環境改善が期待される。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)ガーナ政府からの要請書
- (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)