ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年12月25日
評価年月日:令和6年12月13日
評価責任者:国別開発協力第一課長 榎下 健司
1 案件概要
(1)供与国名
インドネシア共和国(以下、「インドネシア」という。)
(2)案件名
火山災害リスク軽減セクター・ローン
(3)目的・事業内容
インドネシアの火山地域において砂防施設の修繕・整備及び減災のための非構造物対策を行うもの。
- ア
- 事業内容
- 土木工事等((ア)河川沿いの砂防施設、火口湖排水トンネルの復旧等、必要性と緊急性が高い砂防施設の修繕・再建・新規建設、(イ)土砂災害・河川氾濫の早期警報のための雨量レーダーの設置)
- コンサルティング・サービス
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 231.48億円 優先条件
(固定・基準)
1.60%30(10)年 アンタイド
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA):
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月制定、以下、「JICAガイドライン」という。)上、JICAの融資承諾前にサブ・プロジェクトが特定できず、かつそのようなサブ・プロジェクトが環境への影響をもつことが想定されるため、カテゴリFIに分類される。 - イ
- 本計画では、実施機関が、円借款で雇用されるコンサルタントの支援を受けつつ、インドネシア国内法制度及びJICAガイドラインに基づき、各サブ・プロジェクトについてカテゴリ分類を行い、該当するカテゴリに必要な対応策がとられることとなっている。なお、サブ・プロジェクトにカテゴリA案件は含まれない。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
インドネシアは洪水、地滑り、地震、火山噴火等の自然災害が多発しやすい国土であり、約130の活火山を含む500以上の火山が存在する世界でも有数の火山国(世界の13%相当)であることから、インドネシア政府は2020年1月に策定した「国家中期開発計画(RPJMN2020-2024)」にて、防災を優先すべき7つの開発計画の1つとして設定している。火山対策や土砂対策案件の実施等、JICAによる長年にわたる支援の後も、2014年に東ジャワ州のクルド山、2017年と2018年にバリ州のアグン山、2021年と2022年に東ジャワ州のスメル山で発生した噴火により砂防施設が破損する等、砂防機能が低下していることから、インドネシア政府は、これら3火山の防災事業をブルーブック(中期対外借入計画)2020-2024年及びグリーンブック(年度借入計画)2022年に掲載(174百万米ドル)し、公共事業・国民住宅省から早急な支援が求められている。
本セクター・ローンは、ブルーブック及びグリーンブック記載の3火山の火山砂防マスタープランの改定・作成、砂防施設の修繕・建設及び減災のための非構造物対策を行い、土石流被害からの復旧と今後の被害軽減を図ろうとするものであり、インドネシア政府の計画及び方針に合致するものである。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
我が国の「対インドネシア共和国国別開発協力方針」(2017年9月)には、重点分野として「均衡ある発展を通じた安全で公正な社会の実現に向けた支援」が掲げられており、防災対策等の行政機能の向上を支援するとしている。本計画は、その協力プログラム「防災能力・行政機能向上プログラム」において、「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」における重要国であるインドネシアへの重要な防災支援としても位置付けられている。また、本計画はJICAグローバル・アジェンダ「防災・復興を通じた災害リスク削減」におけるクラスター(ア)「大都市を中心とする資本集積地域への防災投資実現」及びクラスター(イ)「災害リスクの理解及びリスク管理のための防災推進体の体制確立」の実現に貢献するものであり、さらに、SDGsゴール9(強靭なインフラ)、ゴール11(包括的、安全、強靭で、持続可能な都市と人間住居の構築)に貢献すると考えられることから、本計画の実施を支援する必要性は高い。
インドネシアは、東南アジア地域において最大の人口及び国土を有するASEANの中核国であり、2022年はG20の議長国も務め、日本ASEAN友好協力50周年の節目となる2023年にASEAN議長国を務めたほか、2,100社を超える日系企業(2022年調査)が進出するなど、政治、外交、経済及び地理的関係において我が国と極めて重要な関係にあり、基本的な価値や原則を共有する包括的・戦略的パートナーである。2023年12月の日インドネシア首脳会談においても、インフラ開発等の分野で協力していくことで一致しているところ、本計画は、両国間の協力強化及び日本の外交政策の推進の観点からも重要である。
(2)効率性
我が国はこれまで防災セクターに対して、「ジャワ島東部及びバリ島火山防災に係る情報収集・確認調査」(2022年6月~2023年12月)を実施し、本調査で収集された各砂防施設や保全対象の状況分布等の情報を本計画に活用している。また、個別専門家「統合水資源管理政策アドバイザー」(2019年7月~2023年3月)及び個別専門家「総合防災政策アドバイザー」(2022年2月~2024年2月)を通じ、本計画の内容について日本の火山砂防の事例・経験をもとに、日本の事例紹介や技術的助言を通じた連携が想定される。さらに、有償附帯プロジェクト「インドネシア国スメル山緊急火山砂防事業計画プロジェクト」(2023年8月~2024年7月)にて、特に緊急度の高いスメル火山の複数の砂防施設について詳細設計に係る能力向上支援を行うことで、早期の着工を目指している。今後、草の根技術協力「地方大学を拠点とした低頻度大規模災害に対応可能な防災コミュニティづくり」(2022年7月~2025年7月)の中で、アグン山を対象とした防災コミュニティ体制強化や防災教育が実施される予定であり、本計画による防災意識向上支援との相乗効果が期待される他、草の根技術協力事業での成果を本計画において他地域に活用していくことも検討されている。
(3)有効性
本計画の実施により、事業完成から2年後(2031年)には、2022年比で以下のような成果が期待される。
- ア
- 定量的効果
- (ア)捕捉可能土砂量が、スメル火山では0立方メートルから23,547,076立方メートルに、クルド火山では3,293,000立方メートルから4,965,000立方メートルに、アグン火山では2,541,217立方メートルから3,959,014立方メートルになる。
- (イ)クルド火山において、火口湖の水位が火口湖排水トンネル入り口の敷高以下になる。
- (ウ)土石流氾濫面積が、スメル火山では45.90平方キロメートルから24.26平方キロメートルに、クルド火山では298.1平方キロメートルから46.3平方キロメートルに、アグン火山では99.1平方キロメートルになる。
- (注1)基準値・目標値ともに、本計画で対象とする施設に限定した数字。最終的に確定した対象施設に基づき見直しを行う。
- (注2)クルド火山は火口湖の水位を排水トンネル敷高以下に抑えることで噴火時の被害を軽減。火口湖の水位は、本計画のコンサルティング・サービスにおいて詳細設計前の調査段階で計測予定。
- (注3)アグン火山は火山砂防計画の策定及び施設の確定後、基準値を設定する。
- イ
- 定性的効果
- 東ジャワ州のスメル火山地域・クルド火山地域及びバリ州のアグン火山地域の持続的な経済・社会の発展が期待される。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
- (1)インドネシア政府からの要請書、インドネシア国別評価報告書(2018年度・第三者評価)、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
- (2)案件に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース、事業事前評価表を参照。
- (3)なお、本案件に関する事後評価は実施機関であるJICAが行う予定。